あらすじ
ノルウェーで優しい夫や娘と暮らすカトリナ。戦時中、ノルウェー人の母から引き離され、ナチスドイツの〈生命の泉(レーベンスボルン)〉の施設に収容されていた過去を持つ。戦後辛くも亡命し、母と再会できた後は結婚し、湖畔近くの家で穏やかに暮らしていた。
ある日、戦後の〈生命の泉(レーベンスボルン)〉施設出身者やその母親に対するノルウェー政府の処遇を不服として訴訟をおこすと言う弁護士が訪ねて来る。カトリナと母にも証言をして欲しいと頼まれるが、その申し出を頑なに拒むカトリナ。なぜなら彼女は、家族には言えないある秘密を抱えており…。
わたし、本当に知らないこと多いな…って、なんか、いろいろへこんだ。この映画観て。歴史のことだったり、戦争のことだったり、もっと知っておかなくちゃ、と思いました。
いやわたしだってね、〈生命の泉〉計画って言葉自体はなんとなく知ってはいたし、ポーランド他、ナチスドイツ占領地域から金髪碧眼の子どもたちを拉致し、ドイツ人として育てていた例などは聞いたことがありましたよ。でもね、ノルウェーでのことは全くと言っていいほど知りませんでした。
ノルウェーも、当時はナチスの占領地だったのね(そこからかい!)。
詳しくはwikiさんなどに聞いて下さい(丸投げ!)。
ジャケ詐欺、ではないけど。
さて、映画の内容についての話。
まず冒頭、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一したことが語られます。その後、空港のトイレで変装する謎の女性が映し出され…。彼女は何者か?目的は一体?
映画の内容をよく知らずに見始めたのですが、サスペンスフルな序盤でいきなり持っていかれました。しかし、このDVDジャケと邦題はなんとかならんかったのか。実際映画を観た印象とはかなりかけ離れていましたよー。
ドイツ・ノルウェー合作。森や海の自然描写が美しくも暗く、悲しみに満ち満ちた良作でした。
以下ネタバレしています。
彼女の正体は…
戦時中、駐在ナチ兵士の夫との間に子を生んだノルウェー人女性たちの多くは、生まれたばかりの我が子を〈生命の泉〉に奪われ、しかも戦後には、ノルウェー政府から「対敵協力者」として「公式に迫害」され(ナチ党員と結婚した女性は国籍を剥奪された)てしまったのだそうです。
この映画で言われている「訴訟」とは、この時のノルウェー政府の対応に対し、迫害を受けた女性たちへの保障を求めたもので、1999年に実際に起きた裁判です。結局、訴訟は却下されたものの、翌年には当時のノルウェー首相が謝罪、2004年には迫害の度合いによって保障を受けられることが決定した、とのこと(ここまでwiki様を参考)。
ただこの映画では訴訟そのものにはほとんど焦点が当てられず、物語を進める一部でしかありません。なのでその辺りの歴史的背景を知っていたらもっとよく理解できたかもなぁ、と思います。
さて、カトリナの正体は東独のスパイでした。ってのはもう序盤の変装&怪しい行動で察しがつくわけなので、そこは映画を引っ張る要素ではありません(DVDジャケでもバレバレだし)。
回想シーンや上司?とのやりとりから、カトリナも〈生命の泉〉出身で、秘密警察(SS)でスパイとして教育を受けたとわかってきます。
となると気になるのは彼女の目的と過去、そして今後の行動ですよね。
戦争に勝者はいない
カトリナの様子を不自然に感じた弁護士は徐々にカトリナへボディーブローをかましていくんですね。言葉には出さずとも「お前は何者だ?」と追及して行くんです。一方のカトリナは、それをどう考えてもバレるだろ!っていうくらいその場しのぎ感ありまくりの嘘でかわしていきます。
おそらくだけど、用意周到で完璧なスパイとして描かないことで、カトリナをより人間くさく見せることを意識しているのかなー、と。
ザ・スパイです!ってなると、カトリナがどうしても悪人に思えてしまうもんね…。彼女も戦争に翻弄された被害者なのだから。
だからね、途中から弁護士が悪い奴に思えてきた(笑)。究極の証拠=「本当のカトリナ」が映っているビデオを持ってきた時には、もうやめて!放っといてあげて!と思ってしまったほど。
ビデオを見てしまったカトリナの家族は、目の前にいるカトリナは偽物で、なりすました別人だと知ってしまいます。特に母親オーゼの悲しみはいかばかりか。
赤ん坊の時に生き別れ、戻ってきたと思っていた娘は別人だったわけだからね。
そして偽カトリナ(本名はヴェラ)から本当のカトリナはもうこの世にはいないことを聞かされ、悲しみに暮れる母親…。
さて、真相を話してしまったヴェラは、もちろんスパイとしては失格。このままでは命が危ない、ということで警察へ保護してもらいに車で町へ向かいますが、時すでに遅し…。細工されてしまった車に乗ったまま事故を起こし、車はそのまま炎上。そして、エンドロール。
ラストの展開は衝撃的にバッドエンドです。何にも解決されないし、もうやるせなくてつらくなります…。戦争の悲劇。それに翻弄された女とその家族の悲劇。悲劇の上に悲劇の上塗り。
改めて、「戦争で幸せになる者はいない」んだなと感じましたね。
ノルウェーの男、最高じゃね?
ちなみに、1番ぐっときたのは夫が娘を諭す場面でした。
この夫が本当にいい人なんだなー。自分だって妻にずっと嘘つかれてたんだから怒っているはずなのに、娘が「憤りを感じない?」と怒りを吐露すると、「でも君の母親だ」といなすんです。
このパパはさ、映画のはじめの方でも、娘(ちなみに学生で出産して、乳飲み子を抱えている)が「何にもうまくいかない!」ってイライラしているのを「何でも完璧にやろうとするな」と優しく声をかけてあげるの。
そして「君に必要なのは恋人だよ」なんて言えちゃう余裕もある(笑)。わたしもこんなパパ欲しい!ノルウェーの男最強説が急浮上です。
最後に
というわけで、ノルウェーの歴史的暗部が垣間見えた映画でした。
この映画のカトリナやヴェラは極端な例としても、辛い過去を抱えた母親や子どもたちは当時たくさんいたのだろうと思います。
燃え上がる車を見つめながら、自分自身の無力さを痛感するとともに、こんなことはもう絶対にあってはならないことだと強く思いました。
戦争(第一次、第二次ともに)によるさまざまな、世界中の悲劇を知るきっかけとなる映画だと思います。興味のある方は是非観てみてください。
前述した、ポーランドから誘拐され「ドイツ化」された方の手記。
わたしが〈生命の泉〉の存在を知るきっかけとなった小説。構成の妙も相まって、なんとも言えない読後感。
- 作者: ナンシーヒューストン,Nancy Huston,横川晶子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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作品情報
- 監督 ゲオルク・マース
- 原作 ハンネロール・ヒッペ
- 脚本 ゲオルク・マース、クリストフ・トーレ、ストーレ・スタイン・ベルク、ユーディット・カウフマン
- 音楽 クリストフ・M・カイザー、ユリアン・マース
- 製作年 2012年
- 製作国・地域 ドイツ、ノルウェー
- 原題 ZWEI LEBEN/TWO LIVES
- 出演 ユリアーネ・ケラー、リヴ・ウルフマン、ケン・デュケン