あらすじ
不思議な超能力を持つ息子のアルトンを、ある場所へと連れて行くため車を走らせる父親のロイ。謎の宗教組織や政府から追われながらも、親友や元妻の助力でなんとかその場所へたどり着こうとするが…。
- あらすじ
- タイトルの「ミッドナイト・スペシャル」の意味は?
- 子離れ系良作SFです
- 逃亡劇としてはイマイチ…。でも互いを思う親子に感情を持って行かれる!
- 「もう僕の心配しないで」「心配したいんだ、父親だから」
- ロイは最後に何を見たのか?
マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、アダム・ドライバーにキルスティン・ダンスト…となかなかに豪華なキャストなのにも関わらずビデオスルーという憂れ気目にあった本作。確かに大作ではないかもしれないけど、
めっちゃ面白いじゃん!
監督は『テイク・シェルター』『MUD』のジェフ・ニコルズ。スルーするにはもったいない良作でした!
タイトルの「ミッドナイト・スペシャル」の意味は?
「ミッドナイト・スペシャル」って聞いて思い出すのは、映画版『トワイライトゾーン』なのですが。
(わたしは3話目の「こどもの世界」が好きです)
こちらのオープニングとエンディングでクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの歌う「ミッドナイト・スペシャル」がカーラジオから流れてくるんですけど、おそらく本作のタイトルはこの曲をモチーフにとってると思います。
Creedence Clearwater Revival- Midnight Special
歌詞は、刑務所に収容された黒人の囚人(白人に刃向かうとすぐに刑務所行きにされたような時代だった)が、それを見たら出所できるという噂の深夜特急(ミッドナイトスペシャル)の灯りに対して「俺を照らしてくれ」って言ってる…という内容。もともとはアメリカ民謡だった原曲に黒人のミュージシャン、レッドベリーが歌詞をつけたものらしいです。
この歌にある「ミッドナイトスペシャル(の灯り)」=「希望」みたいな意味だと思うので、本作のアルトンくんが発揮する超能力とも通じるものがあるのかなと思います。(夜に行動するとか、スペシャル=特別な存在とかの意味ももちろんあるでしょうが)
エンドロールではこの曲にオマージュを捧げたと思しきテーマソングが流れるんですが、なかなか良い歌ですよ。
"Midnight Special" Ending Song (HD Audio Blu Ray Source) By Lucero & Ben Nichols
子離れ系良作SFです
説明が少なすぎて「なんで?」って思った所も多々あるし、登場人物たちの考えがイマイチわからなかったりもするんだけど、観る側に想像を委ねる辺りも含めて、この映画の魅力でもあるのかなと思います。
画的には基本的に静かな映画なのですが、アルトンくんが覚醒した際のVFXや割としっかりしたカースタントがあったり、終盤のあっと驚くSF的しかけは感動的で、見所も多いと思います。
壊れた人工衛星が降ってくるこのシーンもなかなかの迫力。
予告編ブルーレイ&DVD『ミッドナイト・スペシャル』トレーラー 3月8日リリース - YouTubeより
あとキャスティングも良かった。
ジェフ・ニコルズ監督の前々作、『テイク・シェルター』 では静かな狂気漂う父親を演じたマイケル・シャノンが、今回も適度に狂気じみた父親を演じてるんだけど、アルトンくんを見る目に愛情と悲しみが宿っていて、改めていい役者だなーと思いました。ラストシーンの表情にはやられた。
あと、キルスティン・ダンストの幸薄母感!やつれた感じがよかったねー。一瞬誰かわからなかった。いやー、いい顔してた。
内容としては「子離れ親離れ」系統の話でもあるので、子を持つ親としては号泣とはいかないまでも、はらりと泣ける程度にはぐっときました。本作を観終わった後、思わず子どもらの寝顔を見に行っちゃったよね。
ニコルズ監督のちょっと独特な「父性観」に溢れていて、『テイク・シェルター』とも通じるものがあるように思える(本作の方が俄然大衆的ではある)ので、あちらが好きだった人にもおすすめですよー。
以下ネタバレー。
逃亡劇としてはイマイチ…。でも互いを思う親子に感情を持って行かれる!
本作は、いきなり誘拐事件を報道するニュースが流れる中、モーテルで何やら準備している二人の男の様子からはじまります。窓はなぜか厳重に目隠しがなされ、男たちはナイフや銃を携帯し、ただならぬ雰囲気…。そのうちの一人がシーツにくるまった少年に近づき声をかけると、その少年はなぜかヘッドフォンとゴーグルという出で立ち!
