あらすじ
第二次世界対戦中に凄腕のナチハンターとして暗躍した元軍人のカルヴィン。現在は引退し、戦争によって引き離されたかつての恋人との思い出に浸りながら残り少ない余生をしんみりと過ごしていた。
そんなカルヴィンの元に政府の人間が現れ、「未知のウイルスを保菌するビッグフットを殺して欲しい」と告げる。突然の申し出を一度は拒否したカルヴィンだったが…
なんじゃこの出オチみたいなタイトルは(笑)。
…と思うでしょ?ところがどっこい。
これは傑作でしたよ!!!
一人の老人の歴史
「ヒトラー」とか「ビッグフット」なんて仰々しい単語が並んでますが、内容はなんてことはない、老いた男の哀愁漂う回顧録なんです。
国に言われるがまま暗殺者としてナチと戦った男。しかしその活躍が表沙汰になることはなく、表彰も勲章もなし。今となってはただひっそりと老いさばらえるのみ…。
そんな彼は、死を前にして考える。
「あの時、自分のしたことに一体何の意味があったのか?」
愛する人とも結ばれることもなく、家族にも秘密を隠し、自分の行いが世界をより良くすると信じたにも関わらず戦争は終わらなかった…。
そして何より男を苦しめたのは「人を殺した」という事実。それは十字架のように呪いのように、永遠に彼をとらえて離さない…。
ぐはぁっ!重い!重いよおじいちゃん!!
「ビッグフット」とかいうから完全にB級モンスター映画かと思ったのに~!ていうね。
こういう「思ってたんと違う」感は最高です。
(↑こういうのじゃなかったです。)
都市伝説のつるべ打ち
あと楽しいのがね、この映画「おれのかんがえたとしでんせつ」の複合系ってところなんですよ。
ビッグフットがいた!というのはまぁよくあるとしても、そこに「ヒトラーを殺した男」なんて一部の人の「伝説」として語り継がれてそうな「都市伝説」をぶつけてきて、しかもそれを繋げるのが「祖父が語った昔話」として信じていた政府高官っていう、もう都市伝説のつるべ打ち。
「ビッグフットが未知の病原菌を撒き散らしてる」=連続殺人として報道してるとか、ヒトラーを暗殺したものの実は影武者がいて(ヒトラーがあの髪型とヒゲなのは同一性をもたせるのに「便利」だったからなのだ!!笑)、結局ナチスは倒せなかったとか、陰謀論じみた「お話」もいいです。
こういうのほんと好き。
あと、ビッグフットの生息地である森のロケーションもすごく良かったですね~。
一応設定では「アメリカとカナダの国境付近」てことになってるんだけど、実際のロケ地はどこなんだろう?ちょっと調べたけどわからなかった…
https://youtu.be/UkP4bZKCHE8より
光の具合とかもめちゃくちゃ好きな感じでした。
回想シーンの入り方がかっちょいい
あとね、「ヒトラーを殺した」の部分はカルヴィンの過去としてフラッシュバックで描かれるわけですが、その回想シーンの入り方がねぇ、いちいちかっこ良かった(笑)。
基本的にカルヴィンが「思い出す」ことによって回想シーンが始まるんですが、例えば、
- バーで飲んでいたカルヴィンのグラスがナチのグラスに
- 冷凍食品のみすぼらしい料理から恋人とのレストランでのディナーに
- 理髪店の整髪料の緑の瓶が作戦中に見た緑の草に
…という感じで小道具を使っての意識の流れみたいなのを使うのがとても自然でセンスが良くて、その度に「おっ!」ってなっちゃった(単純)。
あとね、ナチの衣装もだけど、ヒトラーを暗殺するときに使う組立式の銃も無駄にかっちょ良かった!まじであれはセンスの塊(モチーフにしてる作品とかあるのかなぁ?)。
監督のロバート・D・チコフスキさんは本作が長編デビューらしいのですが、今後も注目していきたい方だなと思いましたよ!
ただ、ビッグフットさんが出てくるのは映画の半分くらいで、映ってるのは正味5分くらいと、かなーりビッグフット要素は控えめなので、モンスター映画を求めると「うーん?」となってしまうかもしれません。
(ちなみに、ビッグフット役は『スケアリーストーリーズ』の青白い女を演じたマーク・スティガーさんです)
でもいぶし銀なおじいちゃん映画が好きな方には全力でおすすめしていきます。
わたしは大好きでした!
あと、イッヌがめちゃくちゃかわいいです。
以下ネタバレあり。
はぐれビッグフットに自分を重ね
とにかくねぇ、もう、全部のエピソードが切ねぇんですわ。
そもそも必死の思いで「ヒトラーを殺し」たのにナチスが倒れなかったのも残念すぎだし、そのせいでカルヴィンは自分は何をやってるんだろう?とずっと自問し続けてるんですよね。
徴兵される前に恋人に「帰ってきたら結婚しよう」とプロポーズ大作戦を試みるもことごとく失敗、帰還しても十字架を背負ってしまったカルヴィンは恋人に会いに行くことはなく、結局結ばれることなく彼女は若くして病死する。
何も成さず、何も残さない人生だったと思ってるんですよね…。
だから、「世界のためにビッグフットを殺してくれ」って言われても、カルヴィンはそこに意味があるのかわからない。そもそも人生を国にめちゃくちゃにされたようなもんなのに、また自分は利用されるのか?という思いもある。
それでも、自分の生きざまと信念を胸に、彼は再び銃とナイフを手に取るわけです。
くうぅ~!これが熱くないわけがなかろうて!!
そして、森に入ってビッグフットを追跡するうちに、実はビッグフットは植物食で、動物を食べるために殺していたわけではないことがわかってくる。
再び頭をもたげる疑問。「この殺戮に意味はあるのか?」
ビッグフットも自分も国や政府といった「大きなもの」の駒に過ぎないのかもしれない、と森で孤独に生きるビッグフットに自分を重ねながら、でも殺るか殺られるかの瀬戸際で「お前を撃ちたくない」と言いながらも殺す選択をする。
もうね、悲しくて切なくてやりきれないわけですよ…。
けれど、このビッグフットはある意味でカルヴィンの十字架そのものの象徴だったのかもしれないとも思うし、それを殺すことで、彼はまた前に進むことができたのかもしれません。
兄弟映画でもある
あとね、この映画は兄弟映画でもあるんです。
弟エドの営む理髪店を月いちくらいで訪れるのが、カルヴィンにとっても安らぎのひとときなんですよね、多分。
出征時にまだ子どもだった弟エドは、ある意味「戦争」を知らないから、カルヴィンはほんの少し気を緩めることができるのかもしれない。弟の存在は唯一の家族であり、拠り所なんだと思います(また演じてるラリー・ミラーの優しいたたずまいも良い)。
ビッグフット殺しも、ヒトラー殺しと同じように「正史」として語られることはないでしょう。でも、弟がいてくれることで、カルヴィンは「こちら側」に帰ってくることができたんじゃないかと思います。
自分の墓からかつての思い出を取り戻し、また恋人をめそめそと回想する日々を繰り返すかもしれません。
でも、そばに弟がいてくれればカルヴィンはまだ生きていけるでしょう。
あと、ワンちゃんさえいてくれればね。
作品情報
- 監督 ロバート・D・チコフスキ
- 脚本 ロバート・D・チコフスキ
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 THE MAN WHO KILLED HITLER AND THEN THE BIGFOOT
- 出演 サム・エリオット、エイダン・ターナー、ケイトリン・フィッツジェラルド、ロン・リヴィングストン、ラリー・ミラー