あらすじ
骨董店の主人ヘススは、ある偶然から金色のゼンマイ仕様のカラクリ機械を見つける。孫娘アウロラの心配をよそに、ヘススはその謎の機械を作動させてしまう。しかしそれは500年前に錬金術の時計師が作り上げた永遠の命をもたらす鍵、「クロノス」だった。そんなクロノスを長年追い求める老い先短い富豪の老人グァルディアは、ヘススからクロノスを奪うため甥のアンヘルを遣いに出し…。
我らがギレルモ・デル・トロ監督の長編デビュー作。
最新作である「クリムゾン・ピーク」と続けて観たのですが、やはり比べてしまうとある種の低予算感は否めない。でも、現在に通じるデル兄の感性が如実に表れていて、とても興味深く観賞いたしました。
登場人物は主に以下の4人。
主人公で骨董店主の老人ヘスス。
そして病魔に冒され、余命幾ばくもない金持ちの老人グァルディア。
グァルディアのパシリ的な乱暴者の甥アンヘル(演ずるはナチュラルフランケンフェイスのロン・パールマン)。
そしてヘススのかわいい孫娘アウロラ。
このアウロラちゃんがめちゃくちゃかわいいんですよ!全然喋らないんだけどね、目で語ってくるの。最後の最後に一言発するんだけどね、これがまたズキュゥゥン!って感じでね…。
おじいちゃん×おじいちゃんのよぼよぼ対決や、おじいちゃん×幼女の組み合わせが好きな方は是非ご覧あれ〜。
もちろん、デル・トロ監督ファンは必見です!
以下結末含めネタバレしちゃってます!
ギレルモ・デル・トロ、偏愛の原点がここに!
デル兄の大好きなものたちがこの映画には詰まっています。歯車とカラクリ、虫、そして赤(血の色)です(ちなみに、古いDVDではクロノス ― 寄生吸血蟲 [DVD]と言うサブタイトルが付いています。なんだかB級くさいぞ… 笑)。
『パシフィック・リム』や『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』などでも異様なほどの歯車への偏愛を見せつけられましたが、今作でもその片鱗を感じることができます。
物語を動かす装置ともなる手のひらサイズの機械「クロノス」のです。作動させるとキリリゴリリ…と中の歯車が動きだし、卵型の物体から節足が飛び出して虫型にトランスフォーム。
しかも、歯車の内側には血を体内に取り込む虫のような存在が確認できます。はっきり言って、この機械の構造は謎です。どういうアレで吸血鬼になるのか、なんの説明もない。
そう、実はこの映画「吸血鬼モノ」なんですよ。けれど、吸血鬼やヴァンパイアと言う言葉は一切出てこない。
しかも、そのヴァンパイアになる人物が老いぼれのおじいちゃんなのね(笑)。しかも、若返ったり、超人的な力を手に入れて空を飛んだり、並み居る敵をばったばったとなぎ倒す…なんてことは全くなく、おじいちゃんのままなの(ちょっとだけ肌ツヤがよくなる程度)。
いわゆる吸血鬼映画って、「ドラキュラ」に代表されるような耽美的要素が強かったりするんだけど、今作の絵面はひたすら地味。だっておじいちゃんなんだもん(爆!)。
でも、このおじいちゃんがトイレの床に滴った血を舌で舐めとる誰得?なマニアックすぎるシーンはなかなかに破壊力があります。下手したら何かのスイッチが入っちゃう人がいるかもしれない…。
吸血鬼と言えば、デル・トロが手がけたドラマ『ストレイン』が記憶に新しいですが。
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これも吸血鬼ものなんだけど、一味も二味も違う感じ(ってまだシーズン1しか観てないけど!とりあえず、全シーズン終わってから一気見する予定〜。ギレルモ・デル・トロ企画・製作総指揮のドラマ「ザ・ストレイン」がシーズン4で終了 : 映画ニュース - 映画.com)。吸血鬼マニアとしても有名なデル・トロだけに、普通のものじゃ満足できないのかもしれませんな。
けれども今作で描かれているのは「吸血鬼」の恐ろしさやグロテスクさなどではなく、老いへの悲哀だったり逆に生への執着だったりなのだと感じました。
