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アナイアレイション 全滅領域【映画・ネタバレ感想】アート系知的SF!自壊と贖罪の失楽園(パラダイスロスト)★★★★☆(4.5)

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あらすじ

 生物学者レナ(ナタリー・ポートマン)の夫で軍人のケイン(オスカー・アイザック)が、秘密任務から突如帰宅し、昏睡状態に陥る。ケインは政府が秘密裏に隔離している「揺らめく光(シマ―)」に囲まれた謎の領域ーエリアXの唯一の生還者だった。ケインの容態を心配するレナは、エリアXを調査するためそれぞれに問題を抱えた4人の女性隊員と、その領域に足を踏み入れる。やがて"シマー"の奥へと進んだ彼女たちが目にしたのは、通常では考えられない変異を遂げた生物たちだった…。

 

 

 『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが監督で、主演はナタリー・ポートマン、ジェニファー・ジェイソン・リーにオスカー・アイザックが出演と、なかなかのビッグネームに思えるんですが、配給側とのゴタゴタがあったらしく、米国と中国以外はネトフリ配信となったようです。最近のネトフリはイケイケドンドン(死語)だね。

 

 まぁ、そんなことはさておき。『アナイアレイション』。

これ、超面白くない⁇

 やばいです。めちゃくちゃ好きなやつでした。

 

 

ぶっちゃけよくわかってません。

 タイトルの『アナイアレイション』"annihilation"を辞書で引くと、「全滅、絶滅、壊滅」という意味の他に、物理用語として「対消滅」という意味があるそうです。

 対消滅とは、【陽子と反陽子のようにある物質とその反物質が出会い、ともに消滅してエネルギーに変換されること】らしく、ようするに、この映画に出てくる"シマー"が人間にとっての反物質で、…なんて小難しいのはアパーなわたしにとってはどうでもよくて。

 多分やっていることは『惑星ソラリス』的な鬱々人間のぐちゃぐちゃ葛藤みたいなのなんでしょうが、ソラリス途中で寝てるわたしにとってはそういうのもどうでもよくて

 

 とにかくねー、視覚的な刺激がビシバシ来るんですよ。ネイチャー的禍々しさに満ちていて、美しいのにかなり悪趣味。ナタリー演じるレナたちが遭遇する、変異した色とりどりの花とかコケとか、角が枝になった鹿とか、一見すると美しいんですがよくよく見ると気持ち悪いです。マガマガ全開です。

f:id:minmin70:20180321101107j:imageNetflix映画『アナイアレイション 全滅領域』超嫌過ぎる"鳴き声"のクマ的フレンズ…最凶ですわ。

 暖色系レンズフレアがバシバシ入った、ドラッグ系イマジネーションが炸裂する映像は綺麗なのに不気味で、いろんなオマージュやモチーフも感じるんですが(クトゥルフ的なアレやタルコフスキー的なドレとか)、もうそういうの考えていられないほど、ただただ「ほへ〜」って見とれるだけ。考えるな、感じろ!

f:id:minmin70:20180320165524j:imageNetflix映画『アナイアレイション 全滅領域』謎の領域エリアXは「シマー」と呼ばれる虹色の光に満たされている…ほへ〜

 

 いわゆる知的SFに分類されるのかなと思います。

 アレックスガーランドの前作『エクス・マキナ』もそっち路線の映画でしたが、あちらは「ボクちん賢いでしょ?」的なのが見え見えで、わたしは正直そこまでノレなかったんですよね。

エクス・マキナ (字幕版)

エクス・マキナ (字幕版)

 

AIかヒトかという題材にも心惹かれず、印象に残ってるのはソノヤ・ミズノさんのダンスっていう…。あとナイフ、ズモモモモ。

 

 本作でもそれは感じるんですが、それよりも何よりも映像的美しさが優っていて、全然嫌味に感じない。元々の原作がそうなのかもしれませんが、考証云々というよりはアート寄り。どこかオタクっぽさもある。

 話の大筋は「消息を絶った先遣隊を追って危険地帯へ入る」っていうわかりやすいもので、「イベントを攻略して先へ進む」というゲーム感覚もありますね。原作は3部作らしいんですが、超面白そうですわ。

全滅領域 (サザーン・リーチ1)

全滅領域 (サザーン・リーチ1)

 

 でも正直、何がそこまで琴線に触れたのか自分でもよくわからないです。

 無意識の自壊衝動を抱え、まるで破滅に向かうかのように"シマー"に吸い寄せられる彼女たちに共感したのか。

 大自然の中で得体の知れない恐怖と対峙する…という正統派森ホラーの様相を呈していながら、自分とは何かという哲学的テーマへと収斂して行くのがよかったのか。

 はたまた女性だけで脅威に立ち向かうという新生ゴーストバスターズみにぐっときたのか…

f:id:minmin70:20190129223550j:imageNetflix映画『アナイアレイション 全滅領域』この構図、完全にゴーストバスターズでしょ…笑

 

 

 

 

以下ネタバレしています。

 

 

 

 

 

禍々ネイチャー対鬱々人間

 女だらけの探検隊が危険地帯でクリーチャーと遭遇する…なんて聞くとかの『ディセント』を思い出しちゃいますが、アート系SFなのでクリーチャーがわんさか出るようなB級パニックな展開にはなりません。

