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ロケットマン【映画・ネタバレ感想】ピアノボーカルの道化師★★★★(4.0)

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あらすじ

家庭を省みない父、自分優先の母に愛されたいと願うレジー少年。音楽の才能を見出だされるも、両親が彼を愛してくれることはなかった。

青年になり、ロックと出会ったレジーはその衝動的でエモーショナルな魅力の虜となる。そしてほどなくして自身のセクシュアリティについても自覚するようになる。その頃からなりたい自分になろうと、レジーと言う名前を捨てて自らを「エルトン」と名乗るようになる。

ある日、売り込み行った音楽事務所の薦めで作詞家のバーニーと知り合う。音楽の趣味が共通し意気投合した二人は共に楽曲制作を行い、名曲の数々を生み出していく。

しかし、人気者になればなるほど迷走していくエルトン。酒やドラッグに溺れ、堕落していくその姿を見たバーニーは、彼にきっぱりと別れを告げる。

ただ愛されたいと願うエルトンの行き着く先は…

 

 

オ~ネスティ~サッチャオンリワ~ン♪

はい、それビリー・ジョエルね。

 

というわけでエルトン・ジョンの『ロケットマン』を観ました。

実は先日ブログに書いた『おっさんずラブ』と同じ日に観たんですよ。

OL連続2回目を観ようかと思っていたのですが、「いや、これは一旦冷静になった方がいいかもしれん」と思い、急遽同じ映画館で公開されていた本作を観ることに。

ところがなんと、まさかの

あれ?こっちも「おっさんずラブ」じゃん!

ていうね…。

いや茶化してるんじゃなしに、真面目に。愛を求めてさ迷う男と、そんな彼と共に歩む男の、友情を超えた熱い人間愛の物語でした。( ;∀;)トモダチッテイイネ

 

…いやもうねー、すごく、良かったです(語彙力)。

わたしはミュージカルが好きなので、序盤の「The Bitch Is Back」からもうのめり込んじゃいましたね。最高でした。「Saturday Night’s Alright (For Fighting)」のワンカットミュージカルシーンも心踊りましたね~。

 

 

わたしとEJ

とはいえ、わたしはエルトン・ジョン(以下EJ)に関しては有名な曲をいくつか知っているくらいで、特に詳しくなくて。

ただEJと言えばわたしの中では、ザ・フーの名曲「Pinball Wizard(邦題:ピンボールの魔術師)」のカバーなんですよね。わたしはザ・フーというバンドが大好きで、特にこの曲が一番好きなんです。

(EJバージョンもYouTubeに転がってると思うので興味のある方は探してみてね)

この曲が収録されたコンセプトアルバム『TOMMY』を映画化した作品にもEJは出演していて、奇抜な眼鏡をかけてデカ靴(?)履いて「三重苦の少年が、まじですげぇピンボールをしやがる!」とノリノリでハデハデに歌い上げるんです。

そのインパクトたるや。

 

トミー [Blu-ray]

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(見えない聞こえない話せない少年が神になる話です…未見の方は是非どうぞ。全編歌で構成されたロックオペラ=ミュージカルです)

 

それでまぁ、この曲が聞ければいいなぁ、と軽い気持ちで観はじめたんですけど…

結論から言うと、この「Pinball Wizard」のシーンでめちゃくちゃ泣きました。

曲自体はとても明るい曲調だし映像的にもキラキラしていて悲壮感はまったくないんです。でも、彼が「道化」であることをビシッと見せつけるシーンになっていて、EJの心中を思ったらもう…泣けて泣けて。

そこから、タイトルにもなっている歌「Rocket Man」までの流れは映画の中では起承転結の「承」の終わりでして、彼が転落していく発端の心情、その苦悩が表れているシークエンスになっておりました。

(あと、ピンボールで遊ぶシーンがちょろっとあったのも個人的にはテンション上がった)

 

 

演者が歌うことの重要性

エルトンを演じたエジャトンもすごく良くて、『シング』でのゴリラ役でも「I’m Still Standing」を歌っていたけど、そこからオファーが行ったのかしら?

