あらすじ
グラハム家の家長、エレンが死んだ。しかし娘のアニーは、母への複雑な感情からその死をうまく悲しむことができない。やがて奇妙な現象が家族に起こりはじめ、大きな悲劇がグラハム一家を襲う。だがそれは、更なる恐怖の幕開けに過ぎなかった…
母と娘の顔力合戦
わたしがこの映画を観たいと思ったのは、娘役の子の顔にガツンとやられたから。
ドン
ドン
ドドーーン!
(いずれも予告編Hereditary | Official Trailer HD | A24 - YouTubeより)
なにこの顔から滲み出る不穏さ!目つきの凶々しさ!顔から怖さがビシバシ来るもんね!うわ〜いいわ〜!1枚目で手に持ってるの鳥の首だから〜!素敵すぎる〜!
演じたのはミリー・シャピロちゃんというブロードウェイでも活躍している女優さんです。葬式で妙な絵を描いていたり、鳥の首をハサミでチョッキンしたり、折々で奇怪な行動を取るチャーリーを、不気味さ満点で演じていましたね。
すごく好きだったのは、チョコレートの、食べ方!たびたび服の袖いじいじするのとかも良かった…。いやー、彼女こそ100年に1人の逸材だろ、まじで…。
素顔は、こんなに笑顔のかわいいピッチピチ(死語)の16歳なんですけどね!
本作が映画デビュー作とのことですが、かなりアクの強い役柄だったので次の役選びがおばちゃんはちょっと心配…。でも、今後の活躍が楽しみです!
ただ、わたしはこの映画を予告編から勝手に「祖母から邪悪な力を"継承"し、家族や周りの人間を恐怖に陥れる娘」の話なのかと思ってて、彼女は『キャリー』や『オーメン』のようなすんごい子扱いなんかなと思ってたんですけど…ちょっと違った。うん、もっと出ずっぱりなのかと思ってたから、正直がっかり。
まぁでも、ミリーちゃんの顔力だけ拝められたからいいやと思って観てたんですが…
顔力は、母親役のトニ・コレットの方がすごかった!!
ドン
ドン
ドドーーン!!
キャーーーー!ママーーーー!!(いずれも予告編Hereditary | Official Trailer HD | A24 - YouTubeより)
ヒッチコックの『サイコ』からこっち、女性の悲鳴をあげる顔が怖いっていうのは遺伝子レベルで刷り込まれてるものなんだなぁ、と改めて感じ入った次第。いやほんとすごかった。
トニコレさん、顔だけでなく体もかなり張っております。終盤の彼女の行動の数々は映画史に残る名ホラーシーンと言ってもいいのではないでしょうか。ヘドバンね…見事なヘドバンですよ…
本作の怖さ
実際、この映画はとても怖いです。
映像ももちろん怖いのですが、それ以上に「家族」という一番近くにいて、一番わかっているはずの存在の者が、実は「一番得体が知れなかった」という恐怖なのだと思います。
親が本当は何を考え、何をしてきたのか…?本当の意味で、家族のことを理解しているか…?人間にとっての一番の恐怖は、愛する人が見せる裏の顔なのかもしれません。
そして、その顔を当の本人さえも知らないという戦慄。自分のあずかり知らぬ場所で、「何か」が進行しているという怖ろしさ…。
そういった、人の根源的な部分に訴えてくる「怖さ」が本作の魅力であり、面白さであります。
また映像に関していうと、別に何か気をてらったような恐怖演出をしているわけではなく、どちらかというと王道のような印象を受けました。『エクソシスト』や『オーメン』『シャイニング』などのクラシカルなホラーがお好きな方は多分気にいる作品だと思います。あと、『ローズマリーの赤ちゃん』のエッセンスも多分に感じましたね。
でも、ただ王道をなぞってるだけってわけじゃなく、端々に監督の美意識も感じられるカットもたくさんありました。埋葬からの地層、昼と夜の一発切り替え、生首に群がる蟻など、これが長編初監督なんて、アリ・アスターさんちょっと只者じゃないなって感じ。母アニーが作る本作の重要なモチーフである「ドールハウス」を使った巧みなオープ二ングとエンディングには、思わず鳥肌が立ちました。
次回作もA24関係のホラー映画らしいのでね、楽しみです。
以下ネタバレ!!
