あらすじ
階下に映画館のあるアパートで暮らすイライザは、政府の機密研究施設で掃除婦として働いている。聴唖の彼女には友人と呼べる者は隣人の老画家ジャイルズと同僚のゼルダだけだったが、小さなことにも幸せを見出し充足した日々を過ごしている。ただ、年頃を過ぎても恋人のいないことだけに孤独を感じていた。
ある日、研究施設に謎の生物が収容される。その生物に興味を抱いたイライザは、音楽と手話で交流し、"彼"と心を通わせていく。しかし、施設の責任者ストリックランドがその生き物を生体解剖しようとしていることを知り、彼を逃がそうと奔走するが…。
デルトロの新作!!ということでね、超楽しみにしておりましたよ〜。
まず、ポスターヴィジュアルが解禁された時から傑作の香りがプンプン。また、揺らめく水影が印象的な予告編の、主人公イライザを演じたサリーホーキンスの地に足がついてなさそうなアメリ感と力強い手話(彼を助けないなら、私たちも人間じゃないわ)に「どんな話なの⁉︎」と見るたびにワクワク。
ウナギのぼる期待を胸に、月イチのママ業休みを家族からもらって、ルンルン気分で観てまいりました!
見終わった後の感想は…
デルたん、なんてロマンチック〜〜♡
映像美に思わずうっとり…
とにかく、全てのシーンが色っぽくて幻想的なんですよ。まず、舞台装置と照明だけで水の中を表現した見事なオープニング(dry for wetという表現方法だそうな)にはじまり、イライザと半魚人が水槽越しに見つめ合うシーンや2人が愛し合うシーン、バスの窓についた水滴が交じり合うカットなんて、思わずうっとりとしてしまうほど美しくて艶かしいのです。
それに、まずもって半魚人がもうほんとカッコよくて、あれなんだよ、胸に響くんじゃなくて子宮に響く系のイケメンなんだよ(笑)。いやまじで、イライザじゃなくても恋に落ちる〜!って思いながら見てましたわ。ダグジョーンズめぇ、どれだけ惚れさせるのん〜
イライザを演じたサリーホーキンスも手話と表情のみの演技で素晴らしかったですね(タップシーンやミュージカルシーンも可愛かった〜!)。夢見がちな少女のようだった序盤から、半魚人との恋に目覚めてからの後半の力強さ、特にストリックランドにFワードを見せつける時のドヤ顔のギャップ!あれには恐れ入りました。
fuck youの手話、覚えました。
あと、デルトロ特有の唐突すぎる暴力的な残酷描写が満載で、その度にギョギョッ!ϵ( 'Θ' )϶としてしまいました(半魚人だけに)。また所々過去作のモチーフが散りばめられていて、まさにこれまでのデルトロ作品の集大成と感じられる出来栄え。彼のこれまでの作品を観てきたファンはきっとラストシーンにニンマリとさせられるはず。
ただ、若干の不満点があったのも事実でして、展開が早いせいでキャラクターの心情の変化に追いついていないと感じる部分があったり、そのミスリードは必要か…?という点があったり。絵力の強さで紛れてはいましたが、脚本に弱さや穴を感じてしまいました。もしかしたらカットされたシーンが多くあって、わたしが感じた違和感はそこに含まれている可能性もありますけど。
補完のために小説版も読んでみようかしら。
わたしの中では『パンズラビリンス』並みの傑作とはいきませんでしたが、異形の2人であるイライザと半魚人のラブストーリーは、デルトロの「異形の者」への優しい眼差しと愛に溢れた、あたたかみを感じられる物語でした。
それと同時に、さまざまな「社会的弱者」たちを登場させることで、彼らへの愛あるメッセージでもあると受け止めました。現在、国籍や人種、性差、障害の有無など、まるで前時代的な分断がさまざまな場面で進んでいると感じます。この映画は、こんな時代だからこそ必要な「おとぎ話」なのかもしれません。
以下ネタバレ。
主流派と闘うアウトサイダーたち
本作でスポットが当てられているのは、いわゆるアウトサイダー(非主流派)と呼ばれるマイノリティたちです。主人公イライザは話をすることが出来ず、彼女の友人であるジャイルズはゲイで、ゼルダは"黒人"女性。
ゼルダを演じるのはオクタビア・スペンサー。最近『ドリーム』観たばっかりだったから「あれ?ドロシー?」とかちょっと混乱。時代背景も姐御な役柄も似てるし…(苦笑)公式サイト映画『シェイプ・オブ・ウォーター』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメントより
そもそも彼女の仕事ー夜勤の掃除婦ーは皆一様に非白人の女性たちです。
本作の中での"主流派"である白人男性はストリックランドと、ジャイルズが想いを寄せるカフェの店員(絶対にゲイなはずなのに、黒人相手にあからさまな差別を見せるのが憎たらしい)らくらいなもので、彼らが善人としては描かれていないのが特徴的です。
ストリックランドは「用足し後に手を洗う奴は軟弱だ」という謎の独自理論を持ち、愛読書は「ポジティブシンキング」、金髪の妻に庭付き一戸建てとキャデラックという典型的なアメリカ白人男性(おまけに絶倫)。彼が半魚人をいたぶる武器の警棒は男根の象徴でしょうね。支持政党は間違いなく共和党。
そんなストリックランドからイライザたちは半魚人を救おうとします。つまり本作は、マイノリティたちが主流派へ闘いを挑む物語だったのです。
半魚人は「南米で神として崇められていた」とありましたが、それはイコール信仰とも取れますし、イライザのセリフ「彼を助けないなら私たちも人間じゃない」の意味を考えると、おそらくここで半魚人が象徴していたのは、彼らマイノリティの"尊厳"なのではないかと思います。 それを取り戻す為の闘いなのです。
聴啞者、黒人女性、ゲイ、祖国を奪われたスパイ…「特殊チーム」ならぬ即席の「マイノリティチーム」が力を合わせ、''彼''を救う姿は胸を打ちます。
確かに、それはとても感動的なのですが、しかしこの「異形の者たちが異形の者を救う」物語には、ある種の危険もはらんでいます。それは、異形の者は、異形の者としか関係性を築けないのか?という点です。
最終的に、イライザと彼は海に逃げ、自分たちを迫害する社会を捨てます。つまり、「社会は異形の者を受け入れない」とこの映画は言っているようにも見えてしまうのです。
取り残された形で桟橋に佇むジャイルズとゼルダは一体どんな表情をしていたのでしょう?勝利の喜び?それとも残された哀しみ…?
