あらすじ
第一次カルリスタ戦争終結後のスペイン・バスクのギプスコア。戦争で右腕を負傷し、心身ともに傷ついたマルティンは、久しぶりの帰郷で弟ホアキンが尋常ならざる巨体に成長していることを知り、弟を見世物にして金を稼ごうと二人で各地を巡る旅に出る。しかし次第に、自らが奇異の目で見られる事に耐えられないホアキンとの間で軋轢が生じ…。
「アルツォの巨人」と呼ばれ、バスク地方では伝説と化している実在の人物、ミゲル・ホアキン・エレイセギの実話を元に描いたバスク語スペイン映画。
最近気になってて、ちょこちょこバスク関連の映画を観てます。たぶんバスク語映画って日本ではあんまり馴染みがないと思うんで、もしかしたら本作も日本ではDVDとかにはならないのかもしれないです。こういうのをしれっと配信してくれるんで、Netflix様様ですわ。
神話化した実話
わたしは今作で、ミゲル・ホアキン・エレイセギさんを知ったのですが、バスク地方では神話的扱いの人らしいです。当時としてはヨーロッパ一の大男だったそうな。
記録だと227センチ、足の大きさは36センチもあったそう。演じている方は普通の体格の人なので、何かに乗ってるんだと思う(CGとかではないっぽい?)
そんなホアキンを"奇形者(フリークス)"として興行させる兄もまた、戦争で片腕を負傷した"障害者"だったというのが皮肉ですね。また兄弟が元々女性や父を巡り内々に確執を抱えていた、というのも兄弟モノ好きとしてはツボでした。(だからこそ、行き場を失った二人が抱き合うシーンはとても悲しくて、暖かい…)
いわゆる見世物の"奇形者(フリークス)"の映画というと、実際の奇形者が出演した問題作『フリークス』とか『ブリキの太鼓』の小人とか、最近だと『グレイテストショーマン』あたりを思い浮かべるんですが、本作の系統としては、『エレファントマン』に近いかもしれないです。
悲しみの巨人
ただ、「エレファントマン」みたいなキワモノぽさは皆無で、どちらかといえば、異形の者の苦悩と葛藤を正攻法の語り口で描いていた印象。そこに「バスク地方」の持つ不遇な歴史が加わるもんだから、映画は終始悲劇ムード。
弟の墓から遺体が消える冒頭から、田舎コミュニティの気味悪さ、兄が戦争に連れて行かれる件の「父ちゃんそりゃないぜ」感、王女様に謁見した際のナチュラルな差別と偏見に溢れるイヤ〜な言動…などなど、地味にダウナーな展開が続き、また、バロック絵画のような明暗の映像も、観ているだけで鬱々としてきます…。
でも、わたしは面白く観ました。映画を通していろんな国や地域の歴史とか文化を知るのが好きなので、こういう映画は観ててほんと楽しいですね。そして、観終わった後にその地域のことについて調べるのも良い体験。映画から、今まで知らなかった世界が広がっていく感じ。最高!
これからもNetflixさんには、そういう世界のいろんな映画をドシドシ配信していただきたいですね〜
本作と同じスタッフによるバスク語映画。英語題は「FLOWERS」。女性の元に見知らぬ人から花束が贈られてきて…。こちらもネトフリで発見。地味ですが、じんわりと染み入る作品。
ETA(「バスク祖国と自由」=スペインバスク独立を目指す過激派組織)を扱ったネトフリオリジナルのブラックコメディ。これも良かった。
となりのテロリスト | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
作品情報
- 監督 アイトル・アレギ(バスク語版)、ヨン・ガラーニョ(スペイン語版)
- 脚本 アンドニ・デ・カルロス、ホセ・マリア・ゴエナガ(バスク語版)、アイトル・アレギ(バスク語版)、ヨン・ガラーニョ(スペイン語版)
- 製作 、シャビエル・ベルソサ、イニャキ・ゴメス、イニゴ・オベソ
- 音楽 パスカル・ゲニュ(バスク語版)
- 製作年 2017年
- 製作国・地域 スペイン(言語 バスク語)
- 出演 ホセバ・ウサビアガ(バスク語版)、エネコ・サガルドイ(スペイン語版)、イニゴ・アランブル、ラモン・アギーレ(バスク語版)、アイア・クルセ