あらすじ
年老いた祖母と病気の父に変わり、ジョンは牧場の家畜の世話をしている。しかし未来の見えない生活に希望が持てず、酒浸りのすさんだ毎日を送っていた。間もなく羊の出産シーズンを迎えるため、父がルーマニア移民の季節労働者ゲオルゲを雇う。最初は父へのいらだちに加え、移民であることの反発からゲオルゲを疎ましく思うジョンだったが、彼の優しさや気遣いに触れ次第に心ひかれて行き…
実は先日感想書いた『洗骨』と同じ日に観に行ったんだけど、うまく言語化できなくて「ブログにしなくても良いか~」と思ってたんですけど、「いや、言語化できないからブログにするのではないか!」と思い直しました。
思考がとっちらかって読みにくいかもしれませんが、よろしければお付き合いくださいませ。
荘厳な自然描写に圧倒
さて、世界中で2017年のベストゲイ映画として絶賛されていた本作。厳しくも美しい自然の中で、国籍も境遇も違う二人の男性の間で育まれる愛の物語です。
称賛に違わず、心が洗われるような美しい映画でした。
まず、印象的だったのはヨークシャーの荘厳な大自然です。吹きすさぶ風と灰色の曇天、尖った岩山、生気のない草原…そんな大地に降り注ぐ陽光は神々しく「神々の恵みの土地(ゴッズ・オウン・カントリー)」とはまさに言い得て妙。二人が地平線の朝日を眺めるシーンは、主人公ジョンの心の平穏を表すかのように安らかで穏やかでした。
本作はそのプロットから2005年のアメリカ映画『ブロークバックマウンテン』とよく比較されているようなのですが、
あちらは山籠りライフものどかで瑞々しく、どこか華やかさがありましたが、逆に本作はその自然の描写はもちろん、ジョンの生活がすさんでいることもあって、全体的に絵面は鬱々として重苦しいんですね。けれど、観終わったあとの印象は不思議と明るい。絵面と物語の着地が真逆な『ブロークバック~』と比較して観ても面白いかもしれません。
イギリスの重い現実を映し出す
また、ジョンの牧場がもはや廃業寸前で、畜産が斜陽産業となっているイギリスの現実を映し出している点も興味深かったですね。
そして、ゲオルゲが中東欧からの移民であるという点にも注目です。
イギリスの出稼ぎ労働者は年々増加しておりますが、高まる失業率が移民への反発に拍車をかけ、特にEU離脱決定以降は差別的な(特に移民が多い中東欧諸国への)ヘイトも表面化しています。
EU離脱のイギリス、ポーランド人にヘイトスピーチ激化 Twitterで反撃も | ハフポスト
劇中でもジョンは当初ゲオルゲに侮蔑的な言葉を投げつけています(しかし終盤ではジョンが移民たちから似たような反応をされているのが興味深い)。
この、イギリスの抱える二つの社会的な問題を軸足にしていることが、本作をただの惚れた腫れたのラブストーリーで終わらせず、作品に深みを与えている要因だと思います。
「男性同士の恋愛映画」とひとくくりにしておくのはもったいない秀作です。極端に少ないセリフが心地よく、むしろ映画好きな方にこそ観て欲しい映画だなと思いました。
というわけで以下は少しネタバレしつつ、ちょっと(いやかなり)深読み太郎的なコジツケ感想を書いていこうと思いますよ。
人との出会いが人を変える
この映画が描いているのは「人は変われる」という希望です。
最初は父親への反発や「移民」であること、家畜への対応のいらだちからゲオルゲに反感の気持ちを抱いていたジョンですが、彼の優しさや気丈さに触れて徐々に心を開いていきます。
ジョンは、基本的に他人を蔑んでるんですね。バーで行きずりの関係をもった青年や再会した同級生への対応、ゲオルゲを「移民」だからと揶揄する発言からみても、彼が誰に対しても傲慢で「俺か、俺以外か」(byローランド)で接しているように見えます。
