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雑食つまみ食い系映画感想ブログ

ロブスター ーーAnimal or Die?恋愛結婚なんて所詮は幻想。★★★☆(3.5)

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あらすじ

妻と離婚したデヴィッドは、独身者専用ホテルに連れていかれる。法律で独身は罪とされ、ホテルで45日以内にパートナーを見つけなければ、独り身は皆、動物に変えられてしまうのだ。すでに犬にされてしまった兄を連れ、ホテルでパートナー探しをするデヴィッドだったが…。

 

   

「独身者は動物にされる」という奇抜なアイデアが出色のギリシャ出身監督、ヨルゴス・ランティモスの作品。サイコな親に奇妙なルールのもと監禁生活を強いられる子どもたちの話『籠の中の乙女』でカンヌの「ある視点」部門でグランプリを受賞し、一躍話題になりました。 

 

主演はコリン・ファレル。他にレイチェル・ワイズやベン・ウィショー、レア・セドゥなど、オールスター級のキャスティング。

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コリン・ファレルの冴えないおっさん感が素敵。主人公デヴィッドは妻が不倫して捨てられたので独り身になってしまうという。不憫。

 

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わたし、レア・セドゥの顔が好きです。独身貴族団(勝手に命名)のリーダー。

 

独身者は罪、ってことは考えようによっちゃ既婚者にとっても地獄みたいな世界ですよね。「あーこいつと結婚して失敗した!」と思ってもそうやすやすと離婚できないわけですから。どんなに嫌でも一緒にいないといけない…って多かれ少なかれ、現実でもそうか(笑)。

   

ちなみに、タイトルの「ロブスター」はデヴィッドが独り身のままだったらなりたい動物です。「100年以上生きるし、生殖能力も衰えないから」らしいんですが…。このチョイスの「あ、コイツダメかも」感が半端ない。

以前ラジオで町山さんが「ロブスターになりたいっていうのはエリオットの詩から来ているんじゃないか」と言っていましてね。

I should have been a pair of ragged claws
Scuttling across the floors of silent seas.

(「J・アルフレッド・プルーフロックの恋詩」の一部抜粋。「女の子と仲良くなりたいけど、年もとったし腹も出てきて髪の毛も薄くなってきた…カニかなんかの爪にでもなって静かな海の底をうろついていた方がよかったね」(太字引用部意訳)みたいな詩らしいです) 

ふーん、で?っ感じ…。

そうそう、「みんな犬になりたがるから巷では犬が増えすぎて困る」みたいなセリフがあるんですけど、これの後に『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ) [DVD]』を観たら…なんかいろいろ考えさせられましたね。

 

わたしなら何だろな、やっぱ羊かな。冬、暖かそうだし。

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

 

独身者ホテルの厳しい規則

45日以内にパートナーを見つけなければならない、と言う独身者ホテル。まず性的指向を聞かれます。同性愛は問題有りませんがバイセクシャルは運営上問題があるからダメです!なんでやねんと、と思わず笑ってしまった。

 

さて、そんな独身者ホテルでは狂気の掟が多々あります。

まず、マスターベーションは禁止です。一人でしているのがバレたら痛ーいオシオキが待っています。ですが毎朝女性従業員から勃起はさせられます。超イヤ(ゲンナリ)。女性の場合は何されるんですかね?逆に男の従業員のをこすってやんなきゃいけないのかな?まじで超イヤ(ゲンナリ)。

それから、日に一度、狩りの時間があります。狩るのは動物ではありません。森に逃げ込んだ独身貴族たちです。一人撃つごとに期限が1日伸びます。100日伸びてるツワモノ女子は「血も涙もない」と陰口を叩かれます。

もし晴れてパートナーが見つかっても安心できません。二人の愛が本物か確かめるため、ある一定の期間二人だけで過ごさせます。ホテル同室、その後ヨット(!)へ移動するという二段構え。「二人で解決できない問題が生じたら子どもを送ります」と言うのがこわいです。

 

しかし、一番の問題はホテルに集まった独身者たちがことごとく難ありで、要するに、誰からも選ばれずにあぶれた残り者、という扱いなところね(笑)。みんな著しくコミュニケーション能力が低く、誰もがまともな相手とは結ばれそうにないんです。

鼻血のでやすい女、ビスケットばっか食べてる女、冷酷非道な女…滑舌の悪い男、足をひきづる男。そして従業員含め、みんなほとんど笑わないし。何を楽しみに生きてるんだこいつら?と思わずにいられない。

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毎朝デヴィッドの下のお世話する女性従業員。実は歯科医の夫と別れたがっているのです。

 

  

