あらすじ
家族を喪い精神的に不安定なダニーは恋人のクリスチャンとともに、友人の故郷スウェーデンのボルガ村にやってくる。90年に一度の夏至の時期に行われる奇祭に参加するためだ。
村の入り口でドラッグで酩酊する若者たち。やがて目的地に到着すると、白夜により異様に明るい村で異様に明るい村人から歓待を受ける。そしてはじまる祝祭の9日間。
そこで彼らが目にしたのは、血と狂気のカルトセミナーだった……
事前に監督の失恋体験が元になってるってのは聞いてたんですけど、ここまでラブストーリーになってるとは思わなかったです。
そう、ラブストーリーなんですよ、この映画。
なんだかケバケバしい包装紙にくるまれてますが、中身はいたってシンプルな贈答用チョコレートでした。
しかも、陰毛入りです。
『ミッドサマー』
— ナオミント (@minmin70) 2020年9月23日
恋に破れた経験を
失恋した、と言うのは普通の人
人の命の惜しくもあるかな、と詠むのが平安貴族
もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対、と歌うのがマッキー
変な村でとんでもない目に遭う映画にしちゃうのがアリアスター
バレンタインに陰毛チョコもらった後輩いたな。元気かな。 pic.twitter.com/LPZeSKKb8K
以下ネタバレっていうか観てない人にはなんのこっちゃな感じで書いてますのでご注意を!
(2000人の狂人 [DVD]より)
「そんな彼なら捨てちゃえば?」
この映画、公開時にはこの村の仕組みとか、祝祭で行われるイベントについていろいろ考察する人が多かったみたいなんですが、わたしはポンコツなのでその辺りで思い至るところは全然なくて、観終わった後は「いや、そんないろいろ考えるような映画なのかコレ?」と思ったんですよね。
これ完全に『そんな彼なら捨てちゃえば?』じゃねーか、と(笑)。
「振られそう、浮気された、別れた」
を壮大に味付けしただけの話なんですよね。
あんなクズ野郎(いやこの映画の彼ピッピは別にクズでもないんだが)のことなんてさっぱり忘れて次に進もうっていう。
若い女性から支持されているという記事を読みましたけど、なるほど、それだけクズ男にうんざりしてる女性が多いってことなんでしょうかね。
序盤で、不安にかられた主人公が「わたしの豆腐メンタルに彼がうんざりしてるかも!どうしよう!嫌われちゃうかも!」って友人に電話してるシーンがありましたけど、そこで友人が「そんなことないって。彼以上の人がいる?」みたいなこと言っちゃうんだけど、これなんかももう『そんな彼なら捨てちゃえば』案件。
「ウザがられてるかも」って思ったならウザがられてるんですよ。「オトコの子があっち行け!って言うのはアナタが好きな証拠」じゃないんですよ。単純にアッチに行って欲しいからです。そこを間違えちゃだめなんですよ。
あそこで友人はきっぱりと
「そんな彼なら捨てちゃえば?」
と言うべきだったんですよね。
なのでこの映画の戦犯はダニーの電話の友人です(何の話?笑)。
祝え!新たなる女王の誕生を!
監督の前作『ヘレディタリー』では王の誕生を祝うお話でしたけど、今回は女王(メイクイーン)の誕生を祝福する話でしたね。
前作の王(ペイモン)は、自分の罪(殺人)もチャラにできるというか「その罪がむしろ必要だった」と正当化できる存在でもあったんですが、本作の女王にもその精神性は引き継がれています。
自分を裏切った恋人を合法的に(そのコミュニティの中で治外法権的に)殺せるわけで、殺人が罪にならないというかむしろ「罪さえも称賛される」上位存在なんですよね。
自分に酷い仕打ちをした元恋人に対して「死ねばいいのに」と思うことはあるだろうし、それを願うことはなんら問題ない。
でも、わたしとしては……
「ここまでしないとだめ?」
って感じだった。
失恋の痛手、恋人の裏切りを消化するのにここまでやらないと解放されないの?って。
いや、なんだろう。
あそこで生け贄に彼ピッピを選ぶことの意味ってなんだろう?って考えちゃった。
それで解放される人もいるだろうしスッキリする人もいるんだろうけど、わたしはあそこで彼ピッピを選ばないなぁ、と思った。
なんだろな、うまく言えないんだけど、例えば手に持ったあの松明をむしろ村人たちに放つくらいの気概が欲しかった。花衣装を脱ぎ捨てて湖に飛び込んで、燃え盛る村を眺めるような。
女王なら、目の前の男を焼き殺したくらいで満足するなよ(だから何の話?笑)。
真夏の夜の夢
でも、これはすべて、彼女が村の入り口でドラッグによって見た夢ってことの理由でもあるんですよね。女王に選ばれても村人の一員にならず(ラスト、彼女だけが泣きわめいてない)、恋人を奪った娘への怒りもなく、ただただ「恋人を焼き殺す」だけで満足してしまうのは、つまりはそういうことなんだろうと思います。
自分の中の情念を焼き殺して酩酊から目覚めれば、彼女はさっぱりと彼の元を去ることができる……のかもしれない。
ただ、わたしはそこまでする意味が多分、理解できない。
これはわたしがラブストーリー全般がちょっと苦手な理由でもあるんだけど、人の感情、ことに恋愛に関してはなかなか「普遍的」っていうのは難しいと思ってて、でも共感がものを言うジャンルでもあるから、それができないと何の面白味もない。
本作も割りとそんな感じで「はぁ、そういうこともあるんですね」っていう傍観者目線から脱することができなかったなぁ、と。
こういう夢を見た、で終わっちゃうのかな、って。
でも、映像の美しさや美術的な部分は見所もあったし、好きなところもありました。陰毛とかね(笑)。
男女の心の機微に思い至らないわたしは、こっちの映画でも観て寝ようと思います。
ていうかこんなヘンテコな映画の題材にされちゃったのに抗議もせずに笑って受け流せちゃうスウェーデンやっぱ素敵だなと思う(笑)
この映画のMVPはスウェーデン王国です。
(本当の夏至祭はもっと楽しいものです)
関係ないけど、この映画に関してフィンランドは怒っていいとずっと思っています。
作品情報
- 監督 アリ・アスター
- 脚本 アリ・アスター
- 製作総指揮 フレドリク・ハイニヒ、ペッレ・ニルソン、ベン・ライマー、フィリップ・ウェストグレン
- 音楽 ザ・ハクサン・クローク
- 製作年 2019年
- 製作国・地域 アメリカ、スウェーデン
- 出演 フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ヴィルヘルム・ブロムグレン