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サスペリア(2018)【映画・ネタバレ感想】「魔女とは何か?」オリジナルのモチーフを解体し深掘りした挑発的なリメイク!★★★★(4.0)

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あらすじ

ドイツ赤軍が暗躍し、混乱と不安渦巻く1977年の西ベルリン。アメリカはオハイオから期待に胸膨らませ、一人の少女が名門舞踏団"マルコス・ダンス・アカデミー"の門を叩く。彼女の名はスザンナ・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)。

オーディションで振り付け師のブラン(ティルダ・スウィントン)から気に入られたスージーは、次回の興行で主役を踊らせてもらうことになる。しかし、団員の失踪が相次ぎ、スージーにもある危険が迫っていた。

同じ頃、失踪した舞踏団の団員パトリシア(クロエ・グレース・モレッツ)から相談を受けていた心療内科医師のヨーゼフ(ティルダ2役)は、舞踏団に秘密が隠されているのではないかと真相を探り始める。

そして異様な空気の中、呪われた演目『民族(ヴォルク)』の幕が上がる…

 

 

オンライン試写会に当選して観賞しました。

日本公開は1月25日(金)です。

*1/29 エンドクレジット後の映像について加筆しました

 

 

ちょっとした前置き(飛ばしていいよ)

実はこのオンライン試写、ただの抽選じゃなくて「『サスペリア』愛を語ろう」という企画で、400字でサスペリアへの思いを綴って送り、著名な映画評論家さんがその中から選ぶ、という方式で選考されるものだったんですよね。「まぁダメ元でアルジェント(にわか)愛でもぶちまけとくかぁ~」と軽い気持ちで応募したわけですが…結果はなんと当選。

いや、試写に当たったことも嬉しかったんですが、プロの方に自分の文章を(400字とはいえ)読んでもらえて選んでもらえたという喜びも高かったです。いやー、嬉しい、当選者30人らしいから。何人応募あったのか知らんけど。

…というちょっとした自慢でした。

 

 

驚愕、感嘆、感動。

さて映画の話。

正直、驚きました。

いや、あんなノリの塊みたいな荒唐無稽な映画を、ここまで高尚で芸術性の高い社会派な映画に作り替えるとは…ただただ感嘆。

オリジナル版ははっきり言ってアルジェントの趣味みたいなもので、ストーリーとかテーマ性なんてものにとんと興味のなさそうな映画だったのですよね。

ちなみにわたしのアルジェント版の感想はこちら

まぁ、もちろんいくらでも考察の余地はあるのでしょうが、あまりやり甲斐がないっていうか…(苦笑)

 

ところがこのリメイク版にはしっかりとした主題があります。

まず、物語の舞台をフライブルクからベルリンに変更し、オリジナルが公開された1977年当時の、「ドイツの秋」と呼ばれる混沌とした時代背景を描き加えています。それは「魔女とは何か」について言及するためです。ある人物がはっきりと「魔女は〇〇だ」と明言してるんですよ。

いや、前にオリジナルの版の感想を書いた時に「魔女は旧体制のメタファーで〜とか言ったら負けだ!」とか言っちゃったんですが、本作ではそれをやっちゃってます (苦笑)。けれども、その「〇〇だ」をラストで見事にひっくり返しちゃうんですよねぇ。これは本当面白いなと思いました。

また、舞台となるダンスアカデミーが「ベルリンの壁」の真ん前にあるのですが、それも象徴的でしたね。

 

そしてもう一つは主人公スージーの役割の微妙な、しかし大きな変更です。つまり、長らくファンの間でも議論がなされていた(?)「なぜ最後スージーは笑ったのか?」について、グァダニーノは一つの答えを出しているわけです。彼女の過去についても描かれ、そしてこれがこの作品の一つの大きなテーマとなっています。

それ故にラストはオリジナルとは全く真逆の展開となります。おそらくこの改変に『サスペリア』ファンは怒り心頭でしょうし、アルジェントもそこにキレてるんだと思います。

けれどもわたしはこの改変に圧倒されましたし、むしろ感動すら覚えました。この点において、わたしはグァダニーノ監督を支持します。

 

 

ビバ!女の園!!

