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君は永遠にそいつらより若い【映画・感想】いつの間にか「そいつら」になってしまった大人たちへ★★★★☆(4.2)

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あらすじ

来年4月から地元で児童福祉司として働くことが決まっている大学生4年生の堀貝(佐久間由衣)。「処女」であることを揶揄され、自分でもそれをどことなく引け目に感じている。

ある日、ゼミの飲み会で穂峰(笠松将)と知り合った堀貝は、彼が暮らしているアパートの階下に住む家族の児童虐待を疑い、一時的に男児を保護し警察で事情聴取を受けたと知らされる。堀貝は穂峰の不器用ながら誠実な生き方に感銘を受けるのだった。

同じ頃、堀貝は一つ年下の後輩、猪之木(奈緒)と出会う。なぜか妙にウマが合った二人は急速に仲を深めていく。しかし、猪之木は深く傷ついた過去を抱えていた……

若者たちのモラトリアムの終わりと未来に寄り添う、等身大の青春映画。

 

 

奈緒ちゃんがね、好きなんですよ最近。

認識したのは「あなたの番です」だったんだけど(いや、見たの最終回だけなんですが)、かわいいのはもちろん、すごくエキセントリックな演技をなさってて「面白い女優さんだなぁ~」と注目しましてね。

去年の『事故物件』も、奈緒ちゃんが出てたから観たのよね。かわいかったなぁ……(映画の内容はほとんど覚えてない)。

本作でもそうだけど、ロングスカートとか大きめのシャツとか、だふっとした服装がキャラ的にもほんと似合うよね。

 

こちらは未見なんだけど、ジャケ写だけでにやにやしちゃう。やだもう、ほんとかわいい!!(悶絶)。

先週公開された『先生、私の隣に座っていただけませんか?』でも夫の浮気相手っていう本来なら嫌われる役なんだけど、茶目っ気があって憎めないめちゃくちゃ良い役だった。素敵な女優さんよね~。

 

そんなわけで本作もほぼほぼ奈緒ちゃん目当てで観たんですけど……

めちゃめちゃ良かったです。

奈緒ちゃんはもちろん、出演者さんはみんな良くて、佐久間由衣さんも「大学生ってこんな感じだったなー」というのが出てて、懐かしくなった。多分、MVPは掘貝の友達のよっしーを演じた小日向星一さん(後から小日向文世の息子と知りびっくり)だと思う。なんだろう、役柄的に多分「青春映画」の表舞台に立つようなタイプではないんだけど、それが逆に新鮮で、とても共感できました。あと、実際に学生時代の友だちにちょっと似てた(笑)。

 

以下、少々ネタバレあり、かも?

 

 

 

若者たちが抱えているもの

ただこれ、いわゆる「青春映画」の部類ともなんとなく違う感じもするんですよね。

わたしは原作者の津村記久子さんの小説は『ポトスライムの舟』しか読んだことないんだけど、あちらも「若者の等身大の幸せ」についてのお話(多分)で、ただうっすらと「それを選ばせてるのは誰か?」とも思わせるものがあったんですね。

 

 

本作もまさにそんな感じ。

若者の短い期間の日常(大学4年生の卒業前の数ヶ月)を描いてるんだけれど、そこここに「彼らが抱えているもの」……いや、違うな、「大人が彼らに抱えさせているもの」が見え隠れしているんです。

 

例えば、主人公の堀貝は処女だということをすごく引け目に感じていて、「誰からも選ばれないって言われてるみたい」「こんなわたしだから仕方ない」みたいな、ものっすごいネガティブにとらえてるんですね。同級生の男子学生からも「お前はそんなだから処女なんだ!」みたいに言われてるんですよ。

「いやそんなわけあるかい……」なんておばちゃんは思うわけですが、いや、そういう風に「思わせる文化」を成熟させてしまったのは大人の責任なのでは?なんて風にも思ったんですよね。

処女である=恋人のような存在がいない、という意味なんだろけど、大学生なんてまだ出会いも限られてるし、そこまで気に病む必要は全くないわけです。本来はね。

そもそもさ、処女である、童貞である、とかって、別に他人には関係のないことだよね。なんでそんなことをとやかく言われなきゃならないんだってことですよ。

でも、それを「揶揄してもよいこと」としてずっとやってきた大人がいる。彼らが負の感情を持つことのほとんどは大人たちの影響によるものなんです。

 

