あらすじ
シベリアのツンドラ地帯で、愉快なバンド「レニングラード・カウボーイズ」は地元の音楽関係者に自分たちの演奏を披露していた。だが、全く相手にされない。
活路を見出すため、強欲なマネージャー、ウラジミールと共にアメリカへと旅立つが…。
大好きな映画です!!
映像、音楽、ストーリー、全部大好きな映画です。
カウリスマキは、『浮き雲』や『マッチ工場の少女』、最近では『街のあかり』や『ル・アーヴルの靴みがき』など、失業者や貧困層、老人といった社会的弱者に主眼を置いている作品を多く撮っていて、どれも滑稽で、それでいて切なく、ドラマチックとは程遠いのだけれど最後には胸が温かくなる…そんな映画なんですね。
そんなカウリスマキ監督の映画が、わたしはとても好きです。
主人公はたいてい無表情かしかめっ面でみんな無口(それは監督の故郷、フィンランドの国民性らしい…ほんとか?笑)。会話には妙な間、人物たちの行動もどこかおかしいです。でも根底に人間への優しい眼差しにあふれているんですよね。
名作『浮き雲』も大好きなのですが、あちらはどうしたって主人公たちに感情移入してしまって、彼らに降りかかる不幸に身悶えしながら観ちゃうから、ちょっと疲れてる時は観られない(しかもラストシーンは絶対泣いちゃう)。
その点、この『レニングラード〜』は頭を空にして、次から次へと繰り出されるネタ映像に失笑しながら気楽に観られます。数あるカウリスマキ映画の中でも格別な面白さ。
音楽映画好き、ロードムービー好きの方、未鑑賞でしたら是非とも観ていただきたいです!本当におすすめです。
ネタバレしています。て言うか全編ネタです(笑)。
最初から面白すぎる!
冒頭からいきなり夜通しの練習でカチコチに凍ってしまったベーシストが映ります。この映画のばかばかしさが一発でわかる、最高のファーストカットです。
倒れているベーシストのちょうど裏手のほったて小屋から楽しげな音楽が聞こえてきます。レニングラード・カウボーイズが、地元の音楽関係者に演奏を披露しているのです。
とんがリーゼントにとんがりブーツの人たちが、バラライカやアコーディオンを手に一生懸命演奏している。曲目はロシア民謡ポーリシュカ・ポーレ。これで面白くないはずがないでしょ!のっけから爆笑です。
しかし、地元のエージェントには「サイテーだな」と一蹴されてしまいます。そして「アメリカに行けばなんとかなるかもしれん」なんて言われちゃう(笑)。その言葉を鵜呑みにしたマネージャー、ウラジミールはアメリカ行きを決断。早速紹介されたアメリカの音楽関者に電話をかけ、「もちろん、全員アメリカ人ですよ!」と訛りまくりの英語で大嘘をついて、アポを取り付けます。
ウラジミール役はカウリスマキ映画では常連のマッティ・ペロンパー。普段は無口で無愛想なフィンランド男を演じることが多いペロンパーですが、今回は狡猾でほら吹きなマネージャー役を怪演。にやりと笑う顔が実に悪魔的です。
ウラジミールはバンドのメンバーに「アメリカに行ったら英語を話すように!」と説教。メンバーたちは中学生が読むような参考書を見ながら機内で熱心にお勉強に励みます。とんがリーゼントのおっさんたちが、同じ参考書をぶつぶつ言いながら読んでいる様はかなりシュールで笑えます…。
ちなみに、飛行機に乗る前に、バンドメンバーの親戚(?)から旅費を工面してもらうのですが、その家の主もとんがリーゼント。そして家にいる赤ん坊もすでにとんがリーゼント。そして旅の途中に出会うメンバーのいとこもやはり、とんがリーゼント。こういう髪型の一族らしい。いっさい出てこないけど、女性はポニーテールですかね?
アメリカ…アメリカ?
