ずーっと気になっていたのに見逃していたシリーズ。
年末に映画好きの方数人とお会いする機会があり、「お前は観ておけ」枠に押してもらったので年明けの落ち着いた頃合いに重い腰を上げて観てみたわけでございますが…。
これが!まじで!!観てよかった!!!
勢いで4作続けて観ました。
猟奇的な殺人事件を追う北欧ノワールな刑事バディものではあるのですが、通してみると主人公カール(ニコライ・リー・コス)の成長物語のようにもなってるんですよね。
傷を負い、後悔を背負い、人間不審に陥りながらも信念を貫き、人を救おうとする男の物語なんですよ。
そしてそんな人間暴走機関車カールを、テンピュールのごとくしっかりと受け止める相棒アサド(ファレス・ファレス)…。人間の酸いも甘いも経験してきたからこその慈悲深さで、仏の笑顔で優しく受け入れてくれるわけです。しかもめちゃくちゃ強い(笑)。もうあれですよ、パスタのデリだかシュールなサウナみたいなやつ。(スパダリです)
こんなん、
好きに決まってるじゃん!!
というわけで順を追って感想を残していきますね。(ネタバレってるかもです。メンゴ!)
特捜部Q 檻の中の女
あらすじ
殺人課の刑事カールは、犯人逮捕の際の無鉄砲な行動により襲撃され、同僚の一人が死亡、相棒は寝たきりの身となる。自身も大怪我を負い、殺人課の捜査からもはずされてしまう。
復帰したカールが配属されたのは「特捜部Q」と呼ばれるコペンハーゲン警察肝いりの新部署…とは名ばかりの、資料整理係だった。同僚としてやってきたのは移民のイスラム教徒アサド。立場も考え方も違う二人だったが、過去に自殺として処理された女性失踪事件に違和感を覚え、共に捜査することになる。
やがて、失踪した女性が偽名を使っていた謎の男と関係を持っていたことがわかり、男の行方を追うが…
コンビ誕生譚として完璧
最初に言っておくと、ご存じの方は知っての通りこのシリーズは、ミステリーではあるんだけど、「フーダニット(犯人は誰?)」を求めていく作品というよりは「ホワイダニット(動機は何?)」を解明していくという物語なんですよね。
なので結構序盤から犯人・被害者側のエピソードもどんどん描かれていくし、勘のいい人ならだいたいの話のオチはわかるような気がします。
けれどメインはそっちではなく、それに対して二人がどう対峙するのか、という点なんですよね。
人生において、些細な綻びがやがて取り返しのつかない大きな裂け目になることもある。それを繕うのが特捜部Qなんですよね。
犯人側に思わず肩入れしたくなるエピソードも盛り込まれていて、これがまぁ切ねぇえげつねぇ。そういうやるせなさや暗さが含まれているのが、本シリーズ含め北欧ノワールの魅力なのかと思います。
一作目の良さはコンビ誕生ものとして完璧な終わり方で、もうね、とにかくアガります(笑)。警察の面々のキャラも良くて、上司も実はめっちゃいい人なんだよね~。
アサドの祈りの神々しさよ!
特捜部Q キジ殺し
あらすじ
活躍が認知され、署内でも一目置かれるようになった「特捜部Q」。秘書としてローセが仲間に加わるも、閑職としての地位は変わらず。アサドに対するカールの態度も相変わらずだ。
ある日、カールは「再捜査を依頼する手紙を書いた」と名乗る老人に遭遇するが、その異様さからすげなく追い返してしまう。その後その老人が自殺し、彼が元刑事で自身の子どもである双子の兄姉が殺害された事件を追っていたことがわかる。しかしこの事件はすでに犯人が逮捕され刑に服していた。
元刑事は何を追っていたのか?カールは彼が残した手がかりから事件の真相に迫っていく。
やがて双子殺害と関連性のある事件が次々に浮上。事件の裏に大物実業家の存在が見え隠れするのだが…
ラストカットのセンスに震える
シカではなくキジです(←実はずっと間違えてた人笑)。
事件のクソさもさることながら、犯人のクズ具合も腹立つしやるせないエンドも切ないのですが、シリーズの中では一番好きですね!
このシリーズは過去と現在を行き来して、最終的に今に収斂していく演出が巧みなんだけど、今回は「おぉ、これがここに繋がるのか!あれは○○だったのか!」とカチッとハマっていく点が見事でしたね。
あと、青年期にイケメンだった犯人がいい感じにおっさんになってるのもリアル(笑)
そして、何よりも素晴らしいのがラストカット!センス良すぎて鳥肌です。全てはあの一瞬のためにあったとも言えます。
カールが少しずつ成長していっているんですね~(アサドのおかげでもある)。
てか、アサドほんと仏過ぎない?(笑)
特捜部Q Pからのメッセージ
あらすじ
前回の事件が心身ともに堪えたのか、意気消沈状態のカール。アサドはローセと共にカールの心中を慮り見守っていた。そんなQに届けられた古びたメッセージボトル。解読を進めると誘拐を匂わせる文言が現れ、そこに記されていた「P」の頭文字から一人の少年が割り出される。
一方、ある敬虔なクリスチャンの一家に忍び寄る不気味な影…。二つの事件が重なった時、カールとアサドに最大の試練がおとずれる!
