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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ【映画・感想】ぼくたちの「People in motion」★★★★☆(4.8)

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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(The Last Black Man in San Francisco)

あらすじ

サンフランシスコのハンターズポイントで暮らす親友同士の青年、ジミーとモント。ジミーは幼い頃に暮らしていたフィルモア地区のビクトリアンハウスが忘れられず、今は白人夫婦のものとなっているその家をたびたび訪れては無断で修繕している。

役者志望のモントは脚本を執筆しながら、そんなジミーを見守っていた。

そんなある日、白人夫婦が相続問題の末に家を売りに出してしまう。そのことを知ったジミーはモントとともに家を取り戻す計画を立てる……

 

 

とりあえず宣言しておきますが、この映画は多分、わたしの今年の年間ベストに入ると思います。

それくらい、とてもとても、好きな映画でした。

 

親友同士の二人による渾身の一本

ただこの映画はね、一見すると何をやってるんだかよくわからない映画でもあると思うんですよ。

一応「昔住んでいた家を取り戻そうとする若者の話」という筋はあるのですが、それがいろんな方向に枝分かれして寄り道して、行きつ戻りつつしていくので、「こういう話です!」とスパッと言いきることができない。

 

それから、映画のほとんどが主人公である親友同士の二人(作中では「いとこ」と言われてたけど、それくらい親しいという意味でしょうね)と、二人が見たもの(視界)だけで構成されており、「意図的に」彼らだけにフォーカスしているんですね。だから全体像がよく見えない。

それは映像にも表れていて、時々人物を正面から捉える時があるんだけど、その時被写界深度(ボケ具合)がめちゃめちゃ浅くなるんです。そうすることによって人物だけがはっきりと強調される効果をもたらしますが、背景はボケて見える。

物語としてもいろんな部分で省略がなされていて、物理的にも物語的にも背景があまり見えてこない映画なんです。

 

これはなぜかと言えば、本作が主人公のジミーを演じたジミー・フェイルズ(本作が本格的な映画デビュー作です)の実体験に基づいているからに他なりません。

もっと他の登場人物にもスポットを当ててドラマチックに作ることのできる題材だと思うんですが、おそらくその手法はとらず、あくまでも「プライベートな物語」にとどめたんでしょう。もちろん、サンフランシスコじたいが主役といってもいいくらいとても魅力的に撮られている映画でもあるんですが、それでも映し出されるのは「彼らが好きな場所」としてのサンフランシスコなんですよね。

個人的にはそこにとても惹かれました。

 

主演をつとめたジミー・フェイルズは作中同様、フィルモア地区に家族で住んでいたのだそうですが、祖父の死により自宅が差し押さえられて家を失い、公営住宅などを転々としていたそうです。

やがて10代の頃、本作で監督デビューを果たした、同じくサンフランシスコ出身のジョー・タルボットと出会って意気投合、二人は親友となります。

ジミーから子どもの頃に住んでいた家についての話を聞いたタルボットは、自身があたためていたサンフランシスコの物語と絡めてこの映画にしました。

これは親友二人による、ある意味で私小説的な「生涯に一本」の映画なんですね。

その熱が、ほんとにダイレクトに伝わってくる作品になっていると思います。

 

 

洗練さと青臭さの同居

本作が長編デビューとなったジョー・タルボット監督。その類いまれなセンスは映画の冒頭5分から炸裂しています。

主人公の二人が暮らすハンターズポイントから、思い出の家があるフィルモア地区までスケボーで向かうのですが、疾走する二人と、サンフランシスコの街並みと人の様子をスローモーションで映していくんですね。

そこに躍動感のある音楽と、海岸で演説する男の声が被さり、やがてジミーと家に接写していく……

 

うまく言えないんだけどここだけでものすごい高揚感があって、この最初の5分でもう「この映画好きだな!」ってなっちゃった。

途中二人を服を脱ぎながら追いかけてくる男がいたりして「サンフランシスコ、やべぇな(笑)」ってなったり、二人が足並み揃えてスケボーをこいでて仲の良さが伝わってきたり、演説の内容も重要だったりするし(サンフランシスコの歴史について語っている)、情報量もすごい。

さっき言った被写界深度もそうだけど、全体的にすごくセンスがあって、いかにも「A24ぽい」感じがするんです。

 

ところが一方で妙に青臭いというか、瑞々しい部分もしっかりあって。例えばモントが一人芝居を演じるシーンの痛々しさだったり、地元のちょっとヤンチャなブラザーたちの小競合いの間抜け具合だったり(そもそもあいつらはなんで人んちの前でいつもダベってるんだ笑)。

狙っているところと、ちょっとハズれたところが絶妙ないい味になってるんですよ。

間や外しが独特なので、きっとコメディなんかもとても上手に撮れる監督だろうなと思いました。

 

(本作の前身となった短編『American Paradise』(2017)のトレーラー。30秒ほどですが、ぬーーんと被写体に寄っていくところとか、監督の味がちゃんと出ている気がします。いつかこの短編も観てみたいな)

 

ちなみに、ジミーとモントが住む「ハンターズポイント」は「もはやサンフランシスコではない」とガイドブックに載っているくらい治安が悪いところだそうです(若干のネタバレ?)。

 

 

ひと味違うブラックムービー

ジェファーソン・エアプレインやジョニ・ミッチェルなどの楽曲を用いた、ヒッピー文化やブラックミュージックみを感じるサントラもめちゃくちゃ良くて、特にエンディングや予告編で印象的に使われているのが、その名もズバリなの名曲「San Francisco」(邦題は「花のサンフランシスコ」)です。