そんなこんなで、アメリカに渡ります。
着いた先は、きらびやかなNYの街などではなく、どうみてもダウンタウンの黒人街。この辺り、金持ち嫌いのカウリスマキ、徹底してます。
この映画、「ゴー・アメリカ」と銘打っていますが、いわゆるアメリカ要素はほとんど皆無なんです。大体舞台は場末のバーとか寂れた町や田舎のあぜ道。これ、アメリカロケじゃなくても撮影できたんじゃ…?とも思えますけど。
さてさて、バンドは紹介された現地の音楽関係者の前で渾身の演奏を披露します。やっはりロシア民謡(笑)。でも、やはりまったく相手にされず。その音楽関係者はメキシコへ行けと言います。なぜかというと、「いとこの結婚式があるから」。そのお祝いの席で演奏してこい、と言うわけ。なんだそれ。
そして「君たちの音楽は古すぎる。これからはロックンロールだ」なんて言われます。そこは従順なレニングラード・カウボーイズ、言われた通り、ロックンロールに転向。この後も演奏の度に、ロカビリーにカントリー調、ビッグバンド風と、趣きの違う音楽を次々と披露してくれます。お前ら、音楽性にこだわりはないのか!(笑)。
と、つまりはこの映画、「ゴーアメリカンミュージック」。要はアメリカンを意識しているのは音楽だけなんですね。
民主主義の復活(笑)
そんなわけでバンドはアメリカを縦断し、メキシコを目指すことに。
移動は車、ということで中古車を購入します。ディーラー役はジム・ジャームッシュです。自然すぎて最初わからなかったよ。車の上に、ベーシストの棺を乗せていざ出発。棺のふたにはリーゼントとブーツのための穴が開けられていたりします(笑)。
けれども途中、棺の遺体が警察にばれて牢屋に入れられたりします。
旅にはお金が必要ですから、バンドは行く先々のバーや食堂でライブをさせてもらいます。しかし、どこへ行ってもことごとく不評。一応報酬などはもらえるものの、店の主人から二度と来るな!と追い返されてしまいます。
しかし、バンドが一生懸命演奏して稼いだ大事なお金を強欲なマネージャー、ウラジミールは独り占めしてしまいます。自分はステーキディナーを堪能しながら、バンドメンバーには生の玉ねぎ(笑)を与えると言う鬼畜ぶり。残ったお金もほとんどビールに代えてしまいます…。
しかもそのビールの隠し場所は車の上の棺の中。バチ当たりにもほどがあるよ!
そんな理不尽なウラジミール独裁政治にレニングラード・カウボーイズの怒りが爆発。反乱を起こすものの、すぐにウラジミールは復活します(このシークエンスのタイトルは「民主主義の復活」)。
この辺りからはカウリスマキ的政治風刺を読み取ることができます(本当か?笑)。
旅は続く…?
バンドの南行きは続きます。
途中、メンバーのいとこ(とんがリーゼント)や、シベリアから彼らを追いかけてきたバンド唯一のファン(がっかリーゼント=髪が短すぎてリーゼントにならない)が仲間に加わります。
劇中、ステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」を熱唱し、バイク乗りの観客から大喝采を浴びます。そうこうしてようやく彼らはメキシコに到着し、依頼されていた結婚式で見事な演奏を披露します。
しかもなんと、死んだと思われていたベーシストも息を吹き返し(本当に凍ってただけだったという、まさかの笑撃!)のりのりで演奏に参加。そしてレニングラード・カウボーイズは、メキシコで一躍有名に。どうやら旅の間に様々なジャンルの音楽を吸収したおかげで唯一無二のバンドへと成長したのでした…。
そんなバンドを横目に、ウラジミールはウォッカを片手に姿を消します。
彼はどこへ?そしてバンドの今後は?その続きは衝(笑?)撃的な続編『レニングラードカウボーイズ、モーゼに会う』で明らかに!
DVDでは同時収録されていますので、是非セットで観ていただきたいです。今作以上にぶっ飛んでますので!!
ちなみにこのレニングラードカウボーイズ、実はフィンランドの実在のバンド(この映画以前は、「スリーピー・スリーパーズ」というバンド名だったようです)。
さすが白夜の国、考えることがおかしいです(褒めてます)。
とんがリーゼントにしたくなる★★★★★
3分に1回は笑える★★★★★
ベストアコーディオ二スト賞★★★★★
総合★★★★★(5)
作品情報
- 監督 アキ・カウリスマキ
- 脚本 ヤッケ・ヤルヴェン、バーマト・ヴァルトネン、アキ・カウリスマキ
- 音楽 マウリ・スメン
- 製作年 1989年
- 製作国・地域 フィンランド、スウェーデン
- 原題 LENINGRAD COWBOYS GO AMERICA
- 出演 マッティ・ペロンパー、ザ・レニングラード・カウボーイズ、サカリ・クオスマネン