…わたしたちはまだ、"彼ら"から捨てられるような社会に住んでいるのかもしれないですね。
なぜ、イライザは話せないのか?
主人公イライザは首に傷を負っており、その時の出来事がトラウマとなって声を出すことができないというキャラクターです。おそらく、これは彼女が"声を上げることができない"性暴力の被害者であることの暗喩で、首の傷はそのまま心の傷を示唆していると思います。
ストリックランドから「どんな声で喘ぐのか」的な超絶セクハラ発言受けて髪に触れられた際にひどく怯えていたこと、愛する半魚人に触れられた時も同じ反応を示していたことから、それは間違いないと思います。(偶然かもしれませんが、イライザを演じたサリーホーキンスは、『ヴェラドレイク』で強姦され妊娠させられる名家の娘を演じてます。)
きっと加害者は、彼女が話せない=告発できないのをいいことにことに及んだ、彼女を人とも見なさない、卑劣で残忍なストリックランドのようなマッチョイズムな人物だったのかもしれません。そのためにしばしばイライザはストリックランドを怯えたような半ば蔑んだような目で見ていたのではないでしょうか。
だからこそ、そんな彼女が愛を知り強さを得て、憎きストリックランドに「fuck you」と伝えるシーンは爽快です。奇しくも少し前に、ツイッター上で性被害を告白する「#MeToo」という運動がありましたが、セクハラや性被害に屈せず立ち上がった女性たちの姿を見るようでした。
イライザは、一度は半魚人を拒絶してしまいます。けれども意を決したイライザが再び彼と向かい、バスタブで結ばれようとした時の目の力強さと裸体の美しさといったら!序盤に同じ場所でしっぽりオナニーしていたのと同じ女性とは思えません。シャッとシャワーカーテンを引く勢いと彼を見つめる眼差しに、イライザの「もう過去は振り返らない」という覚悟が見えました。
そして、ラストシーン。イライザは半魚人に触れられ、首筋の傷がエラのように変わります。彼女のトラウマが、生きる為の器官となったのです。過去を乗り越える方法として、消し去るのではなく、それさえも自らの一部にするという、これほど過去の傷を美しく昇華させる表現があるでしょうか?
公式サイト映画『シェイプ・オブ・ウォーター』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメントより
イライザが癒される直前、水中に血が漂うシーンは『デビルズバックボーン』のサンティを彷彿とさせます。あの子は死んでしまったけど、イライザは蘇ります。
きっとデルトロはこのラストシーンが、多くの人にとっての癒しとなることを願ったのではないかと思いました。
最後に
もう長くなってしまったのでおしまいにしますが、今この記事を書きながら本作を思い返してみると、ほとんど好きなシーンばかりなんですよね。
半魚人が出てるシーンは全部好きで、自分の絵を見てはじめて自分が異質だと知る切なみ、映画館で佇んでそれを受け入れる哀しみ。(その前の猫ちゃんを食べちゃった半魚人の表情がたまらない!)彼の目の輝きや表情の一つ一つがたまらなく愛おしいです。イライザが「あなたにこの愛の深さはわからない」と歌い上げる声に恋の痛みを感じ、抱き合う2人の姿に愛の悦びを知る…これ以上ないくらいに「ロマンチックで美しい映画」でした。
過去に書いたデルトロ監督作のわたしの感想はこちら。
作品情報
- 監督 ギレルモ・デル・トロ
- 脚本 ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー
- 音楽 アレクサンドル・デスプラ
- 製作年 2017年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 THE SHAPE OF WATER
- 出演 サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、オクタヴィア・スペンサー、マイケル・スタールバーグ
- 映画『シェイプ・オブ・ウォーター』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント