あらすじ
1人無人島に取り残されたハンク(ポール・ダノ)は、救助も来ず絶望して首をくくろうとしていた。そこへ見知らぬ男の死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。お尻からオナラ=腐敗ガスを吹き出し海面を推進するその姿を見たハンクは、死体に乗って無人島を脱出しようと試みるが…。
オナラに、泣く。
はじめて予告編を観た時からずっと観たかった本作。ダニエル・ラドクリフが死体役?てか、なんで死体でジェットスキーしてんの?え、万能死体って何よ!?と頭の中が疑問符でいっぱい。気になって仕方がなく、早速レンタルしてきました。
公式サイト『スイス・アーミー・マン』公式サイトより
いやもうさ、この状態が意味不明過ぎで面白そう過ぎるでしょ。まぁ多分死体使った不謹慎ギャグとかシュールなネタで笑わせてくるコメディなんだろうなぁ…なんて思ってた。思ってたんだけど!!
泣いた〜〜〜!!
まじでバカみたいに泣いた。しかも何にって、「オナラ」にだよ!!
ちょっと最近さすがに涙腺ゆるみ過ぎじゃない?オナラだよ?ヤバくない自分?って思いながらおいおい泣きました…。いや、おかしいのはわたしではない、映画の方よ…。
音楽が、イイ!
監督はこれが初長編というダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの2人組ユニット「ダニエルズ」。ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズらと同じくMV畑出身らしく、キラキラとした空気感にハンドメイドな小道具、クレイジーな世界観なんかは、そっち系らしいですね。
特に音楽とのリンクの仕方は鳥肌が立つレベルで、冒頭のポール・ダノ演じるハンクが口ずさみながら海に飛び込み、死体のラドクリフに飛び乗って海を渡る(そしてタイトルババーン‼︎な) オープニングシークエンスから始まり、躍動感溢れる音楽に合わせ2人の共同作業がシュパシュパッと進む細かいカット割りの編集、手作りバスでの「ジュラシックパーク」メインテーマの使い方などに、その手腕が発揮されていると思います。
音楽そのものもすごく独創的で、かなり好きな種類のやつでした。ほとんど楽器を用いずにコーラス(主演の2人も参加している)を主体に構成されたアカペラサウンドは、ハンクの頭の中で流れている脳内音楽という意図で作られたそうです(『スイス・アーミー・マン』公式サイトより)。壮大でありながら内省的な楽曲が、2人のミニマムでメルヘンなサバイバルライフに絶妙にマッチしてます。
このリリックビデオだけでご飯3杯食べられる…!この曲がかかるポップコーン→手作り映画館のシーンは、なんか、涙出てきちゃいました。楽しいのに哀しい、笑えるのになぜか泣ける…映画の魅力を最大限に引き出す、素晴らしいサントラだと思います。
#それいけメニーくん
あと、映画でラドクリフが演じた死体を模した人形「メニーくん」が様々な場所に赴いたり、映画館で一緒に写真が撮れたりという、ヒジョーに愉快なプロモーションをしていたことでも話題になっていた本作。 "#それいけメニーくん"で、検索!
各映画館の他、名古屋城や高尾山など観光スポットに出没していた模様(いずれも公式Twitter(@Swiss_Army_Man_ )より)
わたしも先月渋谷の映画館で生メニーくんと対面したのですが、かなり異様でシュールでございましたよ…(苦笑)
で、なんでこんなプロモーションしてんだろ?と思ったら劇中でハンクとメニーが写真撮ったりするシーンがあるんですね。その再現をしてみよう、ということなのかな?と。
ただこれ、映画観終わった後だと、単純に「劇中の再現」という域を越えて、「誰のそばにもメニーくんはいるよ」という公式さんからの粋なメッセージでもあったのかなぁ、と。そう考えると、良い宣伝だったのではないでしょうか。やるなぁ、ポニーキャニオン…。
以下ネタバレ〜!
「生きる」って何?
というわけで、屁こき虫死体のメニーくんに乗ってなんとか大陸の岸にたどり着いたハンク。けれどもそこは深い森が広がるばかりで、助けに応じてくれる者はいない。水も食料も尽き途方に暮れていると…アレ、メニーくん、口から水出てる⁉︎
予告編映画『スイス・アーミー・マン』予告編 - YouTubeより
…しかも会話し始めたんですけどー!ギャー!!
予告編映画『スイス・アーミー・マン』予告編 - YouTubeより
体は動かずともメニーくん、おしゃべりSo many!しかも、色々使える機能を発揮して、ハンクのサバイバルを助けてくれるのです!