 

この歌はもともとヒッピームーブメントの中で生まれた曲で、サンフランシスコで開かれたモントレー・ポップ・フェスティバルのテーマ曲として作られました。

ヨーロッパでも若者の間で流行し、1968年のチェコでの民主化運動で歌われたりもしました。

その「プラハの春」を題材にしたミュージカル映画『プラハ!』でもエンディングで流れますね。

 

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日本でもペドロ&カプリシャスとか、いろんな人がカバーしてるんだけど、本作では黒人シンガーのマイケル・マーシャルが歌っています。

なんともブルースを感じる素敵なアレンジになってるんですよね。

上のMVを見ればわかる通り、歌詞の中の「People in motion」ってなかなか訳しづらい部分をブラックエンパワメント的な解釈で捉えているのがわかります。「gentle people」が何度も繰り返されるのも象徴的です。

 

ある意味で本作もブラックエンパワメント的な、ブラックムービーとして捉えられるかもしれません。

ただこれまでと違うなとわたしが感じたのは、主人公たちはいわゆるブラックコミュニティの青年じゃないというところ。むしろそこから外れてる、そこにも入り込めない人たちなんですね(ちなみに監督のジョー・タルボットも黒人ではありません)。

自分の家の前でたむろしてる同世代のいかにもなブラザーたちの仲間に、入りたくても入れない。かといって他のコミュニティに属しているわけでもない……。

 

そういった、主人公たちの「どこにも居場所がない」疎外感が「思い出の家」に執着していく理由の一つにもなっていきます。

その辺の描き方はやはり、新世代の映画だなぁという感じがしましたね。

 

 

ジェントリフィケーションと「居場所」探し

わたしは本作の試写のアフタートークではじめて「ジェントリフィケーション」って言葉を知ったんですけど、日本語で訳すと「地域の高級化」「都市の富裕化」などと言われます。

元々は低所得層の居住地域だった土地が、都市開発や産業発展によって地価や賃料が上がり高所得層が流入してくる現象のことで、もちろん経済活性化や治安向上などのメリットもありますが、これまでそこに住んでいた人たち、その場所にゆかりのある人たちが追い出されていく(金銭的に住めなくなる)という由々しき事態を招いています。

これは世界的にあらゆる都市で起こっていることで、本作の舞台であるサンフランシスコも例外ではありません。

 

サンフランシスコは開拓の遅れていた地域だったとされていて、1840年代後半のカルフォルニアゴールドラッシュで賑わいを見せた土地です。交易も盛んで、その頃から多くの移民労働者が移り住むようになり、多様な文化が入り雑じる特有の土地柄になっていきました。

ジミーの思い出の家があるフィルモア地区は戦前、主に日系人が多く暮らしていた地域だったそうです。真珠湾攻撃以降住民らが次々と収容所に送られてからは、黒人たちが多く住むようになり「西のハーレム」と呼ばれるほどに大きなブラックコミュニティを形成するほどになりました。

しかし近年は近くに位置するシリコンバレーのIT企業の発展が進み、それにともなって家賃価格も上昇、富裕層の街へと変わっていきます。

劇中で低所得者のアパートが火事(家主の放火を匂わせるようなセリフがあった)に見舞われていたシーンがありましたけど、さまざまな事情で物理的に立ち退かざるを得ない人も多く、ホームレスが増えていることも社会問題化しています。

 

作中に登場する思い出の家が400万ドルで売りに出されていましたが、現実にもあれくらいはザラなんだそうです。普通の人は手が出せませんよね。

ご存じの通り欧米は日本と違って新築よりも中古住宅の取引が多いのですが、特にあの地域のビクトリアンハウスは歴史的価値も高いことから億単位の価格になるんでしょう。

 

その「思い出の家」に執着するジミーは、家をどこか神格化しているようにも見受けられます。

彼にとってあの家は「幸せだった頃の象徴」であり「心のよりどころ」でもあるんですよね。プライド、あるいはアイデンティティーそのものになっている(それはサンフランシスコの街に対しても同じこと)。

 

それから、ジミーは介護施設でケアワーカーとして働いていますが、ケアしているのはハイソな老婦人でした。これもある意味で「ジェントリファイ」されているような状態なんですね。

家も仕事も、地域のコミュニティも「居場所」じゃない。

本作はそんな、精神的にも物理的にもジェントリフィケーションされた青年が、自分の唯一のよりどころを探す青春物語なんです。

でもこれ、今の日本(だけじゃないけど)の若者たちが抱えているものと近いものがあるように思えるんですよね。

 

大人になるということは、もしかしたら自分の居場所を見つけるための旅なのかもしれません。

きっとそれこそが、「gentle people」としての「in motion」なのかなぁ、なんて……。

 

とても個性的で私的でありながら普遍的なマインドを感じられる、鮮烈な長編デビュー作でした。

 

 

本作のサントラ。音楽を担当したのは本作が初の長編映画となるエミール・モセリ。どこまでもフレッシュな作品ですね!

(面白い使われ方をしていた、ジェファーソン・エアプレインが入ってないのがちと残念!)

 

 

作品情報
  • 監督 ジョー・タルボット
  • 脚本 ジョー・タルボット、ロブ・リヒャート
  • 製作年 2019年
  • 製作国・地域 アメリカ
  • 出演 ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー