あらすじ
田舎の農園でひっそりと暮らす1組の家族。会話は手話、極力音を立てないように生活している。「何か」に襲われないように…
簡潔に言います。
超!超!超面白かったです!!!!
いやー、これはすごい。まさに"体感する"映画でした。
「音を立ててはいけない」というルールだけで、ここまで怖ろしくてスリリングで感動(2回泣いた)できる映画になるとは。ホラー映画のくくりだけには収まらない、物凄く完成度の高い作品でした。観てる間力入りすぎて、観終わった後はすげぇ脱力だった…最高。
ノリはB級、中身はA級
いや、これね、確かにノリは完全にB級だと思います。わたしはラストのエミリーブラントのドヤ顔を見てそれを確信しました。「何か」の造形や設定にトレマーズやシャークネードシリーズなどに通じるB級マインドをヒシヒシと感じます。亜流の続編モドキがザクザク作られる予感するもんね…。
しかし、中身は最上級A級エンタメです。
今作の質を高めている要素としてまずあげられるのは、緊張と緩和の見事なバランス。「音を出してはいけない」のに「音を出しちゃった!!!!」時の恐怖と緊張感、「音を出してもいい」時の「音を出したい!!!!」欲求の放出。多分観てない人にはなんのこっちゃだと思うけど、でもこれ、絶対絶叫上映向いてるの思うから…あのシーンでみんなで叫んだら絶対楽しいから…!
そして、描き過ぎない演出。なんせこの映画「なぜこうなったか」の顛末をどスルーしていきなり「89日目」からはじまるんですよ。一応新聞記事などでおおよその状況は把握できるのですが、それにしたって端折りすぎ。しかも89日の次「472日」だからね。まるまる1年どこいった!笑笑 でもこれによって、彼ら家族がこれまでどんな思いを抱えてきたのか想像することができ、それが作品に奥行きを与えてくれています。
また最初の方のシーンで、自然音を描きわけることで娘が聴覚障害だとわかったり(この設定があるため、家族全員手話ができることに違和感がない)、母親演じるエミリーブラントがそ〜っと薬ケースを取るシーンの緊張感で「あ、音を立てたらいけないんだな」と感覚で理解できたり。常に「音」を意識した演出が見られるのもやはり本作の設定ならではですね。
それから物語の縦軸として機能している極限状態で描かれる家族のドラマです。この一家はあることによって父娘の間に埋めようのない亀裂が生じてしまっています。
わたしが思うに、手話って実は声によるものよりもよっぽど親密なコミュニケーションツールなのではないかと思うのですよ。だって会話は相手を見ないと成立しないし、そのためには相手の近くに絶対にいなきゃいけない。けれども、どんなにそばに居ても伝わらない気持ちがある。わたしは父娘の確執はその手のディスコミニュケーションの一種だと感じました。ある意味、手話というコミュニケーションの限界です。伝わらない気持ちを伝える手段をどう取るか…父が愛を娘に伝えるシーンは、やはり胸アツで感涙ものです。
共通の喪失を抱え、皆それぞれに責任を感じてしまっている(特に妻が後悔を吐露するシーンは地味に辛い)一家が、お互いの罪を赦しその罪から解放されていく姿というのも、本作の見所の一つなのではないでしょうか。
…というわけで、多分わたしの今年のベスト映画に入ると思います。超超おすすめです。
以下ネタバレ。というかいろいろコジツケ
祝福の花火を上げよう
なんと言っても本作の白眉は極限の出産シーンです。このシーン考えた奴誰よ!まじで鬼畜かよ!!観ててすげぇキツかったわ!!!
わたし子ども二人産んでますけど、陣痛ってほんと辛いんですよ。なんていうの?「痛い」なんて生易しい言葉じゃない。これまで感じたことのない感覚で、ほかに例えようがない。その感覚を緩和するにはやはり声を出す、というのが一番だと思うんです。「ぎゃー」とか言うわけじゃなくて、呼吸とかそういうの。それなのに、息を潜めて必死に耐えなきゃいけないってこの状況。ほんと鬼畜かよ!!?
