あらすじ
精神的に不安定な母親のもとで育ったルークは家にも居場所がなく、友だちもおらず、孤独な幼少期を過ごしていた。ある日、近所で銃乱射事件が起き、その凄惨な現場を目のあたりにしてしまう。その大きなストレスによりルークは空想の友人「ダニエル」を生み出す。
ダニエルは常にルークのそばにいてくれる唯一の理解者となるが、ある出来事によりその存在は封印される。
やがて成長し大学生になったルークの前に、再びダニエルが現れる。ダニエルの言葉の通りにすると学生生活も好きな子ともうまくいくようになる。しかし、ダニエルには隠された秘密があった……
『デッドガール』、オムニバス映画『ホリデーズ』の「ハッピーニューイヤー」を担当したアダム・エジプト=モーティマー監督の「イマジナリーフレンド」系スリラー。
原作はブライアン・デリューの2009年の小説『In This Way I Was Saved』です。
イマジナリーイケメン「ダニエル」を演じるのはシュワちゃんの息子、パトリック・シュワルツェネッガー。時折T1の時のパパのような無機質な無表情をすることがあって、血統をしみじみと感じましたね。今後も期待です。
いわゆる「イマジナリーフレンド」を題材にした作品は数多くありますが、この映画が斬新なのはイマジナリーな「ダニエル」が「isn't real」なのか次第にわからなくなっていく、そのさじ加減が絶妙な点。
例えば、ルークと仲良くなった画家の女の子が、彼の肖像画を描くんだけれど、そこに「不思議な形の影」を描くんですね。「あれ?この人にも見えてるの?」みたいに思わせられるんですよ。
極めつけは、映画の「転」に当たる部分で行われる儀式的なやり取りからの体乗っ取りシーンね。あそこは「イケメンサイコホラーかと思ったらクローネンバーグだった」みたいな衝撃がありました(笑)。
強いストレスによる二重人格か、あるいは遺伝による統合失調症か……と思わせての、まさかの展開をみせるんですね。
ある意味ちょっとジャンルオーバーなところがあるので、ラストに関して賛否分かれそうではあります。
まぁ、わたしは、かなり好きでしたね。
『犬鳴村』も後半の方が好きな人間なので、この手の展開はむしろウェルカムであります。
ダニエルが何者なのかについては、一応作中で一つの答えを提示してはいますが、それさえもどこまでが「イマジナリー」なのかは判然としないんですよ。その辺りもすごく好きでした。
映像面でも、初っぱなから『マンディ』『カラーアウトオブスペース』の製作陣らしく(ちょっとネタバレか?)、赤紫の魔力全開で最高。SF・ファンタジー的な世界観や80年代ライクな音楽、特撮っぽい特殊メイクもかなり好み。
多少強引なところも感じないこともないんですけど、それでも「イマジナリー」の世界を視覚化した終盤の展開が良すぎたので相殺。
おすすめです。
以下ちょいネタバレ。
(原作も読んでないし、いろいろとわからないことだらけな状態で書いてます。大したことも書いてないからなんの参考にならないと思うので、考察とかそういうのが知りたい人は読まない方がいいです……(;´∀`))
ダニエルの正体の謎
もしかしたら、カンのいい人なら途中でわかっちゃうと思うんですが、ダニエルはイマジナリーのおフレンドじゃない、オカルト的なアレなんですね。地獄の王というか広義の悪魔というか。
最初わたしはね、宿主を乗っ取るエイリアンかなんかなのかなーと考えたんだけど(笑)。まぁでも、ある意味間違いじゃないか(強引)。
一応、もともと取り憑いていた銃乱射事件の犯人から、タイミングよく目の前に現れたルークくんに鞍替えした、という設定「らしい」んですけどね。
ただねー、これもね、どうも釈然としないところもあって。
子どもの頃にルークくんはダニエルに言われて母親を殺しかけ、そのせいでダニエルをドールハウスに閉じ込める(イマジナリーフレンドとの決別的な)んですが、もしダニエルが悪魔的なやつならそんなことしても意味ないわけじゃないですか。
なぜあんなところにあっさり閉じ込められちゃったのか(フリだったのか?)、っていうのが疑問の一つ。
あと、なぜかそのドールハウスには前の宿主である銃乱射事件の犯人(の魂)までいるんですよ。え、お前どっから入ってきた?完全に不法侵入じゃね?(笑)
あのドールハウスが、ダニエルの暮らす世界と精神世界の「出入り口」といった風に描かれてもいて、そうなるとやはりあのドールハウスじたいがルークのものであることを考えると、ダニエルはルークから生まれた、とするのが妥当な気がする。
その辺は「ご想像にお任せします」って感じなのかなー。
現代版ファイトクラブ?
いろいろと考察の余地はあるにしろ、途中までは鬱病や遺伝性の精神疾患を描いているようにも見えて、そういう病気を抱えている人はこういった苦悩と常に対峙しているのかな、とも感じました。
「他人には見えないものが見える」って、やはり気持ち悪いし恐怖だと思うんですよね。
自分が自分でなくなっていく恐怖は、計り知れないものがあると思います。親がそうだったのを見ているなら、なおさらね。
だから結果的に、苦しみから逃れるには死ぬしかない、みたいな着地に見えちゃったのはちょっと残念だったかな……。
ホラー映画的にはあのラストで正解なんでしょうけど。
どうやら「現代版ファイトクラブ」なんて言われたりもしているらしい本作品。
ただあれよりも精神的には全然幼くて、主導権争いに使われるのが拳とか銃じゃなくて、イマジナリーな剣によるチャンバラなんですよ。これがねー、なんかかわいくてめちゃくちゃよかったです(笑)。
アダムエジプト監督(これって本名なのでしょうか……)の前述した2作も、AとBの「対決」を描いている作品で、ちょっと本作と似たような雰囲気があるんですよねー。
先月全米公開した最新作『archenemy』も本作と同じプロデューサー陣が絡んでるらしく、悪の組織と戦うヒーローものらしい。
またしても赤紫旋風の予感(笑)。
日本公開されたら観たいな。
そういえば、ダニエルの本当の姿が、なんか観たことあるなーと思ったら『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』のカテドラルヘッドだった。
なんか関係あるのかなぁ?(たまたまじゃね)
追記:記事タイトルを「そのイマジナリー、マジナリー?」にしようとしたけど、あまりに下らなすぎてやめました。(ご報告)
作品情報
- 監督 アダム・エジプト・モーティマー
- 原作 ブライアン・デリュー
- 脚本 ブライアン・デリュー、アダム・エジプト・モーティマー
- 製作年 2019年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 DANIEL ISN'T REAL
- 出演 パトリック・シュワルツェネッガー、マイルズ・ロビンス、サッシャ・レイン、メアリー・スチュアート・マスターソン