母親の子殺し願望
わたしが本作で一番ショッキングだったのは、チャーリーの首チョンパ事故シーンでも、終盤のママご乱心(笑)シーンでもなく、アニーが息子ピーターに「あなたを流産しようとした」と告白したシーンでした。
この一連のシークエンスはアニーの夢だったので実際に言ったわけではなかったのですが、わたしはこの映画の本質があのシーンにあったのではないかと感じています。
つまり、母親が抱く、子殺しの願望です。
本作はずっと、子どもを「殺そうとする」母親の話だったのですよね。
アニーはその言葉の後、「あぁ言ってしまった」という表情をするんですよね。愕然としたような、どこかほっとしたような。
しかしすぐにアニーは、「違うの、愛しているの!」と叫びます。
いなくなれと思う一方で、何よりも愛している。もしかしたら多かれ少なかれ、誰もが、「この子さえいなければ」と「この子がいてくれたから」というアンビバレンスの中で、母親をやっているのかもしれない。
最近の映画だと、『少年は残酷な弓を射る』『ラブレス』なんかにもそういう母親の子への複雑な感情を描いた映画がありますね。
憎みながら愛する。それはまるでさながら二重人格者のようです。
本作の場合、アニーも母と同じように、内面に悪魔を宿していたとも言えるます。
そもそも、アニーは冒頭のエレンの葬式シーンですでに教団のシンボルのペンダントをしています。つまり彼女はジューンに会う前からカルトの一員だったと言えます。抗うことのできない"血統"をすでに受け継いでしまっていたのでしょう。
家族という、この不気味なもの
もともとグラハム家はどこか歪で、お互いに本心を話していないようなところがありました。アニーは別に言ってもいいのに嘘をついて遺族セミナーに通いますし、ピーターはチャーリーを事故で死なせておきながらそれについて一切言及することはありません。そんなピーターに対してまるで当てつけのように、アニーは事故のミニチュアを作るのです。
本音を話さないのは、2人が互いに不信感を抱いているからなんですね。
終盤で、実は祖母エレンが悪魔崇拝のカルトの教祖で、彼女の血を受け継ぐ男を媒体に、悪魔(本作では地獄王ペイモンと呼ばれてる)を蘇らせようとしていたことがわかるんですが、アニーはおそらく、悪魔の媒介者であるピーターを、本能的に「存在してはならない」と感じでいたのではないかと思います。
一方ピーターは過去に母から殺されそうになったこともあり、母が自分に抱いているそんな「潜在的な殺意」を感じている…。
2人が本音をさらけ出すのはアニーのこの夢の中と、食卓での言い合いのシーンの時だけです。
でも彼らが特殊なのかというと、別にそういうことでもないように思えます。
互いに本音を言わず、表面上だけ取り繕った「仮面家族」は沢山います。ただ血のつながりがあるというだけで共に暮らす「家族」という集団は、そもそもそれだけで不気味な存在なのかもしれません。
思えば今年は、ハネケの『ハッピーエンド』、ランティモスの『聖なる鹿殺し』、ズギャビンツェフの『ラブレス』そして本作と、家族の闇を描いた映画ばかり観ている気がします。
ちなみに本作の後に、『イット・カムズ・アット・ナイト』も観たんですが、あちらも気の重くなる嫌な家族映画でしたね…。滅入る…
祝え、新たなる王の誕生を!
ぶっちゃけ、観終わった直後の感想は「コレ、仮面ライダージオウじゃねーか!」でして、それは最後、カルト信者たちにピーターが地獄王ペイモンとして称えられて、映画は終わるからです。(半ばこじつけ)
歴代のレジェンドー祖母エレン、母アニー、妹チャーリー ーの呪われた力を受け継ぎ、世界の新たなる王として迎えられるピーター…。つまりどんなに抗おうとも運命には逆らうということはできないという、急遽の鬱エンド。
しかもよく見るとラストシーンのカットは、誰かのドールハウスの中のようなのです。思えばオープ二ングからこの映画はこのミニチュアからはじまっていました。
ピーターが地獄王になることも、チャーリーや家族の死も、彼らの行動の全てが実は「誰か」の管理下によって「作られて」いたのだとしたら…。
親から子へ、子から孫へ。脈々と受け継がれていく恐怖の遺伝子。わたしたちはそれを次の代へ引き継ぐ、単なる駒にしか過ぎないのだ。
あぁ、なんて怖ろしい。
最後に
というわけで、前述した監督の美的センスだったり、家族の負の物語という点はとても好きな映画でした!
ただ、割と絶賛気味な感想ですが、実はそもそも悪魔崇拝系映画はそこまで趣味じゃないところもあり、「あ、これもそっち系か…」って、そこの部分に関してはあんまりノレなかったというのが正直なところ。
観てるこちらとしては「やっぱりな」となっちゃうし、そもそもジューンを演じたのが『コンプライアンス』であんなことやこんなことしちゃうアン・ダウドだよ?すでにアヤシサ満載じゃんていう笑。
あと、やはりミリーちゃんの途中退場が残念過ぎた。まさかの、捨て駒っていう。酷いっ!ペイモンの人でなし!(まぁそこは、所詮人間は駒に過ぎないって意味もあるんでしょうけどね。)
…てか悪魔ってなんでみんな天井に登りたがるのかなぁ?わたしあれ観ると、なんか笑いがこみ上げてきちゃうんですよね。
志村ー、後ろ後ろーー!
作品情報
- 監督 アリ・アスター
- 製作総指揮 ライアン・クレストン、ジョナサン・ガードナー、トニ・コレット、ガブリエル・バーン
- 脚本 アリ・アスター
- 音楽 コリン・ステットソン
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 HEREDITARY
- 出演 トニ・コレット、アレックス・ウォルフ、ミリー・シャピロ