あらすじ
親友同士のモリーとエイミーは高校の卒業式を明日に控えていた。不真面目なクラスメートを尻目に、勉強一筋でイェール大に合格したことを誇りに思っていたモリーだが、実は遊んでいるだけだと思っていた同級生もしっかり有名大や有名企業へ進路を決めていたと知り愕然。
「わたしたち、勉強しかしてない!!」
モリーは高校最後にハジケた思い出を作ろうと、エイミーを巻き込み卒業前にイケてるグループのパーティーに潜り込みもうとするが、住所がわからずパーティからパーティへ街をさ迷うことに!
二人は無事、目的地にたどり着くことができるのか?!
とりあえず、この映画……
最高です!!!
下ネタ満載でめちゃくちゃ笑えて、でもちょっと胸が痛くなって切なくなって、思わず涙が溢れてきて……でもやっぱり最後は笑顔になれちゃう。そんな青春コメディの王道を行く作品。
……なんだけど、「今までありそうでなかった」映画になってるんですよね。
『スィート17モンスター』や『レディバード』(モリー役のビーニー・フェルドスタインも シアーシャ・ローナン演じる主人公の親友役で出演してました)、未見ですが昨年の『エイスグレード』など、若い女の子たちを主人公にした青春映画のヒット作が続いていますが、その流れとも明らかに違う。
Netflixの『エンド・オブ・ハイスクール』も割りとハチャメチャコメディだったけど、あれはリア充寄りだったし……。
本作は女子版『スーパーバッド 童貞ウォーズ』とも呼ばれてる通り、主人公の女の子二人は非モテ・非リア充のガリ勉(タイトルの「ブックスマート」の意味)で、イェール大とコロンビア大に行くくらい頭はいいんだけれど、しょっぱなから家の前でいきなり踊りはじめたり、Fワードを連発したりして(自慰の仕方について話したりもする)、やってることや会話はなかなかおバカな感じなんですよ(笑)。
こういう下ネタ全開のおバカコメディって、どこか男の子の専売特許みたいなところがあったような気がするんですよね。
前述のスーパーバッドもそうですけど、『ゾンビワールドへようこそ』とか『ナポレオンダイナマイト』とか『超能力学園Z』辺りもその系譜なのかな。
非モテがドラッグをキメて大失態するとか、パーティで羽目を外して大騒ぎとか、やってることは多分数多ある青春コメディと同じなんだけど、配役を女の子二人に変えただけで見えてくる世界がこんなにも違うんだ、というのは実感として素直に驚きました。
いやほんと、なんだろう、見たことがあるのに見たことない、って感じ。ほんと面白かった。
観賞後の感覚は『LOVE、サイモン』に近いものを感じたなー。清々しくて前向きになれる青春映画って感じでしたね。
監督はドラマ『The O.C.』に出演していたオリヴィア・ワイルド。これが監督デビュー作。プロデューサーにはウィル・フェレル、アダム・マッケイが名を連ねています。
年代もジャンルも限定しない個性的な楽曲セレクションも印象的でした (音楽を担当したのは、カリフォルニア出身の日系3世のプロデューサー、ダン・ジ・オートメイター。ヒップホップ好きの方には有名みたいですね)。
勝手なイメージだけど、オリヴィア・ワイルドなんてキレイ目の美人さんだから、きっと若い頃も「ザ・リア充代表!」な人生だったろうなと思うわけ。でも、こういう非モテの女の子の映画を、嫌みなく等身大で描いたってことにちょっと驚くよね(脚本は四人の名前がクレジットされてるけど、まったく破綻がない。うまくまとめたなぁ)。
おそらくだけど、オリヴィア監督は作中で「トリプルA」って呼ばれてる子の位置だったんじゃないのかなと思った。その場所から非モテだけど親友がいて毎日楽しそうな同級生を羨ましく見ていたのかも……。
そうじゃなきゃ、主人公二人をあんな風にキラキラ輝かせられないよ、きっと。
以下、ちょっと映画の内容に触れながら感想を綴っていきます!
