あらすじ
アメリカからドイツの名門バレエ学校に転入してきたスージー。しかし、到着早々門前払いをくらい、謎の言葉を残して去っていった女生徒はその夜何者かに殺される。その後も学園内でおこる数々の怪現象がスージーを襲う…
変な映画だけど、楽しい!
間もなくリメイクが公開されるということで実に20年振りくらいに再見してみた(もちろん一人で)。初見時はまだイタイケな女子高生で、確か図書館からVHSを借りて観たのだった(もちろん一人で)。
赤いペンキのような血のりに幼き日の初潮のトラウマを呼び起こされ、ゴブリンの音楽は翌日の悪夢のBGMに。「キャーなになにーー?ナニが起きてるのーー!?」と思いながらも目が離せなくて、観終わる頃にはすっかりドギツイ色彩の虜。なんだか新しい世界に入り込んでしまったような、刺激的なひと時を過ごしたのです。それがわたしのアルジェントロストバージン。
三十路を超えて観てもやはり「キャハー!ナニが起きてるのーー!笑笑」とワクワクしきり。タナー先生、学園の秘密よりあなたの髪型の秘密が知りたい!!
サスペリア(1977)より
みんな知ってると思うので敢えて言うこともないと思いますけど、『サスペリアPART2』という邦題の映画は本作と何の縁もゆかりもありません。
本作の正統な続編は『インフェルノ』で、その後『サスペリア・テルザ 最後の魔女』と続き、3作あわせて魔女3部作ということになっております。テルザはね、映画館にわざわざ観に行ったんですよわたし。…出てきたときはこんな顔(^_^)になってましたけど。
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もう40年も前の映画なのでネタバレもクソもないから言っちゃいますけど、先生たちはみんな魔女です。で、アメリカ娘が古い魔女たちを倒すって話です。
おそらく基本的は、「女の子が異界(=転校先とか見知らぬ土地)で事件に巻き込まれる話」なんです。つまりプロットは「不思議の国のアリス」なんですよね。だから、話はかなりめちゃくちゃだし、意味不明。
まぁ、この人の映画は大体そう。
しかもその「不思議の国のアリス」要素に、虫に好かれるフェロモンとか死の間際の映像が眼球に残るとか、魔女が建てたバレエ学校とか演じると呪われる演劇とか、脈略なくトンデモ科学やトンデモオカルトが差し挟まれ、同列に進んでいくので収集がつかない。
でもいいんですよ、ひたすらビジュアルを楽しめば。
アルジェントの映画を思い出すときはインパクトのある画がパッパッと浮かびます。瞼に針を仕込まれるとか、ドア越し目玉ぶっ刺しとか、蛆虫プールとか、ハラワタで首絞めとか、ドアで頭かち割るとか。
その画の中に監督の美意識(性癖?)というか、確固たる「アルジェントブランド」みたいなものがあって、人々はそれに惹かれるのだと思います。
意味ありげなものに意味はない
だから本作も、はっきり言ってストーリーを追うタイプの映画ではない。ひたすら画を観る映画なんですよ。
嘘みたいに真っ赤な外観の学園、思わず二度見してしまう派手な壁紙、ゴテゴテした調度品、信号機のようなどぎつい照明、ニセモノくさい血糊、殺される時の嘘くさい顔と悲鳴…デフォルメと誇張の過剰さの放流とその猥雑さは、言うなれば「浮世絵」です。
でしかも、ただ「このヴィジュアルイケてる~!」を基本理念にして作られているから、それぞれにはまったく関連性がなくて、必然性もなくて、なぜウジ虫なのか?なぜアイリスなのか?なぜ孔雀の置物なのか?作中に答えはない。
登場人物やセリフに何か伏線があるのかと思いきやそんなこともなく、主人公といい感じになりそうな男の子が出てくるんだけど、いつの間にか消えている。ラストもびっくりするくらいアッケナイ。
そもそもバレエ学校が舞台なのに全然踊らないし、プールもなんで出してきたのかわからない。(女の子を水着にさせたかっただけ?笑)
要はそこに何か意味があるのかなんて、深読みしてはいけないのだ。(真剣に「魔女は旧体制のメタファーで〜」とか言ったら負けだ!)
