あらすじ
人間の体を複製してその生命と記憶を奪い、そのたびに姿形を変える謎の生物。しかし最近では体の腐敗するサイクルが短くなっており、次々と人間を殺して生き延びていた。
そんな「彼」にも「愛」の記憶があった。一つは自身の母の、もう一つは乗っ取った男の妻への思い。「彼」は男が愛していた妻ジュリアに、姿を変えて何度も会いに行く。やがてジュリアと結ばれる時が来るが、「彼」の命の終わりも近づきつつあった…。
「未体験ゾーンの映画たち」の一作。オンラインで観ました。
「ジェームズ・ワンが泣いた!」(だっけ?)みたいなキャッチフレーズがついておりますが、
それも伊達じゃないくらいの良作でございましたよ!!
やっぱりこういう素敵な作品を拾い上げてくれる未体験ゾーンさん、ほんと有難いなぁ。
「スキンウォーカー」って?
邦題の「スキンウォーカー」とは、ネイティブアメリカンに伝わる伝承の一つで、シェイプシフター(様々に姿を変える怪物的なもの)の一種。UMA好きの方ならご存知かと思います。
こんなやつ
伝説のスキンウォーカーか、それとも狼男か?不気味な獣人と遭遇した青年! | ATLAS
※注(3/6追記):訂正 すみません!! ↑この画像は『エクストロ』というSF映画のワンシーンを加工したフェイク動画で、スキンウォーカーとはなんの関係もないそうです(;´д`)(ino様ご指摘ありがとうございます!)
情報リテラシーと映画リテラシーの低さを露呈しておりますが、このまま消さずに残しておきますね…申し訳ありません…(-人-;)
(↓とりあえずこの映画はめっちゃ面白そう…日本版は高値過ぎるので輸入版の購入を検討中)
ちなみに、伝説ではスキンウォーカーは身内を殺すことでその能力が得られるとされています。
本作の怪物が「スキンウォーカー」であるという説明はありませんが、主人公が最初に取り込んだ(変身した)のは母だった、と語っており、モチーフとしていることは間違いないようです。
(あと、わたしはあんまり詳しくないけどハリポタの原作者のJKローリングさんは、「(このスキンウォーカー伝説は)ハリポタの世界では非魔法使いの人間が勝手に広めたデマということになっている」といったことを言ってます。世界観の構築に余念のないローリングさんらしい発言ですね)
また、姿を変えた人間の記憶は上書きされるのではなく蓄積されていくらしいことも、本作の怪物の特徴。
そのため、過去に姿を変えた男の「妻への深い愛情」を「自分のもの」として取り込んでしまい、一人の女性に執着するようになっていきます。
脳を食べた人間の記憶を取り込むゾンビ、みたいな感じか。
怪物は悲哀を背負う
いわゆるフィクションの中の「怪物」というのは、フランケンシュタインや半魚人を例に出さすまでもなく、その姿形から忌み嫌われる存在として描かれることが多いですよね。
しかし、「怪物」に生まれて「しまった」だけであって、それがそのまま「悪」とされる理由にはならない。
本作の怪物も、自分が望む望まないに関わらず、生きるために他者の命を奪うしかないからやっているわけで、それは普通の人間が他の生き物を殺して食べることと、実は大差がないのかもしれない。
ヒロインに(怪物とは知らなかったにせよ)「あなたの存在は悪ではない」と言わせていることからも、そういった「怪物」の悲哀に共感している人が造っている映画なんだなと思います。
(監督のジャスティン・マコーネルさん、2011年の『クレイジーワールド』しか観たことないけど、ほぼ記憶に残ってない…多分そこまで面白くなかったのかもしれん…ごめん…)
そんな怪物の悲哀が結実して「しまう」クライマックスがあまりに切なくて涙が溢れるんですが、それよりも何よりもその果てのラストシーンのビジュアルが、ギョッとするほどグロテスクなのに、ハッとするほど美しくて、もう失神しそうでした。
取り込まれた人間の「ザ・シカバネ」的な造形もおどろおどろしくてとても良いです。正体がバレる?バレない?スリラーとしても一興。
とにかく、性癖に刺さる感じで好きな映画でしたね~。「面白いから観て!!」というよりは「好きな人は絶対好きだから観て…」と控えめにおすすめしておきたい感じ。
怪物とのラブストーリー『モンスター変身する美女』、謎の生命体の自分探し『アンダーザスキン』、昨年のわたしのベストだった『ボーダー二つの世界』なんかが好きな人は、きっとはまるんじゃないかな。
人知を超越した神秘性はもろにクトゥルフ神話の影響も感じますし、あと、多分クローネンバーグ要素もありますね。
5月にDVDが出るらしいのでご興味のある方は是非チェックしてみて下さい!
