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ゴーストマスター【映画・ネタバレ感想】「映画」へのラブレターと三下り半★★★★☆(4.1)

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あらすじ

巨匠と同じ読みの黒沢明(三浦貴大)はキラキラ壁ドン映画の助監督をしている。しかし、主演の俳優が「壁ドンとは何か?」と悩みはじめ、撮影がストップに。事態の収束を任された黒沢は、パワハラな監督や口先ばかりのプロデューサーらに次第に鬱憤を募らせていく。

そんな黒沢にも、映画監督への夢があった。いつか映画化したいと願い、稿を重ねている脚本「ゴーストマスター」を常に持ち歩いている。

その脚本に黒沢の映画への怨念が宿ると、なぜか主演俳優にとり憑き、モンスターに変貌。次々に人を襲い、撮影現場を血祭りにあげていく…!

 

 

今年期待の新作にも挙げていた一作。一般公開は12月6日とまだ先なのですが、カリコレのクロージング作品となってましたので鑑賞してきました。

 

結論から言うと、

めっちゃ笑いました。

そして泣きました。

 

 

映画を愛する全ての人へ

コメディ、ホラー、ラブストーリーにファンタジーなところもあり、そのオーバージャンルな作風からどういう映画かと一言で言うのはすごい難しいのですが、一つだけ言えるとしたら、壁ドンして人殺して最後は『スペースバンパイア』になっちゃった、みたいな話です(なんだそれ笑 でも本当なんだからしようがない)。

 

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いやもうね、なんて言うのかな。かなりめちゃくちゃなんですよ。

カオスだし、意味不明だし、痛々しいし、情けないし、むず痒いし、青臭いし。

でもね、なんか気づいたら泣いてた。

要するに、「大人の青春映画」なんですよね。

 

上映後にヤングポール監督(ちなみに言うと本名で、「・」もスペース空きもなしだそうです)と共同脚本の楠野一郎さんのトークイベントがあって、そこで監督が「日頃の鬱憤を込めました」的なことを言っていたんですよね。

(あと、「この映画の中の現場はフィクションではなく、ドキュメンタリーだ」とおっしゃっていて、ああいうはちゃめちゃな現場はよくあるそうな…人物も実際の人をモデルにしているんだそうです)

 

監督はTwitterやインタビューでも、度々映画業界の劣悪な(金銭的にも環境的にも)労働状況について問題提起をされていて、それに対しての怒りやもどかしさがすごく表れていた映画だったんじゃないのかなと思います。

でも映画は好きだから、辞められないし…という、そのジレンマ。

そういう「映画」への愛憎がぎゅっと詰まってるようなお話でしたね。「映画を諦めきれない」と言う人と「映画なんて大嫌いだ」と言う人がいて、おそらくどちらも監督の本音なんだろうと思いましたよ。

監督は否定されていたけど、これは自伝的な意味合いの映画なんだろうなとわたしも思いました。

 

そういう意味でも多分に自主製作ぽいというか、実際とてもインディペンデントな映画だと思います。(でも特殊効果や役者さんたちはもちろん、撮影も編集もプロの仕事ですので、そこは安心して観ていただければと思います)

 

ただ、全体的にはコメディなので、かなり笑えます。特に壁ドン映画のこっ恥ずかしくてアホくさい演出には終始笑いが起こってましたね。なぜ、そこで側転をするんだ(笑)。

その壁ドン要素とホラー演出が融合する奇妙な化学変化が、絶妙なおかしみを生んでいます。

壁ドンで人が死ぬ最初のシーンはみんなゲラゲラ笑ってた。誰だ、こんなクソ素晴らしいアイデアを思い付いたのは!(注:脚本の方です)

 

あとね、『スペースバンパイア』もそうだけど、バカみたいなスプラッターは『死霊のはらわた』っぽい要素もあるし、脚本の方や監督によると一部『プレデター』じゃね?というシーンや『椿三十郎』をモチーフにしているシーンもあるそうです(いや全然わからなかった)。映画をたくさん観ている人なら「あ、コレはあれじゃ?」みたいなのが気づけて楽しいと思いますね。

とにかくそういう、自分の好きなもの、影響を受けたものを肯定して取り入れる姿勢にとても好感を持ちました。あと、『スペースバンパイア』をおっぱいネタなしで語っているのを聞くのもはじめてだったかもしれない。健全な映画だな(笑)。

 

監督には、本作で一気にブレイクして欲しいですし、そんなにこの世界は甘くはないとしてもヤングポール監督にはこれからも映画をたくさん撮り続けて欲しいと思います。

そしてたくさんの人にこの映画に込められた、青臭くて熱いメッセージを受け取ってもらいたいと思いました。

いやほんと、わたしはすごく好きな映画です。映画好きな人はもちろん、何かに夢中になっている人(なったことがある人)は是非観てみてください。

わたしも、また一般公開されたら観に行きます。

 

 

(わたしが別媒体に上げた本作の記事もよろしかったらどうぞ。ヤングポール監督のアレコレも調べて書きました)「【期待の新作】新星ヤングポール監督作『ゴーストマスター』キャスト、あらすじを解説!」https://eiga-board.com/posts/2534

