あらすじ
認知症を患ったおじいちゃんが、運転した車で少女を轢き殺してしまった福島家。家族団欒を固辞する一家の父親は、少女の遺体を埋め、おじいちゃんの犯罪を隠蔽しようとする。しかし、おじいちゃんはその後も殺人を重ねるようになり、業を煮やした家族は、餅を喉に詰まらせたと見せかけて殺そうと、おじいちゃんにひたすら餅を食べさせるのだが、うまくいかない。
やがて轢死した少女の両親、母親がハマった新興宗教の信者、子どもの友人や近隣の住民を巻き込み、一家が殺しあう地獄絵図へと発展していく…!
「ファミリー・ウォーズ」ではありません。
「ファミリー☆ウォーズ」です。「つのだ☆ひろ」と一緒です。
監督の阪元裕吾さんの映画は「修羅ランド」という短編だけは観たことがあったのですが、なんというか、面白いと言えるかというと微妙だけど、「やりたいことだけは先行している若者の映画」という感じに思えて、とても好感を持ちました。
要するに、頭でっかちな映画理論だとか小手先の技術なんかにはこだわらずに、「俺はこういうのがやりたいんだ!!」という情熱がすごく伝わってきて、とにかくものすごいエネルギーを感じたんですよね。
映画における"遊び"の部分を、全力で楽しんでいる感じ。規範やモラルよりも、その場のノリを大事にするタイプ。
本作においても、その姿勢はほとんど変わっていなくて、「認知症になったおじいちゃんが人を轢き殺したので、家族総出で餅を食わせて殺そうとする」という、この不謹慎すぎるあらすじだけで、気持ち的にはもう満点をあげたいくらいです。(今回の☆は限りなく3に近い2.9です)
確かに、低予算で作られた感ありありで、細かい部分の稚拙さは否めません。
例えば大量の血糊から防護するためのシートが家具や壁に貼られているのを臆面もなく映していたり、直前のカットに映っていたものが次のシーンでは消えていたり、舞台となる家における"ちゃぶ台"(こちらは家族にとって重要な小道具となる)の配置にそもそも違和感があったり、映画の「作り込み」ははっきり言って自主映画ギリギリのライン(商業用としてはアウトかも)。
けれどもしかしたら、その数々の突っ込みどころも作り手の"遊び"の一環なのではないかと思わせるような、不思議な勢いのある映画だったんですよね。
「家族映画」の最終形
今年は、『ハッピーエンド』『聖なる鹿殺し』『ヘレディタリー』『イットカムズアットナイト』と、気が滅入る(けど質の高い)家族映画が量産された一年でもありました。どれも狂っていて歪んでいて、はっきり言って救いようのない映画でした。
これらの映画とこの「ファミリー☆ウォーズ」を比較するのはちょっと憚れますが、あちら以上に狂っていて歪んでいて、まともな人が人っ子一人出てこないんで、「もしや、コトイチおかしな家族映画では?」とわたしの認識まで歪んでしまう始末。
オナニー命の長男、「妊娠した」と告げるセフレに暴力を振るうクズ中のクズな次男、売れないアイドルの長女、自殺願望のある次女、新興宗教にハマったお母さん、最初はまともかと思っていたお父さんが実は周りが全く見えていない一番トチ狂った人物だったというね…。轢き殺された少女の親も頭がおかしいくらいのDQN(なんてレベルじゃない、ちなみに男の方は監督ご本人だそう)だし、隣人は銃持って引っ越しの挨拶しに来るやばい人だし(演じているのは監督のご友人だそうです)。
そもそも、最終的に血みどろの殺し合いに発展するのも、話の流れ的にも訳がわかりません。しかし、考えるな!考えたら負けや!
その思いだけで観通しました。
なので終盤の「ファミリー☆ウォーズ」な展開は「あぁ、きっとこれを作っている間、絶対みんな楽しんでたんだろうなぁ…」と妙に温かい気持ちになりました。
この映画を観て、「日本の家族の在り方に問題提起を投げかけ〜」とか「家族という歪んだ幻想が〜」とか高尚な感想を述べたりしたら負けですよ。
あっはっは!なんだこれ!アホかいな!クっソおもろいな!
これだけで良いのです。
とにかく、情熱とほとばしるエネルギーだけはひしひしと感じられる映画でした。
絶対に観なければならない傑作!と呼べるものではないかもしれません。ですが、教科書通りの映画、型にはまった映画ばかりではなく、熱意が先行したこんな映画も、日本にはやはり必要だとわたしは思うのです。
以下ネタバレ↓↓
お母さんが呼んだ新興宗教の人たちが「全ては悪霊のせい」と、おじいちゃんへのお祓いをはじめると、それに呼応するかのように家族の歪みは頂点に達する。
そこへおじいちゃんに轢き殺された少女の両親がチンピラを引き連れて福島家に乱入。飛び交う銃弾、肉を切り裂くナイフ、飛び散る臓物…やがて一家は向かい合わせに互いを刺し殺しあう。
全てが終わり、家族の亡骸が横たわる食卓へとおじいちゃんが戻ってくる。「夕飯なら呼んでーな」とタバコを吸おうとライターに火を点けると…
漏れていたガスに引火し、家は爆発。事件は「不幸な事故」として処理されることとなった…
↑↑ネタバレ終わり
追記:しかし個人的には餅よりも、長男がにこやかにこんにゃくゼリーを食わせるシーンの方が笑えました。こんにゃくゼリー、美味しいよね。
作品情報
- 監督 阪元裕吾
- 脚本 阪元裕吾
- 製作年 2018
- 製作国・地域 日本
- 出演 土許麻衣、海道力也、うみのはるか、上のしおり、吉井健吾、松本卓也、安田ユウ、辻凪子、林夏輝、ナルセキヨト、片山直樹