シリーズ史上最凶の犯人に、二人はどう立ち向かう!?
アクションとサスペンスがより充実
円熟味を増すシリーズ3作目。
シリーズ最高傑作との呼び声にも納得の上質ミステリーでした。監督は前2作のミケル・ノガールとは変わって、ハンス・ペテル・モランド(『ファイティング・ダディ』の監督です!)がつとめてるんだけど、そのせいか物語の深みよりもサスペンスやアクションに重きを置いていて、より映画的な作品に仕上がっております。
過去←→現在の演出も洗練さが見られ、わざと時間軸があいまいなまま進めることで(宗教団体の生活があまりに前時代的なのがうまく生かされてる!)、現在に繋がる起点で「おぉ、ここは現在なのか!」とちょっとしたサプライズも。
だから「間に合う?間に合わない?」が一層スリリングで、「カール、頑張れ!」と思わずにはいられない。
二人のバディ感も一つ上の段階に進んだ感があって、アサドも単にカールの女房役というのではなく、互いに認めあいながらも大切なところは譲らない。言動からもしっかりと「相棒」としての絆が感じ取れるのがアツいですね。
今回のテーマは「信仰」。
身勝手すぎる理由で子どもを手にかける犯人には一欠片も同情の余地なしなんだけど、彼にも彼なりにそうなる事情があるというのがまた、つらいんですよね…。信仰によって道を踏み外し、信仰によって救われる。人間は脆く悲しい生き物。だからこそ「偉大な存在」を信じることは人を強くも弱くもする。
犯人を見下ろすアサドに去来する思いを、無宗教のわたしは想像することしかできないんだけど…1作目のアサドの祈りがここで生きてくるとは…。
そしてやはり、ここで切るのかー!くぅー!って感じのラストカットがまた良いんだよね。カールのちょいデレッぷりにもぐっとくる。
特捜部Q カルテ番号64
あらすじ
特捜部Qでの活躍が認められ、アサドに異動のチャンスがやって来る。その昇進を喜びながらも不器用なカールは複雑な心境。しかもアサドを思うあまり不用意な発言で衝突してしまい、二人の仲はどうもぎこちない…。
そんなQの最後の事件は、古いアパートの隠し部屋で見つかったミイラ化死体。やがて事件は過去の政府の過ちを暴いていく。しかもそれは、現代にも続く社会の闇へと繋がっていた…。
国家を揺るがす巨大な陰謀に、Qの二人が挑む!
シリーズ屈指の社会派
監督は再び交代し、ニコライ・リー・コス主演の『恋に落ちる確率』のクリストファー・ポーに。
演出としてはそこまで特筆すべき点はないというか、割りと凡庸なんだけど、やはり今回はテーマ性がある意味とても現代的だし、シリーズで一番社会派な作品なんじゃないでしょうか。
実は似たようなことは、デンマークだけでなく他の国でも起こっていて、日本でも(旧)優生保護法の名の元に非人道的な不妊手術が繰り返されていました。近年当事者たちが声をあげて国家賠償請求を起こしたことも記憶に新しいですね。
もしもそれが形を変えて現代でも行われていたら…という、もちろんフィクションなのですが、「もしかしたら」と思わせる現実の末恐ろしさを感じます。
あとはまぁなんといってもね、カールのデレッぷり成長ぶりですよね!あのデレはズルいわ!!
「よく言えたね~!ちゃんと言えたねぇ~!成長したねぇ~~!!」と泣きそうになりましたよ。親戚のおばちゃんかよ(笑)
Qシリーズじたいは今後も続くそうですが、ニコライカール&ファレスアサドのQ係はこの作品で終了と言われています。続投しないと決定したのがいつだったのかわかりませんが、もしかしたら製作中には決まっていたことだったのかな…。
そういう意味でも、節目としてしっかりきれいに終わっている作品かなと思います。
というわけで、かなりざっくりと書かせていただきました。
やっぱり他人からケツをひっぱたかれないとダメねー。こんないい映画を見逃してるなんて!
今年も皆さんがすすめてくださる映画は積極的に観ていこうと思います。
最後に、Wikipediaさんに載ってたアサド役のファレス・ファレスさんの写真でも見ていただいて、なごんでもらいましょうかね。
いや、なんでこの写真?(爆笑)