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ブラック・クランズマン【映画・ネタバレ感想】差別主義に「HELL,NO!」を突きつける、スパイク・リー渾身のアジテーション★★★★☆(4.6)

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あらすじ

志を胸に街で初の黒人警察官となったロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)だったが、警察内部に蔓延る人種差別を前に鬱々とした日々を過ごしていた。

念願かなって資料係から潜入捜査官として転属したロンは、KKK(クー・クラックス・クラン=白人至上主義を掲げる秘密結社)の新聞広告に目をつけ、白人のふりをして電話をかける。するとあろうことか幹部の人物に気に入られ「直接会って話そう」と持ちかけられてしまう…。

白人の同僚警官フリップ(アダム・ドライバー)に身代わりを頼み、「黒人が白人になりすましてKKK会員になる」という前代未聞の潜入捜査がはじまった!

 

 

観終わったあと、ちょっとしばらくショックで立ち上がれなかったです。

いや、映画自体はめちゃくちゃ面白かったですよ。

 

いわゆる「ブラックスプロイテーション」(1970年前半に流行した黒人向けのアクション映画のこと。タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』もそのオマージュだ ) の枠組みを使って、「人種差別」という重たい題材をブラックミュージックにのせて軽やかに描いたノリの良い映画です。

いや本当に音楽はクソ最高で、クラブでロンたちが歌い踊る「Too Late to Turn Back Now」やエンドロールでかかるプリンスの「May Don't You Weep」(アカデミー賞でのリーのファッションを思い出して泣く!)などの歌ものはもちろんなんだけど、ファンクで泣きの入ったギターソロが印象的な「ロンのテーマ」はじめ、テレンス・ブランチャードによるサントラがまじで渋くてかっこいいのです!(ブランチャードによる『25時』のサントラはゴールデングローブ賞にノミネートされてる)

Blackkklansman (original Soundtrack)

Blackkklansman (original Soundtrack)

 

 

アフロなブラザーが白人のクソ野郎に一泡ふかすという勧善懲悪さもさることながら、「潜入捜査」というスリリングな展開が多分にエンターテイメントでフィクショナルなんですが、こちら「マジでやべぇ」実話をもとにしてるというからびっくりですよ。

パンフレットにのっていた原作者のロン・ストールワースさんのインタビューや町山氏のコラムによると、白人のふりしてKKKの会員証を手にいれたのは事実らしいです(でも映画のようなガチな潜入捜査はしてないっぽい)。それから、終盤でロンはKKKの会合で幹部の護衛を任されるのですが、これも実話だそうです。マジカYO(σ´Д`)σ でも爆破事件はなかったそうな。ウソカYO(σ´Д`)σ

虚実ない交ぜな実話ベースなフィクションといったところですかね。

 

でも、そんな面白楽しい映画の趣がガラリと変わる、大団円からエンドロールまでの一連のリー氏の強くて激しいメッセージに、わたしはガツン!とやられました。

「これを映画として、フィクションとして"消費"して果たして良いのだろうか?」

…と。完全にノックアウトです。

 

ただとりあえずね、スパイク・リー、やっぱり大好きだなって思ったよ。2000年代後半からは雇われ仕事ばかりが目立ってたけど(『オールドボーイ』とかね)、本作で久々に趣味(いやこっちが本業なのか)と実益が合致した感がありますね。

あと、わたしは『マルコムX』がすごく好きなんだけど、そのタイトルロールを演じたデンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントンが父と同じく黒人のヒーローを演じたってのも感慨深かったです。

本作でラストに登場する星条旗は、『マルコムX』のオープニングでX型に焼け残る星条旗を彷彿とさせますし、実話である点も含めてこの二作は共通点が多いと思います。

終盤に「意見の違う人とは寝られない」というパトリスに、ロンが「話し合おう」と語りかけるから「あぁ、リー監督もあの頃よりちょっと大人になったんだなぁ…」とか思ったんだけど、最後まで観たら全然そんなことなくてホッとしました(笑)。

そういえば、本作の製作にジョーダン・ピールの名前があるんだけど、リーの『セレブの種』は早すぎた『ゲットアウト』だと個人的には思ってるので、何となくこのタッグにすごい納得感。

 

 

FILMじゃなくてJOINTだ

アカデミー賞での一挙手一投足も注目されていましたけど、このスパイク・リーという監督はもはや生きざまからして作品みたいなところがあります。

彼は自分が黒人であることを強く意識しているし、そこに誇りを持っている。空気を読まない種々の発言や、服装へのこだわり(なかなかに個性的すぎるよね)からもそれはうかがえます。

授賞式スピーチでも、先祖である黒人たちを称え、「祖母は母親が奴隷だったにも関わらず大学を卒業した。祖母は公的年金を積み立てて私をNYUの映画科を卒業させてくれた」と語っていました。彼は自分が「黒人の映画監督であること」を誰よりも理解していて、それを最大限に利用している人なんですよ。それは自身の作品を「FILM」ではなく「JOINT」と表していることから感じられますよね。

jointは(一応「継ぎ目」って意味)、黒人英語のスラングだと「(映画、音楽などの)作品」という意味もあるみたいなんけどそれだけじゃなくて、他にもたくさんの意味がある単語なんだよね。「いかがわしい場所」とか「やべぇもの」とか。マリファナの隠語でもありますね。

多分、そういう諸々も含めて「俺の作品」ってことなんだろうと思います。そこにはリー監督の美学と覚悟が込められているようにわたしは感じています。

 

だから本作も、リー監督のメッセージとかその生き方抜きでは語れない作品ではあります。何にも知らないで観たら多分びっくりっていうか、引いちゃうかもしれません。特に映画の最後に流れる映像には「映画と関係ないじゃん」と興醒めする人もいるかもしれません。

でも、これは「映画」じゃないから、この人にとって。過去も現在も、実話も虚構も全て一つにつながった「JOINT」なんですよ。

わたしは監督のこの姿勢にボカスカに撃ちのめられましたし、そしてむしろこれこそが「映画」なんだと思いました。

映画とは何か。それは、世界を変えるもの。

…やべぇよ!リーさん、世界を変えるつもりっぽいよ!!

