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82年生まれ、キム・ジヨン【映画・ネタバレ感想】82年生まれの、母親です★★★★(4.0)

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あらすじ

2歳の娘のいる専業主婦のキム・ジヨンは、幸せなはずの日常に押し潰されそうになっている。それは彼女がこれまで経験してきた様々な出来事の積み重ねによって生じているものだった。

一方、妻の異変に気付いた夫は心療内科で妻の病状について話はじめる。

傷ついた心、壊れ行く日常、すれ違う関係……。ジヨンの絶望から、女性の生きづらさが見えてくる。傑作ベストセラーの映画化。

 

 

えーっとね、

鬼ほど泣きました……

 

いや、ちょっと、自分でも引くくらい泣きましたね。しばらく映画館のトイレに籠ってひとしきり泣きはらしたくらい。

これはね、ひさびさに「わたしの映画だ!」と思った映画でしたね。

 

 

変わる韓国のジェンダーギャップ

原作は韓国の同名ベストセラー小説。日本でも大きな話題となりました。

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 

わたしは小説未読なんですけど、映画版とはだいぶ違うところがあるみたいですね。

小説はいわゆるフェミニズム的な視点で書かれていると言われていて、主に男性から「男性嫌悪的だと」やり玉にあげられることもあったのだそうです。

未読ながら、映画ではその辺はかなりマイルドになっていると感じましたね。

 

というのも、この原作は2016年発行なんですが、その頃と現在の韓国の状況はかなり変わってきていることが影響してるんじゃないかと思います。

小説の登場によってか、それ以前からそういう動きがあったのかはわかりませんが、少なくともこの前後で、韓国におけるジェンダーギャップの問題が大きな転換期を迎えています。それは数値にもしっかり表れていて、韓国のジェンダーギャップ指数は2016年では日本の111位よりも下の116位でしたが、2019年になると日本を追い抜き、108位に。たった数年で改善が見えはじめているのです。

これは単純に、すごいことだなぁと思います。

 

日本でもつい数年前に大学入試の採点における男女差の不正が表沙汰になったばかり。しかし、それを擁護する人も決して少なくないのが、この国の現状を示していると思わざるを得ません。

ちなみに、2019年の日本の順位は121位に落ちました。

 

そんな中で作られた本作。正直に言って、これは、誰にでも当てはまる映画ではないと思います。

独身の若い人や年配の男性が、本作を観てどう思うのか、わたしにはわかりません。

 

ただ、わたしは主人公のキム・ジヨンと同じ1982年生まれで、小さな子どもがいる母親で、子育てに協力的(協力的、そう、協力的)な夫がいて、そこそこの暮らしができて、生活に不満はない、専業主婦です。

これ以上ないってくらいに共通点が多すぎて、どうしたって共感するしかないんですよね。

それから、彼女が救われる方法までもぴったり合致していて、もう完全一致ですよ(笑)。

 

なので、客観的な評価はくだせません。

でも、おそらくわたしの他にも、この映画を必要としている人がこの国にはたくさんいるだろうと思います。

多くの人に観て欲しいというより、そういう人たちに届いて欲しいと思える映画でした。

 

 

 

以下若干ネタバレしながら自分語りをはじめますので、もう誰も読まなくていいです。

 

 

 

 

 

立ちはだかる壁、埋められていく外堀

前段で韓国のジェンダーギャップの話をしましたが、基本的に日本と抱える問題は一緒なんですよね。出世するのは男ばかり、女は仕事より結婚して子どもを産む、という古い固定観念が世代を問わず広く蔓延している。

 

ジヨンはそれを「壁」と表現していましたが、わたしはずっと「外堀を埋められていく」と感じていました。

就職するときも「どうせ結婚や出産で辞めるでしょう」と正社員の採用を見送られ、結婚すれば仕事をしてても「夫のために尽くすのが当たり前」とみなされ、子どもができれば「母親なら仕事を辞めて子育てに専念するべき」という暗黙の圧力がのしかかり、再就職するには子どもを保育園に入れなければならないが、申請するにはまず働いていないとスタート地点にさえ立つことはできない……

 

わたしは、これまでの人生の中で一度だって自分から「専業主婦」になりたいと思ったことはなかったんですよ。ただそれしか、選択肢がなかっただけなんです。

ありとあらゆるハードルが立ちふさがり、労力も能力も放棄して、結果として立ち向かうことを全て諦めてしまった。

いや、気持ちとしては「諦めさせられた」という感じなんですよね。

段々と外堀を埋められ、家に押し込められていく絶望感。こんなはずじゃなかったのにという、言いようのない失望感……。

 

わたしが胸を押し潰されそうになったのは、映画の序盤、夫を送り出したジヨンがリビングを振り返るシーン。彼女の絶望がありありと、手に取るように伝わってきました。

 

時々あんな風に自分の家が、絶対に抜け出せない牢獄に思える時があるんですよね。

もう、ほんと、あの瞬間の虚無感って半端ないんですよ。言葉では言い表せない。

あれはもう、主婦の人でも感じない人は感じないだろうし、わかる人にしかわからないものかもしれません。

 

