あらすじ
役者を目指している数人は、ストレスを感じると気絶してしまう体質によりオーディションに失敗し、警備員のバイトもクビになってしまう。そんなある日5年ぶりに弟に再会し、彼も自分と同じ役者を目指していると知り驚く。
やがて弟に誘われ、数人は日常を舞台に芝居でトラブルを解決する便利屋「スペシャルアクターズ」で働くこととなる。仕事にも慣れてきたある日、事務所に大きな依頼が舞い込む。それは「両親が残してくれた旅館を悪徳宗教団体から守ってほしい」というもので…
社会現象を巻き起こした「カメ止め」の上田慎一郎監督の最新作。今回も低予算ながら、松竹の大看板を背負っての大規模公開です。
本作も前作同様ほとんどスタイルは変えることなく、役者さんたちをうまく使ってキャラクターを構築させ、愉快で感動的な大団円を用意した、アイデアと情熱のこもった娯楽作となっておりました。
改めてこの人は、役者という職業と芝居という「大嘘」に多大なる信頼を寄せている監督さんなんだなぁと思いました。
確かわたしは「カメ止め」の時の感想カメラを止めるな!【映画・ネタバレ感想】映画作りは大変だ。でも、映画作りはとっっっても楽しい!★★★★(4.0) - ファンタスティック映画主婦で、「内田けんじっぽい」って書いたんだけど、最後の大オチも含めて、今回はもろにその感じがしましたね。そもそも主人公を演じた大澤数人さんが「運命じゃない人」の中村靖日さんに雰囲気そっくりだし(笑)。
もちろんそれは全然悪いことじゃなくて、上田監督の目指している「映画」がなんなのかよくわかる点でとても興味深くて、これからもその方向性は変えずに映画を作り続けてほしいなと思いました。
ただ…この先、映画界は上田監督にずっと低予算映画を作らせるつもりなんだろうか…?本人がその方向でって望んでるなら良いけど、これだってもうちょっとお金かけてくれたら…とは思わずにはいられなかったよ(笑)
まぁ結構な序盤で大オチはわかってしまうのだけれど、でもだからこそ、あの大団円は感動して泣いてしまいましたね。
てかねー、この映画の前に『ジョーカー』を観てしまったもので、「あぁ、アーサーにもこんな弟がいてくれたら…」なんてことを思って二重で泣けました(T-T)
なので、『ジョーカー』観た人は「アーサー!!(TДT)」って思って2倍泣けますので是非どうぞ!
以下ネタバレあり。ネタバレ知らずに観た方が面白い映画だと思うので、未鑑賞の人は読まない方が良いよ!
「お芝居であれば誰でもヒーローになれる」
やはり感動的だったのは、このメッセージ。
気絶ばかりして実生活ではなんの役にも立たない数人だけれど、「お芝居」の中でなら超能力も使えるし人を救える。多分自分が作る「映画」もそういう存在でありたいという、監督の力強い宣言でもあると思うんだよね。
深入りして説明はなされてないけど、数人の体質はおそらく父親が原因。これは想像だけど、多分こういう経験(親に反対されたこと)が監督にもあったんじゃないかな。ていうか役者さんだって親に反対されて家を飛び出した!なんてエピソードはよく聞くよね。
親の庇護や社会的後ろ楯もなく、不安なまま昔の「憧れ」を胸に抱えて夢を目指す。成功するのは一握り…
夢を実現しようとする人たちはみな、多かれ少なかれそんな心許ない場所で踏ん張っているんだと思う。
でももし、その夢を全力で叶えてくれる人がいたとしたら…?
これは多分、そんな映画なんですよね。
だからね、実は最後の最後に「宗教団体による旅館買収も全てお芝居だった」ことがわかるわけだけれど、それはすべて数人の夢を叶えようとした弟の願いだったんですね。
わたしはこの大オチに気づいてたから、クライマックスの「行け、ヒーロー!」の台詞にぐっと来たんですよ。
だから、数人がそのことを知ってしまってガーン、となった後にエンドロール後でもいいから、何らかのフォローがワンシーンでもあればわたしのなかでかなりの傑作になったと思う!そこだけ、ほんと残念だったなぁ…
まぁ、現実はそううまくいかないという皮肉でもあるのだけれど(苦笑)
間とキャラクター造形が素晴らしい!
ちょっとした小ネタもいろいろと面白くて(宗教団体の話は前述の理由でかなり寒々しいことになってるんだけど)、間の取り方がすごくうまいなと思った。何気に、かなり編集に気をつかってる監督さんだよね。
キャラクターの作り方に関しても、今回もあて書きに近いやり方だったのかなぁと思うほどみなさんぴったりの配役でした(役者さんと役名から見てもそんな気がする)。
特に数人と宏樹の大野兄弟がすごく好きでしたね!5年も会ってないとか何でよ?とか思うけど。
それぞれみんなどこかちょっとズレてるんだけど、全員が愛おしい。
そういうキャラクターを作れるっていうのはやっぱり才能かなと思うよね。
というわけでかなり簡単にまとめてみましたが、ドタバタコメディとしても、兄弟愛映画としても、観られる良い映画だと思いました!
作品情報
- 監督 上田慎一郎
- 脚本 上田慎一郎
- 音楽 鈴木伸宏、伊藤翔磨
- 製作年 2019年
- 製作国・地域 日本
- 出演 大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛、上田耀介