ファンタスティック映画主婦

雑食つまみ食い系映画感想ブログ

ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語【映画・ネタバレ感想】あなたの、人生の物語★★★☆(3.8)

スポンサーリンク

グレタ・ガーウィグの世界 ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

あらすじ

南北戦争に出征した父親の帰りを待ちながら、慈愛に満ちた母親と、貧しくも朗らかに暮らすマーチ家の四人姉妹。隣家のローレンス家の孫ローリーらと親しくなった彼女たちは、二度とは戻れない輝かしい少女時代を過ごすこととなる。

やがて成長した姉妹たちは、それぞれの道を歩みはじめる…。

 

 

わたしと若草物語

わたしは世界名作劇場世代なので、「若草物語」と言えば原作よりもアニメの方が先に思い浮かびます。

 

愛の若草物語 ファミリーセレクションDVDボックス
 

 

特に自分が妹気質でもあるので、末っ子のエイミーには共感できるところが多くて、実は主人公のジョーよりも好きなキャラクターなんですよね。映画でもあったけど、ジョーの原稿焼いちゃうエピソードとかさぁ…「わかる(苦笑)」って感じで大好きよ。

茶目っ気があってちょっとわがままで甘え上手な、典型的な末っ子タイプ。どこか夢見る夢子ちゃん、みたいなキャラクターではあるんですけど、本作ではそんなエイミーを、彼女も彼女なりに「家族と自分のことを考えている」現実的な女性として描いていたのが印象的でした。とは言え演じているフローレンス・ピューがでかすぎて、てっきり三女の設定なんだと思い込んで観てたんですけどね(´・ω・`; )

 

94年版のキルスティン・ダンストもかわいいよね。

 

若草物語 (字幕版)

若草物語 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

とは言え別にこのお話が特別好きってわけでもなく、そこまで思い入れがあるわけではないです(原作読んだのなんて中学生だし。ほぼ覚えてないし…)。

そんなわたしが本作をどう観たかというと…

すごく、いいね!

 

進歩的な女性だった原作者のルイーザ・メイ・オルコットの視点を物語に加え(そもそも『若草物語』がオルコットの自伝的な作品なのだけれど)、彼女の願望を叶えるような形で、長年愛されてきた古典に新たな息吹を与えています。

これ、脚色賞はノミネートだけだったんですかね?すごく面白いことやってると思うんだけど。

 

成長したジョーの回想という形で物語は進み、「続若草物語」と「若草物語」をいったりきたりするような感じ。過去の回想パートは暖色、現在パートは寒色といった色調の変化で時制を表現した演出もうまいなと思いました。

 

あとはもう、俳優陣が素晴らしすぎた。姉妹の空気感ていうの?女所帯の伸びやかさみたいなのがすっごい良かったよね。

捻挫したメグをかしましく世話するシーン、クリスマスの料理を持ってご近所さんの家にズラズラ並んで歩いて行くシーンなど、彼女たちが仲睦まじくしている様子を男性陣が「尊い…!」って感じで見つめるシーンがあるんだけど、わたしも終始そんな感じでしたね(笑)。姉妹が父親からの手紙を母親に読んでもらうシーンとかさぁ…尊すぎて涙が出たよ。

尊み秀吉。

 

 

以下ネタバレあり~

 

 

 

 

マトリョーシカ話法とミルフィーユ構造

突然ですが、フィクションのキャラクターを監督や作り手の代弁者として描くことを、わたしは勝手に「イタコ話法」って呼んでます。

「若草物語」も原作者のオルコットとその家族をモデルにして書かれていて、主人公のジョーはオルコット自身でもあり、典型的なイタコ話法の小説なんですね。

そこに加えてこの映画の場合、そのジョーを演じるシアーシャ・ローナンは監督のグレタ・ガーウィグの代弁者にもなっているんです(監督の自伝的処女作『レディ・バード』の主人公をシアーシャが演じたことも無縁ではないと思う)。

つまり、ジョーを演じるシアーシャ・ローナンはグレタ・ガーウィグであり、そしてルイーザ・メイ・オルコットでもあるわけです。

要するに映画の中に、グレタ→シアーシャ→ジョー→オルコットが内包されていて、これはもうイタコのマトリョーシカ状態(笑)。もうマトリョーシカ話法だなこりゃ。

お話じたいも「オルコットの生涯」という大枠があり、その中に彼女の書いた「続若草物語」(大人時代)が、そしてその回想として「若草物語」(少女時代)が内在しているんです(「少女時代が終わっちゃう」というセリフには…泣いたよね)。もうマトリョーシカ飽和状態。

 

ラスト、ニューヨークで編集長とやり合い、『Little Women』の製本を見守るのはオルコット自身なんですよね。

でもそれを明確に明示するわけではなく、シアーシャにはジョーとオルコットをシームレスに演じさせている。その構成になるほどなぁ、と感心しましたね。今この原作を映像化するのにこれ以上の演出はないと思う。

 