顔も見た目も声も全然似てないんですが、映画の中では完全に「エルトン・ジョン」なんですよね。繊細で気が弱いデビュー前、その本音を隠して豪快に振る舞おうとする絶頂期、ドラッグや酒に溺れて堕落していく転落期を見事に演じ分けていました。もちろん、歌も上手かったです。

 

音楽映画、伝記映画ということで、おそらく多くの人が昨年公開の『ボヘミアンラプソディ』と比較してしまうと思うんですけど、アプローチの仕方としては、わたしは断然『ロケットマン』の方が好きですね(ってボラプはこの間観たばっかりなんだけど)。

わたしとしてはやっぱりね、こういう映画は基本的には演者に歌って欲しいと思うんですよ。

多分ただEJの歌を流しているだけだったら、わたしはここまで感動しなかったと思う。

どんなに見た目や動きを似せてもそれはモノマネでしかないんですよね。もちろんそのアーティストのファンは、そのまま本人の声の方が嬉しいかもしれません。でも、映画としてのエモーショナルは削がれてしまうのではないかと個人的には思いますね。だって別に「ご本人に似てる人」を観たいんじゃないんだもの。「映画」を観たいんだもの。

ま、そんなこと言いながらボラプめっちゃテンション上がったけどね!!(ちなみに本作の監督デクスター・フレッチャーはボラプの最終監督でもある)。

本作では、タロンくん以外の役者さんも歌うし、それによって観ているこちらの感情も揺さぶられるんですよね。一家が交互に歌う「I Want Love」とか親友バーニー役のジェイミー・ベルが歌う「Goodbye Yellow Brick Road」とか。

ちゃんと歌が「物語」になっているんです。

 

それから、現実と虚構性が融合するファンタジックな演出もかなり好きでしたね。「Crocodile Rock」の粋すぎる演奏シーン、「Rocket Man」の文字通りの「ロケットマン」とか、現実にはあり得ないんだけど、フィクションとして、心情表現としてありなんですよ。まさに映画の醍醐味ですね。

そもそも話の入り方からしてわたしが大好きなパターンだった。回想に「入っていく」あの感じね。

 

あとね、子ども時代を演じた子役の子が歌も演技もいいんだけど何より、最後の比較写真見たらめちゃくちゃそっくりだったというね…笑。あの子けなげでかわいかったわ~

 

 

 

以外ネタバレ。

 

 

 

派手な衣装は心の鎧

さっきもちょろっと書きましたが、今でこそ「陽気なおじさん」という印象のEJですけど、子どもの頃は引っ込み思案でシャイだったんですね。初めてのステージで怖じ気づいてトイレに閉じ籠ってしまうくらいにナイーブな性格だった。

それは曲にも表れていて、EJの楽曲って「your song」や「Candle In The Wind」「Tiny Dancer」みたいに、素朴で繊細なものが多いんですよね。

そのガラスみたいなもろいハートを、派手な衣装とパフォーマンスで隠しているんです。本当の自分を見せないための武装なんですよ。

 

有名になり無理矢理にステージを重ねるエルトンに、バーニーはついにこう声をかけます。

「本当の姿に戻りたくはないか?」と。

でも、エルトンはあの頃の「誰からも愛してもらえなかった少年時代」を思い出して、

「本当の自分?今さらあのレジー・ドワイトに戻れっていうのか?求められてるのはエルトン・ジョンなんだよ!」

と言ってその声を退ける。

 

一番つらかったのは、母に同性愛者だと電話で告げるシーン。息子のカミングアウトに母はあっさりと「知ってたわよ」と答えるわけです。

でも母は、息子が欲しい答えをくれない。代わりに「あなたは誰からも愛されない選択をしたのよ」と辛辣な言葉を投げつける…。時代的なものもあったのでしょうが、実の母にあんな風に言われるなんて、

つらい!つらすぎる!!

母役のブライス・ダラス・ハワードの圧のある演技もあって、もうほんと、ぐさぐさ来ましたね…(てか、あの太り様は役作りだったのだろうか?)

