あらすじ
東京に暮らす名家の令嬢、華子(門脇麦)は将来を考えていた恋人と別れ婚活に励んでいる。けれどお見合いも知り合いからの紹介もうまくいかない。諦めかけていた頃、良い家柄の幸一郎(高良健吾)と出会い心ときめく。しかし彼は華子よりも「上の階層」出身で、彼の親族の言動に戸惑う。
地方から上京し就職した美紀(水原希子)は、恋愛も仕事も順調に見えるものの、どこか焦燥感を抱えていた。親から結婚をせっつかれ、東京での生活に行き詰まりを感じていた頃、親友の里英(山下リオ)が独立すると聞き感銘を受ける。
住む世界も価値観も違う華子と美紀。思わぬ繋がりから二人の人生が交錯し……
こちら、実は作年末にオンライン試写で観させていただきましてね。
ほんとに、
めちゃくちゃ良い映画です。
もしこの映画が評価されなかったらもう日本映画界は終わりだな(大げさ)、くらいに思ってたんですけど、公開から間もなく一週間ですが、概ね好評のようでほっといたしました(何様?笑)。
原作は、『ここは退屈迎えにきて』の山内マリコ。
監督は、倦怠期ながらデキ婚するカップルを描いた『グッド・ストライプス』の岨手由貴子。
主役の華子と美紀を演じた門脇麦ちゃんと水原希子さんはもちろんすごく良くてですね、それぞれの友人を演じた石橋静河さんと山下リオさんもすごく良かった。
石橋さん、『きみの鳥はうたえる』もめちゃくちゃ好きだったけど、今回の役柄もほんと大好きだったなぁ。
高良健吾くんもね、悪気はないけどナチュラルにハイ階層振りが出てしまう役を、嫌味なく演じてましたね。
すでにいろんな方がレビューを書いていると思いますので今回は短めに。若干?ネタバレありです。
日本流「シスターフッド」
女性同士の連帯を描いたいわゆる「シスターフッド」の映画はここ数年増えてきていて、特に2020年は『燃ゆる女の肖像』など、評価の高い作品も多かったですよね。
邦画でも『アズミハルコは行方不明』とか、それらしい作品もありましたが個人的にはあまりハマらず……。
そこへ来ての本作ですよ。
あ、日本にもついにこの流れが来たのかな、という感じ。
それが顕著に表れていたのが、華子と美紀が初めて対面するシーンですよね。二人を引き合わせた華子の友人、逸子は、
「女同士を対立させるのは間違ってる」
と、そりゃあもう、はっきりと言うわけです。
いや、構図的に見ればどう考えても華子と美紀は対立してるじゃないですか。一人の男を巡る三角関係にあり、階層的にも相反してる。
でもその対立を「消費させない」選択を取るんです。
婚約者に別の女の影が!?なんて展開、普通の話なら女同士の修羅場を期待させますよね。でも、それを「否定する」んですよ。
ちょっと一瞬「なんてことだ!」と頭を抱えました。これは、かなり飛び越えたところまで来ちゃったぞ、と(笑)。
お好きなところで咲きなさい
何年か前に『置かれた場所で咲きなさい』というエッセーがベストセラーになりました。
置かれた場所、それがたとえ日陰であったとしても輝くことはできる、とポジティブは捉え方をすることもできますが、わたしは「高望みをするな、分相応に生きろ」と言われているみたいで、あまり好きではありません。
この映画でも、華子と美紀の「対立を否定する」ことは、下手をするとそんなメッセージを与えてしまいかねません。
文句を言わず身を引く・現実を受け入れる、「わきまえた女」のようにも見えます。
「置かれた場所」に甘んじる、上と下の階層の女。
ところが、二人の間に「確かな連帯」を感じさせることで、その危うい部分を回避しています。
二人はこの邂逅によって、しっかりと前に進んでいくんですよね。
美紀は友人の里英と会社を興し、厳しいながらも東京で邁進します。
華子は幸一郎と別れ、バイオリニストの逸子のマネージャーとして新たな一歩を踏み出します。
二人は、置かれた場所から飛び出して、自分にとって「本当に」居心地の良い場所を探すんです。
でも、一方で「置かれた場所」にとどまった幸一郎の人生を否定するわけでもない。彼には彼のつらさがあり喜びがあるのだ、と示す点も個人的にはとても良かったと思います。
どこでも好きなところで咲いていいんだよ、と背中を押してくれるような、とても優しい眼差しの映画でしたね。
あのことわたしとあなたの三角形
終盤、華子と幸一郎が再会し、演奏会でバイオリンを弾く逸子、それを見つめる華子、彼女を見下ろす幸一郎を画面に納めながら映画は終わります。
三人はそれぞれ違う場所に立ちながら、まるで三角形を成すように位置しています。
三角形は最も調和の取れた形です。
そういえば、華子と美紀が美紀の部屋で見上げていた東京タワーも三角だし、東京の新しいランドマーク、スカイツリーも土台は三角の形をしています。
三角形は四角形よりも力が均等に分散するので安定していて、揺れにも強い形なのだそうです。
人という字は支えあってうんちゃらかんちゃら、何て言いますが、支えるのに適しているのは実は三角形なんですよ。
画面には出てきませんが、ラストの「三角形」のすぐ隣には、確かに美紀と里英、坂道を上るあの女子高生たちが存在しているんだと、わたしは感じたんですよね。
このラストシーンを観ながら、もしかしたら、人間社会も「三角形でできているのかもしれないな」と思いました。
わたしはきっと、誰かに支えられる三角形の一辺だし、支える一辺でもある。それはまた別の三角形を支えるし、別の三角形に支えられている。
時に手を振り合い、互いの存在を確かめながら。
その三角形は連なり合い、重なり合い、編み目のように繋がって世界を型どっていく。きっとそこは、上だ下だ男だ女だの階層だのだなんて、もしかしたら関係ないのかもしれない。
そんな大きな三角形の中で、わたしたちは生きている。
作品情報
- 監督 岨手由貴子
- 脚本 岨手由貴子
- 音楽 渡邊琢磨
- 原作 山内マリコ
- 製作年 2020年
- 製作国・地域 日本
- 出演 門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