あらすじ
愛する妻と娘と暮らす田原(妻夫木聡)は時折見る悪夢に苛まれていた。会社の後輩が不可解な死を遂げ、我が家でも異常な現象を目の当たりにしたことから、友人であり民俗研究者でもある津田(青木崇高)を頼る。津田からオカルトライターの野崎(岡田准一)と霊媒師のマコト(小松菜奈)を紹介された田原だったが…
なんとなく気になって、先に原作を読んでから鑑賞しました。
原作小説の感想はこちら。
不安的中というか予想通りというか、わたしが原作で好きだった部分は根こそぎ失われておりました…うん。黒木華ちゃん演じた妻のパートは、はっきり言って改悪しすぎだよね。なんていうか、そこはかとない女性軽視を感じたんだが…わたしだけ?まぁ他にも「なんでこんな風に変えたんだ?」と思う部分が多過ぎて、おそらく原作既読組は不満な映画だと思います。
冗長なくせに無駄なカットが多いし、キャラクターには厚みがなくて話も薄い。しかも、ホラー映画と言いながら全然怖くないし(←これが一番の問題)。
わたしは、ホラー映画で大事なのは「気配」だと思うんですよ。何かがいそうな気配、何かが起こりそうな気配…。例えば本作であれば、「あれ」が「来る気配」を重要視するべきじゃないですか。
でもこの映画では、みんながこぞって「来るよ」「来ます」「来そう!」「来なさい!」って言っちゃうわけです。いやいやそれじゃダメじゃん。そこは映像で「気配」を感じさせてよ、映画なんだから!ってわたしは思っちゃいましたね。
しかも頭に来るのは、
「来ない」って言うね!!(๑•ૅㅁ•๑)
けれども困ったことに、「つまらない」と切り捨てることもできない映画なのです。なぜなら、松たか子演じる霊能者が登場する後半以降、加速度的に面白いことになるから。
最初の1時間半は寝ててもいいです。でも、最後のクライマックスだけは観て欲しい。そんな映画なのです。
以下ネタバレー
原作についてのネタバレもしています
原作との違い、来る来る詐欺
原作における「ぼぎわん」が姥捨山や口減らしなどの民俗的な、日本風土の闇を体現した怪物であったのに対し、こちらの映画における「ぼぎわん」の怪異が「子どもの潜在的な残虐性」として解釈されていたのは興味深いものがありました。
とはいえ、別にこの原作を使ってやるべき話だとは特段思えませんでしたね。
それから、原作の最大の魅力であった「視点が変わることで明らかになる裏の顔」がわかる構成が生かされておらず、妻夫木聡のパートがかなり薄っぺらかになっていたのももったいない。
母親が周囲から孤立し、虐待の連鎖から逃れられずに自身も…という展開は胸を締め付けられる思いがしましたが、保育園的にはクレーム入れてきたあのジジイの方が異常扱いだと思いますし、伊集院光演じる店長の親子への対応も現実的ではありません。
残念ながら親子が孤立に至るまでの描写に、リアリティが全くないため、感情移入が一切できないのです。
また、原作では孤立した親子に真琴が介入することで真琴と千紗の繋がりが強まるのですが、映画だとちょっと遊んでたくらいでしょ?なぜそこまでして真琴が千紗にこだわるのか、全然伝わって来ないのです。
野崎に関しても、無精子症という原作にあったバックグラウンドを、どこかの方面に配慮したのかはわかりませんが「過去に子どもを堕ろさせた」という大して身のないものに変更されていたのも解せません。「子どもを持ちたいけど物理的に持つことができない」野崎と真琴だからこそ、強い絆があるわけでしょ。だから最後、彼が千紗を取り戻すことにも説得力があるわけです。
映画の野崎はなんで千紗を助けるの?過去の罪悪感?そもそもなんで「大切なものを作ろうとしない」の?その原因をどうして映画内で描かないの?
「血縁よりも心の繋がり」あるいは「社会で子どもを守ろう」的な今風な帰結にしたかったのはわかるけど、いずれにしても、それまでのキャラクター同士の繋がりの描写が希薄なため、ラストの3人が並んだ姿になんの感慨もないのです。
また、原作では田原家が狙われていたのは、祖母志津が暴力的な夫へかけた呪い(魔導符)が発端だったと明確に理由づけがなされ「家族という呪い」をヒシヒシと感じて怖ろしかったのに対し、映画ではなぜ田原家なのか、「あれ」の正体はなんなのか、理由が全く説明されません。だから何を怖がればいいのか、よくわからないのです。
まぁ、別にそれはいいのですが、やはり「ぼぎわん」が「ぼ」の字も姿を現さなかったのは、正直がっかりでした。
おいおい、散々みんなで来る来る言っといて出さねーのかよ!乱杭歯はどうなったんだ!っていうね。びっくりよ。これ完全に来る来る詐欺ね。誰か通報して下さい。
そして何より、この映画には原作にあった匂いーー泥臭さ血生臭さが全くないのです。田舎系土着風土怪物ホラーが、きれいなアーバンホラーに成り下がってしまっていたのは、非常に残念でしたね。
てかなんでクリスマスなんだよ。そこはハロウィンにしておけよ。「ちがつり」は「トリックオアオリート」だって言ってるだろうが。
てかなんのために映画化したんだよ!