公式サイト『スイス・アーミー・マン』公式サイトより
そして性に目覚めたばかりのメニーくん、エロ本やハンクのスマホの待ち受けにしていたサラちゃんを見て勃ちあがったおち◯こアンテナが、故郷への道を指すではないか!…って意味わかんないけどそういう話なんだからしょうがない(笑)。
基本会話の内容はクソだのマスだの下ネタ満載の小3男子並。なのに時々「生きるって何?」みたいな哲学的な疑問を投げかけたり、母親のことを考えるからマスターベーションできないと言うハンクに「悪いことじゃないんだからすれば良い(代わりにしようか?)」「人はみんな醜い、でもそれでもいいと言ってくれる人がいれば寂しくない」などと教訓じみたことを言ってみたりします。
お察しの通り、このメニーくんとの会話はハンクの心の声なんでしょう。もっと言ってしまえば、多分無人島はハンクの心象風景なのではないかと思います。
予告編映画『スイス・アーミー・マン』予告編 - YouTubeより
地形的に妙だった冒頭の無人島。おそらくこれは現実ではなく、人との関わりを避け自分の世界に逃げ込んだハンクの「孤独」を表していたのではないでしょうか。
心の森をさまよう
また、サラの家周辺の森にいたことも妙です。終盤すぐに森を抜け海に出たことを考えると、遭難するような場所ではないのは明らか。きっとハンクはわざとそこに留まっていたのだろうと思います(森に散乱していた私物は元々ハンクのものだったのかも)。
そもそも「森」は夢占いやユング心理学だと深層心理を象徴しているとも言われています。そこで迷っているということは、ハンクは自分の心の中をさまよっていた(生きるか死ぬか)と言えるのではないでしょうか。
ハンクはバスで見かけたサラに好意を持ちながらも声をかけられず、写真隠し撮りしたり、Instagram覗いたり、近所の森に潜むなんてストーカー紛いもいいところです。人と関わるのが苦手というより、彼を見る父親の様子から察するに、何らかの精神疾患を抱えている可能性もあります。恐らくその事が、彼を「森」に追いやったのだと思います。どこにも居場所がないという孤独。
もしかしたらメニーは「死を選んだハンク自身」が具現化したものだとも言えるかもしれません。死んだように生きていたハンクと死んでいるけど生きているメニー。彼らは2人で一つの存在なのです。
でもハンクは、そんなもう1人の自分=メニーくんと出会い、自分が「生きたい」と思っていることを知った。それはただ孤独に生きるということではなくて、人としての喜びを感じたい、つまりそれは、人と関わり合いたい、ということ。ラストの彼の「オナラ」は、その決意の表れだったと思うのです。オナラによる生存証明。生きることを選んだハンクは、もう1人の自分を手放すことができたのです…。
この別れのシーンは、オナラの応酬でかなりバカバカしくて可笑しいのに、ハンクがメニーを「引き渡さない!」って逃げるところからずっと涙が止まらなかったです。もうねぇ、ほんと、変な映画(泣笑)。
人生には「オナラ」が必要だ!
この映画でいう「オナラ」は「秘する思い」とか「心の恥部」、あるいは本心や本音をさらけ出した「ありのままの自分」の比喩なんだと思います。それはむやみに人前に見せるものではないし、隠しておくべきところなのかもしれません。でも、隠したままじゃ誰とも分かり合えない。オナラは貯め続けると、体に毒です。時には盛大に、人前でぶっぱなしてみては?そんな風に背中を押されたような気がした映画でした。
実はわたし、ちょっと最近「Twitterもブログもそろそろ辞めようかな」なんて思ったりしてたんですよね。SNS絡みで悲しいことが続いたりしてて、もういいかなぁ、なんて。
つーかそもそもさ、こんなショッボイ映画ブログですよ。大したことも書いてないしさ、やってる意味あんの?みたいなこと思うんですよ。他のブロガーさんとか読んでさ、「うわーすげー!」って憧れる反面、自分の力量のなさに落ち込むっていうね。もう過去記事とか読むと恥ずかし過ぎてブラジルまで穴掘れる。
いやだけどね、違うんだって、そうじゃないんだって。この映画観て、思ったんですよ。このブログこそ、わたしにとっての「オナラ」なんだ!って。だからね、恥さらしでいいんです。バカにされてもいいんです。だって、オナラだからね!!
いいですかー!今読んでるこれは、わたしのオナラだぞ~! くっさいやつだぞ〜!!うひゃっひゃっひゃ。
というわけでこの記事を、当ブログ「オナラ宣言」とさせていただきます!!!
…ってなんじやこりゃ??
作品情報
- 監督 ダニエル・シュナイナート、ダニエル・クワン
- 製作総指揮 ギデオン・タドモア、ジム・カウフマン、ウィリアム・オルソン
- 脚本 ダニエル・シュナイナート、ダニエル・クワン
- 音楽 アンディ・ハル、ロバート・マクダウェル
- 製作年 2016年
- 製作国・地域 スウェーデン,アメリカ
- 原題 SWISS ARMY MAN
- 出演 ポール・ダノ、ダニエル・ラドクリフ
- 『スイス・アーミー・マン』公式サイト