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ゴーストランドの惨劇【映画・ネタバレ感想】「I Dreamed a Dream」★★★☆(3.1)

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あらすじ

ヴェラとベスの姉妹と母親は、郊外の辺鄙な場所に立つ叔母の家に引っ越してきた。しかしその夜、見知らぬ男2人組に襲われた3人は、母親の必死の攻防により難を逃れる。

16年後。家を出て小説家として成功したベスの元に、姉のヴェラから「戻ってきて」と電話が入る。不安な気持ちを抱えベスは惨劇のあった家に戻ってくる。姉はあの夜から精神を病んでしまっていたのだ。

しかし、エスカレートしていくヴェラの奇怪な行動や夜毎聞こえる謎の物音、母や家の様子にベスが違和感を覚えたとき、姉は言うのだった。

「あなたはまだ、ここにいる」

 

 

パスカル・ロジェ最新作

『マーターズ』がかなりの代物で、個人的にはもう観たくない映画ベスト5くらいには入るんだけど、そんなパスカル・ロジェの6年ぶりの監督作。

おそらく、予告編やあらすじをみてしまった方は、大体の予想はついてしまうと思います。で、多分大方の予想通りです。

「2回観たくなる」「想像力が試される」とか煽ってますが、そんな映画ではないのでその辺りは期待しない方が楽しめると思います。

 

ヴィジュアル面はロジェ節とでもいいますか、殴られて顔が変形する女子とか、悪役の得たいの知れない感じとか、女子が覚醒して物凄い反撃(笑)に出るとか、監督のフェチズムやこだわりがしっかりと感じられるので、ファンは観て損はないです。夜明けの荒野を少女二人が駆けるシーンなんて、ものすごく美しかったですね。

あと、主役の姉妹の少女時代を演じた二人がねー、すごく良いです。かわいい。終盤顔ガッタガタになるけど。

 

 

以下ネタバレ。短めです。

(ちょっと追記しました)

 

 

 

「物語」という拠り所

面白かったんだけどね、ただちょっと期待し過ぎちゃったかなー、とは思った。お話としては『マーターズ』よりも好きなんだけど…。なんというか、個人的にはもう一押し欲しかった。

鑑賞前からの察しの通り、16年後のベスというのは、母の殺害を目の当たりにしたショックと男たちからの暴力によるトラウマから逃れるために、「ママも自分も助かった未来」の妄想なわけですよ。

ベスは「物語」を作り上げてその中で生きているんですね。そんな妹に姉は何度も「戻ってきて」と声をかけ続けているという。

要するに「実は妄想でした」系で、これ系ってぶっちゃけよくあるじゃないですか。『ファイ◯・◯◯◯』とか『◯◯◯ェル・◯ォーズ』とか。あ、最近みたサメ映画もそうだったな。

で、しかも別にそこに至るまでの仕掛けもさして上手くないんですよね。というか、バラす気満々なわけですよ。序盤ではスマホで連絡を取り合っていたのに、急に固定電話になるとか、「実は妄想でした」を最初から隠そうともしてない。

じゃあなんでこんなメンドクサイことをやっているかといえば、この映画が「少女」の「物語」だからなんですよね。

 

物語の強さと危うさを描きつつ、少女の持つ生命力や未来を選びとる力を信じるようなお話だったんだろう、と。

全然違うけど、観ていてなんとなくテリー・ギリアムの『ローズ・イン・タイドランド』を思い出したのね。少女の想像力が生きる力につながるというか、そこから未来が拓けていくというような。何となくビジュアル的にも近い感じがしたんだけど…

ただそれがわかったからといって、ストーリー的な面白味はあまり感じられないかったかな、というのが正直なところ。

 

 

なぜラブクラフト?