公開前なので核心に触れるネタバレはしていませんが、まっさらの状態で鑑賞したい人は読まない方がいいかも~
(内容は)普通なのに(価値観が)新しい
まず、主人公の二人。モリーとエイミーを演じたビーニー・フェルドスタインとケイトリン・デヴァーって、キュートだけれど、決してザ・主役!美人!ってタイプの子たちではないんですよね。ぽっちゃりちゃんと冴えないちゃんのコンビで。こういう配役、特に最近のトレンドになってるのかなって感じます。
ちなみにエイミーは2年前に同性愛者だということをカミングアウトしてるキャラクターなんだけど、それについて誰も気にもとめてない。からかったりする子もいない。
つまずきや葛藤の要素はすでに取り払われてる状態からスタートしてるんですよね。
あと、個人的にめちゃくちゃびっくりしたのが以下のシーン。
ガリ勉生徒会長モリーがトイレで用を足していると、モリーがトリプルA(性的な「サービス」が上手い=ビッチってこと)と揶揄していた女子とその友人の男子二人が「モリーとはヤれる、性格は最悪だけど」「絶対ムリ~!」「アイツのアソコには成績表が入ってるんじゃね?」なんて彼女の悪口を言ってます。
腹に据えかねたモリーが個室から出て来ると男子二人は口をつぐみ……
……え?
ちょっと待って。
もうね、わたしなんかアラフォーのおばちゃんだもんで、一瞬なんだかわかんなかった(笑)。要するに彼らが入っていたトイレはジェンダーフリートイレなんですよ。
(今どきの)悪口は女子トイレで起きてるんじゃない!ジェンダーフリートイレで起きてるんだ!!
いやー衝撃。びっくり。
前述した『LOVE、サイモン』でもジェンダーフリートイレは出てきてたし、多分他の映画でも観たことあったけれど、それはやっぱりトランスジェンダーの子が入る、とか、なんらかの意図のある描写で出てくることがほとんどだったと思うんですよね。こんな風に自然に出てくるのを観たのは、わたしは初めてでしたね。
いやー、時代は変わっていくね~。
些細なことかもしれないけど、そういう新しさに溢れている作品でしたね。
それから、モリーは最年少最高裁判事を目指してると公言してて、エイミーは卒業後はアフリカのボツワナにボランティア活動に行く予定っていうのも、なんかいいよね。
彼女たちの未来って、わたしたちが生きてきた過去とは全然違う。何者にもなれる自由がある。努力して勝ち取るわけじゃなくて、道はすでに開かれてるんですね。
眩しいなぁ。
二人なら大丈夫
モリーとエイミーの関係性もめちゃくちゃ素敵。二人が本当にお互いを大切に思ってるのがほんと伝わってくるんですよね。
例えば、
パーティに行くためにおめかしするんだけど、その時お互いの格好を見て、
「かわいすぎて息ができない!」
「冗談でしょ、その輝きはなに!?」
みたいなことを言うわけ。
お前らまじでかわいいかよ。
モリーが自信を失くして「わたしなんて」とか言うものなら、エイミーは平手打ちをくらわし
「わたしの親友を悪く言うなんて許せない!」
とか言うわけ。(てかその前にまず平手な(笑))
こういうの、ほんと好きすぎる。
パーティに乗り込む直前、お互いに手をぎゅっと握って
「愛してる」
とか言うのもさぁ…ほんとに……、、
最高かよ。
一生のお願い、を言うときの合言葉が「マララ」(もちろん元ネタはパキスタンのマララ・ユスフザイさんでしょ)なのも、なんかおかしいけど、こういう二人だけに通じるものがあるというのってすごく羨ましい。
そんな二人だけの世界にいた彼女たちが夜の街に繰り出して、お互いのこと、自分のことを見つめ直して成長していく。
パーティや遊びは楽しくて、同級生たちも自分たちが考えてるような人たちじゃなかった。冒頭でモリーが「奴らは負け犬、アホどもにギャフンと言わせてやりましょう」なんて語る自己啓発CDを聞いていたけど、負け犬なんて、アホどもなんて、どこにもいなかった。
「ブックスマート」の殻を被って、世界を閉ざしていたのは自分たちの方だったと気づくわけです。
