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真夜中のゆりかご【映画・ネタバレ感想】究極のイクメン刑事だからこその決断。★★★★(4.0)

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あらすじ

善良な警察官のアンドレアスは美しい妻との間に、愛らしい息子アレキサンダーが生まれたばかりで、幸せで満ち足りた日々を送っていた。

ある日、捜査で訪れた薬物中毒者の家で育児放棄された赤ん坊を見つけ、そのひどい有様に衝撃を受ける。虐待を防ぎたいアンドレアスはその親を逮捕しようとするが、証拠不十分で釈放されてしまう。そんな事件があった直後、アンドレアスに突然の悲劇が訪れる…。

 

 

デンマークの女性監督、スサンネ・ビアによる2015年公開の映画。

スサンネ・ビアと言えば、主に「家族」をテーマとした人間ドラマに、女性らしい視点を加えた、辛辣で現実的だけれども、どこか温かさと優しさのあるストーリーテリングが特徴。

 

みんな大好きマッツ・ミケルセン主演作。音楽もいい。シガーロスがめちゃくちゃいいところで流れる。なかなか屈折した「家族」映画。

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「悪人を許せるか?」という大きな問題を「夫の浮気を許せるか?」という超個人的な問題と同列で扱っている映画。ただ、邦題がダサい。

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普遍的だけど「北欧ならでは」なお話です。

今作でも描かれているのは、ある「家族」の問題。子育ての問題でもあり、夫婦間の問題である。結婚して、子どもを持つ人にしてみたら、かなり身につまされる、重たい物語です。とくに後半の展開にがくーん、となるでしょう(わたしはかなり落ち込んだ)。

 

ただ一つだけ言えるのは、この映画は日本では成立しない、ということ。男性が積極的に育児に関わる(ことが多い)北欧ならではなのかなぁ、と思いましたね。少なくとも日本の男性は、主人公の選択を理解できないと思うの(常識的に、という問題ではなく心情的にという意味で)。

 

暗くて重い、鬱々とした映画です。元気な時にご鑑賞ください。

とはいえラストには少なからず希望もあります(わたしは号泣してしまった)。

 

 

以下ネタバレ。

 

 

 

 

 

イクメンパパの暴走

アンドレアスの子ども、アレキサンダーはある夜、突然息を引き取ります。

妻は錯乱し、救急車を呼ぼうとしたアンドレアスを引き止め、冷たくなった息子におっぱいをあげようとしたりします。

「この子を引き離したら死ぬから」という妻を前に、アンドレアスの下した決断は…自分の子の遺体とジャンキーに育児放棄されていた赤ん坊ソーフスをすり替えること。

 えぇ!?

百歩ゆずって赤ん坊連れてきちゃうのはまぁわからんでもないとして、そこに自分の子を置いてくるなんて、ちょっと考えられない…。だって、どうなるか大体察しがつくでしょ。到底理解はできないのだけれど、これはアンドレアスがイクメンで正義感の強い警察官だからこその選択だったんじゃないかと思うのです。

虐待されていずれ殺されてしまうかもしれない赤ん坊を、死んだ息子の代わりに育てる。彼にとって、これは正義だったのでしょうが…はたから見たら常軌を逸しているし、理解はできない。完全にイクメンパパの暴走です。

でも、「子どもをどうしても欲しかった女」が似たようなことをする話だとしたら、そこまで変じゃないかな?とも思えたりする(他人の子を奪おうとする女の話は『8日目の蝉』とか『ゆりかごを揺らす手』なんかがあるし)。

けれども本作では、女=アンドレアスの奥さん、つまり子どもの母親の存在が希薄に感じたんだよね。…けれどそこにはもちろん理由があったわけだけれど。

 

さて、子どもをすり替えられたジャンキーの夫婦は、風呂場で汚物まみれで死んでいるソーフス(本当はアレキサンダー)を見つけ、慌てます。
父親は「またムショに戻るのはごめんだ!」とない脳みそで考えた偽の誘拐事件をでっちあげ、遺体を森に遺棄したのでした(そりゃそーなるわな)。

ジャンキーの企てた狂言誘拐で、慌てたのはアンドレアスの方。実際は自分の子が遺棄されたわけだからね、ジャンキーを尋問し、子どもの遺体を捜索しようと躍起になります。
ジャンキーの妻はというと、「(死んだのは)わたしの子じゃない。ソーフスはどこかで生きている」と言っている…同僚もアンドレアスの様子に違和感を覚えはじめ…さぁて、イクメンパパは自らの「犯罪」を隠し通すことができるのか⁉︎

 

 

アレキサンダーの遺体発見、そして衝撃の真実…

途中まではこの「バレるかバレないか」のサスペンスで引っ張っていきます。そして、意外にバレない(笑)。

奥さんが唐突にリタイアしちゃって(「大丈夫、うまくやれるわ」からの→橋からの身投げ)、アンドレアスは孤軍奮闘。自分の親も、奥さんの親も、孫が別人になっているのに気づかない!!(なんでやねん! 笑)

特に奥さんの両親は、娘が死んでから孫に初めて会ったようで、どうにも冷たい印象…傷心のアンドレアスとは対照的に、淡々と葬式の棺や花飾りの話をしはじめる(「娘の好きな花が思い出せないんだ」とか言ってる)。

 

そんなこんなしているうちに、アレキサンダーの遺体が発見される。一応「事件」ですから解剖されるわけですが…なんと、アレキサンダーの死因は「突然死症候群」ではなく、「揺さぶられ症候群」つまり、「虐待死」だったと判明!!

