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Broadcast Signal Intrusion【未公開映画・感想】謎を解く鍵は、「悲しみ」★★★★(4.0)

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Broadcast Signal Intrusion, End Titles

あらすじ

1999年、シカゴ。テレビ局のビデオテープをデジタルアーカイブする仕事をしているジェームス(ハリー・シャム・ジュニア)は、ニュース番組中に謎の映像が写り込んだテープを見つける。仮面を付けた不気味な人物が写り込んだノイズまみれのその電波ジャック映像は、機械オタクのジェームスの好奇心を掻き立てる。

調べを進めると、その後も同じ人物から電波ジャックされた報告があり、FBIが捜査したものの未だ解決にいたっていないらしいとわかる。インターネット掲示板では3度目の電波ジャックがあったとの噂もあった。そしてジェームスは、その3度目の電波ジャックが自身の妻の失踪事件とも関連があるのではないかと考えはじめる。やがて謎を追うジェームスは深みにはまり、のっぴきならない事態に追いつめられていく……

 

 

おかげさまでハリシャム沼にドボン中。

いやー、映画も面白かったんだけどね、すっかり主演のハリー・シャム・ジュニアにご執心と相成りました。めちゃくちゃカッコよかったです!!

お顔がお綺麗なのはもちろんなんだけど、なんだろう、暗い表情とか歩き方とか、全体の佇まいが映画の役柄とも合っててとても素敵だったのよね。声もめっちゃ良い。途中バーでお酒を飲むシーンがあるんだけど「酔ってるんじゃない?」って言われた時の「probably」の言い方がさー!!超好き。(そこ?)とりあえずそこだけ30回は観たね(笑)。

 

ドラマ「グリー」でブレイクした方で来日も果たしているくらいだからきっと日本でも人気者なんだろうけど、わたし流行に乗り遅れるタイプだからさー全然存じ上げませんでしたわ。スコセッシ製作のチャイニーズマフィア映画『リベンジオブザグリーンドラゴン』とか、『グリーンディスティニー』の続編なんかにも出ているようです(慌てて観たわ!)。

『ハッピーデスデイ』のツリー役ジェシカ・ローテと共演した『オールマイライフ』では、これまた肉体美を惜しげもなく披露してて刺激が強くてうっひゃあ!でした笑(感動実話系ラブストーリーで、良い映画でしたよ)

『クレイジーリッチ』も未見なので近々観ます。(続編では主役だと言う噂も聞きましたが、ほんと……?)

ネトフリドラマ「シャドウハンター」にも出てるので観なきゃだし、主要キャストではないっぽいけど今月配信の『ラブハード』にも出演されてるようだし、ほかにもいろいろ、観たいのがいっぱいあって困っちゃう。

久々に俳優さん追いしてるわ~!はー楽しい。

 

 

陰謀論×アナクロメカ

さてはて。映画の内容。

中身はいわゆる陰謀論ミステリーなんだけど、アンドリュー・ガーフィールドの『アンダー・ザ・シルバーレイク』のようなオシャレな雰囲気はなく、割りと実直で古風な作り。主役を演じてるのがハリシャムさんなのもあって主人公はまともな人に見えるので、去年のベストにも上げた『コリアタウン殺人事件』ほど偏執的でもない。陰謀そのものというより、陰謀を盲信してしまう人の心理を描いた作品だと思いますね。

 

『コールガール』『パララックス・ビュー』『大統領の陰謀』のアラン・J・パクラのパラノイア三部作の影響を受けた、とも言われています。監督は、『地球最後の男たち(The Signal)』のジェイコブ・ジェントリー。「電波」でどうにかなっちゃう、という本筋はこの映画とも近いものがあって、ある種Xファイル的なオカルト一歩手前な陰謀話に興味のある人なのかもしれません。

 

 

 

ある人物の登場が手がかりとなり核心へ近づいていくんだけど、また新たな人物の語りによって謎が深まって……ていう会話劇もスリリングで、「誰が本当のこと言ってるの?」と観てるこちらも煙に巻かれちゃう。みんながみんなしてアヤシイ。でもそんなことを思ってしまうことじたい、この映画の思うツボなのかも……。最後もすべての謎が解決するわけじゃないので、観終わった後も考察が楽しめそうな一作でした。

海外のレビューでは似てる作品として『エンゼルハート』が挙げられていたりもしてて、展開は全然違うけど、探偵スリラー×ホラーな雰囲気は近いものがあるかな。

 

それから、1999年を舞台にしていることもありアナログ→デジタルの移行過渡期な感じとか、ネット文化黎明期の空気を感じられたのも興味深かったですね。文字だけの味気ないBBSだったり、カタカタカタ……って鳴るデスクトップだったり、あとはベータマックスやアナクロなビデオカメラが出てきたりと、機械好きな人はそれだけでも楽しめるんじゃないかな。

音楽もすごく良くて、探偵ものっぽいジャズ風、不穏な旋律のスリラー風、とムード漂うサントラが映画を盛り上げてくれています。

 

 

 

ちなみに映画はシカゴで実際に起きた電波ジャック事件にインスパイアされているそうで、

マックス・ヘッドルーム事件 - Wikipedia

こちらとあわせて考えを巡らせてみるのも面白そう。

 

それにしても、『Censor』といい『V/H/S/94』といい、最近やたらとビデオテープ推しな映画を立て続けに観てる気がするな~。

 

 

 

以下、重要な部分は伏せてますがラストのネタバレはしてるので気をつけて!そうしないと書けないので!すみません!