やがて二人は、そんな新しい世界(パーティ会場)で、いずれはお互いからも「卒業」しなくちゃならない現実を悟る。
モリーもエイミーも、自分の進むべき道のために一旦は離ればなれにならなきゃならない。
この夜は高校の卒業前夜であり、友情の卒業前夜でもあったんですね……。
でもラスト、しんみりと終わらせるのかと思いきや、そうきたか!な終わり方に「この映画好きダナー!」と思った。
湿っぽくなくてあっけらかんとして、かわいいものと美味しいものと楽しいことが大好き。こういう女の子の友情、ほんと最高だよね。
個性的で愛おしいキャラクターたち
それから、クラスメートの面々も超個性的(過ぎる)。
昔の笑い飯か?というくらい髪の長い男子、ハデハデの車で登校してくる男子と奇行気味のセレブ女子、リフト(Uber Eatsのタクシー版みたいな)を副業にしてる校長、スムージー店を出禁になった教師に、空気読まない演劇部コンビ……ほんとどうかしてるなってくらいキャラがたってて、もうね、普通の子がいない(笑)。
エイミーが思いを寄せるライアンて女の子もボーイッシュなメガネっ子だったり、モリーが密かに好きだった学校の人気者ニックもカッコいいというよりお調子者な感じで(あれ、そういやアメフト部とかチアリーダーとかいなかったな←こういうこと言うのが古いんだってば(笑))、主要キャラになるような子たちもこれまでにない感じがしましたね。
その、モリーとエイミーの思い人である二人が実は……、というのも面白い着地だなぁと思いました。
前述のトリプルAちゃんも、嫌な子とかでは全然ないんですよね。彼女には彼女なりの本心があったりするわけで。
とにかく、いじめっ子みたいな悪役キャラが一人もいないんですよ。だからめちゃくちゃストレスフリーだし、見終わった後はキャラクター全員が愛おしくなる。
頑張れ、若者!って感じですよ。(何様)
生きているあかしだね、世の中がすこし見えたね
あとこの映画、確かに「価値観の新しさ」は感じるんだけど、それは多分わたしがまだ古いスタイルにとらわれている大人だからなんだろうなって思う。
どうやらレビューや感想で「アップデート」みたいな言葉が飛び交ってるみたいなんですが、わたしは本作はそういう映画じゃないと思ったんですよね。
ジェンダーフリートイレの話もそうだけど、今の若者たちは多分この映画で描かれたことを「普通のこと」として受け止めてる。アップデートでも理想でもなくて、まんま現実なんだろうな、という感じがすごくしました。
もちろん映画の舞台がLAという設定なので、進歩的でダイバーシティに理解ある土地柄なのもあるんでしょうが、きっとその辺りに住んでる子たちにとってはこういう生活が日常なのかもしれないなぁ。
それを踏まえた上での悩みとか、軋轢とか葛藤なんですよね。『LOVEサイモン』からたった2年で、もうこういう作品が出てくるってことに時代の移り変わりの速さを感じますね、本当。
見た目や外見、属性だのといった外側ではなく、心のステレオタイプを取り除くこと。
そうすれば、まだ見たことのない、新しい世界が待っているし、きっと最高の自分に出会えるはず。
おーいみんな、未来はまだまだ、これからだぞ!!
(なんか歌詞がめちゃめちゃ映画に合ってるなと思ったので貼っておきます。懐かしいね。)
これから先も、いい感じ~(o^・^o)
作品情報
- 監督 オリヴィア・ワイルド
- 脚本 エミリー・ハルパーン、セーラ・ハスキンズ、スザンナ・フォーゲル、ケイティ・シルバーマン
- 製作総指揮 ウィル・フェレル、アダム・マッケイ、ジリアン・ロングネッカー、スコット・ロバートソン、アレックス・G・スコット
- 製作年 2019年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 BOOKSMART
- 出演 ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