あらすじ
クラス中からいじめの標的とされているリン・シューウェイ。頼みの担任教師は助けてもくれず「関係を改善してみたら?」となぜかリーダー格のいじめっ子らと共にボランティア活動を命じるのだった。
しかもその先で謎の人喰い怪物に襲われてしまうシューウェイたち。逃げ惑いながらもそのうちの1匹を捕獲した彼らは、自分たちの溜まり場にその怪物を監禁し「実験」と称していたぶりはじめる。そのおかげでシューウェイはいじめから束の間解放されるが、彼らの行為は次第にエスカレートしていき…
この間感想を書いた、『キラーメイズ』と同じく昨年のシッチェス映画祭関連で観たかった一本。
やっばい!!これ、超好き!!!
これはね、めちゃくちゃ面白いです。こんなゴミみたいな駄文を読んでないで、みんなさっさとTSUTA屋さんに行くんだよっ!!
ホラーコメディと見せかけたダークなストーリーが最最最最高!
予告編を観た感じだと、やんちゃな高校生VS怪物なホラーコメディといった印象だったのですが、蓋を開けてみたら、いじめを題材にしたかなりエグめな闇(病み)青春映画だったんでびっくりですよ。
もうね、主人公シューウェイに対するいじめがエゲツなさ過ぎて最初からゲンナリ。そしてその後の先生の対応もクソ過ぎて更にゲンナリ。それからその後のいじめっ子たちの老人たちへの仕打ちと、最初は戸惑ってたシューウェイが徐々に笑顔になっていくのにも、もうゲンナリに次ぐゲンナリ…。
それを早いカット割りや早回しを使ってセンスよく撮っていくので、観ているこちらに妙な高揚感を与えてくるんですよね。目にしているものはかなり胸糞悪いのに、演出や演技のおかげで思わず「フフッ」て笑っちゃうのが実に居心地が悪い…。
しかも、前半までは鬱屈としながらもはつらつ(?)とした高校生たちを描き、「いじめっ子といじめられっ子の交流」のような体で話は進んでいたのに、ショッキングで露悪的な体育館のシーンからの一転、予想していた展開を一気に裏切り「人の醜さ」を容赦なく描いていくので、二重に驚かされました。
…なんて嫌な映画なんだ…(最大の賛辞)。
わたしは本作を観た後、監督の有名な前作
をあわてて観たんですが、実はこの人すんごい歪んだ青春時代を過ごしたんじゃないの?ってなんかいろいろ不安になった…(苦笑)
以下ちょいネタバレ。
センスのよいグロ描写が最最最最高!
まずオープニング。怪物の姉妹が浮浪者っぽい男を襲うのですが、その時に姉が心臓だか肝だかを妹に笑顔で渡すんですね。それを受け取った妹はとても嬉しそうに血みどろのそれを頬張るんですわ…。
生々しくグロテスクでありながら、なんだかほっこりしてしまうこの最初のシーンで、すっかり心を鷲掴みにされてしまいました。
体育館でクソ女教師が死ぬシーンも、いきなりその直前で下血(いや脱糞か?苦笑)するのも驚きと笑いと怖さが一気に押し寄せる感じだったし(生徒が一斉に笑いながら写メ撮るのがまためちゃくちゃ露悪的)、大怪物がスクールバスを襲撃するシーンではミキサーとまさかのコラボレーションで100%人間スイカジュースを完成させるし、選曲(YEN TOWN BANDのmyway)の効果もあって妙な爽快感がクセになります。
全体的にセンスがあってテンポがいい。音楽の乗せ方も、ちょっとMV出身者っぽいコジャレ感があるような気がしました。
独居老人たちの巣窟(とあえて言いたい)とかいじめっ子のボスたちのたまり場とかもそうなんだけど、猥雑としていながらもあんまり汚くは感じないし、小怪物に被せる鳥かごや、金属のくつわもどこかかっこいい。無駄にハイセンス。
そうそう、大怪物役の方、素顔はきれいなお顔されてるんですね~。
第30回東京国際映画祭 | 『あの頃、君を追いかけた』監督、美人女優にモンスター役のオファーをなかなか言い出せず… 『怪怪怪怪物!』
不気味なのにコミカルな動きがとても良かったです。妹を求めて泣き叫ぶ姿には思わず心震えましたよ…。
あと、元国民党の軍人のおじいちゃんも最後怪物退治に一役買うのかと思ったのに、あっさり死んでて笑った。
オチが最最最最高!
あとはもうとにかくね、オチが好きすぎた。
怪物への「いじめ」に荷担することで、徐々にいじめっ子のボスとの距離を縮めていくシューウェイ。けれども先生殺害に関与した(水筒に怪物の血を入れた)自責の念にかられ、また、ボスたちが自分を仲間とも友だちとも思っていないことを悟り、大怪物にボスを襲撃させる。そして、最後まで味方でいようとした小怪物も、自分の身を守るために殺してしまうのです…。
彼はずっと「俺はお前と違う」と言い続けていました。「お前」とは、教室外に机ごと「排除」されている女生徒、怪物、商店の知的障害の息子、いじめっ子たちのこと…シューウェイは、自分が倫理観のある、「まともな」人間だと思っていたんです、ずっと。
でも彼は、ボスや怪物たちを殺して自分だけが生き残ったことで、本当は自分が誰よりも愚かで醜悪で残酷な人間であったことを痛感したのでしょう。この世には「悪い人間とバカしかいない」と。そして、それはどうあがいても変わらない。…だから彼は最後の最後に、あの残酷な行動に出るしかなかったんです。
シューウェイが最後に取った行動は確かに絶望的で最悪の結果だったかもしれない。
でも、わたしは全身を火だるまにしながらガッツポーズをかかげるシューウェイに、思わず拍手を送りたくなりました。
なぜなら彼のあの行動は、わたしがかつてやろうとしてできなかったことだったから。そのことに気づいた時「天罰が下るのを待っている」という内容の主題歌が胸に突き刺さり、涙が溢れました。
人間は醜くて愚かで、世界はクソッタレだ。なんでわたしはまだこんな所に生きているんだろう?
最最最最後に
と、かなり絶賛してますが、後半無駄な回想シーンがあったり、大怪物がシューウェイたちに照準をあわせるきっかけが無理やりに感じたり(校章を落としてしまって~とかの方が自然だったきがする)と、いくつか気になるところもあったことも確かです。
でも、胸をうつエモーショナルなエンディングに完敗。本当に大好きな映画になりました。
いじめを題材にした青春グロ映画ってなわけで、なんとなく昨年公開の邦画『ミスミソウ』をちょっと連想したんだけど、ただわたしは原作から乖離したあのラストに不満があった(それ以外は面白いです)ので、本作の被害者側に寄り添いながらもフェアなオチには大変満足いたしました。素晴らしいです。
「君はいつでも僕を殺せる。でも僕が君を殺せるのは今だけだ」
ゾッとするほど良いセリフですな~。
余談:ふと思ったんだけど、あのガン無視されてた女生徒って、もしかしてもうこの世のものではなかったりしない?そういう意味でも「わたしみたいになって欲しくない」「お前は俺と違う」だったのではないか、なんて…。
ゾゾゾゾッ!
作品情報
- 監督 ギデンズ・コー
- 脚本 ギデンズ・コー
- 音楽 クリス・ホウ
- 製作年 2017年
- 製作国・地域 台湾
- 原題 報告老師!怪怪怪怪物!/MON MON MON MONSTERS
- 出演 トン・ユィカイ、ケント・ツァイ、チェン・ペイチー、リュウ・イーアー、リン・ペイシン