いやー無理無理。わたしなら2秒で瞬殺。あと、赤ちゃんが泣かない子でほんとよかった。うちの子だったら2秒で以下略。
で、わたしはこの映画観終わって
「てかこの状況で子ども作るとか草。あり得ないまじウケる」
…とか言う人絶対いるだろうな〜って思って一人でげんなりしました。
いや、そういった感想に対して、「この夫婦が下の子を喪って1年どんな気持ちで過ごしてきたか想像しろよ」とかさ、「この状況で産むのは相当な覚悟あるに決まってんだろ」とか反論はできるけど、そういったことを言うつもりはありません。
ただ、「子ども作るとかウケる」派の人はきっと「新入社員のくせに子どもとかあり得ない」派だろうし、「子連れ出勤とか非常識過ぎ」派だろうし、「今仕事忙しい時なんだから考えてよ〜」派だろうなとか、勝手に思って落ち込んだだけです。
わたしはこの映画を、怪物とか終末世界なんてのは現実世界の暗喩で、親はこんだけの覚悟で子どもを産み育ててるんだぞ、って話なんだと感じました。
言いたいことも言えない(=声を出せない)、何かを言えば理不尽な扱いを受ける(=怪物が襲ってくる)、そんな世界で、わたしたち親は子どもを守るために戦わなければならないのです。
だからこそ、母親の出産シーンで花火が上がった時には言いようのない感動が押し寄せました。映画の中では怪物に襲われる母親を助けるための花火でしたが、わたしには、どんな状況でもどんな立場でも子どもが産まれることは喜ばしいことなんだ、出産は祝福されるべきなんだ、と言われているような気がして、思わず泣いてしまいました。(多分あそこで泣いてたの劇場内でわたしだけだと思う…)
どんな人でも周りに出産予定の人がいたとしたら、批判する前に「おめでとう」を言ってあげてほしいなぁ…なんてことを思いました。
原始的家族像とその破壊
一家は、「父が狩りをし母が家事を担う」と言うよく言えば古風、はっきり言っちゃえば前時代的な役割分担によって生活しています。狩りを教え込むのは年長の娘ではなく年下の弟。父親にとってはこの世界で「生き延びること」こそが重要であり、その行動は合理的ですが、それ故に冷淡にも見えます。
そんな父親は子どものためなら迷いなく自分の命を差し出す。彼の最期の雄叫びは、手話以上の、言葉以上の「アイラブユー」が込められていました。
一方の母親は息子に計算を教えたり、生まれてくる子のためにモビールを飾ったり、イヤホンで音楽を聴きながらダンスをしたり、「生き延びること」のその先を見ているように思えます。命を宿していることが未来を見据えていることとイコールなのかはわかりませんが、彼女は死をもって子どもを守るのではなく、ショットガンを手に、脅威と闘うことを選ぶのです。
命を救われた娘は父の残した遺産から脅威への対抗策を見出し(たくさんの補聴器がまた泣ける)、これまで守られる側だった妻と娘によって怪物は倒される。
声を出せない世界から、声を上げられる未来へ。その道を切り開く、母親と娘の女2人。その姿に、思わず新しい時代の到来を期待してしまいたくなるのです。そういう意味でも、本作はジェンダー論映画として観ることもできるのではないかと思いました。
…まぁこんなこと書いてますけど、他の人のレビューとか一切読んでないのでわたしの見方が正しいとは思わないし、そもそもそんなこと考えなくてもものすごく面白い映画です。是非是非皆さんも劇場で!暗〜い映画館で息を潜めて観る本作は、極上の映画"体験"となるはずです!!
・余談
映画の最初の方、横の列の人がずっとものすごい音立ててバリボリポップコーン食べてたのですが、弟くんが襲われたシーン以降ぱったり音を立てなくなったのがなんか面白かったです。クワイエットプレイス!プライスレス!
以前書いた妊婦が出てくる映画特集に本作も追記しないといけませんな!
作品情報
- 監督 ジョン・クラシンスキー
- 製作総指揮 セリア・コスタス、ジョン・クラシンスキー、アリソン・シーガー、アーロン・ジャナス
- 脚本 ブライアン・ウッズ、スコット・ベック、ジョン・クラシンスキー
- 音楽 マルコ・ベルトラミ
- 製作年 2018年
- 製作国・地域 アメリカ
- 原題 A QUIET PLACE
- 出演 エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