本作で1番わたしが評価したい点、それは舞台を共学のバレエ学校から、女性舞踏団という「女の園」に変更したところです。

これにより何が起きるかと言うと…

百合度マシマシ!!

オリジナルでは「ちょっと仲良し」程度だったスージーとサラ、本作ではもう、がっつりの百合でございます(個人の感想です)。

「姉と意外一緒に寝たことなんてないわ」という萌えゼリフ!サラの着ていたガウンをスージーが着る!二人が向き合ってムフフと微笑んでいるのを観ているだけで、なんとも言えない幸福感が…。

そうだ、アルジェントにはこの百合要素が足りななったんだわ〜と一人でガッテンボタンを連打しました。ガッテン!ガッテン!//

また、スージーは指導者のマダム・ブランともただならぬ雰囲気を醸し出します。なぜなら二人は心の奥底で繋がり合っているから…ふふふ( ^ω^ )。演じたダコタ・ジョンソンとティルダ・スウィントンの迫力の見つめ愛シーンを是非ご堪能ください。(なんだそれ)

百合を通り越して、性行為そのものを匂わせる描写もあり、サバトのシーンなんてもう完全に濡れ場、いや、乱行パーティですよ。ワッショイ!ヽ(´▽`)/

 

 

で、結局どっちが面白いの?

結論を言うと、わたしはどちらも大好きです。

どのシーンを切り取ってもどぎつい色合いのアルジェント版の方がヴィジュアル的なインパクトは確かにあります。個人的にはオリジナルのアールヌーボーな装飾や少女趣味的でヒラヒラフワフワとした衣装の方が好きです。浮世絵イズムだし。

グァダニーノのリメイクは、赤を効果的に使っているシーンもありますが全体的なトーンは落ち着いており、衣装も予告でのダンスシーンを観ればわかるように前衛的です(でも、サラが館内を彷徨う際に着ていたナイトガウンが長襦袢のようで、ちょっとそこに浮世絵イズムを感じて嬉しかったりして?)

アプローチやテーマ性は全く別物ですが、思い返して観るとオリジナルへのオマージュに溢れていて、その精神は確実に『サスペリア』なんです。というか、魔女三部作を10で割って500足した、みたいな印象ですね。ちゃーんと『サスペリア・テルザ最後の魔女』への目配せもあって、「あールカさん、テルザもちゃんと観てるんだ…」と妙な親近感 笑。

事前にできれば『サスペリア』だけでなく、魔女三部作全て観ておいた方がより楽しめると思います。特に『インフェルノ』では三母神(ため息の母、涙の母、暗黒の母)について丁寧に説明してくれていますので、置いてけぼりにならずにすみます。(テルザも評価低いけど、イロイロ楽しいから時間があったら是非観てちょ!)

 

置いてけぼりといえば、「皆さんご存知の」な体で「バーダー/マインホフ」や「ドイツ赤軍(RAF)」なんて言葉が飛び交います。

「バーダー/マインホフ」は極左過激派組織のリーダー、アンドレアス・バーダーとウルリケ・マインホフ及び彼らの属するグループ(ドイツ赤軍ともいう)のこと。「ドイツの秋」は彼らの釈放を求めて1977年にRAFが起こした、誘拐、ハイジャック等一連のテロ事件の総称です。

参考:ドイツの秋 - Wikipedia

彼らは過激なテロリストだったのですが、一部の民衆からは絶大な支持を得ていました。RAFについて知るにはこちらの映画がおすすめです。(共感できるかどうかは別として)

バーダー・マインホフ 理想の果てに [DVD]

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ちなみにですが、ミヒャエル・ハネケはこのウルリケ・マインホフとちょっとした親交があり、後に彼女が過激派に走ったことに衝撃を受け、その経験から『白いリボン』を撮ったとインタビューで語っています。