妥協と偽りのパートナー選び

さて、そんな難ありパートナー候補から誰かしらとでも結ばれなければ動物にされてしまうのです。期限は迫るばかり。

そこで、仕方なしに自分を偽ってそれなりの相手を選ぶことにします。ここで重要なのは、自分と同じ特徴を持つ者同士がパートナーとしてふさわしい、とみんな思い込んでいるということ。鼻血のでやすい女は鼻血のでやすい男とくっつかなければならない。

いやいや、選択肢狭すぎでしょ!と思うんだけど、これって恋愛段階で誰でもやってることを極端にデフォルメしているだけなんだよね。共通点が見つかって好きになる、というのはよくあることだし、相手に合わせて自分を偽ったり妥協したりなんて、むしろしたことのない人の方が稀でしょうし。

まぁ、そんなわけでデヴィッドも冷酷非道な女とならなんとかやれそうかも、と思い、いきなり冷たい人間にシフトチェンジ。けれども犬(元は兄)を蹴り殺されて、さすがに耐えきれなくなったので、女を麻酔銃で眠らせ動物変換室へ連れて行き、ホテルを脱走、森に逃げ込むのでした。…というのが前半。

ここまでは本当に世界観も作り込まれていてよくできているなぁ、と思ったし、なによりゴシック調でリゾートチックなホテルが素敵だった。わたしとしては、よかったのはここまで。森は、所詮森なのでちょっと飽きる。話もちょっと押し付けがましくて、あんまし乗れなかったかな〜。

 

 

森は楽園?いや、やっぱり地獄だった。

森の中には独身を謳歌したい者たちが大勢潜んでいる。勝手に独身貴族団と命名いたします。彼らは結婚反対!な人たちなわけでして、時々ホテルのパートナー同士の部屋を襲撃しては仲違いさせるという嫌がらせ(?)を行うレジスタンスでもあります。

しかし、この森での生活にも狂気の掟がありました。

パートナーを作ることは絶対禁止。

ダンスもイヤフォンで音楽を聞いて一人で踊ること。

もしイチャついてキスなんてしやがったら「血の接吻」の刑を受けさせられる。よもやセックスなどした日には、聞くもおぞましい「血の性交」の刑が待ち受ける…!

何このオールオアナッシング感(笑)。

 

そんな森の中で、デヴィッドはあろうことか恋に落ちてしまう。相手は「近眼」という共通点を持つ女。二人は互いだけにわかるサインを作ったりして愛を育んでいたが、独身貴族団のリーダーに関係がバレ、女は失明させられてしまう。デヴィッドはリーダーを倒し、失明した女と街へ逃げることにする。

だが、二人の「近眼」という共通点は失われてしまった。デヴィッドがすべきことは、ただ一つ…そう、彼もまた失明しなければならない。

 

 

あなたなら、どちらを選ぶ?

ラスト、鏡の前で目にナイフをあてがい躊躇するデヴィッドの後に、レストランで座ったまま彼を待つ女の姿が長いこと映って終わります。そこへなぜか聞こえてくるのは静かなさざ波の音…。

女への愛の証に失明を選ぶ、と言うのはその行為だけ見ると谷崎潤一郎の「春琴抄」ですが、佐助が醜い春琴を見たくないから目を潰したのに対し、デヴィッドは彼女と同じになりたいから目を潰すわけです。これ、かなり狂気ですよね。

…でも、「動物になるなら寿命の長いロブスターがいい」なんて根暗なことを言っていたデヴィッドが、最後本当に目を潰したのだろうか?

しばらく時間がたってから考えてみると、わたし、彼は土壇場で「逃げ出した」んじゃないか、って思うんですよね。

これがね、男女逆だったら間違いなく女が目をぶっ刺して微笑んでめでたしめでたしで終わったろうと思うんですよ。でもあえてそこを映さなかった、っていうのが答えなんじゃないかなぁ。女はひたすら男を待つ、裏切られたことも知らずに…って、その方が映画的な気がします。 それに波音が聞こえてくるのも「ロブスター」というタイトルから考えると、意味深だなぁ、とね。

 

わたしはそんな風にラストシーンを解釈しましたが、ロマンチストな人はきっと「二人とも盲目になって結ばれた」と思うだろうし、「(見えなくなったと)嘘をついてデヴィッドが戻ってくる」という考え方もある。どちらにせよラストの引きをどう感じるかでその人の恋愛観なり人生観を浮き彫りにする、なかなか挑発的な映画だと思いました。

 

 

 

 

同監督の作品。これも、ラストシーンの引きが強い。面白いけど、嫌〜な映画です。

籠の中の乙女 [DVD]

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