あらすじ
飛行機で乗り合わせた男女。意気投合した二人は共に「ガブリエル・パステルナーク」という男と繋がりがあった事がわかる。しかし次々と「パステルナーク」の関係者と名乗る者が現れ、この便に乗り合わせた全員が彼と関わりのある人間だとわかり…「おかえし」。その他、過去に因縁のある男と再会したウエイトレスがとった行動は…「おもてなし」、新車に乗っていた男の前に古いバンが立ち塞がり…「パンク」など、性(さが)と業に翻弄される人間の愚かさをブラックユーモアたっぷりに描いたオムニバス5編。プロデューサーはスペインの名匠ペドロ・アルモドバル。ちなみに本作はアルゼンチン歴代一位の大ヒットを記録した。
先日観たベルギーの『神様メール』といい、アルゼンチンの本作といい、外国の皆さんは不謹慎やブラックユーモアが大好きなようですね。かく言うわたしも、大好きですよーー!
とりあえずね、一話目のインパクト大。思わず大笑いしてしまいました。「パステルナーク」、お前沸点低すぎだろ(笑)。
哀愁漂うグスターボ・サンタオラヤ(「ブロークバック・マウンテン」、「バベル」他)の音楽も最高。 特にオープニングとエンディングにかかる一曲は日本の演歌にも通ずる泣きを感じるような感じないような…(どっちやねん)。オープニングタイトルに野生の動物の静止画を持ってくる所にもセンスを感じます(人間も所詮は動物って言っているのかな?)。
何となく毎日退屈だなと感じている人、仕事や人間関係がうまく行かなくてむしゃくしゃしている人、とにかくスカっとしたい人には、おすすめしたい映画です。
以下ネタバレ。
「おかえし」
飛行機に乗り合わせた全員が「パステルナーク」という男に恨まれていることがわかる。しかもその「パステルナーク」は今、コックピットにいるという。彼のかつての主治医は「君も乗客も悪くない、悪いのは君の両親だ!」と説得しようとするが、飛行機はそのまま急降下して行き…。
わたしはこの話が一番好きでした。徐々に乗客がパニックに陥る様もおかしいし、え?そんな理由で殺すの?っていう人もいて、人間いつ地雷を踏むかわからないという不気味さもあり面白かったです。
最後は「パステルナーク」(画面には登場しない)が恨みを持った人間たちが乗った飛行機を自ら両親に体当たりさせ…る寸前で止まっておしまいでした。
息子が帰省しましたよー。
「おもてなし」
舞台は雨の日のダイナー。一人の男が客としてやって来る。ウエイトレスはその男の顔を見て青ざめる。「故郷の父を死に追いやり、母に付きまとっていた男だ」と…。それを聞いたシェフの女は料理に殺鼠剤を混入させ、男の毒殺を試みる…。
説明不足で少し消化不良だったエピソード。シェフの女はなぜあんなに男を殺したがったのだろう?彼女の過去が明かされるのかと思いきや、女が警察に連行されて終わってたし…うーん?
「パンク」
新しい高級車に乗る男がノロノロと走る古い車の男に悪態をつく。しばらくすると新車の男のタイヤがパンクし、後ろから先ほどの古い車の男が追いついて、嫌がらせをはじめる。その嫌がらせはエスカレートし、ついに二人の小競り合いは殺し合いにまで発展する…。
これはある意味田舎道あるあるなのかも?都市伝説的とでも言いますか。
最後はもみ合ううちに車が爆発し、まるで抱き合うように二人とも焼け死んでしまいました(笑)。それを見た警察が、「痴情のもつれかな」「無理心中かもな」と言ってジエンド。これもバカバカしくてよかったですね〜。
「ヒーローになるために」
建造物爆破の技術者シモンは、娘の誕生日パーティーに行く途中ケーキ店の前に駐車した車を運悪くレッカー移動されてしまう。抗議をしてもけんもほろろな役所の態度に堪り兼ね、ブチギレてしまったシモンはそれを機に会社は解雇に、妻とも離婚する羽目に…。
これも好きなエピソードでした。爆破のエキスパートという設定が生かされるラストには思わず手を叩いて笑ってしまった。最後には国民のヒーローになるってことは、アルゼンチンのみんなは交通課に相当ムカついてるってことだよね。お国柄を垣間見れた気がしました。
それから、二度目にレッカー移動された時のシモンの顔がすごくよかった!「はい、スイッチ入りました」という感じでね。演じていたのは「瞳の奥の秘密」の主人公の人。
「愚息」
富豪の息子がある日人身事故を起こしたと泣きついてくる。父親は自分の顧問弁護士に相談し、家の下働きに金を払い、罪をかぶってもらおうと画策するが…。
かなりの胸糞エピソード。誰にも感情移入できない。スイッチが入ったのは弁護士や下働きにたかられた父親かと思いきや、事故の被害者の夫だった、というオチ。
でも結局息子は無罪放免のまま、父親は下働きにお金を払わずに済んだし、なんだかなあ〜という気持ちになる。
ドラ息子の身代わりに逮捕された下働きのホセ。連行中に被害者の夫に殴り殺されてしまいました…。
「HAPPY WEDING」
結婚式がはじまった。幸せそうな新郎新婦だったが、あることに新婦が気づいたため、式はとんでもない事態に…。
うわー、これは知恵袋か発言小町案件ですね(笑)。浮気相手を式に呼ぶとか、新郎デリカシーなさ過ぎ。というか頭悪過ぎ。
新婦が式場のスタッフと浮気するところまではよかったんだけど、その後もやりたい放題やるのは爽快というよりも後味が悪くて痛々しい。最後はなぜか和解した新郎新婦がウェディングケーキの上でおっぱじめて終わってました。
しかし、アルゼンチンの結婚式ってみんかあんなテンションなの?天井でミラーボールが回ってるし、アゲアゲな音楽で…まるでクラブですな。司会者はノリノリで悦に入って、DJみたいでした。これもお国柄?
…最初に「スカっとしたい人におすすめ」なんて言ったけど、実際はそんなことないですね(汗)。
良識ある大人は、イラっとしても大抵は世間体や立場を考えて我慢して、自分の中のむしゃくしゃと折り合いをつけながら生きていると思うんですよ。この映画が当国でヒットしたのは、爆発する人が多いからじゃなくて、逆にそう言った思いを胸に留めてじっと耐えている人たちが多いということなのでしょう(そして爆発してしまったら「パンク」の二人みたいに文字通り炎上してしまうこともわかっている)。
本当はパステルナークみたいに、ムカついた人たちを一挙粉砕できたら超すっきりすなんだけどねー。