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洗骨【映画・ネタバレ感想】それは、喪失を受け入れる儀式★★★★(4.0)

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あらすじ

沖縄・粟国(あぐに)島。新城家の長男剛(筒井道隆)は母の"洗骨"のため、4年振りに帰郷する。しかし、父信綱(奥田瑛二)は妻を亡くしてから酒に逃げて塞ぎ混み、妹優子は知らぬ間に妊娠していた。そして剛自身も父へのわだかまりと複雑な事情を抱えており…。

風葬された遺体の骨を洗うという、沖縄の一部の地域に残る独特な風習を通して、一つの家族の喪失と再生を描いた感動の人間ドラマ。監督はガレッジセール・ゴリこと照屋年之。

 

 

どうでもいい前置き

本当はこの映画、観る予定ではなかったんですよ。

でもその日、観ようと思っていた『ギルティ』と『女王陛下のお気に入り』が軒並み満席で途方に暮れまして。せっかく家族から月イチのママ業休みをもらったのに、このまま帰るわけにはいかない!(今帰ったらご飯作らさせる!(;´д`))と、調べてみたらこの『洗骨』がちょうどいい時間にやっているとわかりまして。

そう言えば、いわのふみやさんや、Twitterでフォローさせていただいている方が絶賛していたのを思い出し、急遽鑑賞することにしたのです。

結論から言いますと…

 

めっちゃ良かったですわ!!!

 

始まる前は、観たい映画を観れなかったのが残念だったのもあって

「本当にこの映画観る必要あったかな…( ´・ω・`)」

なんてグダグダ悩んでたんですけど、でも映画始まってすぐに、

「大正解!(*゚∀゚)」

ってなりましたね。

人の生き死にをめぐる話なので悲しいトーンの映画なのですが、最初の葬式のシーンから爆笑でした。もうね、ずっと館内で何度も笑いが起こってましたよ。

それでいて、笑いの後に不意にじわっとしみるシーンが来たりして、「泣きと笑いのバランス」が絶妙な映画でしたね。いやほんと、観てよかったです。

観終わった後には他に観たい映画があったこともすっかり忘れてちゃった。まぁ『ギルティ』と『女王陛下』はまた後日リベンジorレンタルしますわ~。

 

 

照屋年之って誰よ?

すみません、わたしは邦画をほとんどチェックしていないので、ガレッジセールのゴリがすでに長編デビューしてたのも、これまでに短編映画を何本も製作していたことも、そもそもこの人が日本大学芸術学部を中退していることも、全く知らなかったのです。

お笑いにも詳しくないので、ガレッジセール自体が「ケンミンショー」に沖縄代表として出てるくらいのイメージしかなかったんですよ。なので、こんなしっかりした映画を撮る人だったとは、正直驚きました。

 

いや、なんていうのかな、台詞の言葉選び(脚本も担当してるみたい)とか、演出とか音楽の入れ方に若干あざとさはあるんです(特にラストカット)。でも、前述した「笑いと泣きのバランス」もそうだし、この見せ方うまいな~っていうカットがいくつもあって、例えばアバンタイトルの葬式のシーンで棺の全体像を上から見せるカットとか、父親が娘の妊娠に気づくカットとか、ちゃんと観客が驚くように設計されているんですよね。この計算づくな感じはお笑いコント的なセンスを感じました。

 あと、本名で名乗ってるところにも好感を持ちましたね。自分の知名度じゃなくて、ちゃんと作品で勝負しようという覚悟が見えるというか。公式もあんまりゴリをゴリ押ししてないし。この姿勢は偉いなぁと思いましたよ。

インタビューで好きな映画として『リトルミスサンシャイン』を挙げてて、一気に好感度上がったわ。

 

それから、沖縄が舞台でってなると「あ~、ハイサイでなんくるない映画でしょ?」みたいな先入観があるかもしれませんが、いわゆる沖縄っぽい映画では全然なかったです。いや、すごい沖縄してるんけど、それがすげえいい塩梅なんだよね。

芸人や有名人が監督しただけの映画ではない、真っ当で真摯な作りの映画です。色眼鏡や先入観を取っ払って、多くの人に観て欲しいと思える作品でした。

おすすめです。

 

 

以下ちょいネタバレ。

 

 

 

 

 

喪失を受け入れる

わたしは本作で「洗骨」という風習をはじめて知りましたが、かなり驚きました。映画でも終盤のハイライトなのですが、わたしは号泣してしまいました。…すごいですよ、これは。