それから面白いなぁと思ったのは、いろんな方も指摘してるだろうけど、頻繁に行き来する時系列。ジョーの過去と現在を重ね合わせ、そしてそこに四姉妹それぞれの人生を織り込む。観ながらわたしは、この構造はミルフィーユだなぁ、と思ったのね。

少々食べづらく見えるけれど、重なり合った場所を口に含むと全てが一体になって、オルコットの人生の味がする。

過去と現在、そして未来。家族や愛する人とのか関わり合いが「わたしの人生」を作る。女性の数だけ、それぞれの味のミルフィーユがあるんだよね。

 

 

オルコットと願望と現実

『若草物語』のジョーはベア教授という伴侶を得ることができましたが、原作者のルイーザ・メイ・オルコットは生涯独身を貫きました。

独身の女性作家というのは意外に(案の定?)他にもいて、有名どころだとジェーン・オースティン(オースティン家は二人の姉妹も独身だった)や『嵐が丘』のアンとエミリーのブロンテ姉妹がそうだし(二人とも30歳くらいで結核で亡くなるけど)、日本だと樋口一葉も独身ですね。『赤毛のアン』のモンゴメリも、結婚はしましたが、37歳と当時としては晩婚になるんじゃないでしょうか。ちなみにナイチンゲールも仕事一筋で生涯独身だったようですし、いずれにせよ、「仕事の成功」と結婚を両立させる難しさは今も昔も変わらないのかもしれません。

 

またオルコットに関しては、一部の研究者からは同性愛者だったのではないかとも言われているらしい。

昨年出版された「LGBTヒストリーブック」によると「女の子には恋をしたけど男の子に恋をしたことはない」という趣旨の彼女の発言が載っているそうです。

 

 

オルコット本人は自身のセクシュアリティにつて特に明言していないのだけれど、もしかしたら監督はそれを踏まえた上で本作を演出したのかもしれないなぁ、と思いました。

それを考えると…ローリーからのプロポーズを断ったときの「なぜ愛せないのかわからない」というセリフには胸が締め付けられる気持ちがしますね…。

 

小説でもかなり強くローリーを拒否してるんですけど、オルコット的には同性愛者というより、「自分はみんなとどこか違う」という漠然とした違和感は多分あったんじゃないかな。

(あともしかしたら、ジョーと、ローラ・ダーン演じる母親が「それは愛じゃない」と何度も口にするあのやり取りを見ると、ガーウィグは「母親もそれを知っていた」と解釈したのかも)

女性の生き方の選択肢が少なかった時代を描く映画として、こういった視点をあえて入れたとしても不思議ではないよね。

 

『若草物語』はオルコットの自伝的な小説だと言われているけれど、そこには多くの「願望」も含まれています。

三女ベスのモデルとなったエリザベスは南北戦争よりも前に亡くなっていますし、四女エイミーのモデルであるアビゲイル・メイ・オルコットはエイミーと違い、結婚は遅かったようです(彼女は出産直後に死亡し、後にオルコットはその子どもを引き取り育てます)。

オルコットはきっと小説の中に、自分の少女時代のきらめく思い出をパッケージすると同時に、大切な妹たちを生き生きとよみがえらせようとしたのでしょうね。

 

映画である本作にも、グレタ・ガーウィグの「願望」が含まれているように思えます。実際ジョーの結婚に関して「オルコットは違う結末を望んだと思う」との趣旨の発言をしていて、そういった思いがあのラストシーンを生んだのでしょう。

結婚以外の女性の幸せを模索し続けたオルコットと、名声も得て幸せな家庭を築いたジョー。二つの人生を掛け合わせて作られたのが「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」だったのだと思います。

そしてそれはもちろん、現代に生きる女性たちへのエールにもなっている。それこそ監督の「願望」だと思うんですよね。

 

今の時代は女性が生きる選択肢は結婚だけではありません。結婚しようがしまいが、子どもを作ろうが作らまいが、自分らしく生きられたらそれが一番。

わたしも、自分らしい「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」を紡いでいきたいと思います。

 

 

追記: 映画見終わったあと『若草物語』読み返したんだけど、ぶっちゃけ『続若草物語』ともなるとだいぶ説教くさくて教訓めいていて、小説として面白いかといわれると「うーん?」て感じなのよねぇ(苦笑)。

でも、長女メグが双子ちゃんの子育てでてんやわんやして夫のジョンと折り合いが悪くなった時に、マーチ夫人が「子育てに夫も参加させなきゃだめよ!」て言うところには、まじでぐう正論すぎた(笑)。

さすが、マーチ夫人!

 

続 若草物語 (角川文庫)

続 若草物語 (角川文庫)

 

 

 

作品情報

  • 監督 グレタ・ガーウィグ
  • 脚本 グレタ・ガーウィグ
  • 原作 ルイーザ・メイ・オルコット
  • 音楽 アレクサンドル・デスプラ
  • 製作総指揮 アーノン・ミルチャン、アダム・メリムズ、エヴリン・オニール、レイチェル・オコナー
  • 製作年 2019年
  • 製作国・地域 アメリカ
  • 原題 LITTLE WOMEN
  • 出演 シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン