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マーダー・ミー・モンスター【映画・ネタバレ感想】世界の果てで愛を叫んだけもの★★★★☆(4.2)

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あらすじ

ある寒村の山奥で見つかった首を切り取られた遺体。事件の捜査にあたる刑事のクルスは、不倫相手フランシスカの夫ダビドを現場の近くで見つけて連れ帰る。ダビドは幻聴が聞こえるなどの精神的な病を抱えていた。

ほどなくして、フランシスカも無惨な遺体となって発見される。クルスはそばにいたダビドを逮捕するが、彼は謎の声が自分に語りかけてくるのだと話す。「私を殺せ、怪物よ」…その言葉に隠された意味とは?

真相を追うクルスの前に、ついに「怪物」が姿を現す…!

 

 

昨年末に都内で実施された特集上映「WECワールド・エクストリーム・シネマ2019」の一本。あらすじとポスターで観たいと思っておりましたところ、ツイッタでフォローさせていただいている方から「クリーチャー好きならおすすめですよ」とお勧めいただきまして。

こりゃ観ないわけにはいかんな!と先日レンタルしてきました。結論からいうと、

 

うひゃひゃ!超好み!!最高!!!

 

 

美しくて不気味な自然

いや、多分これは「好きな人は好き」みたいなやつかもしれないです。

カルト的、でもないとは思うんですが、アンニュイでスローリィな展開なために即物的なホラーを求めるとちょっと肩透かしを食らうかも、と思います(ジャケのコピーにあるような「モンスターパニックスリラー」では決してない)。

 

舞台となっているのはアルゼンチンの山岳地帯。imdbによると撮影はメンドーサ州で行われたそうです。メンドーサ州には南米最高峰「アコンカグア」がありますね。

アンデスの過酷で神々しい自然の風景も映画の重要な要素の一つで、いやむしろそっちがメインとも言ってもいいのかもしんない。

それを象徴しているのがタイトルシークエンスで、タイトルの頭文字「M M M」(本国ポスターだと真ん中のMはひっくり返ってる)を山の形に画像処理を施して左右対称にすることで表現しています。

また殺人が、川を挟んでこちらとあちらで交互に行われて「M」の形をなしていく、というのがストーリーの骨子なのですが、この「M」は「Monster(monstruo)」の「M」でもあり、「Mountain(montaña)」の「M」でもあると思うんですよね(他にもいろいろ考察できるかも…後述)。

「自然への畏怖」も本作の重要なテーマの一つではないかとわたしは考えています。とにかく、本作の自然描写は一見の価値ありです。

 

ただ、本編もずっとこういう「意味深」なカットが続くので苦手な人は苦手なのかもな…。

三台のオートバイ、主人公の謎の踊り(笑)とか、わたしも作り手の真意を図りかねるところもあるのですが、「あれはどういう意味なんだろう?」と考えるのが好きな人にはほんとおすすめです。

 

 

クリーチャーも良いぞ!

全体的な雰囲気はメキシコ他合作のクリーチャースリラー『触手』に近いものを感じました。

触手(字幕版)

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こちらがお好きな人はきっと気に入ると思います。

 

ショッキングなオープニングからグロ方面もしっかりしていて、完全にアレでアレな下ネタ全開のクリーチャーも素晴らしかったですね。あのフィギュアあったら欲しいくらい。

出番はほんの少しなんですが、強烈なインパクト。映画は別に観たくないけどクリーチャーだけは気になる、という方は原題の「muere, monstruo, muere」で画像検索すれば出てくると思います。

『千と千尋の神隠し』のオシラ様をもっと端的に卑猥にした感じですかね(伝わる?笑)

 

ナイロンクッション おしらさま

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さっきも書きましたが、「自然への畏怖」というか、アニミズム的な要素もあるのかなと思います。

 

万人受けはしなそうなんですが、わたしはかなり好きでしたよ!

 

 

以下ネタバレ。

 

 

 

「怪物」とは何か?