 

 

 

 

謎は謎のまま?

電波ジャック映像はアンドロイド妻が登場するシットコムドラマをモチーフにしていて、ネットでは「SAL-E Sparx事件」と呼ばれていることがわかる。不気味なノイズ音声が「I fix them」と言っていることを突き止め、また、掲示板で2つの電波ジャックの前日に女性の失踪事件があったことを知ったジェームスは、映像は女性を誘拐(そして殺害)した犯人の犯行声明なのではないか?という考えにたどり着く。

 

それは、ジェームスの妻も3年前に行方不明になったから。腕に失踪した日付を入れ墨していたことからもわかるように、彼は最初からずっと妻の失踪「だけ」にとらわれているんですよね。

生死もわからない、でももう会えないことはなんとなくわかっている。彼が大切にしているビデオテープに撮られた妻の映像が唯一の思い出で、その姿は「頭の中にある映像」にしか残っていない。

電波ジャックについての調査に没頭することでジェームスはその悲しみを埋めようとしていたわけですね。端から見たら「無理やり過ぎない?」とも思えるんだけど、その思い込みは彼にとっての「答え」になっていく。そしてその思い込みは次第に彼を「強く」していくんですね。

 

これがねー、最初はだいぶまともな人のように見えたハリシャムさんが次第に「あれ?この人大丈夫?」ってなっていくのがゾッとする感じだったのよね。ジェームスはなぜかいつも自宅ではなく公衆電話から電話かけてるんだけど、その理由が「盗聴されてるかもしれないから自分で(電話器を)壊した」とか言い出すから、もしかしてこいつおかしいかも……みたいな気になってくる。(2、3回観たら、「最初からジェームス、まともじゃないかも」とも思えてきて、実は全部自作自演だったんじゃ?なんてことも考えちゃったよね。この辺のさじ加減も非常に良いです、ハリシャムさん)

一方で、全てが仕組まれたことのようにも見えて、このどっちとも言える思わせ振りな感じは好みがわかれるかもしれないなぁと思いましたね(わたしは結構好き)。

 

ジェームスはどうやら「L」という同僚(?上司?)から指示されてビデオをDVDに変換するアーカイブの仕事をしているようなんだけど、その人物は最後までよくわからないまま(一応電話で会話するシーンはある)。もしや、すべての黒幕はこのLって人物なのでは?という気もするんだよね~。

 

電波ジャック事件には大きなハッカー組織が絡んでいるということを信じている人物もいて、監視に怯えているような描写もあった。もしかしたらそれも真相なのもしれない。

あと、中盤で協力者になる、ジェームスを「調査」と称して趣味でストーキングしてたアリスも謎だらけ。過去に負い目があって、ジェームスと心情的に近い存在かと思いきや……。彼女も犯人の犠牲になったのか?それとも実は首謀者の一味だったのか?

うーん、謎はつきない……。

 

 

ラストの意味

一番意味不明、ていうか賛否を呼びそうなのはラストだよね。全てを終えたジェームスが車を運転して帰る途中、夜道で女性を轢いてしまう。車から降りると、その女性は「SAL-E Sparxs」と同じ仮面を付けたアンドロイドで、血を吹きだし壊れたように震え出すところで終わるんです。

もしや、すべてのことはこの世ならざるものの仕業だった?それともこの映画は、デジタル移行がアナログを淘汰していくことを表した比喩なのかも?あるいは、ジェームスが犯人を撮影した映像を用いて、新時代の「SAL-E Sparx」になることを示唆しているのかも……?

なんて、ただの思わせ振りエンドかもしれないけど、いろいろ考えると楽しいですね。

 

ジェームスが参加していた配偶者が失踪した人たちのグループセラピーの女性も「意味なんてないのよ」と言ってましたけど、本来なら関連のないものを繋げて意味を見出だそうとしてしまうのが人間の性。なぜか「答え」を探そうとしてしまう。

本当はそもそも、「謎」なんてどこにもないのかもしれないのにね。

 

 

 

作品情報
  • 監督 ジェイコブ・ジェントリー
  • 脚本 Phil Drinkwater、ティム・ウッドール
  • 音楽 ベン・ラヴェット
  • 製作年 2021年
  • 製作国・地域 アメリカ
  • 出演 ハリー・シャムJr、ケリー・マックス、クリス・サリヴァン、ジャスティン・ウェルボーン、マイケル・B・ウッズ、ジェームス・スワントン、ジェニファー・エルセマ