あらすじ
男子校に通うゲイの高校生チャーリーは、授業で隣の席になった一つ年上のラグビー部員ニックと知り合う。学校でも人気者で、内気な自分とは正反対のニックと友情を深めるうち、徐々に恋心が膨らんでいくチャーリー。一方のニックもチャーリーに抱く、初めての感情に困惑していた……。
Netflixで配信中、イギリス発の学園ロマンス。原作は、アリス・オズマンの同名漫画。オズマンさんはアセクシャル・アロマンティックであることを公表している作家さんです。
Twitterで仲良くさせていただいてる方が軒並み好評価で、ずっと気になっておりまして。やっとこさで観たわけですが……
いや、これは、もう、ほんと、大好きなやつ!!!!!
なんだろう?なんだろうな!?実はもうすでに3周していて(30分8話なので見易いんだなこれが……!)、自分でもそのハマりっぷりにびっくり。ほんと大好きなドラマでした。
主人公のチャーリーとニックの恋がかわいくてキュンキュンするのももちろん良いんだけど、出てくるキャラクターたち全員が愛おしくて、みんなの幸せを祈りたくなっちゃう感じ。チャーリーの友人であるタオとエルの友だち以上とも言える関係性も良くて、正式に付き合ったりというわけではないけれど、友情の延長にある豊かな触れあいはほんとかわいらしくて愛おしかった。大切に見守っていきたい2人です。
もう一人の友人、アイザックは物静かでいつも本を読んでるようなタイプなんだけど、みんなのことを大切に思ってる一方で気の乗らないことはしない。そんなアイザックを誰も非難したりしないし、心地よい友情を築いてる感じがとても良かった。
彼らを取り巻く大人たちも安心感があって、わたしもね、こうなりたいと思ったよ。
全体的に温かみのあるドラマだなと思いました。沁みる……。
若者の悩みに真摯に向き合う
ゲイの少年が主人公で、その恋のお相手はセクシュアリティが揺らいでいて、男子校から女子校に転入したトランスジェンダーの友だちがいて、レズビアンのカップルがいて、そんな彼らを「当たり前にそこにいる存在」としている友人や大人たちが登場する……。『LOVE、サイモン』や『ブックスマート』を観た時もとても感動したんだけれど、本作はより多様な視点を取り入れて見せてくれていたように思います。
そこからわたしは、「どんな君もここにいていいんだよ」という、作り手側のポジティブなメッセージを感じたんですよね(時折画面に虹が写り込むのもそう言った意味合いがあるのかな)。
LGBTQの描き方も紋切り型ではないし、かといって「異質」のような描かれ方をしているわけでもない。内容としてはとてもハッピーなドラマだけど、そう描くことを重視しすぎてLGBTQだからこその悩みや問題を無視してもいません。他者からの差別や偏見だったりいじめにも触れられますが、自身のセクシュアリティに対する混乱とか、カミングアウトへの葛藤やなんかが丁寧に描かれているんですよね。
チャーリーに恋心を抱き始めたニックが、「自分は何者なのか?」と自問する姿に自分を重ね合わせる人もいるのでは。今はネットでいろんなことが調べられますからね。当然そこにはネガティブなものも含まれていて、余計不安になったり、逡巡してしまったり……。
また、ニックがチャーリーと仲を深めることで、これまで自分が属していたスクールカースト上位グループのホモソーシャル的な嫌な面に気付き、自分らしくいられないことの苦しみを覚えていくというのも思春期らしい悩み。それはカミングアウトへの葛藤とも密接に繋がっている。
セクシュアリティに関わる部分は当然のことながら、若者たちの悩みにほんと真摯に向き合った作品だなと思いました。
大人が観てももちろん感動や気付きのある作品だと思いますが、今現在セクシュアリティに悩みを抱える人たちや、本作のターゲットである若者たちの、ある種の希望や指針となるようなドラマだと思います。
ゲイの高校生を主人公にした映画でいうと、去年『彼女の好きなものは』という邦画がありましたが、わたしはあの映画の主人公を取り巻く環境や話の展開そのものがあまり好きではなくて「自分の子には観せたくないな」なんて思っちゃって、それ以来、若い人が主人公の映画は「子どもに見せられるか」が評価の基準として心の片隅に置かれるようになっちゃったんですけど、このドラマはね、我が家のキッズたちにもいつか観てもらえたらいいなって思いました。
わたしがもしこのドラマを10代の時に観ていたら、間違いなく世界が広がっただろうと思ったので……。
キュンが過ぎる!キュートな演出
隣の席になったことをきっかけに友情を育むチャーリーとニック。2人の出会いのシーンもいいですね。いじめられた経験があり、かつ身勝手な恋人(とも言えない)のベンに振り回されてるチャーリーにとって、知らない誰かと関わるのは気が進まないことのはず。でも、ニックの屈託のない様子を見て、チャーリーの心がほどけていくのがわかります。
チャーリーはカミングアウトしている(「バレただけ」)ので、みんなが自分を好奇の目で見るのでは、という恐怖がまずあるんじゃないかと思うんですよね。初対面の時にニックが彼をゲイだと知っていたのかはわかりませんが(知っていたとしても多分自然に接するやつなんよ、ニックは…!)、いずれにせよ、変な目で見ることもなく、Hiと言えばHiと返してくれるニックに、チャーリーは信頼を寄せたのだと思います。
そんな2人の募る思いを加速させるツールの一つがインスタグラム。ニックはチャーリーのインスタを見て、その人となりやユーモアのセンスに触れ心を寄せていく。そして写真の中のチャーリーを見て、その恋心をより自覚していくんですね。
前述のインターネットもそうですが、レズビアンカップルがインスタグラムでカミングアウトしたり、友だちとのやり取りだったり、SNSやチャットツールが重要な局面で活躍するのも現代のラブストーリーならでは。
「Typing……」のもどかしさといったら……ぬぅ!今ドキの若い人たちはこんな風に恋をしてる感じなのねー!キュンキュンねー!たはー!(あたいはPHS世代のおばちゃんよ!笑)
それから本作で特徴的なのは、イラスト調のアニメーションの装飾が随所に差し挟まれるところ。ハート模様が飛び交ったり、漫画のコマ割りのように画面が分割されたりと、遊び心のある演出もかわいらしい。2話での、ニックがチャーリーの手に触れようとする時のスパークのエフェクトなんて、もうキュンと来ちゃう!