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

目覚めよブラザー!

黒人警官ロンが電話担当、アダム演じるフィリップが実際に接触する担当としてKKKサイドに潜入し、その危険度具合を探っていくというのが主なお話。でも比重は主人公にあるので、バディものって感じはそんなになくて、むしろフリップにもちゃんと「彼の物語」があるんですね。

 

わたしが特に印象的だったのは、差別とは無縁に生きてきた(と思っていた)ユダヤ人のフリップが、自身のルーツについて語るシーンでした。

彼はKKKのフィリップという男からユダヤ人ではないかと疑われ、会うたびにしつこく絡まれていました。そのたびに心にもないことを口にしなければならないフリップは、「バルミツワ(ユダヤの成人式)」もしたこともなく、これまで特に意識していなかった自身のルーツを、意識させられていく。

ロンの名前の会員証を渡されたフリップは、「自分はWASP(ワスプ=ホワイト・アングロ-サクソン・プロテスタント)ではない。こんなものはいらない」と突き返すのです。

この言葉には「ホロコーストは捏造だ」とか「白人には優性な遺伝子が流れている」なんてバカげたことを臆面もなく言う彼らに対して「あんな奴らと仲間だなんてごめんだ」という意味が込められていると同時に、自分のルーツへの誇りも感じられます。

その心境にいたって初めてフリップは、ロンと本当の意味で「二人で一人」になれたんじゃないかと思います。
f:id:minmin70:20190403145357j:image映画『ブラック・クランズマン』オフィシャルサイトより
大切なのは、肌の色や何を信じているかではない。自分のルーツに誇りを持ち、差別主義(者、ではない)を憎むこと。そうして目覚めた者はみな、等しく「ブラザー」なのだ!

KKK幹部のデービッド・デュークを笑い、悪徳警官をやり込めるのはロンたち黒人ではなく、フリップら白人たちなのも象徴的。そこからは「ブラザー」が皆で手を取り合えば、差別主義(者、ではない)なんてなくせる!という明るいメッセージを受けとることが出来ます。

 

 

対岸の火事、ではない。

けれどそんな明るい大団円から一転、ロンとパトリスは思想の相違から別れようとします。「話し合おう」と語るロンの言葉を遮るように聞こえるノック。外へ出た二人が見たのは燃え盛る十字架とそれを崇める白装束のKKKたち…。

その炎は「差別はなくならない」という現実の暗喩であり、「お前たちの戦いは終わってなどいない。仲違いしている場合じゃないぞ」というリー監督の警告のようにも思えます。

そして最後に映し出されるのは、2017年、シャーロッツヴィルでのユナイト・ザ・ライト・ラリーで起きた事件の映像です。差別主義に反対するデモをしていた集団にユナイト・ザ・ライトサイドの車が突っ込み、白人女性のヘザー・ハイヤーさんが亡くなりました。

スクリーンに映し出される彼女の遺影を見ながら、わたしはマルコムXが暗殺された際のキング牧師の言葉を思い出していました。

残念ながらこの国には今も、意見の相違を殺人で解決しようとする人間が大勢いるのです。暴力を用いない解決法を学んでいないのです。

映画『マルコムX』より

人間は進歩していないのか…むしろ退行してるのではないか…そんな暗澹たる気持ちにさせられます。

劇中で、ロンの上司はデュークの政界進出を懸念していました。それに対してロンは「あんな奴が選ばれるはずがない」と返していましたが…現実はどうでしょう?その答えにデュークの口癖を思い出すまでもありません。

 

でも、昔の話でしょ?アメリカの話でしょ?

…本作を観てそう思う人もいるかもしれません。

確かに、わたしも日本に住む日本人なので、きっと本質的には彼ら黒人の受けていた人種差別を理解することはできていないと思います。

でも、それが正しいことでないことはわかる

「虐殺なんてなかった」「生まれた国に帰れ」「日本人が一番優れている」…わたしだって、こんなこと言う人たちと仲間と思われるなんて、絶対にごめんだ。

だからこれは、アメリカだけの話じゃない。日本の、世界共通の話なのだ。

 

十字架の炎はまだ、燃えている。対岸ではなく、わたしたちのすぐそばで。

 

 

 

作品情報
  • 監督 スパイク・リー
  • 原作 ロン・ストールワース『ブラック・クランズマン』
  • 脚本 チャーリー・ワクテル、デヴィッド・ラビノウィッツ、ケヴィン・ウィルモット、スパイク・リー
  • 音楽 テレンス・ブランチャード
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 アメリカ
  • 原題 BLACKKKLANSMAN
  • 出演 ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライヴァー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、マイケル・ブシェミ、ハリー・ベラフォンテ
  • 映画『ブラック・クランズマン』オフィシャルサイト