あと、妹のベスは「ラブクラフト信奉者」という設定なので、例えば家にやって来たやつらが怪物のように見えるとか、実は何らかのこの世ならざるものの仕業だったとか、なんかその設定が活かされてくるのかなぁ…とぼんやり思ってたらそんなこともなく。ラブクラフト自体がただの記号でしかないように見えちゃったんだよな…。

ベスの妄想の中に現れて小説を賛辞するのもこじつけっぽいというか、別にあの役目は他の誰でもよかった気がする。スティーブン・キングでもエドガー・アラン・ポーでも良かったと思うんだよね(離婚した父親とかさ)。

さしてラブクラフトに詳しいわけでもないからもしかしたら「これはアレだよ!」ってモチーフに気づいてないだけなのかもしれないけど…。

人形だらけのお屋敷の雰囲気は最高だったので、もう少しこう怪奇っぽい、ゴシックホラーっぽい部分があった方が、わたしは好みだったかな。

 

とかいろいろ書いたけど、少女の成長譚、姉妹の絆的な部分はかなり好きだった。あと、犯人の魔女版スネイプ先生みたいなのも不気味だった。アババな方と兄弟だったのかなぁ…。

 

ところで「お姉ちゃんは壊れちゃった」って、どういう意味だったの?そのものズバリ、なのかなぁ…超いやだなぁ。

 

 

追記(8/18)

どうしても気になったことがあったのでいろいろ考えていたら、一つの解釈に到達したので書いておきます。(これが正解というわけではもちろんありません)

 

①なぜ犯人たちはあそこまでステレオタイプ的なのか?

犯人の兄弟(多分そうだよね?)は、知的障害者ぽい大男と、細身の女装男といういかにも「異常犯罪者」という出で立ちです。しかもキャンディトラックに乗っている。いうなればヘンゼルとグレーテル的な「お菓子の家」ですよ。

あまりにやりすぎというか、出来過ぎていて「全然リアリティがないな」と思っていたんです。

そう、現実味がない。現実味がない…?というかそもそも、

彼らはどこから来たのか?

 

彼らが最初に出てきたシーンを思い出してみた。ベスとヴェラの姉妹と母が乗る車の中で、ベスが自作のホラー小説(男の子がクローゼットの中の暗闇にとらわれて、後にはお漏らしの痕跡だけが残っていた)を読み終わり、ヴェラがそれをけなしていると、後ろからキャンディトラックがやって来るんですね。

そして、ベスの小説=ホラーをけなしたヴェラは、奴らにぼこぼこにされる。

まるで「ホラー小説なんて下らない」と言ったヴェラにその恐怖を教えようとでもするかのように…。

 

思い返してて、なんかこの話、トワイライトゾーンぽくね?と思ったわけですよ。

「子どもの世界」という、なんでも思ったことを具現化してしまう能力を持った子どもの話です。つまり、本作もあれと同じなんじゃないかと。

あの犯人の二人は、ベスが劇中で妄想していた「大人の自分」が書いた小説「ゴーストランドの惨劇」から現れたんじゃないかと思うんですよ。

彼女の妄想の中の妄想が、現実に侵食してきた、と。

少女の妄想だから、人物造形が拙いしリアリティもない。ベスにとっての恐怖の具現化なんですよね、あの二人は。(具現なので現実に存在しているから他人にも見えるし、人も殺せる…というファンタジーとして受け入れられる人は理解してくれると思う)だから彼女の恐怖(母の死、暴行、絶望)を次々に実現していく。

観た直後はなんでラブクラフトを選んだのかイマイチ必然性を感じなかったんだけど、彼らが「恐怖の世界からやってきた異物」だと考えると、なぜラブクラフトなのか腑に落ちる。

でも、ベスが生み出したものだから、ギリギリやられないし彼女だけが倒せる。ただし彼女が向き合わない限りは暴虐の限りをつくす。

 

 

②冒頭のラブクラフトの紹介文がベスによるものなのはなぜか?