これは、わたしの持論ですけど、他人を貶めている人って実は自分のことも貶めている人なんだと思うんです。「自分なんて」と思っているからこそ「他人なんて」となる。
自分が傷つきたくないから、言葉の刺で武装して他人を傷つけているだけなんですよね。
ところが、ゲオルゲから思わぬ反撃をくらって、その行動を反省する。自分より劣っていると侮っていた人間からの反撃は、おそらく彼にとって初めてのことで、でもそれは侮辱ではなくむしろ喜びだったのではないでしょうか。それはまるで、言葉の刺の武装を飛び越えて自分の「心」に触れてくれたとでもいうような…
そんな、「俺」の領域にやすやすと入り込んでくるゲオルゲに対し、親愛の情を抱くのは当然と言えます。
彼の心情の変化は、その表情からもわかります。最初はむすっと無表情だったジョンも次第に明るく、笑顔が増えていき、最後には自ら「変わりたい」と思うようになります。そしてそれは未来への希望へと繋がっていく…。
人との出会いで起こる人生の化学変化。それを人は恋と呼ぶのではないでしょうか。
神としてのゲオルゲ
タイトルに引っ張られてる感もありますが、やはりどうしてもゲオルゲを神と同一視してしまいたくなります。
仮死状態で産まれた羊を蘇生させ、自暴自棄なジョンを受け入れ、多少の浮気も許容するほど寛容なゲオルゲ。…しかもなんと、料理も上手い!
もはやこんな男、神でしょ。笑
…いや冗談抜きで、映画の中で度々「ゲオルゲ=神」を、意識した描写がなされているとわたしは感じました。
前述した子羊の蘇生や罪(不貞)の許し、身に付けていたもの(手袋)の貸与、陽の光をジョンに見せる…などなど。また性行為も独善的なものではなく、キリスト教的なアガペー(無償的愛)を彷彿とさせるような愛に溢れた行為でした。
特に印象深かったのは、ゲオルゲの作った料理を二人で食べるシーンです。
それまでジョンが食べていたのは、祖母が作ったであろうポトフのようなスープで、お世辞にも美味しそうとは言えない代物でした。けれどもゲオルゲが作ったパスタは、同じキッチンで同じような材料で作ったはずなのに、食卓のしつらえもあってレストランの料理のようでした。羊の乳でチーズを作ったりもしてましたね。
この「食事を与える」という行為はそのまま「神の恵み」=愛を受けるということでもある。
ゲオルゲはジョンに愛を与え、その罪から解放した、まさに「神」だったと言えるではないでしょうか。
…わかってる。わかってますよ、超コジツケだって!!
でもでもでもさ、あんないい男からの愛を拒める人間なんている?彼からの愛を受けるためなら「俺変わる!」ってなるでしょ?なるよね!?
もうね、ゲオルゲはイケメンとかスパダリとかそんなあまっちょろい言葉では表現できないんですよ。彼は神。はい、決定!!
とまぁ、他にも「愛を確かめあった二人がののしりあうの、最高に好き」「晴れやかなラストシーンに泣く」「おばあちゃん、それトイレ捨てちゃダメ!」「てか父親イアンハートやん…」とかいろいろ書きたいことはあるのですが割愛。
とにかく、二人がどうか末永く幸せになって欲しいと願わずにはいられない素敵なラブストーリーでしたよ。そしてきっと、二人が幸せに暮らせる未来こそ理想の国、理想の世界なんだと思います。それがきっと、ゴッズ・オウン・カントリー。
作品情報
- 監督 フランシス・リー
- 製作総指揮 ディアミッド・スクリムショウ、アナ・ダッフィールド、メアリー・バーク、セリーヌ・ハダド、ポール・ウェブスター、カヴァン・アッシュ、リチャード・ホームズ
- 脚本 フランシス・リー
- 製作年 2017年
- 製作国・地域 イギリス
- 原題 GOD'S OWN COUNTRY
- 出演 ジョシュ・オコナー、アレック・セカレアヌ、ジェマ・ジョーンズ、ハリー・リスター・スミス 、イアン・ハート