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RAW 少女のめざめ【映画・ネタバレ感想】オシャンティな食人青春映画は、ママの優しい味がした。★★★★☆(4.5)

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RAW 少女のめざめ(字幕版)

あらすじ

 両親が卒業し姉も通っている獣医科大学に入学したジュスティーヌ。秀才の彼女は親や周囲からも期待されていた。しかし入学早々に待ち受けていたのは上級生からの壮絶な「洗礼」。それは動物の血を被り生肉を食すというものだった。ベジタリアンのジュスティーヌは最初は拒むものの、姉から強引に諭され、ウサギの肝を口にしてしまう。それを機に、ジュスティーヌの心と体は異常をきたす。変化する体、抑えきれない欲望、止まらない衝動。「肉」への欲求が、少女を大人へと変える…。

 

 

 奥さ〜ん!ついにオシャンティなシャレオツ映画界隈にも食人ウェーブがやってきましたよ!!ワッショイ\(^ω^)/

 

オシャレでアンニュイなフレンチアートカニバル

 映画祭で失神者続出!とか、煽り文句がすごいですけど、いわゆるグロ映画とは違います…って、確かに血は出ますし、テーマは食人ですからショッキングなシーンはありますけど、愉快な音楽(ちょっと笑っちゃうくらい)とフレンチらしいアンニュイでスタイリッシュな映像に溢れた美意識の高い映画でした。これならおしゃれ映画好きさんも観られると思います!(鑑賞は自己責任でお願いします… 笑)

 監督はフランス人女性監督ジュリア・デュクルノーさん。本作が長編デビューとのこと。

f:id:minmin70:20180206181441j:image画像Julia Ducournau - uniFrance Filmsより佇まいがロックでカッコいいです。

 

人通りの少ない道端にひとりの女子、そこへ一台の車がやってきてまさかの…!という静と動が巧みな冒頭から、ゲイのルームメイトの愛の営みを廊下で盗み聞きするシーン、わざと犬が股間に被ってるようなアングルで撮ったビキニラインを除毛するシーン、「死体とセックス!」というあまりに直球すぎる女性ラップに合わせて踊るシーンなど、大胆さと繊細さの同居した演出に女性らしさを感じましたね。ホラーともあからさまなエロとも言えない独特な雰囲気を醸していました。アートっぽいカット(馬とか犬とか)や色使いは、人を選ぶかもしれませんが…。

 

 本作は食人というインモラルな題材を取りながらも、その実は「少女のめざめ」と邦題にあるように、ひとりの女の子が大人の階段を登り、最後には家族愛を通じて成長する…という王道の青春物語です。ラストシーンには、娘であり、母でもあるわたしにとってはさまざまな思いが去来しましたね…。

 親の願ったとおりに子どもは育たない。むしろその逆を行く。ごめんよ、母さん…。

 わたしは結構、好きな映画でしたよ。

 

ただ一つ言いたいのは…

こんな学校絶対にイヤ!!! 

 

 

 

 

以下ネタバレ〜。

 

 

 

 

大人への通過儀礼としての食人

 食人という題材はこれまでにも様々な映画で描かれてきました。恐怖や禁忌、異常性の象徴、あるいはある種の儀式として。

 最近だとわたしが特に記憶に残っているのは『野火』ですかねぇ。 

野火

野火

 

 戦争の異常性や狂気を表現するのに、食人はこれ以上ないモチーフだと思います。

 他にも『グリーンインフェルノ』では野蛮性や非文明を、『悪魔のいけにえ』では一家の狂人ぶりと恐怖を強調し、いずれも食人は、常人にとっては禁忌であり異常行為として描かれています。 

 

 けれども本作の食人は、思春期、性の目覚め、少女から大人への急激な変化…つまり誰もが通る「大人への通過儀礼」のメタファーとして描かれているんですね。

 本作の主人公は16歳ですが、体は成熟していても(妊娠が可能という意味で)、心はまだその準備ができていません。その肉体的な変化と精神的未熟さのアンバランスを乗り越える手段として食人が行われるのです。

 ベジタリアンのジュスティーヌは無理やりウサギの肉を食べさせられます。これは家族の庇護から離れて社会に放り込まれたことを意味しています。そして皮膚がただれて皮がむけてしまいますが、これは虫やヘビの脱皮やさなぎが蝶に羽化することと同様、新たに生まれ直すことの象徴でしょう。

 

 「人は女に生まれるのではない、女なるのだ」というボーヴォワールの有名な言葉があります。個人の意思とは無関係に、社会に出れば女性は否が応でも「女であること」を求められます(性差を意識すると言う意味では、男性も同じでしょうが)。ジュスティーヌが上級生から「セクシーな格好をしろ」と言われたり、教師から「君が優秀だから嫌いだ」みたいなこと言われてましたけど、あれなんかまさに「女性性」を強要される社会そのもののようでしたよね。髪=女の象徴を嘔吐するのは、それに対しての拒絶、あるいは違和感の表れでしょう(あの演出はちょっとJホラーぽい)。