しかし、それで良いのである。
自動ドアの開閉バネがアップにされるオープニングから、その無意味さの中にある不気味さが、すでに表されているのだから。
…でもこの辺りのことはすでに色々な方が言っているだろうから、わたしは口をつぐみます…。
なぜ、彼女は笑ったのか?
主人公は名門バレエ学校に転入してきたスージー。演じるのは、角度によって美人にもすごいおばさんにも見える、ジェシカ・ハーパーさんです。当時27歳。まじか、アラサーじゃないか 笑笑。
そんなスージー、基本的に「うぅ〜んあぅ〜ん」とか寝ぼけてばっかりで、主役なのに全くやる気がないのである。ちょっとばかし仲良くなった隣室のサラちゃんが行方をくらまし(実は針金地獄でお陀仏済み)、やっと重い腰をあげる。
言いつけを破り、こっそりと部屋を抜け出て未知の扉を開けるスージー。まるで夜の大人の営みを覗き見る少女のように、その胸に去来していたのは好奇心と背徳感ではなかったか。
そして知る、「世界の秘密」。きっとスージーが最後に微笑んだのは、その秘密を知った喜びを噛み締めていたからでは?「自分はそれを知った」という優越感に浸っていたから…。しかも、それが期待していた以上のものではなく「オホホ、全然大したことないわ!」という高笑いのようにも見えるのだ。
それはもちろん、「なんじゃこりゃ!(失笑)」という観客の反応を代弁しているわけである。
煽りに煽られ、アルジェントの手のひらで遊ばれた我々は、その幸福感に思わず笑みがこぼれてしまうのだ。
リメイクへの期待と不安
本作のリメイクが発表されたのにも驚いたが、監督が『胸騒ぎのシチリア』『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノに決定したと聞いて椅子から転げ落ちてそのまま頭を強打しました。
しかも、音楽がレディへのトム・ヨークだというではありませんか。頭上にタライが降ってきましたよ。どうした?何があったんだ?
グァダニーノ監督も確かにアートっぽい監督だとは思います。でも、その方向性って、どっちかというとダヴィンチとかミケランジェロ系の、正統派・古典絵画的な方方面だと思うんですよね。浮世絵イズムなアルジェントとは真逆です。
まぁオリジナルをただなぞっただけのようなリメイク・リブートは面白くないので、全く違う作品になってくれるのではと期待しています。
…でも多分『サスペリア』が好きな人はそんなの期待してないんだよねぇきっと…。
トムヨによるサントラ。わたしは無料音楽アプリのSpotifyで聞いたんですが、なかなか良いですよ〜
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でも、もし音楽がトム・ヨークじゃなくて、もっと行ってシガー・ロスのヨンシーとか、あるいはスマパンのビリー・コーガンとかだったなら…なんて妄想を膨らませたりしちゃうんですが。
皆さんはどう思います?
作品情報
- 監督 ダリオ・アルジェント
- 製作総指揮 サルヴァトーレ・アルジェント
- 脚本 ダリオ・アルジェント、ダリア・ニコロディ
- 音楽 ゴブリン、ダリオ・アルジェント
- 製作年 1977年
- 製作国・地域 イタリア
- 原題 SUSPIRIA
- 出演 ジェシカ・ハーパー、アリダ・ヴァリ、ジョーン・ベネット
追記:ちなみにリメイクサスペリア、先日オンライン試写会に当選したので、このブログをアップする頃には鑑賞済みです。感想書くとは思いますが、もしいつまでたってもアップされない場合は…(察して!)
追記の追記:感想書きました。こちらです。