それから、こだわりが見られたのはライティングを含めた光の演出。青春のキラキラしたイメージや恋をしている時のときめきなんかがすごく伝わってくるんですよね。
3話のパーティーでのレズビアンカップルのタラ&ダーシーがダンスするシーンでは、彼女たちを虹色の光が取り囲み多幸感を演出。ていうかあれは、彼女たちを見つめるニックの視点なんですよね。愛し合う2人の光り輝くようなキスを見て、彼はチャーリーを思い起こす。同性愛者である彼女たちの幸せそうな様子は、ニックに自信を与えるんです。
そして、これはこのドラマじたいにも言えることで、彼ら、彼女らの幸せな姿を描くことで、悩みを抱える若者たちに自分らしく生きてもいいんだと、背中を押してくれる演出にもなっていると思います。
そして実はそれは、とても大事なことのように思います。
クリエイティブな人たちにできること
フィクションの中で「マイノリティ」と呼ばれる人たちがどのように扱われているかという表現は、我々が思っている以上に現実にも大きな影響を及ぼします。場合によっては偏見を助長したりステレオタイプを強化したりしてしまいかねない。特にまだ「何者でもない」若い人たちにとって、その比重は大人よりも大きいかもしれない。
かつては「Bury Your Gays(=ゲイのキャラクターは必ず死ぬ)」なんて言われていたように、LGBTQのキャラクターが悲劇的な結末を迎えることも多く、その描き方には偏りがありました。ハッピーなキャラだと「リアルじゃない」「ゲイは不幸でなきゃ」なんて言われたりね……(これは今でもある)。
でも、現実に苦しんでいる人たちがいたとして、それをフィクションでも苦しめてどうするの?というのがまずあります。もちろん過去にあった悲劇や苦しみをないものとしてしまうのはそれで問題だし、そういう表現をなくせとは思いませんが、そもそも、全員が不幸になる、なんて思い込みがまず間違ってるじゃないですか。そんなことはない、世界にはいろんな人たちがいて、幸せな姿や多様な扱いで描いて見せることも必要だと思います。そこから「君たちも自分らしく幸せに生きていこうね」と若い人たちにメッセージを送ることは、とても大切だし、素晴らしいことです。それはもちろん当事者だけでなく、その他大勢の受け手の意識にも作用する。言うなれば、想像力の助けになるんです。
そしてそれは、クリエイティブな仕事に携わっている人だからこそできることなんじゃないかなと思います。本作ではむしろ意識的にそういったリプレゼンテーションを高める取り組みがなされていて、作り手の方々のその姿勢に感銘を受けました。今後もこういった作品がもっと増えるといいですね。
多くの人に、届いて欲しいと思えるドラマでした。
すでにシーズン2、3の制作が決定し、「隠さず生きる」ことを選んだチャーリーとニックの今後の恋はどうなるのか。どうやらチャーリーのメンタル面について描かれるとも言われているのでちょっと不安でもあるのだけれど。あの子、ちょっと自己肯定感低すぎて心配なところあったからね……。
みんなの関係性がどう変化していくのか、彼ら彼女らを取り巻く環境はどうなるのか。次シーズンも楽しみです!
作品情報
- 原作 アリス・オズマン
- 脚本 アリス・オズマン
- 監督 ユーロス・リン
- 作曲 アディスカー・チェイス
- 制作国・地域 イギリス
- 制作年 2022年
- 出演者 キット・コナー、ジョー・ロック、ウィリアム・ガオ、ヤスミン・フィニー、コリーナ・ブラウン、キジー・エッジェル、トビー・ドナヴァン、オリヴィア・コールマン