映画の最初、「ハワード・フィリップス・ラブクラフト、物凄く偉大なホラー作家ーエリザベス・ケラー」みたいなテロップが出るんですね。

これ、恥ずかしながらわたしは最初は気づかなくて他の方が指摘しててわかったんですが、この文はベスの言葉なんですよ。

この最初のテロップは、小説でよくある「○○に捧ぐ」みたいなもので、つまりこの映画は、ベスが思い描いた「物語」の映画化という体なんですよね。

最初から全部、ベスの筋書き通りなんですよ。それで、あぁこれは『ダークレイン』と同じオチなのかな、と思ったわけです。

 

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ラスト、ベスは「小説が好きなんだ」と、観客にむかって小説家宣言をします。

普通に読めば「夢を叶える決意」なわけだけれど、別の見方をすれば彼女はホラー作家を目指しているわけで、「夢=読者(観客)を恐怖に陥れること」とも考えられるから、彼女の創作世界が現実へと飛躍していくこと=恐怖が増殖していくこと、でもある。

それが行き着く先は恐怖の世界、つまりラブクラフトが描いた「クトゥルフ神話」の世界なわけだ。

 

そしてそれは、監督の願いでもあると思うんですよね。 

他の人はどうか知らないけど、10代のころ僕はすごく居心地が悪くて、不安を感じていることが本当に多かった。15歳くらいのときなんて、僕は女の子にもモテないし、“自分は醜いのかもしれない”とか、“自分はモンスターなんじゃないか”とか、そういう事を考えながらフランスの小さな町で暮らしている少年だったんですね。そのころに出会ったのがホラー映画だった。ホラー映画は、僕がモンスターだったとしてもそれでいい、世界には居場所がある、モンスターにだって尊厳があるんだよと教えてくれるものだったんです。

『ゴーストランドの惨劇』パスカル・ロジェ監督インタビュー 「僕が目指しているのは“あなたの心を揺さぶる”ホラー映画」 (2019年8月10日) - エキサイトニュース(4/4)

と語るロジェ監督にとって、ホラーの世界こそが自分の居場所なわけです。

そして、

ベスのパーソナリティはかなり自分に近いです。もうほとんど“14歳のころの僕”ですよ。ベスにおけるヴェラのように、僕にも性格が正反対の兄がいます。兄のことは愛しているけれども、本当に真逆。兄は地に足がついていて、芸術も信じないしイマジネーションも信じない、バリバリ現実を生きているタイプ。僕のほうは逆に「リアリティ?なにそれ?」って感じで、子供の時から夢や空想を広げているタイプだった。そういった自分の兄弟関係が、この物語のスターティングポイントとしてぴったりとハマったんです。

『ゴーストランドの惨劇』パスカル・ロジェ監督インタビュー 「僕が目指しているのは“あなたの心を揺さぶる”ホラー映画」 (2019年8月10日) - エキサイトニュース(2/4)

と言っているから、監督はベスを使って高らかにそう宣言しているような気がしてくる。

「おれは、何があっても負けずに恐怖を描き続けるぞ!」と。

 

いたいけな少女が拷問される『マーターズ』を撮ったことで、ミソジニストだとかセクシストだ、とか言われているらしいロジェ監督(本作でも犯人が女装しているせいでまたいろいろ言われているっぽい)。

それでもそんな奴らに負けずに「おれは頑張るぞ!」と、そんな意思表示を示す作品だったのかも知れないと思うとまた、胸が熱くなります。

 

とかいろいろ書きましたが、こうやっていろいろ考えないと本質にたどり着けない作品が果たしていい映画なのかどうかというのは難しいところで、やっぱりファーストインプレッションである程度の足がかりないと、わたしみたいなド素人は評価しきれないよな…とも思うのでありました。

 

 

作品情報
  • 監督 パスカル・ロジェ
  • 音楽 トッド・ブライアントン
  • 製作総指揮 ステファヌ・セレリエ、グレゴワール・メラン、フレデリック・フィオール
  • 脚本 パスカル・ロジェ
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 フランス,カナダ
  • 原題 GHOSTLAND/INCIDENT IN A GHOSTLAND
  • 出演 クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、エミリア・ジョーンズ、テイラー・ヒックソン、ミレーヌ・ファルメール