全く様相の違う映画ですが、ルカ版『サスペリア』とハネケの『白いリボン』、姉妹とは言わないまでも、もしかしたらイトコくらいの近さのある映画なのではないかとわたしは感じています…

白いリボン (字幕版)

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オリジナルのような「ザ・ホラー映画!」という趣きは全くないのですが、実はとても怖い映画です。それは本作が、わたしたちが相変わらず「歴史を繰り返しているだけ」ということを突き付けてくるからです。

いつになれば我々はこの愚かなループを断ち切ることができるのか…。ラストシーンでその事を深く考えさせられました。

 

あ、ちなみに血はめちゃくちゃ出ますし、すげぇグロいです。でも、安心してください(?)そこはCMBYNのグァダニーノ監督、芸術的です。そう、ぐちょんぐちょんのグロテスクなのに、超美しいんですよ。そこがまた悪趣味で素晴らしいと思うんですけどね!

まず最初のダコタ・ジョンソンのダンスシーンから心はスタオベ状態。嘘みたいに真っ赤っ赤な血湧き肉踊る(字のごとく)なラストには思わず拍手喝采でした。あのシーンをもう一度観るためにまた映画館に足を運ぼうかと思ってますよ…。

人によっては嫌いな映画かもしれませんが、わたしは大大大好きですっ!

 

 

 

以下、最後のすごく重要な部分についてネタバレしているので、決してひとりでは読まないで下さい!

 

 

 

 

 

 

 

少女と魔女

そう、初めに言っちゃいますが、なんとルカ版のスージーは魔女なんです。

しかもただの魔女ではなく、皆がマダム・マルコスこそがそうだと信じていた三人の魔女の一人「溜め息の母(マザー・サスペリオム)」だったのですよ!!!

えぇ〜〜〜!!

彼女はなんと、ダンスアカデミーと称して若いオナゴを食い物にしていたマルコスはじめ、古き魔女たちに正義の裁きを下すため、ベルリンにやって来たのです!

終盤、若いダンサーの女の子を生贄にサバトがはじまると、スージーは颯爽と魔女たちのもとへ現れ、マルコス支持者たちを血祭りに上げていきます…。てっきり彼女がマルコスの「器」にされると思っていた魔女たち(わたしも含め)は大慌て。

生贄とされたパトリシアたちの「死にたい」という願いを聞き入れて魂を奪う姿は、まさに死神です。

 

実はスージーは、敬虔なキリスト教徒(中でも前時代的な生活を重んじる"メノナイト"と呼ばれる宗派)の家に生まれ、厳格な母に育てられました。けれどもずっと彼女は自分の居場所はここではないと感じていたのですね。

その考えを「異端」だと感じていた母は彼女を折檻し、閉じ込めようとします。そしてその度に彼女はより一層外の世界への憧れを強くしていった…。その気持ちが魔女への扉を開いたのかもしれない、とわたしは思いました。つまりスージーを魔女にしたのは他ならぬ、彼女の母だったと言えるのです。

押し付けや締め付けが怪物を生むという構造は、前述の『白いリボン』や『ウィッチ』(アニヤ・テイラー=ジョイのやつね)を引き合いに出すまでもなく、歴史が証明しています。

そしてその怪物は時に「救世主」のように崇められることもあります。例えば戦前のナチスや当時のバーダー・マインホフのように…

 

 

忘れ去られ行く人々

自分を支持する数人の魔女だけを残し、古き魔女たちを倒したスージー。彼女はマザー・サスペリオムとしてダンスアカデミーを支配し、新しい時代に君臨する…のかと思いきや、映画はそれで終わりではありません。

この映画のラストシーンは、彼女の微笑みでも、炎に包まれる屋敷でもなく、ユダヤ人の心理学者ヨーゼフと収容所で命をおとしたその妻アンケ(演じているのは初代スージーのジェシカ・ハーパー!)の家に刻まれた二人のイニシャルです(しかも時は現代)。

迫害された歴史を持つユダヤ人と、魔女。共通点が浮き彫りになります。

妻の死を知らされ、悲しみと罪悪感に暮れるヨーゼフに、スージー=マザー・サスペリオムは「もうあなたには恥も罪悪感も必要ない」と言って彼の記憶を消してしまいます。

それはまるで慈悲深い女神の行為のように見えますが、果たして、それは正しいことだったのでしょうか?