…と思ったらね、日本版のあんまりなジャケットを見て(-ω-)←こんな顔になってます。
どうか、TSUTA屋さんで見つけても「B級ww」とかスルーせずに是非お手に取っていただきたいです(-人-;)オネガイ
ジャケ詐欺にもほどがある(泣笑)
以下ネタバレあり。
愛を知った怪物は。
人の体と記憶を奪い生きる生物。生命力を吸いとられ屍と化した人間の死体を解体して燃やし、農場の納屋(おそらく昔取り込んだ人間の持ち物だったのでしょう)に捨てることで正体を隠しながら長年生きながらえていたのであった。
しかし取り込んだ体は長くは持たず、数日で腐敗が進んでしまう。特に最近はそのサイクルが短くなっており、かつてより多くの人間を殺さねばならなくなっていた。
さて、そんな「彼」は姿が変わる度に立ち寄る場所があった。町外れの場末のバーである。そこにはジュリアという女性がいつも一人で飲んでいる。
彼女はかつて取り込んだ男の愛する妻で、「彼」はその記憶からジュリアを愛するようになっていたのだ。愛を知った怪物は、なんとか彼女に近づこうと試みる。
やがてジュリアに近しい人物を取り込むことにより、彼女との親密な時間を過ごすことになるが、同じ頃、納屋の死体が発見され警察が事件として捜査をはじめる。
いよいよ八方塞がりとなった「彼」は、腐敗がはじまると本能のままに触れたものを取り込んでしまうため、ジュリアを守るためにも正体を明かすことを決意するが…。
と、ここまで書いてしまうと多分もうお分かりですが、怪物は結局、愛する(と思い込んでいる)ジュリアを取り込んでしまいます。
そう、これはもう生きようとするための「本能」なんですよ。自分では止められない…。悲しすぎる。
愛する彼女の姿になってしまった怪物の絶望たるや…。その絶望を抱えたまま彼はこの愛する人の姿で命を終えようとするのです。
しかし。
そこで終わらないのがこの映画の面白いところ。生命の神秘は、そう単純ではないのです。
我々はどこから来てどこへ行くのか?
怪物は体が腐敗し終わると、まったく別の存在に変わるんです。体をなにやらぶよぶよした肉みたいなもの(子宮の暗喩だろうか)に覆われて。
海外版ポスターが蝶を思わせるビジュアルなのも納得。要はアレは「なさぎ」なんですね。
そして、その「さなぎ」からどんな蝶が出てくるのかと思いきや…ここで1954年生まれの設定生かしてくるんかいっていうね(笑)。いや、笑うところじゃないんだけど。
おそらくあの「さなぎ」から出てきたのは「彼」の本来の姿だったんでしょう。
でも結局「彼」がなんだったのか、誰にもわからない。
ただ、ラストの主人公の「自分がどんな存在なのか誰にもわからない」という独白がじんわりと染み入ります。
誰も、本当の自分は何者なのかわかってない。なぜなら、「生命がどこから来るのか」わたしたちは知らないから。
「我々はどこから来てどこへ行くのか?」
切なくて悲しい反面、生命の神秘も感じさせる不思議な映画でした。
作品情報
- 監督 ジャスティン・マコーネル
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 カナダ
- 原題 LIFECHANGER
- 出演 ローラ・バーク、ジャック・フォーリー