あらすじ
アイスランドの山間の村で牧羊をして生活しているキディーとグミーの老兄弟。二人は隣り合って暮らしているが、40年もの間口を聞いていないほどの不仲である。ある日、キディーの羊が伝染病に侵されていることが発覚し、村の羊全てを殺処分しなければならなくなり…。
動物の中で一番何が好きかと聞かれたら、わたしは断然、羊です。もふもふして暖かそうだし、それからね、毛を刈られた後の心許なさが非常に愛らしいんですよ!
Google先生で「羊 毛刈り」で画像検索すれば幸せになれると思うよ。
そんな「ひつじ」の「村」の兄弟の話なのだからきっと、のどかでほのぼのとした映画だろうと思って観てみたら…全然のどかじゃなかった!!
描かれていたのは地方の畜産業を襲う悲劇であり、それに抗おうとする人の狂気ともとれる選択でした。
そして、映画のもう一つの主役は、アイスランドの荘厳な大自然。人間の営みなど興味ないとでも言うかのような容赦のなさで、羊と老兄弟に立ちふさがります。けれどもその容赦ない自然があってこそ、過酷だけれども美しい、胸を打つラストシーンへと繋がっていくのだろうと思います。
…さて、羊たちの運命やいかに?
以下ネタバレ!
「羊=生活」の村を襲う悲劇
さて、映画の主役であるおじいちゃん兄弟ですが、めちゃくちゃ仲悪いです。会話はシープドッグに手紙を咥えさせて伝言をやりとりする…って伝書鳩か(笑)!このおじいちゃん二人(特に兄の方)のツン具合に萌えること必至。
終始キュンとしちゃったわたしはおかしいですか(笑)。
そんな二人は、ともに代々の土地で牧羊を営んでいるのですが、その羊の質を競い合っています。けれどいつも勝つのは兄の方。
兄のキディーは口も悪く、酒好きで粗暴なところがあるのですが、牧羊に関してはみんなから一目置かれています。一方の弟のグミーは人当たりは良いのですが、品評会では万年2位止まり。
グミーは品評会で1位となった兄キディーの羊をこっそり見に行き、そこである異変に気付きます。キディーの羊に致命的な伝染病の兆候を見つけてしまったのです。
まさか、と思いながらも念のため保健所に通報するグミー。キディーは弟のその行動は自分への嫌がらせだろうと思って取り合わない。
けれど検査の結果、残念ながらキディーの羊は伝染病に侵されていると判明。それはつまり、村の全ての羊が殺処分されることを意味していたのです…。
ここで重要になるのは、この村では牧羊以外の産業がない、ということ。つまり殺処分=廃業=仕事がない、ってことなんです。
酪農家にしてみれば、殺処分というのは、手塩にかけた家畜を殺すと言う苦しみと仕事を失うという二重の苦しみを味合わなければならない。結果的に、今回の殺処分を機に村での生活を捨て、町へ出て行く人も現れ、「ひつじ村」は存続の危機に瀕してしまうのです。
そしてもう一つ、この村で飼われていた羊は「アイスランディックシープ」というアイスランドで古くから伝統的に飼われている品種の羊であるということ。
この羊は世界でも最も古い純粋な羊の品種で、羊毛愛好家の間では特に知られている羊なんだとか。ある意味アイスランドの酪農家にとっては、誇りのような存在の羊。つまり、ただの羊ではだめで、この羊でなくては意味がないわけです。だからこそキディーは頑なに殺処分に反対するんですね。
グミーの行動は愛か?狂気か?兄弟の和解は吹雪と共に…
さて、兄キディーが強硬な手段で殺処分を拒む一方、弟グミーは保健所の指導に従って殺処分を実行していきます。けれど、実は地下室に数匹の羊を殺さずにかくまい、秘密裏に育てていたのです。
それを知ったキディーは…
男をみせるぜ!
地下室の羊に気づいた保健所の役人を殴り倒し、羊を放牧させるため、いがみ合っていた弟と協力することにするのです。
これ、普通に考えたら大変なことですよね。
鳥インフルエンザに罹っているかもしれない鶏を放し飼いにするのと意味合いとしては同じなんじゃないかと思うんですよ。その行動がどんな結果をもたらす可能性があるか、考えればわかることなんです。それでも、彼らはこの選択をした。
これを羊への愛情故と見るか、じいさんの狂った行動と見るか…。
しかし激しい吹雪に襲われ、羊を見失ってしまった二人。しかも猛吹雪のせいで、このままでは命の危険さえある。
積雪に穴を掘ったグミーは、その中で互いの服を脱ぎ、抱き合う。「大丈夫、大丈夫」と唱えながら雪の中で体を温め合う兄弟が今作のラストカットです。
文字通り、裸の付き合いで和解を果たした老兄弟。この後、彼らと羊にどんな運命が待ち受けるかはわかりません。
でも、それでも、容赦ない自然の中で、人は無力に生きていかなければならないのです。
おじいちゃん好きは必見ですぞ。
最後にはやはり、おじいちゃん萌え要素について語っておかねばなるまい(笑)。前述のツン具合やラストの抱き合いはもちろんのこと。
グミーが、酒に酔って外で寝て凍死寸前のキディーを、小さいショベルカー(?)で掬いあげて病院に捨て置いたり、お風呂に乱雑にぶち込んだりするところとかも面白かったなー。
「やれやれ、兄貴には世話が焼けるぜ…」と言った顔しながらも程よい距離感で面倒を見てあげるグミーがなんとも良い。
あと、バイク2ケツね。…かわいい。
ちなみに、グミー役の方のお名前が「シグルヅル・シグルヨンソン」さんていうらしいんですけど…なにその早口言葉みたいなの!…かわいい。
最近のアイスランド映画ではこちらも愉快な映画でした。こちらは馬が主役。無骨な大地を駆け行く馬の美しさはなんたるや。
作品情報
- 監督 グリームル・ハゥコーナルソン
- 脚本 グリームル・ハゥコーナルソン
- 音楽 アトリ・オーヴァーソン
- 製作年 2015年
- 製作国 アイスランド、デンマーク
- 原題 HRUTAR/RAMS
- 出演 シグルヅル・シグルヨンソン、テオドール・ユーリウソン、シャーロッテ・ボーヴィング