炸裂する中島節
というかおそらく、この映画はホラー映画ではないのです。
まず、オープニングから監督の持ち味であるドラッギーなイメージ画像が連続する映像に、「中島哲也の映画を観ている」という感じがします。
いや、観ている間中もずっと「ホラー映画を観ている」というより、「これは中島哲也の映画である」とひたすら言われているような感覚だったんですよね。
確かに、ホラー映画らしい怪異は起こるのですが、その度にドラッギーな【*注イメージ映像です】が入るため、話の腰ならぬ恐怖の軸を折りまくり、要は観ている側の怖さが持続しないのです。血は出るし、ショッキングなシーンもありますが、それがイコール「怖い」に繋がるということがないのです。
トイレのドアの隙間から何者かが覗き込むシーンや、テレビに映った映像と電話の声が一致していくというトリッキーな演出でも、怖いというより「おぉー」と感心してしまうだけ。
この人はCM畑出身なので、短いシークエンスやインパクトのある絵作りは上手い人なんだろうと思いますが、ホラー映画のように怖さを「持続させる」タイプの映画は、おそらくあまり向いていないのでしょう。
そして個人的にショックだったのは、主役級の役者さんたちの大根ぶりです。
特に妻夫木聡と黒木華は「えっどうしたの?」と思ってしまうくらいに演技が下手くそにみえました。病院での二人の件とかは、ちょっともう見てられなかった。これは多分役者のせいというより、演出やセリフ(脚本)の方に問題があったんだと思います。
多分、「あー、こういう人いそう〜」みたいなリアルな人物像を描くのが極端に下手なんですよ、中島監督は。
『告白』で評価されてるので勘違いされがちなんですが、この人の本流はきっと『下妻物語』や『パコと魔法の絵本』の方なんじゃないかと思うんですよね。
虚構性の高い人物を配した虚構性の高い物語でこそ本領を発揮するタイプの監督さんなんだと思います。どっちかっていうと堤幸彦系でしょ。
だから逆に、霊媒師を演じた松たか子なんかは完全にセリフは棒なのにすごく活き活きとして見えたよね。
あと、柴田理恵も。予告編観た時からこの人だけは期待しかしてなかったんだけど、予想を上回る怪演ぶりで最高だった。原作では腕やられて死んじゃう人物だったんだけど、この人が主役のスピンオフでも作って欲しいと思ったくらいに大好きなキャラクターでした。
虚構が大爆発する大傑作の集団お祓いシーン!!
なので監督の面目躍如と言うべき、最高潮に虚構性の高まる大除霊シーンは、
最高に面白かった!!!
これまで酷評っぽいことばかり書いてるのに★評価が3なのは、そのためです。
わたしは幽幻道士と宜保愛子とあなたの知らない世界なんかの80〜90年代の超常現象ブームで育ってますので、もうね、ああいう「やり過ぎ!」みたいなお祓いシーンが大好きなんですよ。「悪霊退散〜!」的なね。
最近だと「キョンシー(2014)」とか「コクソン」とかもすげぇ好きだったんだけど、本作は準備段階からめちゃくちゃテンション上がりましたね。超楽しかった。
櫓を建てるとか機器を設置するとか、大がかり過ぎてバカバカしい感じ、超好き。集結した専門家の人たちが、お札を体に貼ってる小ネタも地味にツボりました。警察を投入するのとかさ〜、もうたまらん。
ユタ衆がやられたのを感知した霊媒師たちが「やばそうですね、分かれて行きましょう」っていう件とか、その後のカプセルホテルでの衣装替えとか、琴子が鏡を取り出すシーンとか、巫女の舞とか、本除霊はじまる前ですでにご飯3杯くらいイケてますね。
もうなんなんこれ、この画像だけご飯5杯イケるわ。(予告編岡田准一×黒木華×小松菜奈主演!映画「来る」予告 - YouTubeより)
口から虫と血がドバァ〜とか、「こんな無様な祓いははじめてだわ」とか、いきなりの体当たりとか、いろいろ面白すぎるでしょ。松たか子がパニクる岡田准一をグーで殴るシーンはまじで爆笑しました。
いやほんと、お祓いのシーンは繰り返し観たいくらい大好きでした。
というわけで、映画化における不満点も、このお祓いシーンで全てチャラです。
一番ビビったところ
「ホラー映画じゃない」と言いましたが、実はめちゃくちゃビビったところがありました。
それは、
舞台となったマンションが、買おうとしてた物件だったってとこ!!
モデルルームも見てあの公園にも行って、本気で購入検討してたからね。結局いろいろ条件が合わなくて断念したんだけど、もしあそこのマンションに住んでたら、お祓い準備とか櫓とか、下手したら見れたかもしれないわけでしょ?
絶対面白いじゃん。くそう、なんて惜しいことをしたんだ。
…てか映画の中身と全然関係ねぇな 苦笑
最後に
というわけで、わたしとしては本作のキャッチコピー風に言うと
「こわ(くないしつまらな)いけど、(お祓いシーンが最高に)面白いから、観てください」
って感じです。
とりあえず中島監督は、ホラー映画はもうやめて、オムライスの国に戻った方がいいと思いました。
おわり。
作品情報
- 監督 中島哲也
- 原作 澤村伊智『ぼぎわんが、来る』
- 脚本 中島哲也、門間宣裕
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 日本
- 出演 岡田准一、妻夫木聡、黒木華、小松菜奈、松たか子
- 映画『来る』公式サイト