 

 

以下ちょっとネタバレ。

 

 

 

怨念を成仏させるには

この映画、結構セリフがこっ恥ずかしいんですよ(笑)。いや、壁ドン映画の部分だけじゃなくて、本編の方もね。

すっごい、「映画が」「映画は」って言うの。

好きな子の名前連呼する男子中学生みたいよ。

予告にもあるけど「フーパーに謝れ!」の件とか、「おれは!こんなに!お前(映画)のことが好きなんだー!!」って叫んでる感じがして、聞いててむずむずしちゃうんですよ(それを言われたプロデューサーが、その後泣きながら「おれだってホウシャオシェンとか好きだもん~!」とか言うのもね笑)。

黒沢が何の脈絡もなくいきなり『スペースバンパイア』の話を生き生きとしてしはじめるとか、もうさ、ものすごく痛々しいわけ。

で同時にさ、胸がチクチクしてくるわけ。

知っているから、わたしも。彼のことを。彼はね、わたしたちなんですよ。映画が周りから引かれるくらい大好きで、その熱量の矛先をどこに持っていったらいいのかわからない、あの感じ。

何かに熱中して夢中になっている人は、多かれ少なかれこの黒沢成分が入っていると思うんですよ。

 

わたしが一番好きだったのは、ゴーストマスターにとり憑かれた(ていう段階からかなり意味不明なんだけど笑)俳優を成仏させるには、映画を完成させるしかない!(いやだからかなりそこもおかしいんだけど笑)ってことになって、生き残った黒沢、音声さんとカメラマン、ヒロインがラストシーンを撮る場面です。

黒沢は「アクション!」と叫ぶんですけど、そこには二重の意味が込められてるんですよね。映画を撮る前の掛け声である意味と、「ホラーもラブストーリーもSFも全てをまとめて傑作にしちゃうのがアクション映画というジャンルなんだ!」という意味と。

そうして、ヒロインで名アクション俳優の娘でもある真奈(成海璃子)が、とり憑かれた俳優とあずきバーを武器にして(もうだからここも…以下略)戦うシーンを撮影するんです。

文章で書くとほんと意味わからないでしょ…でもね、わたしはこのシーン観ながら泣いてしまいました。今でもちょっと思い出して泣きそうです。

つまり、自分の「怨念」を成仏させるには、自分の好きなもの、信じているもので勝負するしかないんですよ。

それでうまく行かないこともあるし、成功するとは限らない。でも、まずはそこからがスタートなんだ、そうしないと自分の世界を守ることはできないんだ。

この青臭いメッセージは、映画だけでなく、もの作りに関わっている人はかなり刺さるんじゃないかと思いましたね。

 

 

映画へのレクイエム

さっきも、監督の業界への鬱憤が、て話を書きましたけど、前述した大団円のあとに、エピローグ的に真のエンディングがあるんです。

そしてこれが、映画へのというか「映画の現在」への監督なりの答えなんですよね。最初観たときは「蛇足じゃない?」と一瞬思ったのだけれど、いや、あのラストは映画を愛するが故の、誠実さの現れなんだなと思ったら、すげぇかっこいい幕引きだと思いましたね。

うん、すごくかっこいい。

このラストがあることで、去年のカメ止めみたいな、「バックステージもの」として終わりそうだったところを一段上に押し上げたなと思いますよ。

 

「好きなもので勝負する」でも、「それで生きていけるのか?」って。

「40年やってきて、やっと家賃7万の家に引っ越せるようになったと思ったら妻と子どもに出ていかれた」と話すカメラマンさん(おそらくこれも実話なんだろうな)のような実態が、日本の映画業界の現実。

結局、映画なんて(というかほとんどの娯楽や芸術は全部そう)、命をかけるものじゃないんですよ。

「このままでいいのか?それで満足なのか?」とバーン!と張り手を食らわされたような気持ちになりましたね…。

 

てかさ、一連の「壁ドン」、どう考えても突っ張りだったよな…

 

 

観る人が観たら、同じ画が多いのはしつこいとか、寒いギャグがあるとか、カットの繋ぎがもたついてるとか、リズムが悪いとか(おそらくあと10分くらい短くできたはずでしょうが、切れない気持ちはよくわかる)、色々粗はあるんでしょうが、それも「長編デビュー作」の味だと思うんですよ。

ちょっと歪というか、完璧じゃない部分、作り込まれていない余白があることによって、一つ目のクライマックスがものすごいエモーショナルに感じられたんじゃないかと思いました。

とにかく、わたしは、とても好きな映画でした!

まじでほんと、大ヒットして欲しい!!

 

 

 

作品情報
  • 監督 ヤングポール
  • 脚本 楠野一郎、ヤングポール
  • 音楽 渡邊琢磨
  • 製作年 2019年
  • 製作国・地域 日本
  • 出演 三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、原嶋元久、寺中寿之、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸、手塚とおる、麿赤兒