室みたいな岩穴に納められた遺体の入った棺を開けて、本当に、文字通り洗うんですよ、骨を。髪の毛や風化した肉体の一部を洗い落としてきれいにしてあげるんです。それでも、骨は体液が染み付いてあるから少し茶色い。火葬の骨を拾うのとは訳が違う。あまりに生々しくて、「その人はもうこの世の者ではない」ということをまざまざと見せつけられる。

これはある意味、残された者にとってとても酷な儀式かもしれません。

でも、この洗骨という行為は多分、その人はもう死んだ、ということを改めて生者に認めさせ受け入れさせる究極の方法かもしれないと思うんですね。

 

映画の中でも、父信綱は妻の死をちゃんと受け入れきれていない。隣に布団は敷いてるし、遺影や仏壇(っていうのかな?)も埃を被ったまま。この家族の中で、亡くなった母親は「不在として存在している状態」なんですよ。言うなれば「ここにあなたがいないのがさみしいのじゃなくて、ここにあなたがいないと思うことがさみしい、ウォウウォウ~」by大事マンブラザーズバンド状態。(伝わらなそう)

でも、そんな状態でも、皆それぞれに洗骨に向けて心の準備をしていく。大切な人と"再会"しても恥ずかしくないように、精神的な身辺整理をしていく。きっとその過程そのものものも含めて「洗骨」なんだと思いました。

 

あと面白かったのが、道を隔てたこちらと向こうにあの世への境界があるという概念ね。感覚的にあの世とこの世が地続きにあるという認識が、独特な死生観を育むんでしょう。

 

 

普遍的でありながらパーソナル

本作は、家族、先祖、生と死、という壮大で普遍的な物語でもあるのですが、観ていてどこか私小説な雰囲気を感じるなぁと思ったんですよね。

事実、この映画は「照屋エミに捧ぐ」と最後に出るのですが、この照屋エミ(作中の母親の名前は恵美子)さんは数年前に亡くなった監督のお母さんだそうです。おそらく多くのエピソードが、実際に監督が体験したものや見聞きしたもの、思ったり感じたりしたことだったのではないかと。

わたしは本作のそういう、自分のパーソナルな部分が多分に出る作風が、ミニマムな日本映画らしくてとても好きでした。

 

ただ決して完璧な映画ではなくて、わたしとしては娘の出産シーンのドタバタは蛇足に思えたし、さすがに父親による会陰切開は息子の「この人は何もできない」というセリフへのアンサーなのかもしれないけど、やっぱりどうかと思ったよね(苦笑)。

でも、それも含めて監督の人柄が滲み出た映画だったんじゃないかなと思います。

 

 

最後に、役者陣について言うと、奥田瑛二はじめ一家を演じた筒井道隆、水崎綾女はもちろん上手だったのですが、意外なことにハイキングウォーキングのQ太郎がとてもよかったです。この人は、娘の恋人でお腹の子の父親って役なんだけど、はっきり言っていなくても話としては全然問題ないキャラなんですよ。でもコメディリリーフをつとめると共に、部外者として、観客の代弁者として粟国島の風土に入り込んでいく役割を担っているんですよね。最初出てきた時はどうなるかと思ったけど(「コイツかよ!」ってみんな大爆笑してた)。

あと、わたしの中ではあき竹城ポジションな大島蓉子さんね。いわゆる沖縄の「おばあ」ほど神秘的な存在ではないんだけど、近所のおせっかいおばちゃん感とどこか常人離れした佇まいが見事に同居していました。あっさり前言撤回する適当さや「わたしだって孫に好かれたいんだよ」とか、Q太郎との掛け合いも楽しかったです。

 

 

余談:沖縄のことばって、基本語尾が「~さ」「~ね」だから、怒って声をあらげてもそんなに威圧感がないんだよね。息子が父をなじるシーンでも、演じているのが優しげな顔の筒井道隆なのもあって、全然険悪さがないの。

多分だけど、沖縄の人が穏やかに見えるのはそういう語尾の効果もあるのかなと思いました。「うるせえな!」じゃなくて「うるさいさぁ~」ね。

わたしも親父と会うとついついツンケンした物言いしちゃうから、気を付けないとなぁ。なんてことを思ったりもしました。

 

 

ゴリ名義の長編監督一作目。あまり評判はよくないみたい…

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作品情報
  • 監督 照屋年之
  • 脚本 照屋年之
  • 音楽 佐原一哉
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 日本
  • 出演 奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら
  • 映画『洗骨』公式サイト