がーん!! 

虐待していたのはジャンキーの方ではなく、自分の奥さんの方だったのです。

 

奥さんが死んだアレキサンダーを手放そうとしなかったのは自分の虐待を隠そうとしたから。自殺したのは虐待がバレるのを恐れたから。そして、赤ん坊をすり替えたアンドレアスに言った「完全犯罪?」の意味は、夫の犯罪ではなく自分の犯罪のことだったのだ…!

 

アンドレアスは、父親としては申し分ないイクメンです。夜泣きで起こされても文句も言わず率先して赤ん坊をあやす。

 

やり方はどうあれ、とにかく、アンドレアスはイクメンとしては合格点です。ただ、夫としてはどうだったのだろう?奥さんの思いに向き合えていたのだろうか?それが端的に表れていたのが以下のやり取り。

 

妻「信じられない。子どもがいるなんて。実感がないの」

アンドレアス「後悔してる?

妻(激昂して)「あの子は大切な宝物よ!なんてこと言うの!」

 

これ、母親であるわたしとしては、「奥さん相当参ってるなー」って思ったんだけど、アンドレアスは「ごめんごめん、なんか辛そうだったから」なんて謝ってキスして終わりなのね。いや、そうじゃないんだよな。奥さん、めっちゃSOS出してたんだよね…。

父親が子育てすることはとても大事(というか当然のことでもある)。でもね、それと同じくらい、奥さんと向き合うことも大事なんだよね。

アンドレアスは子どもの方しか向いてない。というか多分、奥さんも自分と同じ気持ちで子育てしていると思っていた。それがそもそもの間違い。日中、奥さんがどんな思いで育児をしているか、思いをはせることなんて、きっとなかったんだと思う。

 

 

育児という孤独 

奥さんのバックグラウンドについて、映画の中ではほとんど言及はありません。ただ、前述の通り、奥さんの両親は自分の娘と孫に対してあまりに冷たい。もしかしたら多忙な両親で、奥さんは幼い頃から寂しい思いをしていたのかも。

そのせいもあって、自分は愛情を持って子育てしようと思ったのかもしれない。

「君は子どもを持つのが夢だった」とアンドレアスが言っていたように、奥さんは奥さんなりに息子を愛していたに違いない。

でも、両親から愛されていた記憶のない奥さんは、どう愛していいかわからない。

「この子は宝物なんだから、ちゃんと愛さなくちゃ。後悔してるなんて思っちゃダメだ、わたしは母親なんだから」…。奥さんのそんな声にならない声が聞こえてくる気がした。

きっと完璧な母親になろうとしたのね。そんなもの、存在しないのに。完璧な「人間」が世界のどこにも存在しないのと同じように。「母性本能」なんてまやかしの言葉にだまされて自分を苦しめていったんじゃないかな、と(わたしは母性は本能ではなく理性だと思ってる)。

 

子育ては基本的に孤独です。乳幼児期は特に。だからね、あんな人里離れたような湖畔の家に、奥さんと子ども二人きりにしちゃダメ!確かに環境はすげーよさそうだけれども。

 

 

気になった演出

本作で特に印象的だったのは、目のアップが多用されていたこと。サスペンスやスリラーではよくある演出ですよね。目のアップは緊張感が高まるし、不安な気持ちを掻き立てます。

特にジャンキーの妻の取り調べのシーンはかなり効果的でしたね。「わたしの子は生きてる」と力強い目力で訴える母親。それに対し、目が泳いでしまうアンドレアス…。緊迫感のあるシーンでした。

 

あと、演出面というか、赤ん坊たちの演技力ね。

赤ちゃん相手に監督やスタッフ(もちろん役者さんたちも)は大変だったんじゃないのかなぁと思うんだけど。数人の子で撮影したり、人形も使われたんだろうけど、それにしてもおとなしいしかわいらしかったです(だから余計にひどい目に合っていると悲しくなってくる…)。 

 

 

ちなみに、原題は「A Second chance」。

結果的にアンドレアスはソーフスを元の母親に返し(再会のシーンで彼女が本当の意味で「母親」だったことがよくわかる)、自分は警察を辞めることになってしまいます。

けれども、多分今回のことがソーフスとその母親を立ち直らせるきっかけにもなったし、彼らにセカンドチャンスを与えたことになったのだと思います。

ラストシーンでの彼らとアンドレアスの再会は、ソーフスとアンドレアスの会話も含め、胸に来るものがありました。 

 

 

 

作品情報
  • 監督 スサンネ・ビア
  • 脚本 アナス・トマス・イェンセン
  • 音楽 ヨハン・セーデルクヴィスト
  • 製作年 2014年
  • 製作国 デンマーク
  • 原題 EN CHANCE TIL/A SECOND CHANCE
  • 出演 ニコライ・コスター=ワルドー、ウルリク・トムセン、マリア・ボネヴィー、ニコライ・リー・コス