それから、堀貝が子どもの頃に男子から負かされたエピソードもね……。「大きな力のあるものにねじ伏せられた」経験として語られている部分もあれば、猪之木の過去と対応させてるので、性差別的な出来事だった、という解釈もできる(そもそも、性暴力、処女や童貞、性器の大小など、映画の個々のエピソードも性差別的な問題を扱ったものが多い)。

ああいうのって、子どもの喧嘩だけで見る光景じゃないんだよね。

 

これはね、我々大人世代にその罪を突きつける訴状のような映画でもあると思うのです。

『あのこは貴族』もほんのりとそんな側面のある映画ではありましたが、本作の方がそれをより強く感じました。

 

 

誰かを気にかける、ということ

掘貝は、ニュースで見た行方不明少年のことが気にかかり、「必ず自分で見つけ出す」と心に決めて児童福祉司を志したと語っていました(目指すのが警察官ではないところが、また物語ってるものがあるよね)。

自分とはなんの関係もない、赤の他人の男の子のことがなぜか頭から離れない。

端から見たらバカバカしいと思われるかもしれない。でもその、純粋で率直な「誰かを助けたい」と思う気持ちは、何よりも人間らしいとわたしは思うのです。

世界中で起きる痛ましい事件や事故、戦争や殺戮、誰かの悲しみや傷痕。

全てを助けてあげられることはできないし、起きたことは変えられない。それでも、例え何もできなくても、寄り添いたいと思う。

もしかしたら、それだけで十分なのかもしれないと思った。

偽善だと嗤う人もいるかもしれない。

でも、この世には、誰かを気にかけたり、気遣ったりすることもできない人たちは大勢いる。自分の私利私欲のためなら他人を犠牲にすることも屁とも思わない「そいつら」が、たくさんいるんです。

そんな奴らに比べたら、「気にかける」って、それだけでもすごいことなんじゃないかとも思えるよ。

 

確かに、掘貝やよっしーは直接の「被害者」ではない。悲しみを背負う必要なんてないのかもしれない。でも、そこから目を背けず、自分の「無力さ」に向き合うことが、他の誰かの手助けに繋がると思うんだよね(そして映画では実際に繋がっていく姿を描いている)。

多分、世界中のほとんどの人は、本当は彼らのような人なんじゃないかとも思うんです。悲しみや痛みを前に、何かしてあげたいと思える人たち。わたしはそう、信じてるんだよね。

 

 

永遠に若いままで

最近の若者たちを取り巻く環境って、就職氷河期世代のわたしの頃よりも随分厳しいものになってるんじゃないかと思うんですね。

それは、「自己責任」が昔よりも重くのし掛かるようになって「迷惑をかけずに生きること」が何よりも重要視されるようになってきたから(どんな子に育てたいか、のアンケートでそれが1位だったのにはさすがに驚いたよ……)。

自殺でさえ「自己責任」の名の下に置かれる。でもそれってものすごく異常なことだと思うんですよ。不幸がベースにあるなんて、絶対に間違ってる。

 

そんな間違った現実に声を上げる若者に対して、「勉強しろ」「考えが甘い」「世間知らず」と叩いてその声を消し続けて、したり顔する人らを見てると、ほんとわかってないなと思う。

大人たちは、彼らの声に耳を傾けるべきです。

彼らに背負わせているものの重さに向き合うべきです。

それが大人たちが「そいつら」側にならない唯一の方法だと思うのです。

多分「若い」って、そういうことなんじゃないかな。

 

猪之木の痛み、穂峰くんの絶望、少年たちの苦しみ。そして掘貝とよっしーの無力感と罪悪感。彼らの、その一部を引き受けながら、これからもわたしは生きていきたいと思います。

 

 

作品情報
  • 監督 吉野竜平
  • 脚本 吉野竜平
  • 原作 津村記久子
  • 音楽 加藤久貴
  • 製作年 2020年
  • 製作国・地域 日本
  • 出演 佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将、葵揚