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THE BATMAN ザ・バットマン【映画感想】ヒーローがヒーローになるとき★★★(4.0)

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【映画パンフレット】 ザ・バットマン THE BATMAN 監督 マット・リーヴス 出演 ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、

あらすじ

自警活動を始めて2年目のバットマンことブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)。両親が殺されたことによる心の傷、一向に改善されないゴッサムシティの治安、自身の行動の正当性……さまざまな葛藤を抱えながらも、ひたすらに悪党へ制裁を加える日々を過ごしている。

ある日、協力者でもあるゴードン警部補(ジェフリー・ライト)から次期市長候補が何者かに殺害されたと知らされる。犯人はバットマンへ挑発的なメッセージを残していた。謎を追うブルースはやがて、ゴッサムシティの有力者の秘密を握るセリーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)と知り合い、利害の一致から互いに協力することになる。

犠牲者が増える度に深まっていく謎。犯人「リドラー」の目的はなんなのか?バットマンとの関係は?全ての真相が明かされたとき、ブルース=バットマンに最大の試練が訪れる。

 

 

わたし大してヒーロー映画観てるわけでもないし、バットマン映画にも大して思い入れがあるわけでもないんだけど……。

 

いやー、良かった。すごく良かった。

何がいいってね、ゴッサムの治安がめちゃくちゃ悪そう!!

もう駅のホームなんかめっちゃくちゃにゴミが散乱してて超汚いし、車両は落書きだらけ、乗客は乱暴者のヤンキーばかり。丸腰のパンピーが普通に乗ったらソッコーボコられる。

絶っっ対に乗りたくない(笑)

小物の悪党が街の隅々にまでいて、強盗、略奪、破壊行動は日常茶飯事。

いや絶っっっ対に住みたくない(笑)。

 

ぶっちゃけ、こんなとこで自警活動する意味って何?って感じの街なんですよ。そこがね、物語の根幹にも関わってきて、非常に良かったと思いますね。

 

もちろん、ロバート・パティンソン演じるブルース・ウェインも素晴らしかったですね。マイケル・キートンやクリスチャン・ベイルら歴代バットマンって基本は陽属性の俳優さんが陰に振れてるって感じだったけど、今回はもう陰しかない笑。予告編やビジュアルからすでに陰気の塊で「大丈夫か?」って感じだったけど、劇中の坊っちゃんはそれを遥かに凌駕するほど陰気だったよ!!(笑)

もうね、「大丈夫、大丈夫だよ」と何度背中をさすってあげたい衝動にかられたことか……。てかね、映画内のキャラも観客もみんなこのブルースのこと「大丈夫?」って思ってたでしょ。ここまでみんなから心配されるバッツなんて歴代はじめてじゃない?もうキャスティングで8割くらい成功してたと思いますね。

それから、みんながバットマンの格好を「コスプレ」と認識してるのも新鮮だったな。そういう点でも今までとは一味違うバッツになってるんじゃないかなぁと思います。2年目だからオリジンではない(でもある意味ヒーローとしての目覚めを描いてはいる)という設定も良かったですね。

 

あとアルフレッドね……!アンディ・サーキスのビジュ見た時は、「顔が悪役過ぎない?」ってちょっと不安だったんだけど、めちゃくちゃ好きだった!なんなら今回の坊っちゃんとアルフレッドは最高に好きなタイプの関係性だった。

 

坊っちゃんのことをこの世の何よりも大切に思ってて、でも坊っちゃんは足元しか見てないからそれに気付かないんよ!

結構な嫌味を言う坊っちゃん(あれも一種の甘えなんだけどね)を叱るでも諫めるでもなく、心情を吐露した時は優しく受け止める。執事っていうか、もうお母さんじゃない?(笑)

多分ね、アルフレッドは「絶対に死ねない」と思ってるんだよね。それは大切な坊っちゃんを守るためじゃなくて、「悲しませないために」死なないんだよ。……何この2人、最高すぎない?

次作では是非共闘するシーンもお願いしたい!

 

この2人の関係は、ちょっと『レゴバットマン』とも近いかなと思いました。

レゴバットマン、実は本作とかなり似たテーマのお話でしたよね。バットマンの「恐怖」がアレだっていうのもそうだし、全体のお話としても……。面白いからみんなも観よう!

 

他のキャスト陣ももちろん良くて、コリン・ファレルはまじで誰?って感じですごく面白かったし(スピンオフドラマがやるみたいだね)、ゾーイ・クラヴィッツのキャットウーマンもしなやかでカッコ良かったなぁ。リドラーはわたし原作やドラマ見てないからジム・キャリー版のイメージしかないんだけど(笑)、ポール・ダノさんのリドラーは不安定なところがとてもらしくて良かったね。

 

確かに3時間は長いし、ちょっと厨二をキメすぎてて恥ずかしくなるシーンが連続したりもするんだけど(特にモノローグ)、観終わってみるとしみじみと「好きだなぁ」と振り返っちゃう映画でしたね。

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

社会正義とはなんなのか?

