あらすじ
代わり映えのしない毎日にうんざりしていたスペンサーはある日、自分の通う大学の図書館に1200万ドルもの価値がある画集が収蔵されていることを知る。高齢の司書が一人と警備も手薄く、うまく強奪すれば大金が手に入るのでは…と、友人のウォーレンと共に計画を立てる。
やがて犯罪に詳しいエリック、運転担当のチャズを仲間に引き入れたスペンサーらは、老人の格好に扮し図書館にやってくるが…。
普通の大学生が、図書館からヴィンテージ本を盗もうとした実際の事件を映画化した本作。
いわゆるケイバーものの部類に入るんだろうけど、いかんせん盗みを行うのがド素人の大学生なので、オーシャンズ的なプロ集団が見せるような鮮やかさは皆無。もう終始グダグダで、もはやいつ立ち止まってくれるのかと、変な方向にヒヤヒヤしましたよ。
普通の大学生が犯罪に魅せられていく実話といえば、MITの学生がカジノで大儲けしようと目論む『ラスベガスをぶっつぶせ』なんかがありましたね。
実話映画の新たな境地
本作の白眉はなんといっても、やはり「本人出演」の方法。この驚きは多分映画の根幹に関わることなのであんまり詳しくは言わないけど、開始15分ほどで訪れるある演出に、「うわぁ!」とびっくりすると同時に痺れましたね~。
本人が本人役で出演したイーストウッドの『15時17分、パリ行き』とか、実録映画の手法もいろいろあるけど、本作の演出はほんと面白いなぁと思いました。
映画の冒頭に「真実を元にした物語ではない。真実の物語だ」とテロップがでるんだけど、このね、「真実」との向き合い方みたいなものは、小説『HHhH』に近いものを感じましたね。(『ナチス第三の男』はそれを見事に否定した最悪の映画化だった…)
ちなみにわたしの感想はこちら。
途中途中にインタビュー映像も差し挟まるんだけど、普通にやったら「仰天ニュース」レベルの再現ビデオになりそうなところを、ちゃんと劇映画にしてるんですよね。しかも、当のご本人たちがすでにキャラ立ちしてて、映りがいい。実際のウォーレン・リプカをはじめ、みんな普通にイケメンです(笑)。
事件を起こした彼らはほんと、どこにでもいる普通の若者なんですよ。事件を起こす前の、準備の段階ですごく楽しそうで「もうこれで終わればいいじゃん!」なんておばちゃんはずっと思ってましたよ…。
登場人物の一人が言います。
「特別な人間じゃないから、特別な計画に引かれたんだ」
特別な人間になりたいー。そう思うのは特別なことでもなんでもない。そんなことを思うことじたいが、自分が「特別ではない」ことの証左になる。
この矛盾がね、痛いほど胸に刺さった。この気持ちはわたしも多分覚えがあるから…。
浅はかだと、愚かだと、彼らを笑えるか?
したり顔で「若気の至り」だなんて言えるか?
少なくとも、そんな人間にわたしはなりたくない。
だって彼らは、かつてのわたしだから。
以下ちょいネタバレ~。
「真実」の不確かさ
前述したように、映画には実際に事件を起こした本人たちが出演しています。ですが、「本人」であるにも関わらず「信頼できない語り手」でもあるんですよね。
これはほんと、やられたなぁと思った。
スペンサーたちはウォーレンが本当に「売人」とコンタクトをとったのか最後までわからない。ウォーレンも「僕を信じるしかない」と言うだけで、証拠を出すわけでもない。
事件の犯人である彼らは、自分の視点でしか事件を語れないんですよね。いや、そんなん当然と言えば当然なんだけど、劇映画は基本神の視点によって撮られるわけで、「物語の真実」は制作者の意図によって語られる。
でも、この映画の場合は制作している側も「真実」を掴み取れていないんですよね。というか、その不確かさこそが「真実」だと言っている。
映画は「真実」という「虚構」なんですよ。
その虚構の中に、「現実」の本人たちが入り込み、その垣根を易々と飛び越えていく。これこそ映画の醍醐味だなぁと感心しながら観ていましたね。
とにかくね、ほんと、やられました。
特別、ではないけれど。
司書のBJに暴行を加えて縛り上げ、心に深い傷を負わせたウォーレンたち。
その行為は強盗云々の前に到底許されるものではないし、その罪は決して軽いものではありません。
でももし、ウォーレンの両親が離婚しなかったら?彼が父の涙を目にすることがなかったら?
あるいはもし、スペンサーが自分の絵に自信を持てていたら?エリックとウォーレンが過去に仲違いしていなかったら?
それぞれの「もし」はほんとうに些細なことで、全ては誰の身にも起こりうることです。もちろん、鬱屈の捌け口を犯罪に求めるかどうかは別として…。
この犯罪で彼らは「特別」になれたかどうか?
答えは「否」。結局、変わったように見えて本当は何も変わってない。
でもむしろ、わたしは最後、スペンサーが絵を描き続けていることを知って…思わず泣きました。
人の本質は容易には変わらない。たった一つの犯罪で簡単に「特別」になんてなったりしない。そのことがほんとうに嬉しかったです。
わたしたちは特別じゃない。
でも、その人生が唯一無二であることに変わりはない。
作品情報
- 監督 バート・レイトン
- 脚本 バート・レイトン
- 製作総指揮 ダニエル・バトセク、デヴィッド・コス、サム・ラヴェンダー、レン・ブラヴァトニック、アヴィヴ・ギラディ、トビー・ヒル、ピアース・ヴェラコット、トーリー・メッツ、ガーダーレン・M・デメトレ
- 音楽 アン・ニキティン
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 アメリカ、イギリス
- 出演 エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン、ウド・キア