人は「忘れる」ことができるから強くなれる。それも確かに真理ですが、それによって大切な何かも一緒に失っているのではないか…?そんな疑念さえ浮かんでくるのです。

つまりこの映画は「忘れられた人々」の記録であり、あのラストシーンには彼ら(=魔女、ホロコーストの犠牲者など、歴史の闇に消えていった者たち)の存在は「忘れ去られつつある」(今もそこにあるのに…)という意味が込められているのではないかと思いました。

 

 

魔女の正体は、自立した女だった?

本作の魔女たちはちっともおどろおどろしさがなく、怖くありません。彼女たちはよく食べよく笑い、酒も煙草も好き放題にしています。わたしには、彼女たちがとても生き生きとしていて、楽しそうに見えました。

スージーが入団した際に「給料も払う」って話があるんですよね。「女の自立は大事だと思っている」みたいなことを魔女の一人が言うんですよ。これ、多分すごく重要なことなのではないかと思うんです、魔女にとって。

 

そもそもなぜ、男は魔女を恐れてきたのでしょうか?

それはきっと、彼女たちが自分の言いなりにならない、自立した女たちだったからなのではないでしょうか。

戦時の混乱期に「女なら子宮を開け」と言われてもマダム・ブランがアカデミーを身を呈して守った、と語られています。経済的にも精神的にも自立した女たち(=魔女たち)にとって、あのダンスアカデミーは最後の砦でもあったのだと思います。

魔女たちは、アカデミーに踏み込んだ警察に催眠術をかけ下半身を弄んだり(しかも超楽しそうに!)、捕まえたヨーゼフに対し「女の話を信じない奴め!」と罵声を浴びせたりしています。彼女たちは男を恐れないし、屈しないんです。そして母にもならないし、娘にもならない。とても自由です。

わたしはそんな魔女たちを、ちょっと羨ましいな、と思いましたよ。

 

歴史に埋もれ闇に消えていった魔女たち。でも本当は、その存在をわたしたちは忘れさせられているだけなのかも?

それこそ、マザー・サスペリオムの思うツボ…ヒャッ!

 

追記:週末に映画館で観てきました。そこで気がついたのは、初見時にはさっぱり意味の分からなかったエンドクレジット後の映像「スージーが何かを見つけ、それに触れて周りを見回し去っていく」というシーンについて。

あれ、「触ってる」だけじゃなくて何かを動かしてるように見えるんですよね。…ハッ!あれ、アイリスじゃない?青いアイリスですよね!?

つまりアレって「マザー・サスペリオム、青いアイリスを回して秘密の扉を開ける」というシーンだったのでは?ということは、どういうことかと言うと……

…うん、そこまではわからないので、詳しい方、解説お願いします。

(もしかしてあれか、続編を匂わせるタイプのやつ?だとしたら肩透かしダナー)

 

 

 

作品情報
  • 監督 ルカ・グァダニーノ
  • 製作総指揮 キンバリー・スチュワード、ローレン・ベック、ジョシュ・ゴッドフリー、ステラ・サヴィーノ、ジェームズ・ヴァンダービルト、ロベルト・マンニマッシ、ミリアーノ・ヴィオランテ、カルロ・アントネッリ
  • 脚本 デヴィッド・カイガニック
  • 音楽 トム・ヨーク
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 イタリア,アメリカ
  • 原題 SUSPIRIA
  • 出演 ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ジェシカ・ハーパー、クロエ・グレース・モレッツ
  • 映画『サスペリア』公式サイト