この初出時のアルトンくんのビジュアルで、もうわたしの中の「なんかわからんが面白そうメーター」が一気に振れましたね。突っ込みどころ満載でいきなり物語に放り込まれる感じも楽しい。
実は誘拐犯として追われていたのは父親のロイで、息子のアルトンを宗教施設から救出した直後だったとわかります。そしてアルトンをどこかへ連れて行こうとしているらしい…。
アルトンくんの超能力は何かというと、目から謎の光線が出て、それを受けた人間は「言葉では言い表せない素晴らしい何かを見る」ことができると言うものなんですね(普段は力を制御するために昼間は寝てて夜外出するときはゴーグルをかけている)。
二人の逃亡を助けるロイの親友ルーカスも、アルトンの能力に触れ、彼を守ると決めた様子。ルーカス役はジョエル・エドガートン。カタギに見えない…と思ってたら元保安官だと中盤に判明。
そんなアルトンの能力に目をつけたのが「牧場」と呼ばれる宗教組織。おそらくアルトンの力を使って信者を増やしていたのでしょう。宗教組織の教祖はアルトンを連れ戻すため、武装させた信者を向かわせる。
そしてアルトンにはもう一つ、電波を感知する能力もあった。ラジオの音声のほか、暗号化された政府の通信までも傍受してしまっており、そのせいで国の情報機関からも追われるはめに。宗教組織と政府、それぞれに追われながらアルトン少年はどこへ向かうのか?
…というのが一応のストーリーなのですが、いかんせん宗教組織の追っ手がもっさいおじさんなのと、情報機関側がもっさいアダム・ドライバーなので、逃亡劇としてのスリリングさは致命的なほどに、全くない(笑)!
けど不思議なことに、だからと言って物語が致命的と言うことは全くなくて、アルトンくんが何者なのか、一体どこへ向かうのか?という部分で引っ張られていくのと、ロイとアルトンくん父子のお互いを思い合う気持ちが伝わってきてね…。「なんかよくわかんないけど、二人とも頑張って!」ってなるのよね。
「もう僕の心配しないで」「心配したいんだ、父親だから」
わたしが特にぐっときたのが、このセリフ。
アルトンが高次元の世界から来た存在で、彼が目指している座標がその世界への入り口だとわかるんですね。で、朝日を浴びたことで能力が完全に開花したアルトンは、政府側に囚われても力をうまく使って脱出できるほど無敵な存在となった。
そして、あと少しで別世界の入り口へたどり着けそう…となった時のこのやりとりです。
僕は強いから守ろうとしなくても大丈夫だよ、という意味であると同時に、もうすぐ違う世界に僕は行くから「もう心配しなくていいよ」という意味でもあるんですね…。
これってさ、子どもがある程度大きくなって、親の助けなんて要らなくなる日が来た時と同じだと思うんですよ。でも、それでも、やっぱり親は「心配したい」んです。どんなに大きくなっても、どこへ行っても、親にとってはいつまでも子は子。たとえ離れていても、煩わしく思われても。
きっとわたしが自分の子どもに対して思うように、わたしの親もわたしに対してそう思っているんじゃないか…なんて改めて気づかされて、ここはたまらなく好きなシーンでしたね。
そしてこのシーンで、うしろから親子を見守るジョエル・エドガートンがまた良いんだなー。羨ましそうでさ!(笑)
ロイは最後に何を見たのか?
そしてついに、アルトンは高次元の世界にたどり着きます。すると普通の人の目にも見える形で、こちらの世界とあちらの世界がつながり、近未来の建物が目の前に現れます。
アルトンから離れ、軍の注意を引きつけていたロイとルーカスもその世界を目にします。それが意味するのはもちろん、アルトンとの永遠の別れ。アルトンは仲間らに囲まれて、あちらの世界へと旅立っていった…。
こうして無事アルトンを送り届けたロイたちでしたが、超自然的な現象を受け入れない現実では、誘拐犯であり国家機密漏洩をした犯罪者の扱い(なのでしょう、多分)。ロイは刑務所(もしくは精神病的なアレか?)に収容され、穏やかな顔で外を見つめていた。
と、最後の最後にタイトルの元ネタである「ミッドナイトスペシャル」の歌詞につなげるニクい演出。おそらく、ロイの目には別世界で暮らす息子、アルトンの姿が見えていたことでしょう。それがロイにとっての希望=「ミッドナイトスペシャル」だから…。
というわけで、親としていろいろと思うところのある映画でした!
いや、「普通の人間のとこに生まれたのに違う世界の住人って何よ」とかさ、「結局、宗教組織はなんだったんだ」とかさ、いろいろ突っ込みたい部分もいっぱいあるんです。でも、親子のドラマとして十分面白かったです。アルトンくんも健気で可愛かったしさ!
我が子が親離れした時に観たらまた違った思いがよぎりそうだなぁ。…なんて身構えてたらいつまでも独り立ちしなかったりして。
それはそれで困る!
結構好きなジェフ・ニコルズ監督作。これもなんとなく「トワイライトゾーン」ぽさがあるよーな。
こちらも評判が良い。主演はマシューマコノヒー。未見だからチェックしなきゃ!観たい映画が増える一方だー。
*追記:『MUD』観ました。やだーもう子役の二人が超かわいいの!!てか、タイ・シェリダンくんだったのね~。これも「子どもから大人になる」映画でした。そしてマイケル・シャノン、またしてもいい味だった(笑)。
作品情報
- 監督 ジェフ・ニコルズ
- 製作総指揮 グレン・バスナー、ハンス・グラファンダー、クリストス・V・コンスタンタコプーロス
- 脚本 ジェフ・ニコルズ
- 音楽 デヴィッド・ウィンゴ
- 製作年 2016年
- 製作国・地域 アメリカ、ギリシャ
- 原題 MIDNIGHT SPECIAL
- 出演 マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、キルステン・ダンスト、アダム・ドライヴァー、ジェイデン・リーバハー