理不尽過ぎる目に合うおじいちゃん。
ヘススが「クロノス」を見つけたのも、作動させたのも全くの偶然なのに、勝手に吸血鬼にされるわ、大切な骨董品屋は荒らされるわ、ロン・パールマンにボッコボコにされて車ごと崖から落とされるわ(でも不死身だからめちゃくちゃ痛いけど死ねない)、挙句自分の葬式で棺ごと焼かれる寸前で脱出するはめになるわ、踏んだり蹴ったりのひどい目に合うのです。
何だかわからない間にジェットコースター式に落ちていくヘススに同情を禁じ得ない…。元々善良な老人で、孫娘と恋人と慎ましく暮らしていければ満足だったはずなのに。
一方、体の半分を病魔に冒され、生への執着からクロノスを探し続けるグァルディア。摘出された自分の臓器を薬品に漬けて保存しているようなかなりの変人。もはや内臓半分で生きている自分は人ならざるものだとでも思っているのか、クロノスの恐ろしさの全貌を知っていながらそれを欲している。人としてでなくてもいい、ただただ生きていたい。
老いを受け入れた人間と生に固執する人間。愛する者のいる人間と、自分しか愛せない人間。葬式で多くの人が悲しんでくれる人間と、死してなお血縁者から悪態を突かれる人間。どちらがより人間として幸福かは一目瞭然。
ヘススが偶然に手にした不死。そこには希望も満足もなかった。
幼い孫娘に「おじいちゃん」と呼ばれたことで自分の名を取り戻したヘススは、すべての元凶であるクロノスを叩き壊す。そして、愛される者に看取られながら朝日の元、息をひきとるのだった…。
ちなみに最初のタイトルロール後に、ヘスス、その恋人メルセデス、アウロラの3人での朝食シーンが映ります。
この3人の空気感が絶妙で、食べこぼしたアウロラの口元をヘススが微笑みながら拭ってあげるんですね。その仕草でこの祖父と孫娘の親密さが見て取れるわけですが、それを向かいに座るメルセデスは冷めた目で見ているんです。
このワンシーンで、メルセデスはアウロラと血の繋がりがないとわかると同時に、お互いなんとなく快く思ってないところもあるような雰囲気が伝わってくるのです。
けれども、そんな少し距離感のあった女2人(とあえて言いたい)も、最後には死に行く最愛の人を前に、お互いに寄り添う。強い陽光差し込む朝の訪れと死を対比させたラストシーンは、悲しいのに幻想的で美しくもあります。
こだわりの小道具と絵作り
前述した「クロノス」のガジェット的偏愛以外にも、ヘススの骨董店や、グァルディアの部屋に釣り下がった天使像、オープ二ングの錬金術師の作業場など、小道具のそこかしこに強いこだわりが感じられます。
それから、 映像ではっとしたのはアウロラの秘密部屋(?)の天井の無数の穴から陽光が降り注ぐシーン。吸血鬼となったヘススに容赦なく矢のように突き刺さっているように見えました。
あと、アウロラの服。赤いセーター、青系のドレスに、最後には赤と青のレインコート(?)。赤を着ている時はヘススが人間寄りに、青を着ている時は吸血鬼寄りに、赤青の時はどちらか葛藤している時…といった色分けがされていたのだろうと思いましたが、どうなのかしらん。
ヘススが語る息子(つまりアウロラのパパ) とのタバコをめぐる攻防のエピソードもよかったし、ロン・パールマンとアウロラのかわいらしい交流はジュネ&マルク・キャロの『ロスト・チルドレン』を思い出したりして、いろいろよかったところはあるんだけど、やっぱり説明不足感と「???」という展開が無きにしも非ずなので、評価は分かれる作品かもしれないなぁ。
機会ありましたら是非~
作品情報
- 監督 ギレルモ・デル・トロ
- 脚本 ギレルモ・デル・トロ
- 音楽 ハビエル・アルバレス
- 原題 CRONOS
- 別題 クロノス/寄生吸血蟲
- 製作年 1992年
- 製作国 メキシコ
- 出演 フェデリコ・ルッピ、ロン・パールマン、タマラ・サナス、クラウディオ・ブルック、マルガリータ・イサベル