あらすじ
自殺した姉の娘メアリーとフロリダで暮らすフランク(クリス・エヴァンス)。7歳になったメアリーは小学校に通う事になるが、数学的才能(ギフテッド)を持つ彼女には授業が退屈で仕方ない。校長から特別な教育を受けられる学校への転校を打診されるが"普通の子どもらしく"育って欲しいと願うフランクはそれを断る。しかし「才能を伸ばす教育が必要」と考えるメアリーの祖母イブリンが現れ、フランクはメアリーの養育権を巡り実の母と裁判で争う事になる…。
『 (500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督によるヒューマンドラマ。日本ではあまり馴染みのない「ギフテッド」=高度な知能を持つ天才児を題材にしていて、あらすじを聞いた時はジョディフォスター監督・主演の『リトルマン・テイト』を連想しました。
天才児の息子を愛情を持って育てている貧しいシングルマザー(ジョディ)のもとへ、彼に英才教育を施そうとする博士が現れる…。ジョディフォスター初監督にして手堅い良作で普通に面白いです。ちょっと彼女の自伝的要素も感じられますね。
でも本作はどちらかというと、『クレイマー、クレイマー』や『アイ・アム・サム』なんかに近い、いわゆる親権裁判モノな印象。けれど面白いのは実の両親は蚊帳の外(実母は死んでいて、実父は養育権を放棄している)で、争っているのが祖母と叔父っていうのが面白いよね。
それから「子どもにとって大事なのは環境か?愛情か?」という二元論に陥らずに、フランク側にもイブリン側にも双方ともエゴと愛情があり、どちら側にも肩入れしたくなるようバランスを取って描かれていたのも、フェアで好感が持てました。
子育ては宗教に近いのかもしれない
前半で特に印象的だったのは、夕陽をバックにメアリーとフランクが「神さまはいるの?」問答をするシーン。(セリフうろ覚えですが大体こんな感じのことを言ってたと思う)
「神さまはいるかどうかわからない」
「ロバータは信じてるよ」
「知っていることと信じていることは違う」
「いないって言う人もいる」
「二人の違いはお前を愛しているかどうかだ」
これ、一見すると唐突な感じがするんですが、多分この時のメアリーは、祖母イブリンが突然現れて、不安になってこんなこと聞いたんじゃないかと思うんです。ここでいう神さまは"愛情"の例えなのかなって。おそらくメアリーは「わたしのこと好き?」って聞きたかったんだよね。その証拠に、会話の最後にフランクが「俺たちは何があってもずっと一緒だ、それが質問だろう?」と答えてメアリーは安心するんですね。これ、なかなか高度な会話ですよ。ちゃんとフランクはメアリーの気持ちをすくい取ってあげてるんですね。この会話で、フランクがどれだけメアリーを見てあげてるか、愛しているかがよくわかります。
あとこのシーン見てわたしが感じたのは、「子育てって宗教みたいなもんだよね」ってこと。選択肢も沢山あっていろんな方法が溢れているけれど、そこから何を選ぶか、何を信じるか、それが本当に正しいのか常に自問自答している。
子育てや教育も同じで、きっと、その自問自答の積み重ねなんですよね。「子どもの幸せを願う気持ち」はあるけれど、子どもにとって何が正解なのかは親にはわからない。まさに「知っているのと信じていることは違う」状態です。
フランクも「子どもらしく育てたい」との信念はあっても、いざ面と向かって教師から「その判断に確信はあるの?」と聞かれると「ない」と答えてしまいます。そしてイブリンとの再会と裁判の経過の中で、その信念も揺らいでしまうんですね。
けれど、これまでの自問自答の繰り返しがあったからこそ、フランクは頑なだった信念を見つめ直して、メラニーを、そしてメラニーの笑顔を取り戻すことができたのです。
自分の中の"神さま"="愛"に従えば、きっとその子にとっての最適解を導き出すことができる。難解な方程式を解くように、何度も何度も間違っても、必ず答えにたどり着ける。それが正解なのかは、いつか子どもの笑顔が教えてくれる。
個人的ツボ&泣きポイント
ほとんど書きたいことは書いちゃいましたが、以下個人的にグッときたポイントをば。
幼女と黒板
