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リベンジ 鮮血の狩人【映画・感想】眠れる森の赤ずきんvar2.0★★★★(4.0)

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あらすじ

新築住宅の建築現場で監督を努めるイヴは、最近仕事がうまく行かずストレスが溜まり気味。恋人からの連絡もなおざりに、気晴らしにバーへと出向く。そこで、絡まれたところを助けてくれた男と意気投合しワンナイトラブ決め込む。だが、突如男が豹変。そいつは女性を拉致して凌辱動画を撮るのが趣味という変態野郎だったのだ!仲間の男も加わり、イヴは車のトランクに押し込まれてしまう。

しかし、途中の山道で車が事故に遭い横転、イヴはなんとか森へと逃げ込む。男たちも逃げたイヴを追い森へと分け入る。彼女が生きるために自然を味方に付ける術を本能的に学んでいく一方、男たちは仲違いを始め、次第にその立場は逆転していく……。

 

 

「なんじゃこりゃ!?」

が、正直な感想。はっきり言って、意味がわかりません(爆笑)。この支離滅裂さはなかなか出会えないレベル。凄いですよ。

しかも何が凄いって、こんなわけのわからない話なのに、ちゃんと面白いというところ。まごうことなき珍作良品な逸品です。

 

話の大筋はレイプされかけた女性が森の中を逃げ惑う、ただそれだけ。それなのに細部が「そんなことある!??」の連続で、それなのに妙な推進力があって、なんかもう力業でねじ伏せられちゃう感じ。

だってさ、男らが酒を回し飲みしてる時に主犯の男(A)が、酒瓶の口元を拭った仲間の男(B)にぶちギレて「俺にキスしろ!」ってキスさせて、そしたら車の前にイノシシが飛び出してきて事故るんだよ。いやいやいや……

「そんなことある!??」(大笑い)

あとね、イヴが助けを求めるコンビニ店主が中国語をなんかよくわからないYouTubeで独学で学んでるって設定で、即死ぬ役なのに何そのキャラ立ち?(笑)

序盤と中盤に出てくる親子も「終末の時に備えて時々サバイバル生活をしてる」という設定。え、それ必要?(笑)

終盤には男Aと女が追いかけっこしてる周りでサバゲが始まって辺りが煙だらけに。いやお前たちも何事もなかったようにカラーボール撃つな!(大爆笑)

そんな感じなので、(ジャケもジャケだし)良くあるB級かと思われるかもしれませんが、これがね、実はしっかりとしたテーマ性を内包してるんですわ……(多分)。

 

 

自然は生存本能に味方する

男たちは女に顔を見られたので殺そうとしている。女は生き延びるため自生しているベリーを食べ、枯れ葉にうずくまって眠る。男はチョコバーを食べ、ゴミを川に投げ捨て、殺し合いを始める。どこまでも対照的に描かれる両陣営。しかし、やがてその立場は逆転していく。原題が『Hunted』であることからもわかる通り、追うものは、追われるものへ。狩るものは狩られるものへ。その攻防が描かれていくのです。

 

主人公の赤いパーカーから「赤ずきん」を連想されると思います。男=狼に襲われる女=赤ずきんちゃんという構造を取れば意味合いとして全く当てが外れているわけではないのですが、ただ本作だとその構図は一筋縄ではいかない。

 

序盤、森でサバイバル生活をする親子の母親がこの森には狼がいたと語りますが(この影絵アニメがめちゃめちゃ良い!)、それは「森に住む女が自分を殺そうとしたエセ宗教家を狼を使って殺した」という本当か嘘かわからない言い伝えなんですね。

この場合のは「自然」や「野生」そのものの比喩であるのでしょう。「森の女」は狼=野生を味方につけ、敵を討つ。

本作の主人公であるイヴ(これまた象徴的な名前だ)もまた、自然を味方につけることで生存本能を研ぎ澄まし、それを強化していく。後半はもう生き残るために必死ですよ。最後には文明社会から遠く離れて完全に野生化してしまいます。 

ちなみに、邦題のサブタイトルにある「狩人」は、赤ずきんちゃんにも登場する主要な人物ですが、本作でその役割を担うのは、サバイバル生活を送る母子の息子でしょう。彼は狼を殺し赤ずきんを助けた狩人よろしく、矢で男を射抜く。彼は男性性における良心とも言える存在なのかもしれませんね。

てか殺された母親が電気ショック受けてゾンビのように蘇るシーンもだいぶおかしかったな!

 

「性」を失い暴走する加害性

一方、男Aはこれまでに何度も女を拉致し凌辱する様子を撮影していて、たまたま出会ったイヴをそのターゲットにしたわけですが、しかし、イヴが車で股関に触れた時に勃起していなかったところを見ると、おそらく性的には不能で、その代替として撮影を行っているのではないかと思われます。彼のカメラはおそらく「男性性」の象徴なのですね(なので壊されて慌てふためく)。

Aは自分自身で女性を犯すことは叶わないので、実際にレイプ行為に及ぶのはB(おそらくこいつは最近仲間にさせられただけで、前回の相棒とは違うのだろうと思う)なんだが、AとBは主従の関係にあって、前述のキスの件からしてそうだけど、その関係性はだいぶ歪んでる。

男から「性」を抜くと、その欠落部分を加害的な行為で補おうとする、というのは多くのフィクションで描かれていることではあります。Bが大ケガを負い、女性器のようにぱっくりと空いたその傷口を恍惚そうに見つめていたAを見ると、彼はもはや「性」には欲情せず、暴力そのものに引かれてしまっているのかもしれない。

しかし、男らしさ=カメラを失ったAはほうほうのていで逃げ出すことしかできない。

 

生き延びるために

あと、面白いなと思ったのは、最終決戦が家=住宅展示場という、森とは対照的な場所で行われるということ。森や自然、野生を女(森は魔女が住むものだ)とするならば、家や文明は男(イエ制度や家父長制)とも言えます。

2人は家を荒らしながら格闘を繰り広げるが、優勢となった女に首を締められながら男は最後、「謝ったのに」と繰り返す。

ふざけるんじゃねぇぞ?(笑)

女は決してその手を緩めない。やがて男は息絶える。そうして言い伝えと同じく、生存本能を味方につけた女が、「狩り」に勝つ。

女は、攻撃しようとした者を許さなくていい。むしろ反撃するべきなのだ。生き延びるために。

 

なんだか過激な決着に落ち着いてしまいましたが(笑)、変な映画を観たいという方には全力でおすすめしますよ。とりあえず衝撃の事故シーンはいろんな人に観て欲しい……。

 

 

 

作品情報
  • 監督 ヴァンサン・パロノー
  • 脚本 ヴァンサン・パロノー
  • 製作総指揮 ヨアン・コント、ノリオ・ハタノ、ジョン・ケヴィル
  • 音楽 オリヴィエ・ベルネ
  • 原題 HUNTED
  • 上映時間 87分
  • 製作国 ベルギー/フランス/アイルランド
  • 製作年 2020年
  • 出演 ルシー・ドゥベ、アリエ・ワルトアルテ、キアラン・オブライエン、ライアン・ブロディ、シモーン・ミルスドクター