 

そういうこともあってエルトンは、

着飾って、お金を使って、「ポップスター」として生きるしかない…

そうしないと誰からも愛してもらえない…

いかに滑稽であっても、本当の姿を見せるくらいならピエロになった方がまし…

そんなふうに思い込んでいたんじゃないかと思うんです。

きっと、その心の表れがあのハデハデな衣装なんですよね…つらい…。

本作の衣装がかなりこだわっていたのも、彼のファッションにはそういう重要な意味がこめられていたからなんだと思います。

再現度も高いし、多分アカデミー賞とかノミネートされんじゃね?(適当に言う)

 

 

復活のサバイバー

元々はナイーブだったエルトンがストレスから心のバランスを崩していくのに時間はかからなかった。

酒とドラッグの依存症に苦しんだ末に、ついにリハビリ施設に入る(ていうかそこから物語がはじまるわけだけど)。

セラピーを通して自分を見つめ直して行くなかで、鎧だった衣装を脱ぎ捨てて行く。

そして再びピアノの前に座り、ただ純粋に音楽を楽しんでいた頃の気持ちを思い出す。

 

その前にバーニーが面会に来たとき「シラフの状態でいい曲が作れるか不安だ」と言うんですよ。多分、多くの薬物依存者はきっとそういう気持ちなんだよね。

バーニーからもらった詞に曲をつけながら、自分にはまだ音楽があるとやっと気づけたんじゃないかな。そしてエルトンは、過去の自分も、あらゆる苦しみも抱えて「立ち上がる」。

 

そして、一番大切なのは、自分を信じてそばにいてくれる人の存在だってことに気づいたんだと思う。エルトン(レジー)はつらい幼少期を過ごしたけれど、楽曲のパートナーであり親友であるバーニーがいてくれたからここまで来れたんだと思います。

面会が終わって帰るとき、「まだ居てくれ」というエルトンにバーニーが「自分で立ち直れ、俺たちは兄弟だ」と答えるのもぐっと来た。べたべたしないけどちゃんと思い合っている。こういう関係性はとても羨ましいです。

親から愛されていなくても、音楽の神様と唯一無二の親友に愛されていたレジー。

彼が再び「エルトン・ジョン」として立ち上がることができたのは、その二つのおかげだったのでしょう。

現在も二人が共作を続けているというのも熱いエピソードです。

 

最後に「I'm Still Standing」のPV(エジャトンバージョン)が流れるもすごく良かったよね。あれはMTVの時代、つまり新しい時代のはじまりであり、新しい「エルトン・ジョン」のはじまりも意味していると思うから。

そもそも「I'm Still Standing 」は、ぱっと聞くと失恋ソングっぽいんですが、いろんな解釈ができる歌なんですよね。

ちょっと歌詞を引用すると、

Well look at me, I'm coming back again

I got a taste of love in a simple way

And if you need to know while I'm still standing

you just fade away

よく見てみろよ、俺は復活した

あれこれせずに簡単に、愛の悦びを得た

教えておこう、俺は負けない

消えていくのはお前だ

この歌詞の「you」はおそらく誰か一人のことを言っているのではなく、恋人で元マネージャーのジョンでもあるし、薬物でもあるし、自分を愛してくれなかったかつての両親でもあるんでしょうね。

If our love was just a circus you'd be a clown by now

俺たちの愛がサーカスの見世物だったなら、今やお前の方がピエロだな

道化師だった男は、ついにその役割に引導を渡す。もう彼に、ピエロの仮面は必要ない。

愛は、すぐそばにあったのだから。

 

じゃあ、彼は何者なのだろう?

Looking like a true survivor, feeling like a little kid

「本物のサバイバーだよ。子どもみたいなね」

 

エルトン・ジョン、最高だ!!

 

 

 

作品情報
  • 監督 デクスター・フレッチャー
  • 脚本 リー・ホール
  • 製作総指揮 エルトン・ジョン
  • 音楽 マシュー・マージェソン
  • 製作年 2019年
  • 製作国・地域 イギリス
  • 原題 ROCKETMAN
  • 音楽 マシュー・マージェソン
  • 出演 タロン・エジャトン、ジェイミー・ベルル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン