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【映画】天才スピヴェット【ネタバレ感想】 ねぇ、ぼくのこと好き?…聞けないぼくは旅に出た。★★★★(4.0)

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天才スピヴェット(字幕版)

あらすじ

10歳のT・S・スピヴェットは観察力の優れた科学者気質の天才少年。モンタナ州の農場で風変わりな家族ーナチュラルボーンカウボーイな父、昆虫採集家の母、ミスUSAに憧れる姉、父の血を受け継ぐカウボーイ少年で二卵性の双子の弟ーと暮らしていた。しかし突然の事故で、皆んなから最も愛されていた弟が銃の事故で死んでしまう。「自分が死んだほうがよかったのでは」と、その死に負い目を感じるT・S。

ある日、学校でも家でも認めてもらえなかったT・Sの発明が、科学アカデミーから権威ある賞を与えられた。T・Sは家族には何も言わず、授賞式に出るためワシントンD.Cへ向けたった一人旅立つ…。

 

 

ジャン=ピエール・ジュネが好きなんです。
『ロスト・チルドレン』も『デリカテッセン』も『アメリ』も、大好きなのです。
鈍色がかった色調(白熱灯っぽい)とか、どこかおかしいキャラクターとか、盛り気味な小道具とか。あと、やはり魅力的なのは箱庭感のある映像だとわたしは思ってます。
 
ただ、この映画は今までの作品の中でもちゃんとロケーション感がしっかりしているような気がしました。自然の描写が多いことも一因なんでしょうが。でもやっぱりね、ロケ撮影であってもどことなく作り込んでいる感じがある。
引きこもりの宅録マニアが、野外ライブやりました、みたいな感じ…って伝わりますかね(笑)?
まさしく飛び出す絵本といった感じ。それもそのはず、今作はジュネ初の3Dで作られた映画。まぁ、2Dでも全く問題なかったけどね。まぁ3D用だなってのは感じたけど。
あとね、光が明るく感じた。空が輝いてる。
 
ジュネ映画の奇人担当、ドミニク・ピノンも貨物列車で暮らすホームレス役で出演しております。彼の語るスズメと松のエピソードはこの映画の大きなテーマ。
また、昆虫博士でエキセントリックな母親をヘレナ・ボナム・カーターが好演。この人はほんとおかしな役が多いな。きれいなのにね。
 
けれどもやはり特筆すべきはスピヴェット少年役のカイル・キャレットくんの存在でしょう。クールなのに頼りなさげで、つい応援したくなっちゃうかわいらしい顔立ち。天才少年であるがゆえの寂しさと孤独を、繊細な演技で表現していました。
彼自身6ヶ国語を話せる秀才くんとのことです。そのため、原作にも脚本にもなかったロシア語を話すシーンを追加したそうですよ。
 
以下ネタバレ。
 
 
 
 

愛を求めて

10歳のスピヴェット少年が、まぁいろいろ理由をつけて家出をするわけです。
ハイティーンの子が家出をするとなったら理由は大体家族の束縛が嫌とか、都会への憧れとか、支配からの卒業とか、要は自由への希求が発端になることが多い。
そして小さな子どもの家出は恐らく、親の愛情の確認を目的とする場合が多い…ってごめんなさい、自分基準で言ってるだけなんで(笑)、統計とかあるわけじゃないです。
 
でも多分、スピヴェット少年も、科学賞はただのきっかけあって、本当の理由ではない。学校の先生からは自分の研究をけなされるし(本当に優秀な生徒を目の敵にしてる教師って実際にいる)、家族には理解されない。でもそこに不満があったわけではなかったと思うのね。
彼が心の中でずっとわだかまっていた思いー「自分は家族から愛されていないのではないか」が、やはり彼を旅に向かわせた本当の理由だろうと。
ただスピヴェット少年が天才すぎてついていけないだけで、両親は彼の研究(つまり彼自身)を、決して否定はしていないんだよね。子育てや教育においてはこれが最も重要なんだと思うんだけどね。とは言ってもやはり、子どもにはわかりやすい、目に見える形の愛情表現が必要だってこと。強く抱きしめるとか、カウボーイハットを被せてあげるとか。
スピヴェット少年があまりに頭が良くて大人びているから、ついつい両親もそこに甘えてしまっていたのかな。
 
「弟の方が愛されている」ことにも不満はない。自分も弟のことが大好きだから。でも弟が死んで、その責任が自分にあると思えば、悲しむ両親を見ていたたまれない気持ちになるし、「自分は家族から疎まれているのでは」とも考えたくなる。
「ぼくのこと好き?」って、素直に聞けていればきっとよかったんだろうけど、スピヴェット少年は聡い子だから達観しちゃってるのね。
旅の途中、家族が自分を心配している様子を想像するんだけど、「そんなはずない」と公衆電話を悲しげに見つめる場面がね、何とも切なかった。
 
 

頭がよくてもまだ子ども

さて、小さな家出少年が乗るのはもちろん盗んだバイク、ではなく大陸横断貨物列車です。この鉄道旅のシーンがすごくよくて、特に列車がかっこいい!多分あんなイカした大陸横断列車はないと思うんで、恐らく創作なんだろうけど。

貨物列車が運ぶキャンピングカーを寝床にするっていうのがね、いかにもアメリカ!って感じ。
 
まぁそんなわけで、警官と一悶着もありながらもなんとかスミソニアンに辿り着いたスピヴェット少年。
協会の大人たちは、受賞者が10歳の子どもということに困惑しながらも、マスコット的存在としてスピヴェット少年をちやほやします。
そして彼は授賞式のスピーチで、涙ながらに弟の死とその原因(銃の暴発)が自分にあったことを語ります。そしてそれを陰で聞いていた母…。息子がずっと自分を責め続けていたことを知るのです。
 
母はスピヴェット少年に内緒でテレビ番組に同席し、息子にもっと早くに言うべきだった言葉を口にします。
「あなたは悪くない」
それはスピヴェット少年が最も聞きたかった言葉…。彼がこの言葉でやっと救われたんだと、思わずこちらもぐっと来ました。あ〜家出した甲斐があったね!
 
母と強く抱き合ったあと、スピヴェット少年はさっさとテレビ局をあとにします。子どもをダシにしようとしたインタビュアーや、協会の理事長にひと泡吹かせるシーンは爽快。
最後には父親におんぶされ、カウボーイハットを被り、揚々と我が家であるモンタナの農場へ帰って行くのでした〜。
よかったね、スピヴェットくん!
 
 
鉄ちゃん色★★★
お坊ちゃん色★★★★
ジュネ色★★★★
総合★★★★(4.0)
 
 
原作。図版などが豊富でわくわく楽しいみたい。

 

T・S・スピヴェット君 傑作集

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