あらすじ
夢と希望の映画の都ニャリウッド。ヒット作を連発する老舗映画製作会社「ペーターゼンフィルム」を祖父から引き継いだ敏腕プロデューサー・ポンポネット(通称ポンポさん)は、オーディションで出会った女優志望の少女・ナタリーに触発され『MEISTER』という大作映画の脚本を書き上げる。
その監督として抜擢されたのは、ポンポさんの付き人の映画好き青年ジーン。当初は突然の起用に戸惑うジーンだったが、「自分には映画しかない」と一念発起。大御所俳優や一流スタッフ、そして他でもないポンポさんに支えられながら、完成のために全身全霊を捧げていく……。
情熱と夢、希望と現実。映画好きの映画好きによる映画好きのための、映画製作の舞台裏!
原作はSNSで話題となったWeb漫画作品で、わたしもツイッタ経由で数年前に読みました(その後pixivでスピンオフ版を読み、続編の2、3は未読です)。
ぶっちゃけ作品に登場する映画論というか、ポンポさんの映画観には賛同しかねる点も多くて、特にB級映画に関する持論はステレオタイプ的だし90分神話とかも個人的には懐疑的なので(ただ、ポンポさんというキャラに根付いた設定として考えてるので否定はしません)、正直、最初原作を読んだ時は、「キャラクターも魅力的だし確かに面白いけど、いわゆる『ハリウッド映画あるある』の域を出ないかなぁ」なんて思ってたところもあるんですよね。
でも映画ではそこにうまく肉付けがされてて、「映画作り映画」の醍醐味が凝縮された作品になっておりました。
「映画作り映画は大人の青春映画」ってのがわたしの解釈なんだけど、(それでもカメラは止まらない!映画映画ベストテン! - ファンタスティック映画主婦参照)、本作はキャラがかわいらしいこともあってあんまり"大人"感はなくて、むしろ「映画はいかにして作られる(べき)か」という理想の部分が強く押し出されていたように思います。
原作のキャラクターと世界観の魅力、見ていて楽しい動きのあるアニメーション描写と実写作品のような映像作り、物語の吸引力と映画ならではの高揚感が渾然一体となった、上半期や年間のベストに食い込んでもおかしくない完成度の高い映画だと思いました。
ま、詳しくはわたしが信頼してる「物語る亀」さんのブログに全部書いてありますので、そちらをお読みください!!(オイ)
うんうんと頷きながら読みましたので、映画観た皆さまは是非……
以下ネタバレしつつ、軽く感想を。
オリジナル部分がクリティカルヒット
ていうかむしろ、わたしが好きだと思ったところが原作にはないオリジナルの展開なんですよね!
いや、内容的には「映画作りの申し子に監督として抜擢された映画好き青年が映画を撮る」っていう原作にはほぼほぼ忠実なんだけど、映画版は「映画を作らない(というか作れない)観客」にも寄り添う話になってのね。
『カメラを止めるな!』とかもそうだったけど、「映画作り映画」って結局は内輪のりで終わることが多くて、そこに入っていけない人はどうしても「蚊帳の外」な印象を受けてしまうと思うんですよ。でも本作ではアランっていう、観客に近い「映画作りを応援する人間」の視点を入れることで、より奥行きのある作品になっているんですね。
この作品じだいがジーンくんのような、どこか社会からあぶれた人間たちにとっての「救いの物語」にもなってるわけだけれど、ジーンくんとは真逆の、いわゆる「メインストリームにいた人間」との対立ではなく、互いに背中を押し合うようなある種の和解になっている点もすごく素敵だなぁと思ったんです。
映画作りに携わらない人も決して除外しないし、「彼らの物語」にもちゃんとコミットしてるという、すごく間口の広い作品になってるんですよね。
この辺の感覚は『桐島、部活やめるってよ』なんかとも近いかなーって気がします。
編集と製作の重要性
あと面白いなと思ったのは、監督業ではなく「プロデュース」および「編集」にフォーカスしている点。
プロデューサーは人を見る仕事、みたいなセリもありましたが(超うろ覚え)、よくよく考えれば企画してお金や人を集めて実行する誰かがいなければ、映画なんて作れないんだよねぇ。
実際に作品に手を出さなくても、方向性を決める指揮官は絶対に必要なんだと改めて思いました。プロデューサーと監督のコンビとかもよくあるし、映画作りの根幹を成す仕事ですよね。
それから、わたしは映画でもドラマでも編集ってすごく重要だと感じてて、編集って「何を映すか」ではなく「何を映さないか」の作業だと思うんですね。映画は引き算の美学、なんて言われることもあるけど、それを引き出すのがまさに編集の仕事だと思うんですよ。
是枝監督なんかは自身でも編集をつとめててまさにその美学の人だと思うんですが、どこをどう「切る」のかは映画そのものの生命線でもある。
生かすも殺すも編集しだい、なところは確実にあるわけです。
そしえその「切る」という作業が、映画だけではなく人生そのものの取捨選択とも繋がっていく、という運びには素直に参りましたね……。
映画も人生も、付け足すよりも切り捨てることの方が確実に多い。それらを繋ぎあわせて作るのが自分だけの「映画(人生)」なんだ、という……。ふぅむ、こんな風に言われたらぐうの音も出んね(笑)。
映画内では編集作業も映像作品らしい演出がなされていて、とても楽しかったですね。
そういう、映画作りの裏方的な存在の重要性を描いている点でも、映画好きにはたまらない作品になってるんじゃないかな。
映画は誰のものなのか
この映画では、『MEISTER』という「映画内映画」のストーリーとジーンくんの「映画作り」がリンクする内容になっています。
『MASTER』は挫折した老齢の名指揮者が田舎暮らしと少女との交流によって本来の自分を取り戻す、というお話。中でも原作にはなかった「アリア(独唱)」というキーワードが繰り返し語られます。
ジーンくんが作品について「これがぼくのアリアなんだ」と言うシーンもありましたが、映画は作り手の「自分自身を表現する」ものである、と本作では捉えているわけです。
それと同時に、B級映画監督のコルベットさんが言うように「観て欲しい誰か一人」のためのものでもあるし、アランのように「その作品を必要としてくれる観客」のためのものでもある。
自分のため、が、誰かのため、にもなる。
まさしく「パーソナルがユニバーサル」ということ。
もちろん本作は創作だし、実際の映画製作では決してそううまくはいかないだろうと思います。だけれでも、映画(というか創作物全般)はそれが理想だと思うし、そうであって欲しいと思うのです。
何かといろいろ言われがちな日本の映画界ではありますが、本作のような映画が作られたことは、希望でもあるのかなって。
どの映画製作も、それぞれのポンポさんとジーンくんによって作られていますように。
そんな願いが込められた「映画作り讃歌」な映画だったと思います。
映画って、ほんとうにいいものですね。
作品情報
- 原作 杉谷庄吾
- 監督 平尾隆之
- 脚本 平尾隆之
- 音楽 松隈ケンタ
- 製作年 2020年
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製作国・地域 日本
- 声の出演 清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