[GIFTED | Official Trailer | FOX Searchlight - YouTube]予告編より
そもそもわたし数学オンチだから、黒板に数式書いてるシーンってすごく憧れで、大好きなのね。(グッドウィルハンティングとかドリームとか)小ちゃいかわいい女の子がそれやってるんだもん、二重で萌えたわ〜。
メアリー役のマッケンナ・グレイスちゃんが天使だったことに関しては誰も異論ないですよね。まじかわいいね。しかも上の前歯が抜けてるっていうのがまた超絶かわいい。
オクタヴィア・スペンサーの包容力
いや、まじで隣人にしたい。
イブリンの尋問
裁判でイブリンが弁護士から責められるシーンは本当に辛くて泣けてきました。彼女は彼女なりに、娘のダイアンを愛していたし、それと同時にその才能を潰してはならないという板挟みになっていたのだと感じました。
スポーツでもオリンピックに出場するような選手の場合、本人の努力や才能はもちろんだけれど、親だってものすごく力を注いでますよね。それを親のエゴと捉える向きもありますが、あそこまで自分を犠牲にできるのは、やはり愛がなければできないのではないかと思います。
だからこそ、解明の終了した方程式をダイアンが「イブリンの死後発表して欲しい」と言っていたと知るシーンは本当に切なかった…。
演じたリンゼイ・ダンカンさんも、あまり映画には出ない舞台女優さんですが、額の皺具合がとても美しくて素敵でした。
待合室のシーン
実父が近くに住んでいながら会いにきてくれないことを「顔もみたくもないんだわ」と嘆くメアリーを、フランクは連れ出します。てっきり父親に会わせに行くのかと思いきや、なんと着いたのは産婦人科の待合室。
出産を喜ぶ家族を見せ「お前の時もこうだったんだよ」と伝えるフランク…。ここ、不意打ちすぎて、泣きました。こういうの弱いのよね〜
「育て方は正しかった」
最後、フランクとメアリーの再会のシーンも泣けた。また会えてよかったね〜と思ったからではなくて、セリフにグッときましたね。
「どうして置いていったの?ずっと一緒だって約束したのに!」と泣きわめくメアリーに、フランクはこう言います。
「俺が害になると思った。でも、それは間違いだった。こんなに素敵で賢く優しい子なら育て方は正しかった」
わたしも日々自己嫌悪と自己否定を繰り返しながら子育てしてるんで、このセリフには思わず自分の子に置き換えて「うん、そうだよ、そうだよな…!」と共感しながら、泣きました…。まるで自分が言われているような気がして、勇気付けられましたね。
口角をあげて「笑顔になった」ってメアリーが言うところとか、よかったよね〜
と言うわけで、マッケンナちゃんの天使具合やクリエバの優しいパパな眼差しに癒され、自分の子育ても肯定してくれたように思えて、全体的にとても愛おしい映画でした!
環境や素質は、もちろんその子を形作る大切な要素だけれど、信頼できる大人(もちろんそれは親でなくてもいし、別に他人でもいい)がそばにいてくれるかどうかってことの方がよっぽど大事なんじゃないかなぁ、と思いました。あと、保護者側の"自己肯定"もね。うん、頑張ろう。
超どうでもいい追記
うちの凡人息子は来年小学生なんで、今ランドセルを選んでるんですけど、わたしとしては無難な黒にしたいところなんですが、本人は「絶対にグリーンがいい!」と譲らなくて困ってるところなんですよね〜。
子どもの意思を尊重した方がいいとは思いつつ、「もし途中で飽きたとか、みんなと違うからやっぱりヤダとか言い出したら?」て考えちゃって、我が家の最適解は出せそうにありません…う〜む、難しい…
って天才児の映画の話なのに、最後の最後に次元の低い話してすんません(苦笑)。
作品情報
- 監督 マーク・ウェブ
- 製作総指揮 グレン・バスナーベン・ブラウニングモリー・アレン
- 脚本 トム・フリン
- 音楽 ロブ・シモンセン
- 製作年 2017年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 GIFTED
- 出演 クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン、ジェニー・スレイト、オクタヴィア・スペンサー