本作の「怪物」が意味するところは、10人いたら10通りの解釈ができそうです。

 

被害者が皆女性で強姦されていることから、女性の性的搾取を暗喩しているとも考えれそう。その場合、「M」は「Man」の「M」とも取れるかもしれないですね。

しかしながら、アルゼンチンの公用語であるスペイン語だと、男は「Hombre」。女性を意味する「Mujer」の「M」あるいは「Woman」(Mはひっくり返すとWになるわけで)と考えることもできるかも。

最後の犠牲者であるクルスの同僚女刑事の「みんな殺される」という意味ありげなセリフも、それを補強しているように思えます。

 

また、クルスと署長の間に流れるなんとも言えない空気感を考えると、彼は同性愛者であると匂わせるところもあって、すると怪物は「Minority」を殺す「Majority」という現代的な構図も浮き上がって来るような気がするんですよね(うん、だいぶコジツケかもしれん)。ただ、署長の「怪物は私だよ」と言って血を吐くシーンはほんと謎…(クルスも最後血を吐いてましたけど)。

 

いずれにせよ、怪物のその見た目からしても「性愛」が一つの鍵になっているのは間違いなさそうです。しかもそれらは「秘めた欲望」なんですよね。

不倫愛に悩むクルスとフランシスカはもちろん、第一の被害者は、夫であるという男の年齢からみると、性的に満足していたとは思えないため、何らかの方法で欲求を満たしていた可能性もあります。

また、「怪物」の声が聞こえてしまうダビドは入院中の病院で「愛する人よ」とおそらく妻ではない別の誰かへの思いを手紙にしたためていました。

「怪物」は「性欲」、中でも「秘めた欲望」を食らう存在であるのかもしれません。

 

 

けだものだもの。

第3、第4の首なし遺体が見つかり、その現場を地図上で繋ぐと「M」の形になると気づいたクルスは、5番目の被害が起こるであろう地点に、ダビドを連れ署長や同僚刑事らと向かいます。しかし突然の豪雨により、洞窟に一時避難することに。

その頃にはすでに「怪物」の存在に確信を持っていたクルスですが、女刑事は「怪物」の餌食となり、署長はダビドと同僚を撃ち殺してしまいます。クルスは署長から「後は処理しておくからお前は帰れ」と言われ洞窟を去ります。

その道中、ついにクルスの目の前に「怪物」が現れます。怪物はクルスの腕を無数の牙の生えた口の中に飲み込みます。腕を噛みちぎられたクルスは苦悶の表情を見せながら、どこか快感を覚えているような叫び声をあげるのでした(…まさか、「M」って文字通りの「M」だったのか…?)。

 

ただこの「怪物」、わたしはなんとなくちょっと可哀想に見えたんですよね。だって絶対孤独でしょあの生き物…。背中には哀愁があるし、表情もどこか悲しげでさ…。交わることで性愛を満たすことのできる人間と違い、あの怪物は誰かの欲望を奪うことでしか満足できないのかもしれない。

 

ラストシーン、「怪物」は一人、草原をさ迷っています。亀頭を思わせる尻尾を揺らしながら…。

しばらくして立ち止まり、女性器のような口を開きます。その奥には濡れた瞳のような空間が広がり、じっとこちらを見つめて映画は終わります。

 

わたしは「怪物」が、どこかの時代の殺人鬼のように、世界の果てのアンデスで叫んでいるように思えました。

「おれは世界中のみんなを愛してる。ほんとうだ、神様に誓ってもいい。おれはみんなを愛してる、おまえたちみんなを!」

(ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」より)

愛を求める悲しいけものは、山の奥で哭(な)いている。

 

 

 

作品情報
  • 監督 アレハンドロ・ファデル
  • 脚本 アレハンドロ・ファデル
  • 音楽 アレックス・ナンテ
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 アルゼンチン,フランス,チリ
  • 原題 MUERE, MONSTRUO, MUERE/MURDER ME, MONSTER
  • 出演 ビクトル・ロペス、エステバン・ビリャルディ