子連れで出かける時のしんどさもそう。

毎回毎回誰かに謝って、それでも足りなくて、電車やバスに乗ろうものなら、そのたびに申し訳ない気になってくる。子どもを生んだことも、わたしが母親であることも、何もかも自分が悪いことのように思えてくる。

なんで生きてるんだろう。なんのために生きてるんだろう。

全世界に謝罪してそのまま消えてなくなりたくなるんですよね……。

 

それから、この作品は、「母親であること」以前に「女である」がゆえの「性的被害」がまず前提にあるんですね。

夫の会社で女子トイレの盗撮問題があったりもしましたが、何よりしんどいなぁとわたしが思ったのは、高校生のジヨンがストーカーに追われるシーン。

そこで父親が「スカートが短い」とか「笑顔を見せるな」とか言いますよね。

ああいうこと、言われたことのない女性はほぼいないよね。夜出歩くなとか、そんな格好するなとか、とかとか、とか……。いや、つらいのこっちなんですけど、っていう。

なんでわたしは女の体をしてるんだって、何度思ったことだろう。

……死にたくなるよね、ほんと。

 

ジヨンが広告代理店で働いているということで、映画では出てきませんでしたがおそらく「女性の表象」的な問題も、もしかしたら原作では描かれていたのかなと思いました。

「窮屈な世の中になったなぁ」とか嘯く上司の人がいましたけど、いや、お前が他の人の座席にまで足広げてただけだからなって感じ。ポンコツが。

 

 

文章を書くという救い

それから、本作で共感しきりだったのは、ジヨンが自分の病気を理解し、専門医にかかるようになった時に「自分の気持ちを表に出す」手段として、文章を書きはじめるところ。

それは彼女の夢でもあったわけです。

これがねぇ、ほんと、めちゃくちゃわかるなぁと思って。

 

わたしがこのブログを立ち上げたのは子どもが2歳の時だったんですが、当時、日常と言えば家とスーパーと近所の公園くらいなもので。

社会と隔絶している感じがずっとしていたんですよね。

多分、あの時は数日に一回は「消えてしまいたい」と思っていたんじゃないかと思います。

 

そんな時に、わたしは「映画ブログ」なる存在を知りました。

なんていうか、初めて触れた時は目の前がぱぁっと明るくなるような感じでしたね。「ここに新しい世界がある!」っていう。

 

わたしは小説家になるのが若い頃の夢で、純文学の新人賞の最終選考二歩手前くらいに残ったことがあるんですけど(意外でしょ。わたしも嘘だったんじゃないかと未だに思ってる笑)、でもその後すぐに出産して、以来長い文章を書く機会って全然なかったんですね。

だから、そのリハビリも兼ねて好きな映画のことを書くのもありなんじゃないか、と思ったんです。

今では文章を書くことが生業の一つになっていて、まさかあんな軽い気持ちで初めてブログから、こんなに世界が広がっていくとはなぁ、と自分でも驚いています。

 

もしあの時、映画ブログに出会ってなかったら……どうなっていたか、わかりませんな。

 

 

関係ないなら近付かないで

ただ、本作を観て懸念したのは、

 

結婚したことも子どもを持ったことも、自分の責任でしょう?

 

そう言う人が絶対に出てくるだろうということです。しょせんは自己責任でしょ?って。

 

それについて、わたしは反論はしません。

自分には関係のないことだ、と思うならそれでもいいです。

多分、そう言う人たちにわたしやジヨンの気持ちは理解できないし、ていうか理解してもらおうとも思ってません。

でもね、ていうかね、そもそもね、

 

あなたにそんなことを言われる筋合いはありません。

 

聞こえよがしに「子連れ様」と嘲笑うのはなぜですか?小さい子をつれている母親(父親ではなく)に「虐待とか大丈夫?」と話しかけに来るのはなぜですか?「お総菜じゃなくて手作りすれば?」と小言を言うのはなぜですか?

ジヨンが言っていた通り、「あなたはわたしの何を知っているの?」「どうしてわざわざ人を傷つけるようなことを言うの?」

 

それから、「贅沢な悩みだ」「自分の方がもっとつらい」と言う人たち。

あなたの苦しみには同情するし、そこはお察しします。

だけど、わざわざ言いに来なくてもいいです。別に自分のつらさとあなたのつらさを比べようとはしていません。 

 

関係がないつもりでいるなら、近付いてこないでください。

 

わたしがあなたたちに言いたいのは、それだけです。

 

 

……うん。スッキリ、したかどうかはわからないけど、悪くはないね(笑)。

 

 

負けないよ。負けないでね。

 

 

 

作品情報
  • 監督 キム・ドヨン
  • 脚本 ユ・ヨンア
  • 原作 チョ・ナムジュ
  • 音楽 キム・テソン
  • 製作年 2019年
  • 製作国・地域 韓国
  • 出演 チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンチョン、キム・ソンチョル