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ミミック【映画・ネタバレ感想】キリストに拒絶されたユダの哀しみを描いた、ギレルモ・デル・トロによる聖書モチーフのクリーチャーホラー★★★★(4.0)

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ミミック (字幕版)

あらすじ

 子どもだけに感染する致死率100%の奇病「ストリックラー病」が蔓延する近未来のニューヨーク。昆虫学者のスーザンは、病原体の媒介者であるゴキブリを駆除するため、ゴキブリの天敵として新種の昆虫「ユダの血統」を遺伝子操作で作り出し、街へ解き放つ。

3年後、病は沈静化に向かい「ユダ」の存在も人々から忘れられていた。しかし地下鉄で新種の昆虫が発見され、スーザンはそれが「ユダ」の生き残りではないかと調査に乗り出す。同じ頃、地下鉄や周辺で行方不明事件が頻発。その影にはいつも「ロングコートの男」がいた。しかしそれこそが、進化して擬態能力を身につけた「ユダ」だったのだ…。

 

 

『シェイプ・オブ・ウォーター』がアカデミー賞で13部門にノミネートされ、つい先日同作のプロモーションで来日して、映画好きたちを大いに沸かせたギレルモ・デル・トロ監督。かくなるわたしもデルトロフィーバーの真っ只中でありまして、ここ最近は連日デルトロ作品を見返しております。

 

 ちょっともうこの可愛すぎる笑顔をみてよ!餅食べ過ぎてボタンしめられないとかなにその悶絶エピソード。

natalie.mu

 

 

90年代に量産されたバイオテクノロジーホラー

 そんなわけで今回の『ミミック』ですが、こちらは長編デビュー作『クロノス』で注目されたデルトロが、ハリウッド進出して撮った1997年のアメリカ映画です。

 90年代後半のこの頃というのは思い返してみると「遺伝子工学ネタ」の映画が量産された時期でもありました。96年にはクローン羊ドリーが誕生したこともあって、発展目覚ましいバイオテクノロジーは映画界でも格好のネタだったのだろうと思います(現在ではこの「人類VSバイオモンスター」というテーマは形骸化し、その様式美のみを受け継いでいると感じます…まぁ、時代だったのでしょう)。

 93年の『ジュラシックパーク』の続編『ロストワールド』、セクシーエイリアンのエロテロリズム『スピーシーズ 種の起源』、「ドクター・モローの島」のリメイク『D.N.A』…等々、「遺伝子操作で作ったモンスターに人間がしっぺ返しを食らう」という、「”神の領域”に踏み込んだ人類へ警鐘を鳴らす作品」がやたらと流行っていたと記憶しております。本作『ミミック』もその流れに乗った映画であると言えます。

 

 

随所に光るデル・トロ節

 良くも悪くもモンスターパニックの定石を踏んだストーリー(モンスターに襲われる→巣に連れていかれる→卵がいっぱい!)に目新しさは感じられませんが、終盤の地下からの脱出は手に汗握る展開で、クリーチャーホラーの王道をしっかりと抑えた良作だと思います。

 また、人間を乗っ取るのではなく「擬態する」という発想が斬新で、まるで芸術品のような昆虫の造形も素晴らしい出来栄え。

実際初めてのハリウッドでの製作は色々と横槍が入って大変だったようですが(何せプロデューサーがあのワインスタイン!)、標本を意識した不気味なオープニングや地下の暗がりや雨の陰鬱さなど、暗くてじっとりとした絵作りにデルトロの趣味が色濃く出ていると感じました。

f:id:minmin70:20180131182837j:image『MIMIC』(1997)この、擬態から虫に変身する瞬間がめちゃくちゃカッチョいい!

 

 子宝に恵まれないスーザンと繁殖していく「ユダ」の対比、メキシコ移民と思しきマニーとその孫チューイが靴磨きで生計を立てているという設定(チューイに親がないことの背景を想像すると、二人の関係性に泣ける…)なども物語を重層的にしています。あと、悪ガキがあっけなく死ぬ!(笑)という容赦のなさと黒人警官の自己犠牲王道テンプレもあり、死の人選が良バランスでした。

 

 ただ初見は20年ほど前の地上波で、デルトロのデの字も知らない中坊のガキだったわたしが「虫がキモくて怖かった」以上の感想を抱くこともなく、その後『パンズ・ラビリンス』でデルトロを知ってから再鑑賞した時も、「うん、よくできたクリーチャーホラーだな!」 くらいの印象しかなく…。

し・か・し!

 今回改めて見返してみて、自分が本作について、まったくもってひどい思い違いをしていたことに気づき、この文章を書いているところです。 てかこれ、めちゃくちゃ宗教映画じゃね?(え、そんなのわかってる?)

 

 

キリストとユダの物語 

  本作のバイオモンスターである新種昆虫の名は「ユダの血統」(もちろんモチーフとなっているのが「イスカリオテのユダ」なのは言わずもがなですね)だし、そしてキーパーソンである自閉症児「チューイ」はヘスス=jesus(英語でいうジーザス、つまりイエス・キリスト。そういや『クロノス』の主人公もヘススでしたね)の愛称です。この二者の交流はそのまま聖書をなぞるようですし、しかも異種間交流はデルトロの専売特許でもあります。

 また、重要な場面では十字架が登場し、モンスターを倒す際に行われるのが聖痕(スティグマータ)モチーフという徹底ぶり。スーザンとその夫ピーターに寄り添うチューイをラストカットに据えた辺りに、キリストの生誕を見てしまったのはわたしが深読み太郎だからですかね〜。

  もしかしたらデルトロはハリウッドデビュー作で、モンスターパニックの文脈を使った新約聖書を作ろうとしたのかも?(その逆とも言えますが…)

 デルトロは本作の他にも、信仰の物語でもある『パンズ・ラビリンス』や、黙示録的題材を扱った『ブレイド2』『ヘルボーイ』など、宗教色の濃い映画を撮ってはいますが、本作ほど露骨にキリスト教を前面に押し出した映画もないのではないかと思います。

 

 あと、再見して特に強く感じたのは、「ユダ」の死に様の物悲しさでした。わたしには最後「ユダ」のオスがチューイを襲おうとしたのではなく、まるで救いを求めるかのように手を伸ばしていたように見えたのです。しかしそれをチューイは恐怖と言う形で拒絶したために絶望した「ユダ」は死を選んだのではないか…。自身の裏切りの罪を悔いて自殺したイスカリオテのユダのように…。

 社会的異形者だった二者の交流と断絶。本作の真髄はそこにあるとわたしは思いました。

 

 

仮面の下に秘密を隠し

 「ユダ」 の「擬態」 という能力についても深読みすると、人間のフリをして近づきその命を奪うという行為は反キリスト的な悪魔のイメージを彷彿とさせます。

 特にはっとさせられるのは、その顔面を覆うマスクです。

f:id:minmin70:20180201212346p:image『MIMIC』(1997)ゾクっとする人間マスク!

 これは本来の姿を隠す仮面の役割を果たしているわけですが、しかしよくよく考えれば大抵の人間も本当の自分隠して=仮面を被り、社会で生きている存在です。つまりこの「ユダ」はそのまま現代の人間を表しているとも言えるのかもしれません。

 仲間のフリをして知らぬ間に繁殖していく裏切り者たち。それはあなたのすぐそばにいる誰かかもしれない… 

 

 とまぁ、偉そうにいろいろ書きましたけど、所詮は深読み太郎の独りよがりな戯言ですからね、全部無視して下さって結構です。(虫だけに!)…あ、一つ不満点を言うと、スーザン役のミラ・ソルヴィーノがエロくて学者に見えなかったことかな…虫の体液を塗りたくるシーンはさすがにやり過ぎ(ここにもワインスタインの影が…?なんてね苦笑)。

 

 

新作『シェイプ・オブ・ウォーター』を観ました!こちらも『ミミック』同様、異種間交流譚でしたね。わたしの感想はこちら

 

わたしは『パシフィック・リム』にもキリスト教のモチーフを感じているのですが…あまりそっち方面からデルトロの作品を論じている人っていない気がする。

minmin70.hatenablog.com

 

本作のマニーと孫のチューイの関係性はこちらのヘススと孫のアウロラにも近いですね。

minmin70.hatenablog.com

 

つまらなくはない、つまらなくはないんだけど…。デルたんも「5000万ドルの予算を回収しようとしてホラーとして宣伝された」って恨み節を吐いてましたから、本意ではなかったところもあったのでしょう。

minmin70.hatenablog.com

 

 

 

作品情報
  • 監督   ギレルモ・デル・トロ
  • 原作   ドナルド・A・ウォルハイム『擬態』
  • 脚本   マシュー・ロビンス、ギレルモ・デル・トロ、ジョン・セイルズ、スティーヴン・ソダーバーグ、マシュー・グリーンバーグ
  • 音楽   マルコ・ベルトラミ
  • 製作年   1997年
  • 製作国・地域   アメリカ
  • 原題   MIMIC
  • 出演   ミラ・ソルヴィノ、ジェレミー・ノーサム、アレキサンダー・グッドウィン、ジャンカルロ・ジャンニーニ