 わたしは以前、教育機関で働いていて女子高生と関わっていたことがあったのですが、この年頃の女の子たちって自分が性的な対象になり得るということにあまりにも無自覚で、側から見ていると危うく思えることが多々あるんですよね…。体の変化に心が追いつかない。本作のジュスティーヌを見ていて、彼女たちを思い出しました。

 また、食人=「大人になること」の指南役として年長である姉から教えを受けるというのは、服を借りたり化粧の仕方を教わるのと同じ。最初に姉を食べるというところも、まず影響を受ける人という意味で正しいのかもしれません。

   

 

 愛という名の食人

 今作の食人は肉欲・性欲を含む「愛」のメタファーとしても扱われます。ジュスティーヌはルームメイトのアドリアンを目で追って鼻血が出てしまうほどに好きになるわけですが、初体験では肉欲優先なセックスをし、結果的には自分も相手も傷つけてしまう。未熟な彼女はまだ、恋に恋している段階でしかなかったのだと思います。

 また、姉妹は互いの考え方の違いから度々衝突し、終盤では壮絶なキャットファイトを繰り広げますが、互いを食い合うその姿はまるで獣のようです。しかし、これもまた社会性を教え込もうとする姉の妹への愛の表れ。そしてその直後、肉のために殺人を犯した姉に対し妹はそっと寄り添いシャワーを浴びせる…これはまさにアナ雪にも勝るとも劣らない(?)姉妹愛ですよ。二人が互いに食べられた傷を見せ合うシーンは、思わず胸が熱くなりましたね…あぁ、きょうだいっていいな…。

 

 あと本作は、『キャリー』や『ブラックスワン』と同じ系譜に位置する母娘映画でもあると思います。本作の母親も、これらと同様に抑圧し支配しようとするヒステリックな存在として描かれています。しかしラストシーンで、そんな母親の大きな愛に気づく…。

 このドメスティックな着地を是とするか非とするかで、本作の評価も変わると思います。要するにここまでずっと「食人」を食欲や性欲と同等の人の営みの一つとして描いてきていたのに、急に最後の最後になって遺伝や血の問題として扱うのはいかがなものか?と。けれど、わたしが評価したいのはむしろこの点だったんですね。

 

 親が何かを頑なに強要したり禁止したりする場合、何が一番の理由なのかと言うと、「自分のようになって欲しくない」というただ一点のみなんです。

 …えっと、かなり私的な話をしますと、わたしは母親から「勉強しろ、手に職を持て、結婚しても子どもが生まれても仕事は辞めるな」ってずっと言われていたんですよ。うちの母は自分が高卒なことや専業主婦であることにコンプレックスがあったみたいなんですよね。よく「あなたにはわたしみたいな思いをさせたくない」と言われてました…。おかげで大学にも行かせてもらって、一応いろいろ資格とかも取って、ある意味「手に職を」持てたと思います。でも、結果的に今わたしは母と同じ専業主婦をやっています。もちろん自分の選択を後悔してないです。でも…ふと母のことを思うと、あ、ごめんみたいな気持ちになるんですよね。あの頃は母のそう言う価値観の押し付けみたいなのがほんと嫌だったんだけど、今は感謝しています。なーんてことをね、この映画を観て思い出しました。

 

 けど、本作の場合、それを母親自身が語るのではなく、父親に文字通り体で伝えさせたところに、はっとさせられましたね。ジュスティーヌはきっとあのラストシーンで、「わたしは愛されていたんだ」と感じたことでしょう。ジュスティーヌはやっと、母の愛と苦悩を知り、家族の大きな愛に包まれていたことに気がつくのです。

 「道を見つけて欲しい」父親は体中の傷を見せながらジュスティーヌに伝えます。それは言うなれば独り立ち宣言。彼女は一人の女として、社会で生きていかなければなりません。その道を、どう選ぶのか。それこそが、大人への第一歩なのです。 

 

 

 …と、いうわけで、いろいろプライベートなところを刺激されたことが大きかったために★4.5の高評価とさせていただきました! 

 でもほんと、ラストカットには感動させられたし、好きなシーンも多かった。年頃の若い女の子にも観て欲しいなぁ〜。血はたくさん出るけど!

でもとりあえず、あんなクズ教師とバカ学生ばかりな獣医学部には入っちゃダメ!

 

 

 

作品情報
  • 監督  ジュリア・デュクルノー
  • 脚本  ジュリア・デュクルノー
  • 音楽  ジム・ウィリアムズ
  • 製作年  2016年
  • 製作国・地域  フランス,ベルギー
  • 原題  GRAVE/RAW
  • 出演  ギャランス・マリリエ、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウーフェラ、ジョアンナ・プレス、ローラン・リュカ
  • RAW〜少女のめざめ〜|2018年2月2日ロードショー