……という映画なんですよね、これ。

「自助、共助、公助」なんて言われてますけど、これはね、公助が破綻した社会でわたしたちはどう生きればよいのか、という話なんです。まさに今、我々の身に起きていること。

 

アメリカは個人主義と成果主義の国です。アメリカンドリームなんてまさにそれですよね。頑張れば夢は叶う、お金持ちになれるっていう。

だけど、その「頑張り」の土俵にも上がれない人がいて、そういう人は永遠に地の底を這いずり回って生きるしかない。シビアです。

しかも公助が破綻した社会では、むしろ権力者や裏社会の重鎮みたいな「頑張らなくてもいい人」だけが優遇され、網目の大きなセーフティーネットでこぼれ落ちる人がたくさんいる。それがまさに「治安の悪いゴッサム」の状態なんです。

 

リドラーはそんな街の欺瞞を「洗い流す」ために暴挙に出る。富裕層が持っているものを無理やり失わせることで、不平等をフラットにさせようとしたわけですね。最後には賛同者とともに下克上を起こそうとしたのだけれど、あの行動ではまた別の「リドラー」を生み出す結果に陥っただろうことは明白で、彼らがしたことは、結局権力者がしていたことと何も変わらない。彼らに必要なのはそうして暴力的になされる「再分配」ではない。

過去の「社会革命」は確かにそのような目的の下でなされてきました。貧しい者に富を、平等を。歴史的にみれば武力により成功した例もあります。

けれど、それらが結果的にうまく機能していたかというと、必ずしもそうではありません。例えそれが民主的な動きの中で起こったことであっても、必ず綻びが生じます。残念なことです。

 

それは善と悪などという二元論で語られる物事ではありません。ヒーロー映画で幾度となく描かれてきたような光があれば闇が生まれる、なんて単純な話でもない。

そんな複雑なわたしたちの世界の中で、いかにして「社会的正義をなすべきなのか」。自助だけではどうにもならない。健全な公助(警察機関や社会福祉)が当然必要で、それに個々人の繋がりあいという共助が伴えば、社会正義は達成できる……そんなことを描いた作品だったのかなーと思いました。

そして作中ではそのための答えも示されています。答えは、簡単です。それは、救われるべき人を救う、ということです。

 

 

孤立の時代のヒーロー像

本作のバットマンは「復讐」の名の下に、悪党たちを一方的に暴力で排除しようとしています。でも、社会的な構造が破綻している状態では次から次へと「悪」は生み出され続けます。

壊れた機械からは、壊れた製品しか作られない。

 

最後、そのことにバットマンは気付く。自分がなすべきことは、悪党を排除することでも、自己犠牲でもなく(ここが新鮮だったよね)、助けを必要としている人に手を差しのべることなんだ、ということ。

バットマンが泥まみれになりながら、救助活動にあたるというのは、ヒーローらしからぬ姿でありながら、これ以上ないヒーローの姿だったと思います。

 

実は本作を最後まで観て思い出したのは、『アド・アストラ』だったんですよね。

孤独に生きてきた男が、差しのべられた他人の手を掴んで生還するという話です(大意)。

本作ではバットマンが手を差しのべて人命を救いますが、「差しのべるー掴む」「救うー救われる」は真逆の行動に見えて本質的には同じなんじゃないかと思うんですよ。

救助した小さな子どもの手を握り勇気づけることで、ブルースは両親を失い傷ついた幼い頃の自分を救ったのではないか。過去の自分を省みることによる他者への働きかけ。それも社会正義を達成するための一つの手段であると思います。

 

わたしたちは、孤立の時代を生きています。

一人一人が小さな端末を手にして、そこから社会を見てしまっている。まるであたかもこの手の中で「世界」が完結してしまっているような、そんな錯覚にとらわれることもあるでしょう。

中にはその画面越しに、親指一つで他人を簡単に傷つける人もいます。それはさながら、リドラーがしたのと同じように、集団で群れて、攻撃することです。けれど、外の世界に目を向けて、画面の先に「人」がいることに気付くことができたら。

誰かを傷つけていたその手を、誰かを救うために使うことができたら。

もしかしたら、世界はもっと良くなるのかもしれない……。手を差しのべて、その手を掴むこと。それがわたしたちに今必要なことなのかもしれません。

 

長い長い思春期を経て、やっと大人の階段を上り始めたブルースお坊ちゃん。どうかその未来が明るいものでありますように……。

ただエンディングを見ると、かなり前途は多難そうだけれど!

 

 

追記の妄想: 坊っちゃんはきっと退院したアルフレッドを気遣って「お前は何もしなくていい」って言って、掃除とかお料理とか頑張ろうとするんだけど全然うまくできなくて、アルフレッドはそれ見てやれやれって思いながらもその成長にちょっと涙ぐんじゃったりして、坊っちゃんがなんとか作り上げたへなへなのサンドイッチを「(これまでパン切りナイフにも触れたことのなかった坊っちゃんが作ったにしては)上出来でしょう」とか言いながら食べて、それ聞いた坊っちゃんがちょっと嬉しそうに笑うんだよ!!

はぁ?尊みがすぎるんだよ!!(重症)

 

 

 

作品情報
  • 監督 マット・リーヴス
  • 脚本 マット・リーヴス、ピーター・クレイグ
  • 製作総指揮 マイケル・E・ウスラン、ウォルター・ハマダ、シャンタル・ノン・ヴォ、サイモン・エマニュエル
  • 音楽 マイケル・ジアッキノ
  • 出演、ロバート・パティンソン、ゾーイ・クラヴィッツ、ポール・ダノ、ジェフリー・ライト、ジョン・タートゥーロ、ピーター・サースガード、アンディ・サーキス、コリン・ファレル