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ナチス第三の男【映画・ネタバレ短評】ただの良くできたナチスもの…が観たいわけではなかった。★★(2.0)

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あらすじ

「ユダヤ人問題の最終的解決計画」の立案者であり、"金髪の野獣"、"鉄の心臓を持つ男"、"ナチスのナンバー3"…様々な異名で怖れられたラインハルト・ハイドリヒ。女性問題で海軍を追われた彼はどのようにしてナチスの高官まで上り詰めたのか?そしてなぜ、暗殺されたのか?

 

 

原作がとても好きで、その映画化とのことでいそいそと初日に観てまいりました。

原作の感想はこちら。

 

以下ちょっとネタバレ気味に(歴史物にネタバレも何もないのだが)、思ったことを書いていきますが、はっきり言って誉めていません。

なのでこの映画がお好きな方は回れ右でお願いします~

 

 

 

映画化…ではない。

いや、ナチスものとしては非常に良くできていると思いますし、ラインハルト・ハイドリヒの実態を描いたという点では評価される映画だと思います。金髪の野獣などと怖れられた男も、「実は弱い人間だった」という視点は新鮮です。

当時のチェコを再現した美術も気合が入っており、多額の予算をかけたのだろうと推測できます。また、役者陣、特にハイドリヒを演じたジェイソン・クラークは出世と共に徐々に人間性を失っていく様を見事に演じきりました。彼をナチ党に引き込む重要な役どころとなる、妻のリナを演じたロザムンド・パイクも、上流階級の娘らしい高飛車な佇まいとナチス高官の妻としての葛藤を好演していていましたね。

 

けれども、そうじゃないんだ。わたしが観たかったのは。

 

 

これを「映画化」というなら詐欺に等しい

厳しいことを言うようですが、残念ながら本作は完全に「映画化」としては失敗しています。

いろいろと制約があったり諸々の問題があったりして、原作のすべてをきれいに映画化するというのはむずかしい。わかります。一字一句同じ台詞にしろとか、役者がイメージと違うとか、そんなことは言いません。

ハイドリヒを主人公に据えたのに過去にユダヤ人の血縁がいると疑われたことをきちんと言及していないのも(映画版だとただ「ナチの奥さんに焚き付けられたのね~」と捉えられてしまう)、皆がこぞって英語で会話するのも(モラヴェック夫人が自害する時も通訳が出てこない!)、「僕」のメタ的構造がないのも(あれがあの小説の肝なのに…)、百歩譲ってかまいません。

わたしが1番がっかりしたのは、なぜあの小説を映画にしたかったのか、最後まで観てもさっぱりわからなかったということです。この映画を作った人たちは、原作をちゃんと読んだのだろうか?

 

まず、小説における「類人猿(エンスラポイド)作戦」を決行したガブチークらに敬意を捧げる、という根幹の部分が欠けています。(ヤン・クビシュがチェコ人で、ヨゼフ・ガブチークがスロヴァキア人だ、という点にも触れないとは!)

というかそもそも、原作にあった「歴史に真摯に向き合う」という姿勢がビタ一文も感じられませんでした。これではわざわざ『HHhH』という小説を映画化した意味がありません。全くの別物を作っておいて「原作はあの小説です」は詐欺に等しい。

小説で、

もちろん、創作ではない!そもそもナチズムに関して何かの創作をして、どんな意味があるのだ?

『HHhHープラハ、1942年』ローラン・ビネ 東京創元社2013年 単行本58ページ 40章

と、歴史的真実をごまかす「フィクション」というものに対して作者は憤っているというのに、映画ではいとも簡単にそれをやってしまっているのです。なぜわざわざ最後にクビシュとガブチークだけを生かしたのか?ただ「物語性」を優先するためだけの「脚色」は、それこそ歴史の「創作」じゃないか!なんだこの嫌がらせは。

映画化というプロセスの中で、そこから逸脱することは大いにけっこうですが、原作にある「芯」は決して歪んではいけない、というのがわたしの意見です。

 

原作者のローラン・ビネさんはもしかしたら本作を気に入っているかもしれないし(わたしはそうは思わない)、原作のファンのなかにもこの映画化を素晴らしいという人もいるかもしれない。

でも、わたしはこれを『HHhH』の映画化とは言いたくありません。

 

そしてふと見ればクレジットにワインスタインカンパニーの名前が。そうか、そうだったのか…

 

 

 

作品情報
  • 監督 セドリック・ヒメネス
  • 製作総指揮 ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、デヴィッド・C・グラッサー、グレン・バスナー、ダグ・マンコフ、シルヴァー・タバツニック、ゲイリー・ポーデル
  • 原作 ローラン・ビネ『HHhH』(ではない)
  • 脚本 デヴィッド・ファー、オードレイ・ディヴァン、セドリック・ヒメネス
  • 音楽 ギヨーム・ルーセル
  • 製作年 2017年
  • 製作国・地域 フランス,イギリス,ベルギー
  • 原題 HHhH
  • 出演 ジェイソン・クラーク、ロザムンド・パイク、ジャック・オコンネル、ジャック・レイナー、ミア・ワシコウスカ