 そもそも、本作の女性たちは頭の良い学者さんたちなので安易に仲間割れもしないし、みんな内省的な鬱々人間なので自らの腹のイチモツと向き合うのが精一杯。

 ある者は薬物依存症や自傷癖を、ある者は娘を亡くし喪失感を抱えている。皆それぞれに現実世界に逃れたいものを持ち、「死んでもいいやぁ〜」な自暴自棄を無意識に抱えている。エリアXへの調査は現実逃避であり、自殺行為なのだ。

 

 主人公レナも、同僚との不倫を夫に気付かれ、そのせいで彼が危険な任務に就いたのではないかと考えている。癌を患い余命幾ばくもないドクターヴェントレスは、彼女の不貞行為を自殺と同等の「自己破壊」だと言ってのける。確かに、そうなのかもしれない。もしかしたらレナは、これまでも大して好きでもない様々な相手と、関係してきたのかもしれない。夫のことを愛しているのに、幸福な生活では満たされない、自分を貶めることでしか充足感を得られない…こういう虚無感、わたしの中にもないとは言えない気がします。

 

 死にたいと生きたいを屈折して持ち得ている彼女たちは、禍々しい森の中でそれぞれの生き様死に様を「選んで」行く。それはまるで光や電波、DNAまであらゆるものを屈折させる"シマー"そのもの。禍々ネイチャーに対峙することでより一層彼女たちの屈折は進んでいくのだ。

 ある者は「助けて」と叫びながら怪物に食われて取り込まれ、ある者は植物に変異する(そして先遣隊も同じような選択をしたらしいことが示唆される)…そして死をより身近に感じていたドクターヴェントレスは、シマーそのものになることを選ぶ。彼女たちは死にたいというより永遠に生きたがっていたように思える。

 

 思えばガーランド監督はレオ様の『ビーチ』の原作者で『28日後…』の脚本家でもあるわけだし、対ネイチャーで露わになる鬱々人間の生についてはずっとテーマにして来た人なんでしょうね。

 鬱々死にたい言っている人は、生きたい人なんだよ。

 

 

イヴの誕生

 本作でも『エクス・マキナ』同様、イヴの誕生を描いています。あちらは父殺し・神殺しをモチーフとしていましたが、こちらはアダムを介さない「イヴ」です。

 レナはシマーの発生源である灯台=宇宙からの飛来物が落下した地点にたどり着きます。その周辺には水晶で出来た木のような物が生え、まるで幻想的なこの世の終わり。

f:id:minmin70:20180321230708j:imageNetflix映画『アナイアレイション 全滅領域』

 レナはそこに残されていたビデオから、夫が自爆したことを知ります。帰還したのはシマーから生まれた夫のクローンだったのです。そんなレナの前にも自分のクローンが現れます(ここの「模倣ダンス」、CGじゃなくてソノヤ・ミズノさんが踊っていると知ってびっくり)。

 けれどレナは、生きることを選びます。クローンを、シマーを消滅させ、現実に帰ってきます。

 

 ケインのクローンは「君はレナ?」 と問いかけますが、レナはそれにうまく答えることができません。レナはシマーの中で自らの遺伝子が変質していることを目にしていました(腕にタトゥーが入れられていたりしているのでおそらく死んだ隊員たちのDNAも取り込んでる)。つまり現実に戻ってきた彼女は、変異後の存在なのです。昔の忌々しいものは全部クローンと一緒に焼き払ったつもりだから。今、夫の前に立つ彼女は新しく生まれ変わったレナなのです。それはさながら自壊と贖罪を経たイヴのパラダイスロスト。

 そしてラスト、抱き合う二人の目がシマーの光と同じ虹色に輝いて映画は終わります。そう、二人は新時代のアダムとイヴになることが暗示されるのです。人類をアナイアレイションし、新世界を作る、光の民なる存在なのです!

 やったね!世界は鬱々を捨て、禍々ネイチャーに溢れることでしょう。新時代のイヴに、幸あれ!

 

 

 と、なんとなく思わせぶりに終わらせますが、すみません。イマイチまとまりません!

 コップの水を真ん中に置いて映り込む手が反転させるのを度々見せたり(光の屈折を表現?)、尋問されるレナがやたらと「わからない」を繰り返していたのも印象的でした。あと、目指す場所が灯台というのもね、道しるべ・ランドマークという意味であると同時に、前時代的なもの・淘汰され行くものという風にも考えられるのかなぁ…とか。

 どうしよう、本当に全然まとまりませんが、とにかく傑作には違いありませんので皆さんその目で確かめてください。おしまい…

 

 

 

作品情報
  • 監督 アレックス・ガーランド
  • 脚本 アレックス・ガーランド
  • 原作 ジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』
  • 製作 スコット・ルーディン、アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ、イーライ・ブッシュ
  • 製作総指揮 ジョー・バーン、デヴィッド・エリソン、デイナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー
  • 音楽 ベン・ソーリズブリー、ジェフ・バーロウ
  • 製作年 2017年
  • 製作国・地域 アメリカ、イギリス
  • 出演 ナタリー・ポートマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジーナ・ロドリゲス、テッサ・トンプソン、ツヴァ・ノヴォトニー、オスカー・アイザック
  • アナイアレイション -全滅領域- | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト