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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ【映画・ネタバレ感想】ヒーローになる時、それは今。★★★★★(5.0)

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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ(字幕版)

あらすじ

 テロの頻発するローマ。エンツォはコソドロ稼業で糊口をしのぎながら、荒んだ生活を送っていた。ある時、偶然に放射性廃棄物を全身に浴びてしまったエンツォは、鋼の肉体と怪力を得る。現金強奪にその能力を使っていたエンツォだったが、思うところあって日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」を偏愛するアレッシアの危機を救う。彼女からそのアニメの主人公「司馬宙(シバヒロシ)」と同一視され、「世界を救って」と懇願されたエンツォは…。

 既存のスーパーヒーロー像へのアンチテーゼをかます、イタリア産ヒーローアクション!

 

 

 えぇと、最初に言っておきます。

 

これは、傑作ですよ!!!

 とりあえずね、こんなゴミみたいな文章は後回しにして、レンタル店へ今すぐ急いでください!!(観終わったら戻って来て!笑)

 

 今作はいわゆるスーパーヒーロー誕生譚です。2017年だけでも、『ワンダーウーマン』『パワーレンジャー』『スパイダーマンホームカミング』(えーと、すいません、どれも観てません…汗)と新たなスーパーヒーロー映画が作られましたが、本作はそれらのいわゆるアメコミ系のスーパーヒーローとは一線を画す、個性的なヒーロー映画となっております。

 まず、主人公がイケメンの若者だったり、金持ちだったり、崇高な心の持ち主だったりではなく、やさぐれたおっさんでしかもチンピラの下っ端って言うのが斬新。本作の主人公エンツォは、何者でもないどころか、マイナスの人生を送っているような人間なのです。こんな人間にスーパーパワーだなんで、どう見ても宝の持ち腐れ豚に真珠。

f:id:minmin70:20180103203632p:image主人公エンツォは、大した価値のない時計を盗んで逃げるようなシケた野郎なのであります。予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 また、ヒロインとなるアレッシアは頭の弱いヤバい女だし(その理由は劇中でわかりますが) 、悪役となるジンガロに至ってはヴィランだなどと言うのは憚れる、ただの小物のチンピラです。 

幼い頃にテレビの歌番組に出た事だけが唯一の誇りという自己顕示欲の塊(でもなぜか憎めない…)

 

 エンツォはおっさんなのでアクションも鈍重だし、派手な爆発もカッコいいガジェットもありません。要するに、ヒーロー映画に求められるような「華」はないに等しいのです。それなのに、否、それだからこそ、この映画は面白い。普通以下のド底辺の男のヒーロー譚。それまで自分のためだけに生きてきた男が、人並みの愛情に触れて正義に目覚める。いやいや、このプロットの時点でもう熱いでしょ。

 本作は、正義が何に宿るのかをわたしたちに思い起こさせてくれる、「胸熱」な映画なのです!超おすすめです。是非!

 

 

 

 

以下ネタバレ。

 

 

 

 

 

おっさんヒーロー爆誕!

 今日も今日とてコソドロエンツォ、ガラクタみたいな時計を盗んで逃げ惑い、窮地に陥り川へドボン。しかしそこには不法投棄された放射性廃棄物が。それを全身に被ってしまったエンツォ。黒い反吐を吐き続け、震えながら夜を明かしてなんとか回復。(ここまでがプロローグ)

 時計を換金してくれたセルジョに誘われ、ヤクの取引現場に同行したエンツォだったが、なんとそこで銃撃戦が勃発!セルジョは撃たれ、銃撃を受けたエンツォもビルから転落してしまう…。

 しかし、何故だかほとんど無傷で意識を取り戻したエンツォ。撃たれた傷も速攻で治り、しかも怪力にまでなっていた!

f:id:minmin70:20180103214432p:imageオイルヒーターも一瞬でぺしゃんこだ! 予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 

 特殊能力が「何者かから選ばれる」というような取得方法ではなく、偶然に自ら足を突っ込んだどす黒い放射性廃棄物というのも、このご時世には現実的です。そして、そんなスーパーパワーを得てまずやることがATMの強奪というのも実に短絡的で、「こういう奴ならまぁ、そうするよね!」と納得できちゃう(紙幣が盗難防止用のインクで汚れるという描写もまた…)。しかもその金で好物のヨーグルトとAVを大量に買い込むという頭の悪さに、彼がどういった境遇に生きているのかがよくわかります(後々、若い頃からヤク中の仲間とつるみ底辺の生活をしていたことが語られます)。

 ボンクラや一般人がヒーローを演じる映画といえば、最近だと『キック・アス』や『スーパー』などの自警活動を思い浮かべますが、超人パワーがあくまでも個人的な理由に使われるというところにも好感が持てます。

 あと、傷つけられれば血は出るし(治癒が早いだけ)、切断された場合は普通の肉体同様に壊死するという、得られたパワーが万能ではなかったところも身の丈感があって良かったですね。

 

 そんなエンツォが怪力でATMを強奪する映像は瞬く間に拡散、「スーパークリミナル」として一躍有名に。

 街中にグラフィックアートが描かれるくらい、貧困層から熱烈な支持を集めるのでした。やっていることはただの強盗でも、「自分にはできないこと」をやってのけるダークヒーローはいつの時代も庶民の憧れの的なのです。

 それにしても、今作を観ているとイタリアがひどく治安の悪い国に思えるのだけど…どうなの?(場所によるのかな?)。 

 

 

ヒロイン、アレッシアの悲劇

 ほどなくして、ヤクの売買に失敗したことを知ったチンピラのボス、ジンガロがセルジョを探しに現れます。エンツォは現場から逃げ出した罪悪感となけなしの正義感からセルジョの娘アレッシアをジンガロたちから救い出します。

f:id:minmin70:20180104004601p:imageぱっと見キレイ目なアレッシア。しかし、「鋼鉄ジーグ」の妄想に生きる、かなりアレな女なのでした…予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 身寄りのないアレッシアと仕方なくひと時共同生活をするも、元々女っ気のないエンツォは、無防備なアレッシアの態度に距離感が掴めずやきもき。一緒にアレッシアの大好きな「鋼鉄ジーグ」をホームシアターで鑑賞したり…

f:id:minmin70:20180104011533j:image二人でジーグのDVD見てる時のドギマギ感!いい歳したおっさんが(笑)!予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 人気のない遊園地でデートをしたりして、仲を深めていくアレッシアとエンツォ。

f:id:minmin70:20180104132513p:image怪力で観覧車を回してあげるシーンは、なんとも物悲しくて美しい、とても良いシーンだと思います。儚げなアレッシアの表情も素敵です。予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 心を通わせた二人はドレスを買いに行った試着室で結ばれるも…

f:id:minmin70:20180104141442p:imageあんたといると胸がビンバンブン♪予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 エンツォの自分本意なセックスに、アレッシアは深く傷ついてしまうのでした。

 なぜなら、彼女がジーグに傾倒し妄想に生きるようになってしまったのは実の父セルジョから性的虐待を受け心が壊れてしまったから(あるいは金のために娘に売春まがいのことをさせていたのかもしれません)。彼女が性的なものに対して敏感だったのはそのせいだったとわかります。それを直接に描かず、父親の遺体のタトゥーと父親をジーグの敵である「アマソ幹部」と呼ばせることだけで、なんとなく匂わせる描き方もうまかったですね。

 エンツォは愛し方を知らない自分を反省し、アレッシアのために力を使おうと決意。互いに社会の底辺を経験した二人は、共に生きようとするのです。初めて愛し愛される喜びを知ったエンツォでしたが、そこへ、再びジンガロが現れます!

 

 

悪役ジンガロの不思議な魅力

 本作の悪役であるジンガロは、キレやすく小物のくせに自意識だけは一人前、手下からも呆れられ所属している組織の女ボスからも侮られているような、普通の映画なら開始10分で瞬殺されてもおかしくない小悪党です。

 ジンガロは自分の現金強奪計画を「スーパークリミナル」(=エンツォ)に邪魔され、しかも世間がまるでヒーローのように彼を崇めているのが我慢ならない。なぜなら彼自身が一番賞賛を得たがっている人間だからです。彼がスーパーパワーを欲したのは、私利私欲のためというよりも、承認欲求のためだったのではないでしょうか。

 自分の能力を過大評価し、「自分はこの程度では終わらない」などとうそぶいている人、あなたの周りにもいませんか?(あるいは誰の中にもジンガロ的なものはいるかもしれない)彼は決して特別な悪ではなく、どこにでも存在する「身近な」悪なのです。 

 そんな小悪党がスーパーパワーを手にしたら…それは自己顕示のための無益な破壊衝動へと向けられるのは当然のことように思えます。自分を無視した社会への報復、他者を跪かせたいという欲求…まるで思想などとは無縁の現代のテロリストのような思考回路。彼は絶対悪ではないのです。

f:id:minmin70:20180104213026p:imageもしかしたら、この映画で一番悲しい人物かもしれません。予告編映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTubeより

 そんなジンガロ、本来ならば忌み嫌われるべき所なのですが不思議なことに、なぜか憎めないキャラクターであります。

 まず、全力過ぎるカラオケが最高(笑)。カラオケ動画があったんで貼っときますね。

 あとは演じている俳優さんの魅力もあるのでしょうが、ちょっとオネェな佇まいがわたしにはなんともたまらんちんでした。(女装のゲイ?と一発やる描写もありましたしね)

 

 

愛を失って、ヒーローは目覚める

 ジンガロと女ボスの銃撃に巻き込まれ、アレッシアは命を落としてしまいます。初めての愛を失い、エンツォは失意のどん底に。

 そんな彼の耳に、助けを求める人の声が。炎上する車、「娘が中に!」と泣き叫ぶ母親…。エンツォの脳裏にアレッシアの言葉が蘇ります。

「人類を救うの」

 今際の際にもアレッシアは「人のために、力を使って。世界を救って…」と言っていました。

 エンツォは、はじめて自分のためではなく他人のためにパワーを使って、車から女の子を助け出します。

f:id:minmin70:20180104144824p:image予告編より映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』本予告 - YouTube

 それは、正義のスーパーヒーローが誕生した瞬間でした。

 

 その直後、ニュース映像から、ジンガロが満員のサッカースタジアムを爆破しようとしていると気づいたエンツォは、バイクにまたがり現場へ向かいます。その際、名を聞かれて彼はこう答えるのです。

「司馬 宙(シバ ヒロシ)だ」

 

胸熱!!!

 

 一人の女の愛が、そしてその喪失が、男を変える。ヒーロー譚の通過儀礼としてはありがちかもしれませんが、この展開を胸熱と言わずしてなんと言おう!わたしはこの一連のシーンからずっと、滂沱の涙と多量の鼻水で脱水症状を起こすところでしたよ!

 また印象的だったのは、アレッシアとの不本意なセックスの際に風船が天井につかえる→ヒーローとして目覚めた後には風船が空へ飛んでいくという演出がなされ、視覚的にも行き場を求めていた彼の能力が(あるいは愛が)解放されたと感じられて爽快でした。

 

 

そして真のヒーローへ

 エンツォは爆弾をめぐり、ジンガロと対決。ここのアクションはパワーとパワーのぶつかり合いということで、派手な爆破やCGではなく、殴り合いに毛が生えた程度だったのもよかった。若いジンガロに比べ身のこなしの重たいエンツォ。高いところから落ちる時はスーパーヒーロー着地はできないので、ただ落下するだけっていうのも妙にリアルで面白かったですね(笑)。

 市井の人々のために、ただ愚直に奔走するエンツォ。爆弾を抱えジンガロと川へ飛び込み、自爆するのでした…。

 爆破を阻止したエンツォをヒーローと呼ぶ者、ただのチンピラだと罵る者、様々ですが誰もがエンツォの死を確信しています。しかし実は、彼は生きていました。

 コロッセオの上からローマの街を見下ろし、助けを呼ぶ声を聞いて夜の街へ飛び込んでいくエンツォ。その顔には、アレッシアが手作りした「鋼鉄ジーグ」モチーフの覆面が。こうして、新たに誕生したこのヒーローを、皆はこう呼ぶことになるのです…

 鋼鉄ジーグと!!

 愛する人を思う心にこそ、正義は宿る。それがヒーローなのです!わたしも、そしてあなたも。さぁ立ち上がれ、一人一人がジーグなのだぁ!

 

 

 

作品情報
  • 監督 ガブリエーレ・マイネッティ
  • 製作総指揮 ヤコポ・サラチェーニ
  • 脚本 ニコラ・グアリャノーネメノッティ
  • 音楽 ミケーレ・ブラガ、ガブリエーレ・マイネッティ
  • 製作年 2015年
  • 製作国・地域 イタリア
  • 原題 LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT/THEY CALL ME JEEG ROBOT/LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT 皆はこう呼んだ「鋼鉄ジーグ」
  • 出演 クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ、ステファノ・アンブロジ、マウリツィオ・テゼイ
  • 映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』公式サイト